g7mnaxzl.gif我々消化器内科で最もよく使う薬の一つに PPI (proton pump inhibitor) と呼ばれる強力な胃酸分泌抑制薬があります。
胃酸を作る壁細胞の水素イオン (プロトン) の出口の働きを阻害します。
日本において1991年から使えるようになり、以降胃や十二指腸潰瘍、胃食道逆流症 (逆流性食道炎) 等の治療に大いに貢献しています。

その PPI に関して 8月に二つほど気になる話題がありましたので紹介しておきます。



● PPI を長期にわたって使用していると骨折のリスクが高くなるという話。 (CMAJ 2008 179: 319-326)
以前にも似たような報告があったのですが、今回のレポートの特徴は薬の使用期間との関連に言及していること。
6年以下だと関連は薄いが、7年以上使い続けると骨粗鬆症絡みの骨折のリスクが約 2倍に。
股関節の骨折に限定すると 5年で 6割増し、7年で 4倍になるとのこと。
理由は不明としながらも、胃酸の抑制によりカルシウムの吸収が悪くなるからではと推測しています。


ちなみに、破骨細胞にもプロトンポンプが存在しているため骨代謝に何らかの影響を及ぼしているのでは、とも言われていますが原因はよくわかっていません。
消化器医として酸分泌抑制薬を長期に投与するケースが当たり前のように多いのですが、一方で食べ物を消化するのに必要な胃酸を無理やり押さえ込んでデメリットはないものなのかという疑問を私は持っています。
しかし、消化器の専門家の間でそのことが論議されることがないのも事実。
酸分泌を抑制することで様々な消化器疾患に打ち勝ち、人類に大いに貢献していることは紛れもないことです。
でも、胃食道逆流症を中心に今後 PPI 長期投与の症例はどんどん増えてくるはずですので、問題点が出てくればしっかり対処していかなくてはなりません。



● 低用量アスピリン療法を行なっている冠動脈性心疾患の患者に PPI を用いて上部消化管出血を予防することの費用効果を調べた研究。 (Arch Intern Med. 2008;168:1684-1690, 2543-2544)
OTC薬ならば費用効果が高いけれども、処方箋を用いると費用効果が良いのは出血リスクの高い人だけに限られると結論づけています。


医療システムの異なる国のデータであり当然医療コストにも違いがあるので、そのまま日本の現場にあてはめることはできません。
PPI に関して日本では、十二指腸潰瘍なら 6週間迄、胃潰瘍なら 8週間迄等、厳しい使用期限が設けられています。
対して米国では、医師の処方箋がなくともそこらへんの店で大衆薬として簡単に手に入るものなのです。
OTCとは over the counter の略で、一般用医薬品のことを指します。

循環器や脳外科などでアスピリンは使用頻度の高いものですが、消化管出血のリスクに対して無頓着なケースを見受けることがあります。
先ほど述べたように PPI に使用期限があって使いづらいことも一因かと思います。
ひとたびアスピリンが原因で消化管出血をきたすと簡単には止まらず、内視鏡医泣かせであります。
「低用量」という言葉に安心感を抱いているかもしれませんが、血小板に対するアスピリンの作用は非可逆的なものであることは肝に銘じてもらいたいところです。


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