続いているアニサキスの話題  


ここ数日、アニサキスに関するニュースが続いています。
5月8日にアニサキスによる食中毒の報告がここ10年程で20倍以上に激増していること ( → こちら ) が報道されました。
これを受けて、5月10日には芸能人もアニサキス症に罹っていたというもの ( → こちら ) が続きました。
朝のワイドショーでもこのことを報道していましたね。
そしてCNNもアニサキスのことを取り上げています ( → こちら )。


 アニサキスとは 


アニサキスアニサキスはサバやアジ、イカなどの魚介類に寄生している長さが1~3cm台の白っぽく細長い虫で、我々が刺身などで生食することが発症の原因になります。
最も多くアニサキスを抱えているのは最終宿主のクジラですが、さすがに刺身を食べることはないでしょう。
学生時代の医動物学の実習で、買ってきたサバのアニサキスをチェックしたことがありますけど、結構いるんです。
右のイラストは決して大袈裟なものではありません。
あるレストランで出されたサーモンのマリネに1匹見つけたことがあります。
だいぶ弱ってましたけど。

鹿児島では首折れサバの旬の時期にアニサキス症が多い印象です。
私にとって最も印象的だったのは、魚市場から直接買ってきたサバを自分で捌いて生じたアニサキス症で、元気なアニサキスが7匹もいた症例です。
中には体を1cmくらい胃の壁に潜り込ませて尾をグルグル振り回しているものもいました。

でも、ニュースにあるようにアニサキス症が激増している印象は全くありません。
2013年からアニサキス症も保健所への届出対象となったことが大きな要因だと思います。


 アニサキス症の症状は ?


生きたアニサキスが胃壁に食らいつくことで激しい腹痛が起こるものを胃アニサキス症と言います。
飲み込んでも食いつかれなかったり、既に死んでいるものであったりすれば症状が出ないと考えられます。

ただし、過去にアニサキスが消化管に入ってきた既往がある場合、アレルギー症状が出ることがあります。
サバにあたる、という原因の一つがこのアニサキスアレルギーです。
なお、サバにはヒスチジンという成分が多く、これが体内でヒスタミンに変化することで生じるヒスタミン中毒が多いです。

また、胃を通り越して小腸や大腸の壁に食らいつくことがありますが、この場合は診断や治療に難渋するケースが多いです。
私の記憶に間違いがなければ、森繁久彌は腹痛で手術し、その結果小腸アニサキス症と診断されたはずです。


 アニサキス症の治療は ?  


私は内視鏡医なので、アニサキス症を疑った場合は内視鏡を行い、虫体を確認して除去します。
手技としてはそれほど難しいものではありません。
除去した途端に症状は全く消えてしまいます。
これが手っ取り早い治療法ですが、いつでも内視鏡ができるとは限りません。

最近注目されているのは、ステロイドと抗炎症薬による治療。
アニサキス症による腹痛は虫体からの分泌物による局所のアレルギーだと考え、薬の投与で症状緩和がみられたという報告があり、実績を上げています。
病歴からアニサキス症が疑われ、直ちに内視鏡検査ができない場合にはこの方法もありだと思います。

また、漢方薬の安中散の液をアニサキスに振りかけると3時間ほどで死んだり動けなくなったりするという報告があります。
安中散の成分の一つ、茴香 ( ウイキョウ ) にこの作用があることがわかっていますが、キャベジンコーワなど市販の胃薬にも茴香が含まれるものがあります。
でも、市販薬ではアニサキスに対する効果は調べられていないと思いますのであしからず。


 アニサキスの対策やアニサキスの絡んだ話題  


アニサキス対策として刺身などを冷凍するのはとても有効な手段です。
また、2014年に当時の高校生が、サバをワサビやショウガ、料理酒、ウイスキー、醤油に漬け込んだらほぼ100%防虫効果があったという報告を日本寄生虫学会で行い話題を呼びました。
刺身を食べる時のワサビやショウガって案外大事なものなのですね。

生の魚介類を提供する現場では、毛抜きなどを使ってアニサキスを除去するのは日常的だと思います。
肉眼ではちょっとわかりづらいアニサキスを簡単に検出できる装置が開発されていますので、食中毒予防に一役買うのではないかと思います。( → こちら )。

2015年には線虫ががん患者の尿の臭いに集まる習性が発見され、簡便ながんの早期発見法として期待されていましたが、2年後をめどに装置が開発される見込みです。( → こちら )
アニサキスが胃がん部分に食らいついていたのを観察したのがきっかけで線虫の嗅覚に着目し、この検査法の研究につながったとか。
先に紹介した7匹のアニサキス症例でも、ちょっと出血していた場所に何匹かが集中していたように記憶しています。
でもこういう研究の発想に繋げることができないのは、凡人の証しですね。