野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡にある野口内科です。
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 胃食道逆流症 (逆流性食道炎)

  << 胃食道逆流症 第9回 >>


2010111715542930716.gifさて、5月末からぼちぼちと書いてきた胃食道逆流症に関する連載も最終回。
本来なら、第3回で取り上げるべきだったかも知れませんが、胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状についての追加説明です。

♦♦ 胃液の逆流で口臭 !?

まず口臭について。
口臭の原因の8-9割は歯周病や虫歯など口腔内にあるとされています。
口臭が気になるので胃の検査をしてくれ、という方がたまにいらっしゃいますが、これまでは胃が原因のことは極めて少ないと説明してきました。
なぜなら食道の入り口は物を飲み込むとき以外は閉じているので、臭いが漏れてくることはまず考えられないからです。
それに口臭を訴えてはおられるけれどもそれが他覚的に確認できない、自分だけが気にしている自臭症である場合が多いからです。
ところが、最近の研究で口臭の一因となる舌の付け根付近の細菌増殖は GERD が原因と推定されるようになってきました。
口臭と GERD の関連性を示す報告が散見されるようになってきましたので、口臭を訴えられる方にも内視鏡検査をお勧めしております。

♦♦ 胃液の逆流で歯ぎしり !?

そして、歯ぎしり
これは地元鹿児島大学の歯学部の研究が有名です。
咬合不全の患者さんがたまたま GERD を合併していて、内科で酸分泌抑制薬を処方してもらったところ顎の痛みが軽くなり、投与前後での歯ぎしりの回数が著減したことも確認できたところから研究がスタートしたようです。
GERD を治療すると歯ぎしりは減り、酸の逆流で食道内のpHが低くなるのに合わせて歯ぎしりが活発になることも示し、その関連性を見事に証明しています。
歯ぎしりをすることで唾液の分泌を促し、GERD の症状を緩和しようとしているのではと推測されています。

GERD は直接生命に危険を及ぼすような疾患ではありませんが、口臭や歯ぎしりなども含め生活の質に関わってくる疾患です。
これまでのこのシリーズを改めて読んでいただき、少しでも気になることがあれば、GERD の診断にはうってつけの経鼻内視鏡による検査を是非お勧めします。



  << 胃食道逆流症 第8回 >>


♦♦ 食道の入り口で胃液が…

のどの部分の違和感があるのに検査をしても何も所見を見いだせないものを咽喉頭異常感症と呼び、この原因の一つに胃食道逆流症 ( GERD ) がなり得えます。
胃液が鼻や耳にまで影響を及ぼすことはこのシリーズ第3回で述べた通りです。
ところで胃液を作る場所は胃だけではなく、食道の入り口でも作られるとしたら・・・、そんなことあるのでしょうか。

20101026161538356.gif♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の写真

内視鏡で検査を行なうと右の写真のように食道の入り口に胃粘膜を見つけることがあります。
左右両側にあるやや赤い部分がそれ。
これを食道入口部異所性胃粘膜 ( 通称 Inlet patch ) と呼びます。
GERD の分野で著名なある先生にこの inlet patch についていくつか質問をぶつけたことがありますが、先天性のものだし酸分泌をすることもないので問題ないでしょうとにべもない返事でした。

でもここで inlet patch について深く掘り下げてみましょう。

♦♦ どうしてできる ? 食道入口部異所性胃粘膜

胎児の時代に食道が作られるとき、表面の円柱上皮が扁平上皮に置き換わってくる現象が食道の中部付近から始まり徐々に口の方と胃の方に進んでいきますが、進み方が不完全で食道の入り口に取り残された円柱上皮がこの inlet patch になるというのが定説です。
Inlet patch の細胞を詳しく調べた研究でグルカゴンというホルモンを分泌する細胞を見いだすことがあるそうです。
グルカゴンは成人では膵臓で作られますが、胎生初期の胃ではグルカゴンを作る細胞が存在するものの成長とともに消失することから、inlet patch が胎生期の粘膜の名残りであるという説を支持するものになっています。
でも、inlet patch は胃の上部の噴門腺領域の粘膜に似ていて胎生期の円柱上皮とは異なるので先天性ではないとする説も存在します。

♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の治療は ?

