野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡にある野口内科です。
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 心窩部にまつわる話

rww7yidy.gif《 心窩部にまつわる話 5 》 


「みぞおちに、固いしこりがあるんです。癌じゃないでしょうか ?」

心窩部を指さしなが心配そうな顔でそう訴えて来られた方の診察をさせていただきます。

「これですか ?」
「そうです。ほら何か固いのがあるでしょう」

触診で訴えのある場所を確認して私はにっこり。

「私の同じところを触ってみてください」
「あれっ !? 固いのがありますね」
「これは誰にでもあるものなんですよ」
「えーっ、そうなんだ」

しこりの正体は剣状突起
図の赤く塗った部分がそれにあたります。

今まで何例あったでしょうか、このような訴えで来院される方がたまにいらっしゃいます。
ということは、これから先も同じような心配をされて病院に足を運ぶ方がいらっしゃるかも知れません。
自分の体のことでありながら、知らないことって多いですよね。
図を参考にして、剣状突起に該当しそうにないしこりであれば受診してください。




syz1dztk.gif《 心窩部にまつわる話 4 》 


胃下垂の話の続きです。

内視鏡でもある程度胃下垂を推定することができます。
内視鏡を胃の後半部分から十二指腸にかけて進めていく時、胃の大弯の壁を支点にします。
図の矢印の辺りに内視鏡が当たり、Jの字に向きを変えて十二指腸方向に向かうわけです。
胃下垂の方は、この支点となる部分がどんどん骨盤の方に下がっていきますのでそれにつれ内視鏡の挿入長が長くなっていきます。
実際の検査では、胃の出口である幽門が見えているのに、内視鏡を進めても進めてもそこまでの距離が縮まらないという感じになります。

極端な胃下垂の場合、内視鏡の全長を使っても十二指腸まで届かないことすらあります。
そういう症例を 2例経験しています。
ちなみに上部消化管の内視鏡の長さは約110センチメートルです。
胃の入り口である噴門までは経口の場合、胃下垂の有無に関わらず約40センチメートルで届いてしまいます。

さて、機能性ディスペプシアの「食後愁訴症候群」の話です。
食後愁訴症候群は、

 1. 通常量の食事での食後の胃もたれ
 2. 早期飽満感 (食べ始めて早い段階で食べた量以上に胃がいっぱいになる感じ)

のどちらか、あるいは両方があることが診断の基準となります。
他に上腹部の張り、吐き気、げっぷなども診断の手掛かりとなります。
このような方に内視鏡を実施しますと、先に述べた内視鏡で胃下垂が推測される以外に所見が何もないという方が結構いらっしゃる印象があります。

胃下垂の方に概ね共通することがあります。
それは腹筋が弱いということ。
おなかの中をある程度自由に動き回れる胃を外側から支えているのが腹筋の役割の一つではないのだろうか・・・。
医学的な根拠はありませんが、これは俗説として広く知られており、胃下垂の方に尋ねてみると腹筋が弱いと答える方の割合が非常に高いのは事実です。
腹筋の弱い方は大腸内視鏡の挿入にも苦労することが多い傾向にあります。

食後愁訴症候群では、食事開始時の適応性弛緩 (食べ物に備えて胃が膨らむこと) や排出遅延 (消化したものを十二指腸に送り込むのが遅れること) などの消化管運動異常が原因として考えられています。
運動異常があるから胃下垂になるのか、腹筋が弱く胃下垂となることが運動異常を引き起こすのか、あるいは消化管運動と胃下垂は関係がないものなのか。
消化管の働きと腹筋の関係も医学的な目で調べていくことが重要なのかも知れませんし、食後愁訴症候群の治療の一つのヒントになるかも知れません。

ちなみに、早期飽満感には漢方薬の六君子湯がかなり有力な治療手段です。


znpo2mpt.gif《 心窩部にまつわる話 3 》


前回は機能性ディスペプシアの「心窩部痛症候群」に絡んだ話でしたが、もう一つの「食後愁訴症候群」を考える前に、胃下垂について触れてみます。

診断基準はあるものの、医師に疾患として認知されているわけでもなく、治療も基本的に施されないのが胃下垂です。

胃下垂の診断は胃の透視によって行われます。
右図の矢印の部分を胃角部と言いますが、ここが骨盤の最上端よりも下に位置している場合に胃下垂との診断が下されます。
皆さんの想像以上に下がっているのではないかと思います。
実際、胃下垂の方は食後に臍より下がぽっこり膨らむのです。

