来年、診療報酬改定が控えており、今回の改定で医師の技術に関する部分では報酬を引き上げるものの、薬に関する部分では引き下げようという方向性が見えています。

♦ 若い女性への処方が急増したヒルドイド

軟膏薬に関して、最も槍玉に上がっていると思われるのが、「ヒルドイド」などの名称で知られるヘパリン類似物質の外用剤の適正使用について。

一般報道もなされているのでご存知の方も多いと思いますが、某モデルが化粧の下地に使っていると紹介したのをきっかけに、美容目的で医療機関で薬を求める人が男性に比べて女性で5倍以上も急増したとか。
特に25~29歳に限ると女性の増加数が男性の33.9倍というかなりいびつな状況になっています。
そして一度に50本以上処方する例もあったという事態に、保険適用を外すように求める意見もあったとか。

好ましくない情報を流したモデルさんには大いに反省してもらいたいですし、真に必要とする患者さんの使用の妨げにならないように議論がなされることを望みたいです。


♦ なぜか多用される降圧薬、ARB

もう一つ議論に上がっているのが、高血圧治療におけるアンギオテンシンII受容体拮抗薬 ( 以下 ARB ) の使用実態です。
この系統の薬は、今年に入るまでジェネリック医薬品が解禁になっているものが少なかった上に、元々の薬価が他の系統の降圧薬に比べて高いのです。
ARBとカルシウム拮抗薬を投与されている患者さんを比較しても両者間で入院の発生率に差がないというデータを基にして、ARBをカルシウム拮抗薬に置き換えれば800億円程の医療費が削減できるという主張が出てきています。
これは薬理作用を無視したいささか乱暴な意見で、性質の違いを考慮して個々に応じた適切な降圧薬を選択すべきだとは思います。

しかし、この議論の中で提示されたデータの中にかなりがっかりしたものがあります。
それはACE阻害薬の使用割合が極端に低いことなんです。
単独処方での割合をみると、Ca拮抗薬・ARB・ACE阻害薬の順に、57.0% ( 33.5% )・37.9% ( 63.1% )・1.7% (1.1%) だったのです。( 数値は構成割合でカッコ内の数値は処方額の割合 ) 

高血圧の治療をするのは、血圧の目先の数値を下げるのが目的ではなく、高血圧が元で起こる心臓や脳血管の疾患を予防する点にあります。
ARBとACE阻害薬は同じレニン・アンギオテンシン系を抑制するという共通点があるものの、心筋梗塞後の予後や全死亡、心血管死など様々な点においてACE阻害薬が優れているのです。
そのため、ARBはACE阻害薬に忍容性のない患者向けの代替品というのが欧米での位置づけ。
なのに、日本ではARBの処方が圧倒的なのです。
循環器の医師たちもその点は十分に理解しているのですが、ACE阻害薬の副作用である咳が生じるのを嫌ったり、院内に採用されていないからといった消極的な理由でARBの方を選択しているのが現状です。

当院では、エビデンスをしっかり持っているACE阻害薬を積極的に処方しています。
ARBをカルシウム拮抗薬ではなくACE阻害薬に置き換える、という議論なら私はおおいに歓迎します。
今回の議論をきっかけに、日本の血圧治療に携わる医師の意識が変わってくれることを望みたいですね。