野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡にある野口内科です。
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過去のお勧め記事 → ほらね、やっぱり

 風邪薬についての考察

<< 風邪薬についての考察 第12回 >>


かぜ 風邪薬を使う理由の一つに、仕事や学校を休むのは迷惑をかけて悪い、と考える風潮があるのではないでしょうか。
学校には「皆勤賞」という制度があって、それを目指すのは善だと日本人の意識の根底に刻まれているのかも知れません。
でも中途半端な状態で出席・出勤し、風邪を蔓延させてしまうことの方が余程迷惑なのです。
しっかり休養を取ることが当たり前にできる社会にならない限り、風邪薬のニーズが減ることはないでしょう。

このように、一度もお世話になったことがない、という人を探すのが難しいくらい風邪薬は日用品のごとく消費されています。
しかし、風邪薬、って存在しません。
風邪のほとんどはウイルスが原因で、そのウイルスに対する薬剤は基本的にはなく、既存のものは症状をごまかしているだけに過ぎません。
そもそも熱や鼻水、咳といった症状はウイルスを退治しようとする体の反応です。
症状が緩和されて多少楽に過ごせるとは思いますが、風邪薬を使うことで逆に罹病期間は長くなると言われています。
服用することで治ったと勘違いはしているし、過去に大きな問題がなかったと思い込んでいるせいか、副作用に対する抵抗感が希薄なのが現実です。
血圧やコレステロールを下げる薬等、副作用がないわけではないものの長いレンジで使えて多くのメリットをもたらす薬を内服することには大抵の人が拒絶反応を示すのとは裏腹です。

規制緩和で、コンビニであるいはネットで手に入れることができる方向にあるのを歓迎する声が大きいのですが、使うことに意味の見いだせないうがい薬やトローチ、副作用や薬の飲み併せに無頓着に処方される総合感冒薬、海外では小児への使用に規制がかかる各種成分‥。
これまでの考察を皆さんどう思われたでしょうか。
少しでも風邪薬に対する認識が変わってくれることを願っています。


 ⇨第11回 「小児に風邪薬を使わない海外の事情


( 追記 )
自分自身が風邪をひいた場合は漢方薬を使用しています。
そして風邪で来院されるほとんどの方にも漢方薬を処方していますが、このことは機会を改めて紹介できればいいなと考えています。
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<< 風邪薬についての考察 第11回 >>


かぜ子供はしょっちゅう風邪をひく存在です。
その都度、親御さんは病院に連れていって処方を受けたり市販薬を買って与えたりしていると思います。
その当たり前の光景が海外では見られなくなりつつあります。
効果がないばかりか有害性の危険が高いから、という理由で小児への風邪薬の使用が厳しく制限されるようになったからです。
米国で2008年1月に 2歳未満への小児への市販の風邪薬の使用を禁止するよう勧告が出されました。
それに続いて複数の国で同様の措置がとられ、一歩進んで英・加・豪・ニュージーランドでは 6歳未満に対しての使用制限を決めています。

市販薬だけではなく、我々が処方する薬の乳幼児に対する様々な報告を具体的にみていきます。
① 抗ヒスタミン薬
 ・鼻汁や鼻閉への効果がない
 ・気道の粘液分泌が減り、痰が出しづらくなる
 ・眠気や不整脈、熱性痙攣を誘発する
② 鎮咳薬
 ・小児での鎮咳作用を認めない
 ・乳幼児では呼吸抑制、無呼吸から突然死に至るという報告も
③ 去痰薬
 ・肺炎では症状の改善が早まるという報告もあるが、感冒への効果は不明
④ 気管支拡張薬
 ・喘鳴を伴うウイルス性気管支炎で症状の改善効果はない
 ・症状の遷延や振戦などの副作用の懸念
⑤ 抗菌薬
 ・ウイルス性の感冒に対する有効性はなく、副作用でかえって生活の質を下げる
 ・細菌の二次感染の予防効果はない

と、まあこんな具合。

日本の対応はというと厚労省が2010年末に「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」と、製造販売元に注意喚起を行なったのみ。
医師のもとに行っても大抵これらの薬が出るだけなんですけどね。
海外で風邪をひいて医療機関を受診しようものなら、家で寝てなさいと言われるだけか、せいぜいアセトアミノフェンの処方箋を渡されるだけでしょう。
風邪にはすぐ薬をという意識が刷り込まれている日本人は、コンビニエンスストアでも気軽に感冒薬が買えるようにする薬事法改正を歓迎していましたし、ネットで購入できることに何の抵抗感も示しません。