透視を見ていると、バリウムの入り始めはどんな方でも胃の位置はほぼ一緒の印象です。
しかし、胃下垂の方はバリウムの量が増えるにつれ、胃がどんどん下がっていきます。
日常でも恐らく食べ物が入り、その重みで下がっていくのだろうと考えられます。

胃は固定された臓器ではなく、腹腔内で大きく移動することが可能です。
胃は口にした食べ物を一旦蓄えるために膨らんだり、消化するために大きく蠕動したりします。
胃が固定されてしまうと胃のこの機能が十分発揮できないため、と勝手に推測しています。
一方、手前の食道と胃に続く十二指腸は逆にしっかりと固定されています。
食道が固定されていないと、胸腔内の心臓や肺、大動脈といった臓器の働きに影響が出かねません。
十二指腸には肝臓からつながる胆管と、膵臓からの膵管の出口があり、わざわざ腹腔をという空間を出て背中側に回り込み、これらを通って出てくる消化液を受け取りにいくような形をとっています。
「体の形態には意味がある」と以前述べましたが、臨床に長く携わってきての実感です。

すみません、遅筆なもので続きは改めて。


nxsm_x7v.gif《 心窩部にまつわる話 2 》


我々は患者さんの訴えをあれこれ聴取することで病気が何であるかを絞り込んでいきます。
上手に聞き出すことで疾患を8割方診断できるとも言われています。
そして必要な検査を行い、結果に応じて治療法を選択していきます。

心窩部に症状があり、患者さんが胃だと思い込んで病院に来られても、我々は即、胃に病気があると疑うわけにはいきません。
もちろん、胃である場合が多いのですが、胃以外の臓器の疾患で心窩部に痛みが出ることがあるからです。
心筋梗塞で心窩部に痛みがくることがありますし、急性虫垂炎や胆石症、尿路結石などで心窩部痛を初発症状とすることもあります。

このように痛みの原因となっている部位とは異なる部位に痛みがでることを「関連痛」と呼んでいます。
なぜこのようなことが起こるかは専門的になりますので興味のある方は調べてみてください。

強い心窩部痛があるのに調べても何も見つからないことがあります。
この場合、安倍元首相もかかった (!?) という機能性ディスペプシアである可能性があります。
最も新しい Rome III という国際的診断基準では「食後愁訴症候群」と「心窩部痛症候群」に大別されます。
診断基準を満たせば、その後者となります。
治療は投薬が主体となりますが、一定した治療法はありません。
何度か薬を変えてみてようやく症状が落ち着く場合もあります。
柴胡桂枝湯という漢方薬が劇的に効くこともよく経験します。
中には症状が改善せずに病院をころころ替わる方もいらっしゃいますが、食事や日常のストレスなど生活習慣を見直すことも必要になってくる場合があります。


iugfeigj.gif《 心窩部にまつわる話 1 》  


多くの方を診察していると、いろいろと面白い場面に遭遇することがあります。
例えばこんなちぐはぐな会話。


「3日程前から胃が痛いんです。」
「そのおなかの痛みは食事と関係ありますか?」
「おなかじゃありません。胃です。」


胃もおなかの臓器の一部と私は認識しているのですが、胃とおなかをその人なりに区別する基準を持っておられる方がたまにいらっしゃるのです。
いわゆるみぞおちの辺り、その部位に限定した症状であることを訴えたいことは十分に伝わります。
医学的にこの場所を「心窩部 (しんかぶ)」と言います。
図のように腹部を9等分した場合、Aの部分に該当しますが、明確な境界線があるわけではありません。

「窩」という漢字は一般にはなじみが薄いと思いますが、医学の世界ではよく見かけます。
「膝窩」「眼窩」「ダグラス窩」「梨状窩」・・・。
要するに窪みを形成している場所を指し示す際に用いられています。
みぞおちになぜ「心」の字が使われているのかはよくわかりません。
体の中心という意味だと理解しているのですが、もしかしたら東洋医学と絡んでいるのかも知れません。

ちなみにみぞおちは漢字で「鳩尾」。
このあたりが鳩の尻尾に似ていることからこのように書くそうですが、似ていますか ?

そんな心窩部にまつわる話を何回かに分けて述べてみたいと思います。


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