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憩室下血をきたす疾患の中で大腸内視鏡医を最も悩ますのが大腸憩室からの出血ではないでしょうか。
大腸憩室症については当ブログ「宿便について考える」の第四回『大腸憩室症について』で詳しく取り上げていますので、そちらをご参照ください。
下血を来す疾患で多いのは痔の次に虚血性大腸炎である、と前回書きましたが、低用量アスピリン ( LDA ) やワルファリンを内服している人に限るとトップに躍り出るのがこの大腸憩室からの出血になります。

つい最近「学会レポート2011 その1」でも書いたばかりですが、心疾患や脳血管疾患に絡んで LDA やワーファリンといった血を固まらせないようにする薬を内服する方が格段に増えています。
これらの疾患自体が加齢とともに増えるものですが、大腸憩室も高齢者ほど多くなる傾向がありますし発生頻度も昔に比べると増してきているようです。
憩室の部分は血管の通り道であることはわかっていますが、なぜ憩室部分で出血を来しやすいのかはよくわかっていません。

血をサラサラにする薬を内服しているために血が止まりにくくなっているわけですが、大腸憩室からの出血では内視鏡的に止血を困難にしている理由があります。
憩室はほとんどの場合複数あり、窪んでいる憩室にはどこもかしこも血が溜まっていて、一体どの憩室から出血しているのか確認に手間取ることが一つ。
そして内視鏡ではすべての憩室を目視することが不可能であるためです。
提示した写真の左上に血液の貯留した大腸憩室が写っていますが、この部位は出血源ではないのです。
これまでに私が止血しえた大腸憩室出血は処置に1時間以上かかったものばかりで、半数以上は出血源を突き止められず内視鏡による止血操作をあきらめています。
止血に最も有効な手段はクリップとされていますが、先のDDWという学会において食道静脈瘤結紮術を応用した止血法が報告されていました。
抗血栓・抗凝固療法を受ける方が更に増えていくでしょうが、下血を来す疾患としてこの大腸憩室症は内視鏡医には悩み多き相手であります。

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悪性疾患など扱わなかったものもたくさんあるのですが、9回にわたりお届けしました出血をきたす消化器疾患はこれでおしまいとします。