発生してそろそろ一年が経とうという新型インフルエンザについて振り返ってみましょう。

201003261549093026.gif4月21日、米国で2例の感染例発表。
4月23日、メキシコで複数の感染及び死亡例が報告。
4月25日以降、WHOが緊急事態だのフェーズ4だの矢継ぎ早に発表。
4月28日、日本政府、水際作戦開始。豚インフルエンザを新型と言い換え始める。
5月9日、成田で3例の感染者確認。
5月16日、神戸で国内発生1例目確認。

関西地区ではイベントの中止や学校の一斉休校などの措置により、新規発症例が減少しました。
ところが、7月下旬よりそれまでにない数の新規発症例がみられるようになり、8月14日には国内初の死亡例、そして11月下旬をピークとした大流行へと発展したのでした。

水際作戦以外にも様々な対策がとられ、それぞれに問題点が指摘されました。
学校閉鎖の基準、発熱外来のあり方、ワクチン配分・・・等々。
その中で新型インフルエンザワクチンについて今一度考えてみます。

新型インフルエンザワクチンは当初全国民をカバーできないことが最大のネックとなったので、ワクチンを行政が管理して優先順位を付けて接種していくことになりました。
従来のワクチンは返品が可能なため、たくさん仕入れておいて余ったら返すという医療機関があり、ワクチンの偏在がいつも問題となっていましたので、この方針自体間違ったことではないと思いますが、実際の運用の点で多くの課題があったと思います。
医療機関側にはとにかく無理難題が押し付けられたのです。
まず、先に何月何日から予約をとれと言いましたが、ワクチンの入荷日や実際れだけ納入してくれるのかが正確にわからないのです。
飛行機を飛ばすので予約をとれ、でもセスナになるかジャンボになるかは未定、飛ばすのはだいたい今月下旬頃・・・こんなので予約業務を引き受ける旅行代理店がどこにあるでしょうか。
当院では電話対応マニュアルを作ってオーバーブッキングにならないよう腐心しつつ、次々にかかってくる電話に曖昧な返答をせざるを得ない状況が続きました。
そうしながら何とか予約をとったのに事前に知らされていた予定配分数とは全く違う数が入荷・・・がっかり。
また、接種希望者、特に子供に受けさせたい親御さんたちもあちこちの病院に電話をするけれども予約を断られ続けて諦めてしまうケースが多々あったように思います。
12月に入るとインフルエンザに罹患する人が増え、接種のキャンセルなどもあってワクチン数に徐々にゆとりができてきましたが、事情を知らずにおられる方も多かったようでした。
当院では近隣の保育園や幼稚園に声をかけてみたところすぐに反応があったことからも、一般の方がワクチンの情報を得づらい状態であったことは否めません。
ワクチンを受けたい方の苦労も大変だったことでしょう。
また、予約開始日や優先順位の変更等は県から医療機関への連絡がなく、新聞報道で知るというパターンがほとんどであったことはもどかしい限りでした。
行政もワクチン配分に四苦八苦したでしょうが、管理する以上は情報提供を密に行なう連絡体制を敷いて欲しいものです。

ワクチンに関しては一つ喜ばしいことがありました。
それは国が妊婦さんに対する接種を高い優先順位で推奨するようになったことです。
海外では当たり前のことなのですが、これまでは「妊婦は接種不適合者ではないが、接種によって得られる利益が不明の危険性を上回るという認識が得られた場合に接種するのが望ましい」と妙に及び腰の見解でしたから、大きな方針転換でした。

また、先にも述べたように関西地区で 5月にとられた一斉休校措置には批判もありましたが、世界的には注目を集めたもので、流行のピークを何ヶ月かずらすことができたのは紛れもない事実です。
もし実施していなければ、10月下旬から医療関係者を皮切りに接種の始まった新型インフルエンザワクチンの恩恵に誰も預かれなかったかも知れません。

何だかんだ言って、日本では重症・死亡数が諸外国に比べかなり押さえ込むことが出来たものと思います。
今回の新型インフルエンザへの一連の対応に関しては、行政や医療機関、国民一人一人が十分に総括して、今後の未知なるパンデミックに冷静に効率的に立ち向かうことができるようにしたいものです。

新型インフルエンザはすっかり落ち着いたように思いますが、当院では3月に入り1人いらっしゃいました。
また、今月だけでも神戸と札幌で死亡例が出ているのですが、関心が薄れたのか大きく報道されることもなくなりました。
必要以上に怖がることはないと思いますが、インフルエンザは死ぬこともある感染症であることは頭の隅に入れておきましょう。