野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡にある野口内科です。
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 出血をきたす消化器疾患

<< 出血をきたす消化器疾患 第9回 >>



憩室下血をきたす疾患の中で大腸内視鏡医を最も悩ますのが大腸憩室からの出血ではないでしょうか。
大腸憩室症については当ブログ「宿便について考える」の第四回『大腸憩室症について』で詳しく取り上げていますので、そちらをご参照ください。
下血を来す疾患で多いのは痔の次に虚血性大腸炎である、と前回書きましたが、低用量アスピリン ( LDA ) やワーファリンを内服している人に限るとトップに躍り出るのがこの大腸憩室からの出血になります。

つい最近「学会レポート2011 その1」でも書いたばかりですが、心疾患や脳血管疾患に絡んで LDA やワーファリンといった血を固まらせないようにする薬を内服する方が格段に増えています。
これらの疾患自体が加齢とともに増えるものですが、大腸憩室も高齢者ほど多くなる傾向がありますし発生頻度も昔に比べると増してきているようです。
憩室の部分は血管の通り道であることはわかっていますが、なぜ憩室部分で出血を来しやすいのかはよくわかっていません。

血をサラサラにする薬を内服していること自体血が止まりにくくしているわけですが、大腸憩室からの出血では内視鏡的に止血を困難にしている理由があります。
憩室は大抵複数あるのですが、窪んでいる憩室にはどこもかしこも血が溜まっていてどの憩室から出血しているのか確認に手間取ることが一つ。
そして内視鏡ではすべての憩室を目視することが不可能であるためです。
提示した写真の左上に血液の貯留した大腸憩室が写っていますが、この部位は出血源ではないのです。
これまでに私が止血しえた大腸憩室出血は処置に1時間以上かかったものばかりで、半数以上は出血源を突き止められず内視鏡による止血操作をあきらめています。
止血に最も有効な手段はクリップとされていますが、先のDDWという学会において食道静脈瘤結紮術を応用した止血法が報告されていました。
抗血栓・抗凝固療法を受ける方が更に増えていくでしょうが、下血を来す疾患としてこの大腸憩室症は内視鏡医には悩み多き相手であります。

悪性疾患など扱わなかったものもたくさんあるのですが、9回にわたりお届けしました出血をきたす消化器疾患はこれでおしまいとします。

<< 出血をきたす消化器疾患 第8回 >>


虚血性大腸炎
一般の方には「虚血性大腸炎」という病気はなじみがないと思いますが、決して珍しいものではありません。
下血を来す病気で最も多いのは痔疾患ですが、次いで多いのがこの虚血性大腸炎ではないでしょうか。

強い腹痛 ( 主に左側 ) のあとに下痢、次いで下血を認めるというのが典型例。
急激に起こる大腸の血流障害によってこのような症状が出るのです。
原因としては、動脈硬化や血管の攣縮などの血管側の因子と腸管内圧の亢進や腸管蠕動異常などの腸管側の因子が考えられています。

さて、この疾患概念が提唱されたのは1963年と頻度の高さに比べると決して古くはありません。
かつては大腸を精査する手段があまりなかったことも影響していると思いますが、私が学生の頃に使っていた教科書には「動脈硬化や糖尿病などの基礎疾患を有する50歳以上の高齢者に多い。再発は稀。」などとあり、実際そういう認識を持って医者として働き始めました。

ところが、19歳男性でこの疾患に2度も罹ったという患者さんに巡り合うことになり、教科書の記述に疑問を抱くことになりました。
現在では「40~60歳代に多いものの10歳代から高齢者まで幅広く認める。再発率は約10%。」という風に教科書の記述も変わってきています。

たまたま検査の前日に5分程腹痛があったという患者さんの大腸粘膜のごく一部に虚血性大腸炎とそっくりの変化が起こっているのを見たこともあります。
この方の場合下痢や下血はなかったようですが、こういう例まで含めると実際にはかなり頻度が高い疾患なのではないかと思います。

