野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

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    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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 ジェネリック薬品を考える

<< ジェネリック薬品を考える 第6回 >>


名称未設定-1数回にわたり、我々の使う医薬品の相違について考えてきました。
先発品同士 ( 第2回 )、先発品と後発品 ( 第4回 ) 、後発品同士 ( 第5回 ) ・・・主成分は同じでも全く同じものを作るのは難しいと考えざるを得ません。

また梱包シートの材質が悪く保存性が悪い錠剤とか、同じ量なのに早くなくなってしまう点眼薬 ( 1滴の量に差がある ) とか成分以外のところに問題のあるジェネリック薬品が存在すると聞きます。

私が最も問題にしたいのは、生物学的同等性試験と溶出試験だけで先発品と同等であるというお墨付きを与え、国策としてジェネリック薬品の使用促進を行なおうとする厚労省の姿勢です。
また、院外処方箋の場合、先発品からジェネリック医薬品への変更やメーカーの選択に薬剤師の権限が大きい仕組みも無視できません。

これまで見てきたように、差異があることを前提としてジェネリック薬品を処方したり内服したりする必要があると考えます。
言いたいことはたくさんありますが、米国神経学会がかつて発表したコメントをこのシリーズの締めくくりの言葉とします。
( ただし、私は少ない情報をしっかり把握してジェネリック薬品を積極的に処方していますので、誤解のないように )
「抗てんかん薬のジェネリックへの切替えは、治療する医師と患者の双方がきちんとした知識を備え同意をしなければやってはならない」


 

<< ジェネリック薬品を考える 第5回 >>


我々がよく処方する便秘薬の一つに「酸化マグネシウム」というものがあります。
シリーズ最後はこの酸化マグネシウムの後発品同士を比較してみます。

大腸は食べ物の残りかすから水分を吸収する役割があり、 上行結腸あたりではまだどろどろの内容物も直腸へと進む間に水分含有量が少なくなり便が形作られていきます。
酸化マグネシウムは、大腸が吸い上げようとする水分を抱え込んで離さないようにするので、残渣中の水分が保持され便が硬くならないようにしてくれます。
その結果、踏ん張らなくても排便できるようになるわけです。
これを我々は緩下作用と呼んでいます。

以前は
服用しづらい粉末しかなかった酸化マグネシウムですが、後発品メーカーが工夫して錠剤を発売しています。
代表的なのが「マグミット」と「マグラックス」です。
なぜ錠剤がそれまで無かったかというと、酸化マグネシウムは胃液中の塩酸と反応して塩化マグネシウムに変化する必要があるからです。
( MgO + 2HCl → MgCl2 + H2O )
詳しくは当ブログ「ニガリダイエットの正体」 に書いてありますのでそちらをご覧下さい。

せっかく登場した酸化マグネシウムの錠剤なのですが、両者には大きな違いがあります。
そのことを示した見事な論文がありますのでそちらをご覧下さい。( → 酸中和作用による酸化マグネシウム錠の品質評価
論文中から引用させてもらった写真を見ていただきたいと思います。マグミット
水に溶かした後の粒子の様子です。
「マグミット」( MM ) は細かい粒子になっていますが「マグラックス」( ML ) は粒子径が大きいまま。
塩酸を含む試験液と反応させると速やかにpHが変化するのは前者。
塩化マグネシウムが生成されないと
緩下作用が発揮できないわけですから、「マグミット」を「マグラックス」に変えた途端に便が出づらくなるとか、あるいはその逆のパターンも起こり得るということになります。

知ってか知らずか「マグラックス」のメーカーは後に細粒剤を出してきました。
錠剤の欠点を補いつつ、飲みやすさを追求して新たな剤形を作ってきたメーカーの姿勢には感服いたします。

<< ジェネリック薬品を考える 第4回 >>


喘息発作は明け方に起こることが多く、かつては内服薬や吸入薬を寝る前に使っても薬の効果が明け方まで持続せず、コントロールに苦労する例がありました。
そんな中、1998年に登場したのが「ホクナリンテープ」という貼付剤。
とても工夫がなされていて、気管支拡張作用のある成分が、皮膚に貼ってから4時間ほどしてから吸収され始め、11~13時間ほどで血中濃度がピークに達します。
夜貼ると明け方によく効いてくれるわけです。

ツロブテロール・沢井ところが、各社から数多く出ている後発品「ツロブテロールテープ」の血中濃度の推移は異なります。
それが大きく影響していると思いますが、「ホクナリンテープ」を後発品に変えた途端、喘息発作が増悪したというケースを臨床医が経験することは少なくありません。

今回提示した3社 ( 沢井製薬・ファイザー製薬・久光製薬 ) のグラフをご覧下さい。
多くは1時間ほどして血中濃度が上がり始め、ピークに到達するのもその分早くなっていますし、その後の濃度も高く維持できないのです。 
これは、先発品の徐放技術が特許を持っているためで、後発品メーカーなりに工夫はしているのでしょうが、同じような製品が作れないのです。
ファイザーのものはかなり先発品に近いですが、2時間値が省略されているのはなぜでしょうか。
それにマルホのホクナリンテープの添付文書と比較するとファイザーのグラフの標準製剤の濃度の数値は明らかに低いですね。
( 久光製薬のグラフは2mg製剤ではなく0.5mg製剤の比較ですのでご注意下さい。)