かく言う私も、かつてダンリッチという風邪薬を自分でも使い患者さんにも処方していましたが、発売中止当初はその措置に大切な商売道具を没収されたようで憤懣やるせない気持ちでした。
今にして思えば情報収集力のなさと知識の乏しさが恥ずかしい限りです。
成分の一つである塩酸フェニルプロパノールアミンで脳出血が引き起こされ、死亡例が相次いだための措置だったのですが、長年利用されてきた薬でも不利益が明らかになれば市場から消えるのです。
総合感冒薬は
18歳未満には効果が確認できないとされていますが、少なくとも乳幼児に対して我々は正しく対処していく時期に来ていると思います。


 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2

 ⇨ 第12回 「風邪薬について、最後に」 
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<< 風邪薬についての考察 第10回 >>


酒をとことんあおっても平気な人もいれば、一口飲んで顔が赤くなってダウンしてしまう人もいる。
アルコールに強い人、弱い人がいるのは日常的にみなさんもよく承知されていることと思います。
これは、エタノールからできるアセトアルデヒドを酢酸に換える酵素の強弱に遺伝的な差異があるからです。

同じように CYP2D6 にも遺伝的な違い ( 遺伝子多型 ) があることがわかっています。
最も活性が強いほうから
  • Ultra-rapid metabolizer ( UM )  ( 代謝が超迅速に行われるタイプ )
  • Extensive metabolizer ( EM )  ( 代謝活性が正常に行われるタイプ )
  • Intermediate metabolizer ( IM )  ( 代謝が低下しているタイプ )
  • Poor metabolizer ( PM )  ( 酵素活性がないか極端に低いタイプ )
という名称がつけられています。
右側に私が勝手に解説を加えていますが、標準は EM です。

日本人において活性が欠損している PM の方は1%に届かないようですが、活性が十分でない IM の方が 40% ほどいると言われています。
PM の方が PL顆粒を服用すると2日間ほどは眠気でふらふらするそうです。
居眠り2008年1月14日、月山第二トンネル内でバスの運転手が気を失い、乗客がうまくバスをコントロールして事無きを得たという事故がありました。
当時は睡眠時無呼吸症候群が注目されていた時期でしたけれども、この運転手の場合は風邪薬を服用していたと後に報道されていました。
その時は風邪薬でそこまで眠りこけてしまうものなのかと訝しく思いましたが、CYP2D6 の PM だった可能性が高いのでしょうね。

CYP2D6 の遺伝子多型は調べることが可能です。
乳癌治療薬であるタモキシフェンは
主にこの酵素で代謝されますが、使用前に予めこれを調べるサービスもあります。
しかし、タモキシフェンは他の酵素でも代謝されますし、どこまで有用かはよくわからないというのが現状です。
EM であったとしても、例えパロキセチンを服用していれば作用が減弱してしまいますしね。( → 文献
そういうコストのかかる検査を受けなくても、ある程度推測は可能ではないかと思います。
というのも、風邪薬は国民の大多数が使用経験があるはずですから非常に手がかりが掴みやすいのです。
風邪薬で眠くなる方は IM か PM の可能性が十分にあるわけで、CYP2D6 が代謝に絡む他の薬剤にも十分気をつけなければなりません。
医者の側もこの情報をしっかり聞きだして処方する際に役立てたいものです。
CYP2D6 が代謝に絡む薬剤には副作用として抗コリン作用のあるものが多いですからね。

また、これも日本人では 1%未満ですが、UM の方も薬が早く代謝され過ぎてさっぱり効いてくれないことになります。
逆に、前回も触れたように咳止めの作用のあるコデイン系の薬は CYP2D6 で代謝されて初めて薬効を発揮しますので、UM だとこの代謝産物の濃度が急速に上がってしまい、場合によっては中毒死するという報告もあります。
英国では市販の風邪薬にコデイン関連成分を使うことを厳しく制限しています。
対して日本では、授乳中の母親がコデイン系薬剤を服用した場合に乳児の血中濃度上昇が懸念されるため授乳婦のみ使用禁止が通達されているものの、後は野放し状態。
風邪薬は日用品と同様にネットでも大量購入ができてしまいますが、本当に怖いことだと思います。