大腸内視鏡を中心に検査が普及し、診断が容易にできるようになって疾患概念も大きく変化した最たるもの、それがこの虚血性大腸炎ではないでしょうか。

<< 出血をきたす消化器疾患 第7回 >>

これまでは上部消化管の疾患を取り上げましたが、これからは下血につながる大腸疾患をみていこうと思います。

で、今回スポットを当てるのは大腸ポリープですが、大腸ポリープからの出血はそれほど頻度の高いものではありません。
ポリープが小さいうちはまず問題なることはありませんけれども、ある程度大きななってくると表面が傷つきやすくなり出血する場合があります。
それでもご自身で気づくほどの下血につながることは多くありません。

ただ、稀なケースとなりますが、大きくなったポリープの一部または全部がポロリと剥がれ落ちてしまうことがあります。
私の経験例では30代の方でかなりの下血があったため、内視鏡検査をしたところ直腸に頂上付近がえぐれているポリープを発見。
これ以外に明らかな大腸病変を認めなかったためポリープの一部が脱落して下血に繋がったと判断しました。

11_10_29また、写真に示したのは下血して時間がある程度経過した例ですが、S状結腸にあったポリープの頂上付近に窪みがあって一番凹んだ部分に白っぽい変化があるのが分かると思います。
この部分も恐らく一部が脱落した跡ではないかと思われます。( 青い矢印 )

胃も含めてポリープが剥がれて脱落する瞬間を捉えることはまず不可能ですから、臨床経過と併せてポリープの形状を観察して推測するに留まりますが、内視鏡検査をするからこそ何が起こったかを知ることができるのです。

  << 出血をきたす消化器疾患 第6回 >>


2011100310151718350.gif主題からは少し話がそれますが、触れておきたいことがあります。
それは鉄欠乏性貧血とピロリ菌の関係についてです。

ヘリコバクター・ピロリは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因になっていることはご存知だと思いますが、特発性血小板減少性紫斑病という血液疾患にも関与していることが示唆されており、昨年からは除菌療法の保険適応疾患に加わっています。

ピロリ菌の感染と鉄欠乏性貧血の関係についてのレポートも相次いでいます。
特に小児や10代の若年者で鉄剤の投与でも治療の難しいケースで、除菌をすることで貧血が改善するという報告が多いように思います。
中には鉄剤を投与せず、除菌するだけで貧血が治ってしまったという例もあります。

感染によりラクトフェリンという物質が胃の中で増えていることとの関連やピロリ菌が鉄を横取りして生きているのではないかということが言われています。
しかし、保菌者が必ずしも貧血になるわけではないので、ピロリ菌による鉄欠乏性貧血についてはまだまだ研究り余地がありそうですね。

  参考 → http://www.kyodo.co.jp/kkservice/byouki/





  << 出血をきたす消化器疾患 第5回 >>


2011091615225431721.gif1980年代初頭までは、胃・十二指腸潰瘍は治療の難しい疾患でした。
出血や繰り返す潰瘍、そして繰り返した結果十二指腸などによって狭窄を来した場合は外科的手術の対象でしたし、胃癌の際に「潰瘍ですから切りましょう」といったウソが通用した時代でもありました。
その後、H2ブロッカーやPPI ( proton pump inhibitor ) といった酸分泌抑制薬の登場やピロリ菌と潰瘍の関連がわかり、胃・十二指腸潰瘍は基本的に薬で治る疾患になりました。

食道静脈瘤同様に昔に比べて減ってきているとはいえ、ひとたび潰瘍から出血すると緊急を要し、内視鏡医の出番が回ってきます。

潰瘍ができると必ず出血するわけではありません。
潰瘍の底にたまたま太めの血管が通っていてそれが破れて出血、というのが典型的なパターンです。
出血源を見つけてそこへ止血操作を施すのが我々の仕事ですが、一筋縄ではいかないのが臨床です。
胃の中が血液だらけで取り除かないと出血部位の特定ができないのに、血液の一部が固まっていて内視鏡の吸引口を詰まらせて作業が立ち往生するというようなことはしょっちゅうです。
出血源を特定したら止血操作。
クリップをかけたり、純エタノールや高張ナトリウム・エピネフリン液を注射したり、焼き固めたりという方法でほとんどの場合は血を止めることができます。

  << 出血をきたす消化器疾患 第4回 >>


肝不全に陥ったり、肝癌へと進展していったりするのと同じくらい、食道や胃の静脈瘤は肝硬変治療の問題点。
ひとたび血が出ると生死に関わる大量の出血をきたすので、内視鏡医が最も緊迫感を強いられる疾患です。

