◆ 診療所ライブラリー 105 ◆


がんと患者の週刊誌で連載のコラムから抜粋し、物語仕立てでがんや放射能について分かりやすく解説した一冊です。
実際のがんの検診や治療に当たっての様々な問題点に言及しており、専門的な本とは違った知識が身につくものと思います。

私が興味を引いたのは、第5話の韓国で急増している甲状腺がんについての話。
2007年に甲状腺がんと診断された女性が2000年の7倍に跳ね上がったというのです。
甲状腺がんが増えたのではなく、がん検診がブームとなり早期に発見される人が増えただけという実情が語られています。
がんと名前がつくと心配してしまうのは当然でしょうが、甲状腺がんは危険度の低いものがほとんどなのです。
日本のがん検診の受診率はあまりにお粗末な低さなのですが、隣国のように検診ビジネスが進み過ぎるのもいかがなものかと思わせる内容です。

それぞれの話の終わりに有名人のがんとその治療について触れています。
放射線治療が専門の著者なので、放射線治療で臓器の機能が温存されることを強調しているものが多く、その中に菅原文太の膀胱がんについての記述もあります。
膀胱摘出を嫌い、著者の勧めで陽子線治療をしましたが、ご存知のように先日、肝転移が元で亡くなられました。
標準的な外科治療を受けるべきだったか、陽子線治療を受けて約7年をストーマを使わずに過ごせたことを良しとするか、その選択一つをとっても病気の治療は本当に難しいものなのです。

  → 専門書が伝えないがんと患者の物語