次回は、風邪薬について他国との比較をしてみたいと思います。


 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1

 ⇨第11回 「小児に風邪薬を使わない海外の事情」 

<< 風邪薬についての考察 第9回 >>


今回はやや難しい話になります。
できるだけ分かりやすく書いたつもりではありますが、お付き合いの程を。

薬物代謝に重要な役割を果たすものの一つにチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があります。
主に肝臓に存在し、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。
今回はその中の一つ「CYP2D6」に焦点を当てます。

抗ヒスタミン薬・選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ( SSRI )・抗うつ薬・コデイン・抗不整脈薬・β遮断薬・etc.‥。
CYP2D6は我々が処方する約3割にあたる薬物の代謝に絡んでいるのですが、前回取り上げた抗コリン作用を持つ薬剤がたくさん含まれているのも特徴かと思います。
これらの薬を重複して服用しておられる方も多いですよね。
( なお、上に挙げた系統のすべてがこのCYP2D6で代謝されるわけではありませんので個別にはネットや薬の本等で調べてください。)

さて、PL顆粒に咳を鎮める成分が含まれていない理由を考えてみましょう。
PL顆粒に含まれる抗ヒスタミン薬のメチレンジサリチル酸プロメタジンはこのCYP2D6で代謝されます。
鎮咳剤の代表であるコデイン系の薬物もCYP2D6で代謝を受けるので、競合してしまうのです。
トンネル
分かりやすく説明してみましょう。
プロメタジンもコデイン関連物質も同じCYP2D6と名付けられたトンネルを通ろうとします。
1種類だけなら難なく通れるトンネルも、2種類が同時だと押し合いへし合いとなってスムーズには通れません。
その結果、お互いの血中濃度が下がりづらくなります。
コデイン系の薬はそのままでは何の効果も持たず、CYP2D6で代謝されて初めて鎮咳作用が発揮できるようになります。
したがって併用すると抗ヒスタミン薬の持つ抗コリン作用などの副作用は長引くし、咳もなかなか鎮まらないことになってしまいます。

PL顆粒を作っているメーカーはデキストロメトルファン ( メジコン ) という咳止めも作っていますが、これもCYP2D6で代謝される薬です。
PL顆粒に咳を抑える成分が含まれていない理由はこの点にあると私は考えています。
市販の総合感冒薬には抗ヒスタミン薬とコデインが配合されているものが多いのですが、好ましいとは言えません。
( 但し、実際に臨床で用いられる用量であれば大きな問題はないと考えられています。) 

また、血圧の薬であるアムロジピンや吐き気止めのメトクロプラミド ( プリンペラン ) などは、自分自身はCYP2D6で代謝されないものの、CYP2D6の働きを邪魔してしまう作用がありますので、やはり注意をする必要があるでしょう。
代謝酵素に注目してみると、薬の飲み合わせの善し悪しがわかってくるのですが、正直キリがないです。

CYP2D6を話題にしたついでに、パロキセチン ( パキシル ) という薬剤について一言。
一時期は最も処方されていたSSRIで、CYP2D6で代謝される薬剤の一つですが、そのCYP2D6の働きを阻害するという厄介な側面も持っています。
自分の通るべきトンネルの入り口を自ら狭めてしまうわけですね。
最初に服用していた量を倍にしたとすると、CYP2D6の阻害作用もより強くなるので血中濃度が倍以上になってしまい、それまでみられなかった副作用が出現する可能性も高くなります。
逆に減量したり止めたりするとCP2D6の働きが回復するため、薬の血中濃度が急激に下がり、押さえられていた症状が悪化するという離脱症状が出やすい薬剤です。
パキシル単剤ならまだしも、総合感冒薬やCYP2D6に絡む他の薬剤を併用すればどうなるか、想像に難くないでしょう。

次回はCYP2D6の個人差について書いてみたいと思います。


 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?