SB.gif食道静脈瘤に対してその昔は、Sengstaken-Blakemore チューブなるものを活用して止血を期待するというのが唯一といっていい治療法でした。
右の写真をご覧下さい。
二つの風船が付いていますが、細長い方を食道部分で膨らまして出血部位を圧迫するわけです。
もう一つの丸い風船は胃の中で膨らませ、位置がずれないように利用します。
この仰々しいチューブを鼻から入れられる患者さんの苦痛も大きく、本当に一時しのぎの処置法に過ぎませんでした。
内視鏡医のいる施設ではこの道具の出番はほとんどないと思います。

EVL2.gifやがて内視鏡下に静脈瘤部分に血管を固めてしまう薬剤を注射する方法が編み出されます。
内視鏡的硬化療法 ( Endoscopic injection sclerotherapy : EIS ) と言い、若干の合併症が懸念されるものの静脈瘤の消失率に優れます。
更に内視鏡的食道静脈瘤結紮術 ( Endoscopic variceal ligation : EVL ) という方法も考案されました。
これは内視鏡下に静脈瘤を輪ゴムで縛ってしまうものです。
左の写真の青いのが静脈瘤を縛りつけた輪ゴムです。
EIS に比べて操作が簡便なので、EVL で手っ取り早く処置してしまうことも多いのですが、将来にわたって根治できる保証がありません。

内視鏡処置以外の方法もあり、昔に比べて選択肢が増えてありがたいことです。
私の親類も昭和の終わりに食道静脈瘤からの出血で亡くなったのですが、あと数年違ったら運命が違っていたことと思います。

しかし、胃・食道静脈瘤に対する処置を行なう機会は随分減ってきました。
原因となるB型やC型肝炎に対する治療が進歩したことや、輸血などの医療行為で肝炎ウイルスに感染することがほぼ無くなり、日本人に多かったウイルス性の肝硬変が減少してきた結果、食道静脈瘤も減っているからです。

  << 出血をきたす消化器疾患 第3回 >>


Mallory_Weiss.gif出血をきたす消化管出血としてまず、Mallory-Weiss ( マロリー・ワイス ) 症候群 ( 以下 MWS ) を取り上げます。
名前だけ聞くと、仰々しく一体どんな疾患かピンとこないと思いますが、嘔吐などで腹腔内圧や食道内圧が上昇することで食道と胃の境界付近の粘膜に裂け目ができて出血するという病態を言います。
最初に Mallory と Weiss によって、飲酒後の嘔吐に引き続き吐血した患者、15例を調べたら食道胃接合部の裂傷が原因だったと報告したので彼らの名前がついているわけです。
発表されたのは1929年。
当時は内視鏡なんかありませんから解剖結果によるレポートになっています。

このシリーズでは、医学知識の変遷についても考察していくつもりですが、この MWS も格好の材料です。
というのも最初が飲酒に絡む論文だったため、私が学生時代に使っていた朝倉書店の内科学、第四版では「大量飲酒後の悪心・嘔吐に引き続いて吐血をきたす疾患である」とあたかも飲酒が引き金であると断定して書いてありますし、検査をして MWS が発見された場合、必ず飲酒をしたかどうかを聞くのが常だったのです。
アルコールで粘膜が脆弱になるんじゃないか、なんて言っていた先輩医師もいたくらいです。

しかし、私が初めて遭遇した MWS はソバを食べて嘔吐した症例でした。
結局飲酒後に限らず、嘔吐を契機に傷が入れば生じる疾患なのです。
これは内視鏡検査が一般化したので容易に診断が下せるようになったことが大きいと考えます。
軽症例もたくさん発見できるようになり、決して珍しい疾患ではないこともわかってきました。
内視鏡検査時に激しくオエオエして、それで MWS を生じることも無きにしもあらずなんです。

ほとんどの場合、放ったらかしておいても自然に治ってしまいますが、まれに止血操作を必要とすることもあります。

写真の解説をしておきますが、右上のものは典型的な飲酒後の嘔吐で生じたもの。
中央が胃の入り口である噴門で、2時の方向にある傷から出血しています。
検査中は左側臥位になるため、反対側 8時の方向に流れた血液が溜まっているんですね。
( 方向の見方については「逆流性食道炎の内視鏡写真」を参照して下さい。)
この症例は特に処置をしませんでしたが自然に治りました。