この inlet patch の組織を採取して顕微鏡で調べると胃酸を分泌する壁細胞が見つかることがあります。
胃液がわざわざ胃から逆流してこなくても食道入口部で酸が分泌されれば、のどの不快感を起こすであろうことは想像できますよね。
これまでそのような症状があって inlet patch がある人に PPI ( proton pump inhibitor ) などの酸分泌抑制薬を投与して症状が治まる人を何例も経験しています。
また、この異常感がありなおかつ PPI でも治らない人に対して inlet patch を電気的に焼いてしまうことで治療する方法も昨年紹介されました。( Gastroenterology. 2009 Aug;137(2):440-4 )
この場合、悪さをしているのは酸ではなく粘液ではないかと推測されています。

♦♦ 案外多い食道入口部異所性胃粘膜
さて、inlet patch がどのくらいの頻度で見つかるのかというと報告で大きなばらつきがあって 0.1 - 20 % と200倍の開きがあります。
日本人を対象とした内視鏡での検討では 14.2%、つまり 7人に1人の割合で発見されるようです。( Progress of Digestive Endoscopy 2005 ; 66 : 19-21 )
海外の報告は一桁台が多いのですが、日本人に多いのか海外の内視鏡レベルが低いのかのどちらかでしょう。

♦♦ まだまだ研究の余地がある食道入口部異所性胃粘膜

Inlet patch 部分へのピロリ菌感染や癌の発生などの報告もありますし、先の日本人での内視鏡検討では高齢者の方の頻度がやや低いそうで、かなり長い時間をかけて食道粘膜が完成していくのか、はたまた若い世代に GERD が多いことと関連するのかなど興味は尽きないのですが、消化器をやっている医師の間でもあまり重要視されていないのが現状です。
本当に先天的なものとしていいのか ( Barrett 上皮のように後天的なものがないか ? )、GERD の食道外病変と同様の症状にどのくらい関与するのか、どうして inlet patch が生じやすい方向があるのか ( 3-4時方向と9-10時方向に多い印象です ) など inlet patch には研究の余地はたくさんあります。

食道胃接合部の観察には経鼻内視鏡が優れているということはシリーズ第4回で書きました。
実は経鼻内視鏡を導入するときに、反射が少ないことから inlet patch の観察もしやすくなるのではと期待していましたが、逆に近接してしまいちょっぴり苦労しています。
しかし食道入口部の観察も念を入れてやっておりますので、咽喉頭異常感症の症状があって内視鏡を受けられたことのない方は是非検査を。





  << 胃食道逆流症 第7回 >>


2010100617293027853.gif♦♦ GERDに使う漢方薬

前回に引き続き、治療薬のお話です。
消化器病の分野で作用機序の解明が進められつつある漢方薬の一つに六君子湯があります。
主に胃においての研究が多いのですが、食道においてもいくつかの報告があります。
内視鏡検査で異常を認めない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) において、PPI ( proton pump inhibitor ) でも症状の改善しない例では食道の運動機能が低下していることがわかっていますが、六君子湯はこの食道の運動機能を改善します。
また、胃の内圧を下げる作用もあり、間接的に食道への逆流を防いでいると考えられます。

私が注目しているのは半夏厚朴湯という漢方薬です。
昔から、のどの違和感があっても検査で何も所見がない咽喉頭異常感症という病気にこの薬剤がよく使われてきました。
シリーズ第3回胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状について書きましたが、GERD により咽喉頭異常感症が引き起こされることもわかっていますし、実際に半夏厚朴湯を投与してこの食道外症状が緩和されるケースを何度も経験してきおり、治療の有効な手段の一つと考えています。
この漢方薬も科学的に薬効薬理が明らかになることを望みます。

♦♦ GERDを悪化させる可能性のある薬剤

薬で一つ注意していただきたいのは、降圧薬の中でカルシウム拮抗薬と呼ばれるものです。
血管の筋肉が収縮するのを妨げることで血圧を下げるのですが、下部食道括約筋部 ( LES ) の圧も下げてしまい胸やけを悪化させてしまう可能性があります。

♦♦ 日常における注意点

次に日常生活におけるセルフケアについてです。

まずは姿勢ですが、病気の性格上、前屈みになったり食後すぐに横になったりするのは好ましくありません。
ベルトやコルセットなどをきつく締めつけないことも肝要です。
また、就寝時に上半身を高くして左を下にして寝ると逆流を起こしにくくすると考えられています。
液体をすするように飲むのも空気を多く取り込んでげっぷや逆流の元になるとされています。
そしておなかについた脂肪も大敵。
肥満の方は減量に努めることも大事で、最も重要なポイントです。
シリーズ第5回で紹介した症例もスリムな体形になったことが治癒の一番の要因だと考えています。