 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2」 

<< 風邪薬についての考察 第8回 >>


トイレ前回は、PL顆粒に含まれるメチレンジサリチル酸プロメタジンという抗ヒスタミン薬に抗コリン作用があるから、前立腺肥大症や緑内障のある方には使用禁忌だ、と書きました。
このことについて大まかに。

抗コリン作用を持つ薬剤は、副交感神経の末端から放出される神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを邪魔します。
その結果、副交感神経の作用が抑制されてしまいます。
内視鏡検査の時の胃腸の動きを抑える注射や眼底検査の時に瞳孔を拡げる点眼薬はこの作用を活用したものです。
しかし副交感神経がうまく働かなくなると色々困った症状も出てきます。
例えば、

・瞳孔が拡がる → 房水の出口が狭くなって眼圧が上がる
・涙や唾液の分泌が減る →ドライアイ、 口渇
・消化管の動きが悪くなる → 便秘、吐き気
・心拍数が増える → 不整脈を誘発しやすくなる
・膀胱括約筋が緩まなくなる → 排尿障害

他にも様々な影響がありますがこのくらいで。
要するに副交感神経の働きが鈍るのでPL顆粒は前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障には使えないというわけです。

抗コリン作用を期待して薬を選択する場合も当然ありますが、ありがたくないことに、この作用を持つ薬剤は抗コリン剤だけでありません。
今回話題にしている抗ヒスタミン薬もそうですし、向精神薬・制吐薬・気管支拡張薬・抗不整脈薬・ステロイド・降圧薬・筋弛緩薬・潰瘍治療薬…と強弱はあれどいろんな薬が抗コリン作用を持ち合わせています。

注意しておきたいのは、抗コリン作用は認知機能にも影響を及ぼすということ。
高齢者においては上に挙げたような抗コリン作用を持つ薬剤を複数飲み合わせていることが稀ではありません。
認知症と診断される高齢者の 1割くらいは薬剤性の認知症とも言われ、疑わしければ処方内容を再検討することも必要です。
多くの薬剤を服用している高齢者が風邪をひいた際にPL顆粒や市販の総合感冒薬を服用すれば、薬物代謝の能力が落ちていることもあって抗コリン作用を増長させかねないので、極めて注意を要します。
風邪薬に限らず、そして高齢者に限らず、抗コリン作用が重なる処方の組み合わせはできるだけ必要最小限に留める努力も我々医者には求められると思います。

さて、PL顆粒には風邪の三大症状の一つ「咳」に対する成分が含まれていないことに前回言及しましたが、それは薬物の代謝酵素の側面から見ると賢明なことに思えます。
次回は「CYP2D6」という代謝酵素を取り上げて検討してみることにします。


 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由
 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1

<< 風邪薬についての考察 第7回 >>


粉薬総合感冒薬は世代を問わず最も服用する機会の多い薬だと思います。
第1回にも書きましたが、鼻・のど・咳の三症状が揃ったものを風邪と言いますが、実際に外来に来られる方の症状は複雑で多彩。
発症からの時期によっても症状が刻々と変化しますしね。
そんな風邪を幅広くカバーしようと市販の総合感冒薬は一つのブランドでも複数の種類を揃えていますが、それでもその時の症状に必要なものが欠けていたり、逆に余分であったりすることがどうしても生じてしまうのが難点です。

医療用の総合感冒薬として代表的なのが「PL顆粒」。
病院でもらったことのある方も多いと思いますが、前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障等に禁忌であることや、どんな成分が含まれているのかすら知らずに処方している医師が多いのが現状です。
なぜ前立腺肥大症や緑内障に使ってはいけないのか ( 他にも禁忌はありますが )、その中身を検討してみましょう。
PL顆粒に含まれるのは以下の4つの成分です。

 ① サリチルアミド
 ② アセトアミノフェン
 ③ メチレンジサリチル酸プロメタジン
 ④ 無水カフェイン

① は
消化器医をやっている私のブログには何度も出てきた解熱鎮痛作用を持つ非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) の一種で、胃や十二指腸潰瘍がある場合には使えません。
② はカロナールという商品名の方が有名かも知れませんが、これも解熱鎮痛作用があります。
③ は抗ヒスタミン薬で、鼻水やくしゃみを抑える効果があります。
④ は改めて説明するまでもなく様々な作用を持ち合わせていますが、医師が処方箋薬として使うのは原則として鎮痛を目的にする場合に限られます。

解熱鎮痛剤が2種類含まれてますし、カフェインも表向きは鎮痛を目的として配合されているとすると、いびつな組み合わせですよね。
それに、三大症状の一つである「咳」に対する有効成分が見当たりません。
総合感冒薬と謳っていますが、万能ではないのです。
ただ、④ は咳を鎮めるテオフィリンという物質に化学構造が似ており、ある程度咳に効くとされています。
ご存知のように覚醒作用もありますので、抗ヒスタミン薬による眠気対策としても混ぜてあるのでしょう。
そしてカフェインの存在下でアセトアミノフェンの作用が増強されるとも考えられています。
また、③ の抗ヒスタミン薬が咳に有効な場合もあり得ます。