MW03.gifもう一つ、左の写真はたまたま検診時に発見した傷跡を写したもの。
5時の方向にある白い細長い筋がそれで、治りつつあるところです。
「何日か前に血を吐きませんでしたか ?」
「そういえば、酔って吐いた時、血が混じっていたような・・・」
本人さん、記憶が曖昧でした。
病院に来なくても自然に治ってしまうということですね。

  << 出血をきたす消化器疾患 第2回 >>


2011071219105823694.gif出血をきたす消化管疾患について話を進める前に、貧血について少し触れておきましょう。
消化管出血と貧血は切っても切れない関係にありますので。

貧血はヘモグロビン ( 血色素 ) が少なくなることを言い、赤血球数は問いません。
貧血の際には、やや強めの動作をしたときにたやすく動悸や息切れを感じるようになります。
100m全力疾走した後は心拍数が上がったり息がハーハーしたりしますが、酸素の需要が増したときに少ないヘモグロビンを有効活用して供給しようとするためにそのような症状が容易に出るわけですね。
他には疲れやすいとか頭痛、めまいといった症状あります。

ところが一般の方の中には、立ちくらみのことを貧血という言葉で表現し、医療機関を訪れるケースが結構見受けられます。
立ちくらみは、ヘモグロビンがたっぷり存在していても起こる症状なのです。
「脳貧血」という俗称を医療関係者も使うことも混乱の一因だと思いますが、立ちくらみは「起立性低血圧」、小児ならば「起立性調節障害」等の疾患に該当することが多いと考えられます。

WHOの診断基準ではヘモグロビン値が、成人男性で13g/dl 未満成人女性で 12g/dl 未満を貧血と定義しています。
しかしこの基準を満たせば即治療というものでもありません。
怪我などでの急性出血の場合と緩徐に貧血が進行する場合では同じヘモグロビン値でも症状に差があるので、検査値だけではなく、原因や日常生活上の自覚症状の有無などを鑑みて治療法や治療のタイミングを探っていきます。

さて、臨床上もっともよく見られる貧血は「鉄欠乏性貧血」です。
さまざまな原因で生じますが、消化管からの慢性的な出血も疑っていかなくてはならない病態です。
診断基準は日本鉄バイオサイエンス学会が作成したものがあります。

 ①ヘモグロビン < 12g/dl、②総鉄結合能 ≧ 360μg/dl、③血清フェリチン < 12ng/ml

血清鉄の多寡が含まれていない点は注目ですね。
②③は鉄欠乏性貧血を疑わない限り一般的な採血では調べない項目です。
しかし、①は普通実施しますし、同時に算出され赤血球の大きさをみる平均赤血球容積 ( MCV ) という指標がありますが、これである程度鉄欠乏状態を推測することができます。
MCV は普通 90±10 fl ですが、鉄欠乏性貧血では赤血球が小さくなるので80以下と低値を示すことが多いのです。
鉄欠乏性貧血の場合、ヘモグロビン値が一桁になったところで治療を始めることが基本ですが、原因を明らかにするために一度は消化管も精査する必要があります。

  参考 → http://jbis.sub.jp/fe/04-01/0042.html

  << 出血をきたす消化器疾患 第1回 >>


2011062423524230491.gif吐血や下血などの消化管出血を扱うことは内視鏡医にとって決して珍しいことではありません。
今年だけでも何例か経験し、内視鏡を使っての緊急的な止血操作を行なっています。

1960年代だと胃や十二指腸潰瘍からの出血に対しては手術を行なうことがほとんどだったのですが、薬物の開発とともに内視鏡を用いた止血法が普及するに至り、今や外科の出番は皆無に近い状態です。
ピロリ菌の関わりがわかってきてからは、その対策が確立されたことや感染率の低下などもあって潰瘍そのものの数が減ってきているのですが、止血を目的とした内視鏡処置の出番はまだまだあります。

消化管から出血をきたすのは何も潰瘍だけとは限りません。
毎年何らかのテーマを決めて消化器疾患を取り上げていますが、今回のシリーズでは食道から大腸まで出血や貧血を引き起こす代表的な疾患についていくつか取り上げていこうと思います。


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