♦♦ 注意したい食べ物について

胸やけを起こしやすくする食べ物もあります。
肉や揚げ物、ケーキなど脂肪の多いものの刺激でコレシストキニンというホルモンが活発に分泌されるようなり消化を助けるのですが、このホルモンは LES の圧も下げてしまいます。
酸の強いもの、辛いもの、熱いものも大敵で、いずれも胸やけを感じる神経を刺激することがわかっています。
あんこやあんみつなど甘いものも胸やけの原因となります。
糖分が胃液に溶けると浸透圧の高い液になりこれが逆流すると胸やけを起こすとされています。
コーヒーも胸やけを起こすのですが、コーヒー中の3つの成分により胃酸分泌が刺激されることがつい最近判明しています。( http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20100401hj001hj )
この記事によると胸やけを起こしにくいコーヒーも実現可能となっていますね。
タバコやアルコールも好ましくないとされていますのでご注意ください。

なお、食後にガムを噛むと症状緩和の一助になりますので試してみてください。



  << 胃食道逆流症 第6回 >>


GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。
余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。

  << 胃食道逆流症 第5回 >>


経鼻内視鏡を行なう際に、大きく息を吸い込んでもらって食道と胃の境界部分を詳細に観察することを前回、述べました。
逆流性食道炎の場合、内視鏡で実際どのような変化が認められるのか、興味あるところだと思います。
Los Angels 分類別に写真を並べてもいいのですが、今回あえて一例だけ提示させていただきます。

♦♦ 提示した内視鏡像について

201008182132092576.gif泡がついていたり、下部がぼけていたりで掲載するのは恥ずかしい写真なのですがお許しくださいね。
さて、内視鏡検査において食道病変の場所を時計の文字盤に例えて示すのが慣例となっています。
写真の真上を12時の方向、真下を6時の方向とするわけです。
ちなみに12時方向はおなか側、6時方向は背中側、3時方向は右手側、9時の方向は左手側になります。
提示した写真の1時の方向に白く見えるのは潰瘍です。( 白い矢印 )
逆流性食道炎による潰瘍やびらんは Los Angels 分類の A や B の場合、2時方向を中心とした右上方の胃粘膜のひだの上にできやすいことがわかっています。
この理由につていははっきりわかっていませんが、この症例は典型的な例ですね。

この症例でもう一つ注目していただきたいのは食道粘膜と胃粘膜の境界 ( Squamo-columnar junction : SCJ ) です。
3時の方向 ( 青い矢印 ) の辺りと比べてみて下さい。
中央に見える胃の入り口を中心に考えると11時の方向と6時から9時にかけての方向 ( 黄色い矢印 ) にこの SCJ が極端にずれ込んでいますよね。
この症例の方は食後すぐに左を下にして横になる ( 左側臥位 ) 習慣があるとのことでした。
SCJ が3時方向に極端にずれている方に尋ねてみると食後の右側臥位がお好みというパターンが多いです。
逆流してきた胃酸にさらされて元々存在していた食道の細胞が胃の細胞に置き換わることで境界部分がずれたように見えてくるわけです。
ですからこの境界の偏りは食後や就寝時の体位が影響するのではないかと思われます。
内視鏡をすることでその人の普段の過ごし方もわかってしまうなんて面白いと思いませんか ?

しかし、私がこの症例でもっと面白いと思っているのは、この左方向を中心とした SCJ の大きなずれがあるにもかかわらず、潰瘍ができているのがあくまで右上だということです。
逆流性食道炎における粘膜傷害の発生にはいろいろな因子が複雑に絡み合っているのでしょうね。

なおこの症例の方、薬だけでなく食後にすぐ横ならないことを守ってもらい、減量もがんばってもらった結果、1時方向の潰瘍はすっかり消えてしまいました。

次回は胃食道逆流症の治療について。


  << 胃食道逆流症 第4回 >>


症状から胃食道逆流症 ( GERD ) が疑われる場合に優先してチョイスされる検査は内視鏡になります。
GERD に関しては採血やレントゲン、透視などからはほとんど得られる情報はありません。

♦♦ GERDの内視鏡分類について

内視鏡検査によって、異常が見つからない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) なのか、はっきりとした傷がある逆流性食道炎 ( RE ) なのかがわかります。
後者の場合、内視鏡検査でさらに重症度の判定を行うことができます。
一般的に Los Angels 分類というものが使われています。( 右下図 )

2010072812462623081.gif専門的になるので簡潔に説明しますが、Grade A と B は縦方向の傷同士がつながっておらず、長さが5mmあるかないかで分類しています。
Grade C と D になると長さに関係なく、縦方向の傷が互いにつながってきたもので全周の75%に及ぶか及ばないかで区別してあります。
日本においてはさらに色調変化型 ( Grade M )、内視鏡的に異常のないもの ( Grade N ) を加えて活用しているのが一般的です。