しかし、鎮咳作用のはっきりとしたコデイン系やデキストロメトルファン ( PL顆粒を販売している会社の製品の一つ ) などが、なぜ配合されていないのでしょうか。
実は深く掘り下げてみると鎮咳成分を混ぜていないのはとても賢明なことなのです。
これはまた第9回で触れる予定にしています。

薬の知識を持っている人ならば、前立腺肥大症や緑内障に使えない薬剤といえば、副交感神経の働きを抑える抗コリン薬を思い浮かべます。
PL顆粒には抗コリン薬は含まれていませんけれども、実は抗ヒスタミン薬である ③ は抗コリン作用も併せ持っているのです。
それで抗コリン薬と同じ禁忌項目があるわけなのです。
次回は風邪薬から少し離れますが、抗コリン作用のある薬物をちょっと考察してみます。


 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ
 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?」 

<< 風邪薬についての考察 第6回 >>


私たちは病院で処方されるものの他に、市販薬として多くのトローチを手に入れることが可能です。
代表的なもの 3つを下の表にまとめてみました。
面白いのは前回前々回
で取り上げた病院で処方されるトローチ ( 以下 SP ) ではたったの一種類だった有効成分が、市販のトローチになると複数含まれているということです。
しかも各社ばらばら、というか工夫を凝らしています。

市販トローチ

いずれも殺菌作用のある塩酸セチルピリジニウム ( CPC ) が含まれているのは共通しています。
これはSPに含まれるデカリニウム塩化物と同じ界面活性剤で、医師の処方箋を必要としない成分です。
これ以外に咳や痰、鼻水などに有効な成分などを各社独自に配合して特色を出しています。
グリチルリチン酸は前回紹介したカンゾウ ( 甘草 ) に含まれる一成分です。
塩化リゾチームは効果が疑わしいということで、販売を中止した製薬会社もありますね。
複数の成分が含まれていると便利である反面、必要ないケースもあるわけです。
例えば、鼻水がないのにクロルフェニラミン入りのトローチを選択してしまうと、恩恵がないばかりか口の渇きや排尿障害などの副作用に苦しむだけということになりかねません。

表には示しませんでしたが、キキョウエキスを配合する製品もあります。
キキョウは去痰や鎮咳作用のほかにのどの痛みを取る作用が非常に期待される成分です。
キキョウとカンゾウを組み合わせた桔梗湯という漢方薬もありますが、これはお湯に溶かして少しずつうがいをするようにして服用する方法と、そのまま口に放り込んでゆっくり溶かしながら飲み込んでいく方法があります。
うがい薬のようにものど飴のようにも使えるわけですね。
市販薬では龍角散トローチや、医薬品用にSPを作っている会社の明治Gトローチ、トローチではありませんが浅田飴などにキキョウエキスが含まれています。

病院で処方されるあまり意味のないトローチよりも、市販薬の中にはのどの痛みをとる効果が期待できるものもあるわけですが、各社の成分を十分に比較して症状に応じたものを選ぶ目を持つ必要があります。



 ⇨ 第5回 「トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥
 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由

<< 風邪薬についての考察 第5回 >>


病院で処方されるトローチの添加物の中に鎮痛効果が期待されるものがあります。
一つは「カンゾウエキス」。
市販の漢方薬に「甘草湯」という商品があります。
生薬を複数組み合わせるのが基本の漢方薬の中にあって甘草だけという異色の薬ですが、これは激しい咳やのどの痛み・腹痛などに即効性があるとされます。
医療用として存在しないこともあって私自身使ったことがない
ので効果の程は知りませんが、甘草についてはステロイドホルモンが分解されるのを防いで抗炎症作用を高めていることは知られていますよね。

TRP次に「l - メントール」を考察しますが、その前に「TRPチャンネル」についてごく簡単に触れておきます。
TRPは transient receptor potential の略でトリップと読むのが一般的です。
外部の環境温度を感知するセンサーで哺乳類では9種類が知られており、それぞれ担当する温度領域があるようです。
43度以上を感知する TRPV1 と17度以下を感知する TRPA1 が活性化すると温度を感じると同時に痛みというシグナルにもなります。
生物が至適温度で生きていく上でとても大切な仕組みです。
TRPチャンネルは温度だけでなく、植物由来の成分等でも活性化されることがわかっており、メントールはおおむね25度以下を感知するTRPM8 を活性化しますが、高濃度だと TRPA1 を抑え込んで痛みを感じにくくしてしまいます。
ちなみに、TRPV1 はトウガラシや酸などで、TRPA1 はワサビやシナモンなどでも活性化されます。

