◆ 診療所ライブラリー 139 ◆


手洗いの疫学とゼンメルワイスの闘い 玉城英彦10月15日は「世界手洗いの日」であることは先日もブログに書きました。( → 手洗い )
今回取り上げるのも、手洗いが主題となっている本です。

手洗いという簡便な作業が、基本的な感染予防の手段で、一定の効果を持っていることは皆さんもよくご存知だと思います。
でも、それが当たり前でない時代があったのです。
手袋もせずに病理解剖をしたその手を洗わないまま、引き続き妊婦の診察をして産褥熱を引き起こし、次々に死に追いやっていた・・。
当時の医学の最先端にあったウィーン大学病院ですら、そんな時代があったのです。
まだ細菌が病気を引き起こすと解明されていなかった19世紀の半ばにあって、手洗いの重要性を説きながらも、それが当時の医学界に受け入れられず、非業の死を遂げたイグナーツ・ゼンメルワイス

今回紹介する「手洗いの疫学とゼンメルワイスの闘い」においては、彼の生涯を描きながら、手洗いを中心とした感染対策や疫学の重要性を非常にわかりやすく伝えてくれる、中身の濃いなかなかの名著です。
医学関係の本は横文字や図版が多く入るので横書きがいいと私は常に言っていますが、この本は文章が中心なのに横書きなのも評価が高い点です。
それにしても、手洗いをするようになって産褥熱が激減したにも関わらず、自らの手が産褥熱を引き起こしていることを頑なに認めようとしなかった当時の医師たちは、ゼンメルワイスが去った後に手洗いを止めてしまい、再び産褥熱の増加を招いても手洗いの重要性を認識できなかったというのは不思議でなりませんね。

彼の功績は、彼の死後にジョゼフ・リスターによって脚光を浴び、評価されるようになります。
今では「感染防護の父」と崇められ、ハンガリーの首都ブダペストの医科大学はその偉業を称え、彼の名前を冠しています。( ハンガリーの現地読みでは「センメルワイス」のようです )
時代が追いついていなかった面があるとはいえ、成した仕事が生きている間には全く評価されないなんて悲しいですし、まだまだ彼の名前を知らない人が多いのも残念でなりません。
このすばらいし本に目を通していただき、イグナーツ・ゼンメルワイスの名前を是非覚えていただきたいと思います。
そして、普段から手洗いをしっかりと励行していただきたいと願っています。


【産褥熱】 分娩終了24時間以降、産褥10日以内に2日以上、38°C以上の発熱が続く場合と定義されています。臨床的には子宮を中心とした骨盤内感染症とほぼ同義語として使用されます。