♦♦ 経鼻内視鏡で胃と食道の境界をつぶさに観察できる

さて、GERD の診断確定のために重要となるのは食道と胃の境界部分の観察です。
これには経口よりも経鼻内視鏡の方が優れていると私は考えています。
写真をご覧ください。
同じ被験者で同じ場所を写したものです。
EC.gif左の写真ではほとんど見えていない食道と胃の粘膜の境界部分が右の写真でははっきりと見えています。
実は、最初左の写真の状態だったのですが、息を大きく吸い込んでもらうことで右のような状態になるのです。
こうすることで RE による傷があるかどうかのキモである食道と胃の境界をつぶさに調べることができるわけです。
鹿児島では経口内視鏡をするのに鎮静剤の注射をする施設がほとんどです。
意識がもうろうとしている時に検査を受けられている方に息を吸い込んで、と言ってもまず実行できません。
鎮静剤を使わないで経口内視鏡を行なう場合でもその余裕がなかったり、反射でげっぷが出たりしてゆっくり観察ができないことが多いのです。
苦痛を与えずにつぶさに観察でき、かつ検査を受けられる方にもじっくりとこの部分の傷の状態を見て納得してもらえるわけで、経鼻内視鏡は GERD の診断にまさにうってつけだと思います。

♦♦ 内視鏡検査中のげっぷ

なお、内視鏡検査の際にげっぷを我慢しろと言われたことはないでしょうか。
咽頭部の刺激による反射で起こるのも理由の一つですが、食道裂孔ヘルニアの方はげっぷが出る傾向が強いように思います。
私はげっぷも GERD の原因となる食道裂孔ヘルニアの所見の一つとみなしています。
胃の入り口を閉める筋力が落ちているわけですから、げっぷをするな、と野暮ったい無理強いをすることはまずありません。
げっぷをすると空気が抜けて胃の壁が近接してしまいますし、壁が激しく動いて観察に時間がかかってしまうために指示をするわけですけど、我慢しろと言われても無理なものは無理ですものね。


  << 胃食道逆流症 第3回 >>


2010070914065018686.gif♦♦ 胃液の逆流で起こる様々な症状

前回述べましたように、胃液が食道に逆流して胸やけや呑酸といった症状が起こることは納得できることと思います。
しかし、それ以外にも実にさまざまな症状が生じることがわかってきています。
それは・・・
胸痛、慢性の咳や喘息、咽喉頭症状、睡眠障害、中耳炎、虫歯、副鼻腔炎、肺炎や肺線維症などです。

♦♦ 逆流で中耳炎が…

中耳炎に関しては、中耳の浸出液を調べたらペプシンが検出され、胃薬を服用させて症状が改善したという報告がいくつかあります。
ペプシンは胃の主細胞だけが作る消化酵素で通常は中耳に存在しないはずですから、胃液の逆流が中耳炎の原因の一つになっていることは否定できません。

♦♦ 逆流で虫歯も…

虫歯と胃液の関係については今盛んに歯磨きのテレビCMでアピールされています。
体の中で最も硬い組織である歯のエナメル質の最大の弱点が酸ということもあって胃酸との関連性に興味が持たれたのでしょうが、胃食道逆流症 ( GERD ) で歯牙酸食の頻度が高いことが報告されています。
胃酸を中和する唾液が存在する口腔内で虫歯のすべての原因が GERD にあるわけでもないでしょうが、原因の一つとなりうると考えられています。

♦♦ その他にこんな症状も

他の疾患や症状についても、GERDの有無でグループ分けをしてGERDがあるとこれらの症状を有するものが多いこと、胃薬で症状が治る割合が高いことなどからGERDとの関連が推測されています。

実際、心臓の痛みだと思っていろいろ調べたけれども異常がなく胃薬を飲んだら胸痛が治った、とか慢性的に悩まされていた咳が胃薬で落ち着いたとかいう例をこれまでいくつか経験しています。

また、高度の貧血をきたす場合もあります。
胃液の逆流が原因で下部食道に高度の炎症をきたして慢性的にじわじわ出血している例を主に高齢者で見受けることがあります。

胃酸の逆流が単に胸やけ程度にとどまらない多様な食道外病変を引き起こすことは理解いただけたと思います。
このGERDをチェックするのに重要なのはやはり内視鏡による検査となりますが、普通の経口内視鏡よりも経鼻内視鏡の方が威力を発揮します。
これについては次回。