前回書いた通り、病院で処方されるトローチの主成分「デカリニウム塩化物」は痛みを緩和する作用を持ち合わせませんが、添加物で鎮痛…。
いや、ちょっと待ってください。
まずトローチには若干メントールの香りを感じとることができますが、舐めていても口の中がスースーする気配は全くありません。
恐らく香りづけ程度の含有量でしかないのでしょうか。
カンゾウについても、甘草湯では一包に1.425gものカンゾウエキスが含有されていますので、トローチの大部分がカンゾウの成分なのであれば痛みに効果があるでしょうが、これも甘味料として加えられているだけのような気がします。
実際、病院で処方されるトローチを舐めても、のどの痛みは改善しないのが何よりの証拠です。

さて、市販のトローチに目を向けてみると各社の商品には様々な工夫がなされています。
次回はそれをみていきたいと思います。


 ⇨ 第4回 「トローチはのどの痛みをとる ??
 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ」 

<< 風邪薬についての考察 第4回 >>


トローチ
風邪をひいて医療機関を受診された際、のどが痛みに対して医師がトローチを処方したり患者の側から所望されたりすることはよくあります。
でも、トローチを使って劇的に痛みがとれた経験ありますか ?
そんなことがあったらおかしい、というのが今回の話です。

病院で処方されるトローチの中に含まれる薬効成分はたったの一種類、それは「デカリニウム塩化物」。
この成分の働きは、殺菌消毒であって消炎鎮痛作用は持ち合わせていません。
効能書きにも「咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防」とあり、痛みをとるなどとは一言も書かれていないのです。
市販のトローチで「殺菌することでのどの炎症を抑え、痛みを和らげる」といった文言で宣伝しているものもあるため誤解が生じているのでしょうが、この文章を読んでも痛みに対する直接作用でないことがよくわかります。

デカリニウム塩化物は界面活性剤で、細菌や真菌には作用しますが、結核菌やウイルスには無効。
成人の場合、風邪の原因のほとんどはウイルスと考えられていますし、口腔内の常在細菌にダメージを与えるとかえって感染を促してしまう可能性があります。
また、炎症を起こして膿や分泌物などタンパクが増える環境下では
デカリニウム塩化物の効果が極端に落ちてしまいます。
そう考えていくと、トローチをどういう場面で使ったらいいのかさっぱりわかりません。
なお、界面活性剤といえば石鹸が代表的ですので、私はトローチを「舐める石鹸」と呼んでいます。

ただし、添加物に注目してみると痛みに効果がありそうなものが含まれています。
それは「カンゾウエキス」と「l - メントール」です。
次回はこの二つの添加物について考察してみましょう。

 ⇨ 第3回 「アズレン系うがい薬の有用性
 
⇨ 第5回 「トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥」 

<< 風邪薬についての考察 第3回 >>


アズレン医療機関で処方されるうがい薬にはヨード系の他にアズレンスルホン酸塩 ( アズノールうがい液 等 ) のものがあります。
その青い色を元に名付けられたアズレンは、中世時代からカモミールを蒸留して活用されていたようですが、抗炎症作用やヒスタミン遊離抑制作用、組織修復促進作用などが確認されています。
アズレンは、うがい薬の他に胃薬・点眼薬・外用剤などもあり今日の臨床の場で幅広く活用されており、中でもエグアレンナトリウム ( アズロキサ ) というアズレン誘導体は、胃・十二指腸潰瘍面に付着し組織修復に優れた薬剤です。
しかしH2ブロッカーと併用しなくてはならないという制約、何とかなりませんかね。

ヨード系うがい薬もアズレン系うがい薬も口内炎に対する効能が謳われています。
よく口内炎ができる私はかつてヨード系のうがい薬を使っていましたが、傷口にかなり滲みて痛いのなんの。
治るのであればと我慢して使用していましたけど、組織傷害性があるとわかってからはピッタリ止めました。
実際、なかなか治癒しませんし。
それに替わってアズレン系のうがい薬を使い始めたところ、驚くことにうがいして数分で痛みがある程度和らぎますし、治りも早いではありませんか。
口内炎に限らず口腔内の痛みを緩和する働きがありますが、この作用にはもしかすると添加物の l -メントールも一役買っているかも知れません。