  << 胃食道逆流症 第2回 >>


胃食道逆流症 ( GERD ) は、塩酸や蛋白分解酵素であるペプシンを含んだ胃液が食道に逆流することで生じます。
最近では胃液以外の逆流も注目されているのですが、これは機会があればお話します。
胃自身がどうして消化されないかというと、別に分泌される粘液の膜で表面を覆って保護しているからですが、食道にはそのような仕組みがありません。
このため強い消化液である胃液が食道に逆流してくると、傷ついたり様々な症状が生じたりするのです。

201006151614253985.gif♦♦ 胃液の逆流が起こる原因

逆流が起こる原因として下部食道括約筋部 ( LES ) の閉まりの低下が挙げられます。
この部分、本来は食道自体の筋肉による圧迫と横隔膜による食道の圧迫の二つが協調することで胃内容物の逆流を防いでいるのですが、この二つの圧迫部位がずれてしまうことがあります。
食道が横隔膜を貫く食道裂孔という場所から胃の一部が食道の方へずり上がってしまう現象を食道裂孔ヘルニアと呼んでいます。
右の図の左側が正常、右側がヘルニアの生じた食道と胃と横隔膜の関係になります。
本来なら食道下端が横隔膜に靭帯で固定されているのですが、飲み込む動作の度に食道が縮まりますし、加齢によって靭帯の働きも落ちてくるためずれが生じてしまうのです。
食道裂孔ヘルニアによって十分な圧が得られなくなり逆流を招くのです。
これとは別に一過性のLES弛緩というものがあります。
これは高脂肪摂取、大量の食物の摂取、胃運動機能の低下等で起こると考えられています。

♦♦ GERD の症状

GERDの症状として胸やけ呑酸 ( どんさん ) と呼ばれるものがあります。
前者は「心窩部から胸骨後方にかけて上方に向かって広がる熱感を伴う不快症状」、後者は「口腔咽頭への胃液の逆流によって自覚される苦酸っぱい不快な味覚、あるいは咽頭刺激症状」という定義がなされています。
「胸やけとはどんな症状のことですか」と聞いてみると、吐き気やおなかが張って苦しい状態のことを指す人もいれば、胸やけなのにそれ以外の言葉で表現する人もいることが分かっており、症状の定義があるのはおおいに助かります。
「下痢をしました」との訴えの方の話をよく聞いてみると、普段より便の回数が多かっただけで便そのものはいつもと形状が変わらない、というケースを経験したことがあります。
つらい症状を表現する時に患者と医師の間で言葉の認識に大きな食い違いがあっては診断や治療に支障が出てしまいますよね。
ちなみに、週 2回以上の胸やけ症状発現を病的なものとみなします。

♦♦ GERD の分類

GERDのうち内視鏡検査で食道粘膜に明らかな病変を見出せるものを逆流性食道炎、肉眼的に異常を認めないものを非びらん性胃食道逆流症と呼んでいます。
症状が同じでも内視鏡によって病変が確認できるかどうかで疾患名が変わってくるわけですが、これはまた別の回で。

胃液が逆流する現象で上のような症状が生じることは容易に理解できると思いますが、見当のつかないような症状が起こることもあります。
このことについて次回お話します。

♦♦ GERD の定義

なお、GERDは以下のように定義されています。
食道粘膜傷害性のある胃内容物の食道内への逆流によって
 ① 胸やけや呑酸などの定型的な自覚症状
 ② 下部食道粘膜のびらん潰瘍などの食道粘膜障害
のいずれか、あるいは両方があるもの

  << 胃食道逆流症 第1回 >>


2010051422303218312.gif内視鏡を扱うようになってからちょうど20年経ちました。
この間に内視鏡の機器自体も進化して、観察・診断が中心だった用途が治療の領域にまで広がってきています。

わずか20年の間に日本の消化器疾患も随分様変わりしてきました。
内視鏡に携わり始めた頃は胃・十二指腸潰瘍の症例は日常茶飯事で、肝硬変に伴う食道静脈瘤も珍しくはなかったのですが、最近これらの疾患にお目にかかる機会がめっきり少なくなってきています。

逆に増加の一途を辿っているものもあります。
それを代表するのが胃食道逆流症
日本人の 2-3 割がこの疾患に伴う症状を自覚しているとされ、胃・十二指腸潰瘍の症例数よりも多くなってきました。
実際、上部消化管内視鏡検査をすると 15% 前後の人に食道炎の所見が確認できるとも言われていますが、今年はこの疾患について数回に分けて当ブログ上で考察していきたいと思います。


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