2011年にはアズレンスルホン酸塩によるうがいで、シェーグレン症候群の患者さんの口腔乾燥症状が改善することが報告されています。
乾燥感・疼痛感・飲水切望感などの自覚症状が改善するばかりでなく、唾液分泌量も有意に増加したというものです。

こんなこともあって、風邪をひいてのどの痛みがある時にうがい薬を使いたいならアズレン系、と患者さんにも勧めています。
なお、抗菌作用はないので風邪の予防のために使用するのはどうかと思いますが、細菌やウイルスに対する抵抗力を高めているという説もあるようです。
剤形はヨード系と同じ液体タイプの他に、溶かして使用する顆粒や上唇と歯茎の間にはさんで溶かして使う挿入用剤もあります。
顆粒は常温の水にはやや溶けにくく、味がいまいちの印象。
挿入用剤は飲んだり咬んだりしないで使う点に注意が必要で、口の中が青くなるのはご愛嬌。

前回と今回のまとめですが、風邪の予防には水道水かお茶でのうがい。
風邪をひいてしまったらアズレン系のうがい薬を使い、どの段階においてもヨード系のうがい薬は使わないようにしましょう。

 ⇨ 第2回 「無意味なヨード系うがい薬」  
 ⇨ 第4回「トローチはのどの痛みをとる ??」 

<< 風邪薬についての考察 第2回 >>


うがい2手洗いとうがいは風邪予防の基本。
そのうがいに薬剤を使われる方も多いと思います。
そしてその代名詞的な存在が、ヨード系のうがい薬であることは誰もが認めるところでしょう。

このヨード系うがい薬に風邪の予防効果が全くない、というのは 5年前の当ブログにて解説していますのでご覧下さい。( → うがい )
改めて要点を述べますと、

・水道水だけのうがいで風邪の罹患が約3割低下
・ヨード系うがい薬を使うとうがいをしないのと罹患率に差がない

ポビドンヨードは優れた殺菌能力を示しますが、一方で組織障害性も有します。
一昔前までは褥瘡など創傷処置に盛んに使われていましたが、使わない方がきれいに早く治ることは今や常識。( → 傷は消毒しない )
風邪の予防にもならないし、風邪をひいて炎症を起こした咽頭粘膜にはダメージを与えるわけで、どんな段階でもヨード系うがい薬の出番はないと私は考えます。
ちなみに、2011年には緑茶でのうがいに優れた風邪予防効果があることが報告されています。
水だけで3割、生理食塩水で5割に対し、緑茶では7割もの風邪予防効果があるようです。( Noda T et al. J Epidemiol. 2012;22(1):45-9. Epub 2011 Nov 26 )

また、せっせとヨード系うがい薬を使い続けている人の中には甲状腺機能低下症を発症するケースもあります。
ヨード液の一部を少しずつ嚥下し、ヨード過剰の状態になるわけですね。
甲状腺ホルモンの原料であるヨードは少なくても機能低下を招きますが、過剰であっても機能低下になります。
この理由はよく解っていませんが、Wolff-Chaikoff effect という名前で知られている現象です。

当院ではヨード系うがい薬は既に採用していませんし、市販のヨード系うがい薬を使っている人には今回のブログに書いたことを説明し使用を控えるように勧めています。

 ⇨ 第3回 「アズレン系うがい薬の有用性」 

<< 風邪薬についての考察 第1回 >>


咳勤務医を辞めて、診療所で患者さんを診るようになって10年が経ちます。
外来をやっていて大きく変わったのは、いわゆる「風邪」を診る機会が圧倒的に多くなったこと。

本来は、鼻・のど・咳の三症状が揃ったものを「風邪」と言います。
しかし、風邪をひいたと来院される方の症状は実に多彩で、それに応じた処方が必要になりますが、ここ10年の経験から、医療機関での処方薬や市販薬などの副作用を思い知ったり有効性に疑問を感じたりすることも出てきました。

これからの季節、いわゆる風邪に罹る人が増えてきます。
ほとんどの方が風邪薬にお世話になったことがあると思います。
インターネットを介して気軽に風邪薬が手に入る時代になってきましたが、風邪に関してごくごく普通に使われている薬についての知識を再整理して、誤った使い方をしないための参考になればと思い、このシリーズを始めることとしました。 
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