ツロブテロール・ファイザー問題は、これだけ血中濃度の推移が大きく異なる後発品に対し、厚生労働省が先発品と同等であるというお墨付きを与えていることです。
最大血中濃度と血中濃度曲線下面積に大差がなければOKなのです。
米国だと先発品との二重盲検比較試験を行って安全性・有効性の同等性を示さなければ認可されないのですが、治験を行う必要のない日本はこのあたりがとてもいい加減と言えます。

インスリン製剤は、血中濃度の立ち上がりや作用持続時間によって複数に分類されていて、我々は使い分けをしているのですが、それと同様、私は「ホクナリンテープ」と「ツロブテロールテープ」は別物として使い分けています。
ツロブテロール・久光 先発品でコントロールできている人は基本的に後発品に変更しません。
後発品の「ツロブテロールテープ」も各社バラバラの血中動態ですので、その特性を把握した上で、初めて処方する場合には、入浴や就寝時間と発作のよく起きる時間を聴取してその患者さんに合うと思われるものを選択しています。
ただ、血中濃度ばかり気にしていてもダメで、中には剥がれやすい製品もあり注意を要します。

ジェネリック医薬品が先発品と必ずしも同等と言いきれないし、ジェネリック間でもかなり異なるのだと理解して頂けたのではないでしょうか。
特にこの「ホクナリンテープ」「ツロブテロール」は、調剤薬局において薬剤師の判断で勝手に変えられてしまうと本当に困ってしまう薬剤の一つです。 

<< ジェネリック薬品を考える 第3回 >>


前回はノルバスクとアムロジンが微妙に違う ( のではないか ) という話をしましたが、それに関連してちょっと補足です。

日本には、一つの薬剤を複数の企業が異なる名称で売るという独特の商習慣があります。
これを「一物二名称」と呼んでいます。
主なものを表にしてみましたが、その多さに改めてびっくりしました。 
ノルバスクとアムロジンのように全く別工場で作られているものもあれば、同じ工場で製造して刻印とパッケージを別にしているだけというものもあります。

薬の一物二名称併売することによって販路が拡大するとか、自社の商品ラインナップが充実するとか、売る側にはメリットがあるかも知れません。
しかし、処方する我々や薬局、実際に服用する患者さんにはほとんど意味がありません。
これらの名称をしっかり頭にたたき込んで、同じ薬剤であることを認識しておかなければならない我々も相当苦労します。

この一物二名称について厚労省は、「別会社が別に承認をとって販売するもので保険衛生上の問題があるとは考えにくい。メーカーが競うことで情報提供が充実することや、競争原理が働き市場実勢価格が下がれば薬剤費の適正化にも繋がるなどの利点がある」といった内容の見解を示し、日本独特の習わしを改めさせようという意志が全く見られないのです。
厚労省が態度を改めないのなら、製薬会社側が申請時に異なる名称を用いないよう配慮してもらうしかありません。
実際、同一名称で併売している薬品 (エディロール・リピートール等) もいくらでもあるのですから。

一方、いわゆるジェネリック医薬品に関してですが、最近は独自の商品名が認められずに一般名を用いる方向にあります。
ここ2、3年で発売されたものは当然のこと、古くから発売されオリジナルの名称も定着していたジェネリック医薬品も、無味乾燥な一般名への変換が徐々に促されています。
これは厚労省の指導によるものなのですが、先発品に限って独自の商品名が付けられる特権があるわけですね。

厄介な一物二名称ですが、ちょっとした使い道もあります。
当院では「ノルバスク」は5mg、「アムロジン」は2.5mgの剤形を採用することで、処方時の用量ミスを回避するという形をとっているのです。
この点は、院内処方の強みですね。


( 追記 2018.5.22 ) ジェネリック医薬品を採用した現在では、5mgも2.5mgも「アムロジピン」になってしまいました。 

<< ジェネリック薬品を考える 第2回 >>


ノルバスクとアムロジンまず手始めに先発品同士を比較します。

取り上げるのは「ノルバスク」と「アムロジン」です。
最もよく使われているカルシウム拮抗剤と呼ばれるタイプの降圧剤で、ご存知の方も多いでしょう。
いずれもアムロジピンベシル酸塩を主成分としたもので、前者はファイザー製薬が、後者は大日本住友製薬が製造販売しています。
大日本住友がファイザーから製造に絡む一切のライセンス供与を受けているはずなので添加物まで含めて全く同一。
ですから「アムロジン」は「ノルバスク」との同等性を示す試験を実施しておらず、両者の添付資料のデータは全く同じになっています。
この点がジェネリック医薬品と大きく異なるところです。
ちなみに右側の写真、上が「ノルバスク 5mg」下が「アムロジン 5mg」です。

ところが、です。
( ここから先に書く内容については、あくまで伝聞で確たる証拠はありませんが、信頼性の高い情報ソースから得たものであることをお断りしておきます。)
実は、最高血中濃度到達時間 ( Tmax ) が両者間で1時間ほどずれていて、その違いを利用して「ノルバスク」と「アムロジン」を使い分けている医師もいるというのです。

この情報が本当だとしたら、なぜこのようなことが起こるのか。
ここからは勝手な推測になります。
「ノルバスク」と「アムロジン」は別々の工場で作られているのですが、そのせいなのか「アムロジン」の錠剤の方が硬いという五感で分かる相違があります。
添加物や製造のノウハウまで全く同じように作っているはずなのに、成分の調達先が違うとか、製造ラインでの温度・湿度が違うとか微妙に異なるのでしょうね。
複数の人が、同じ食材・同じ調理器具を使ってレシピ通りに料理しても全く同じものができない。
そんな例えをしてもいいものなのかわかりませんが、先発品といえども微妙な違いが出てくるようですね。

なお、水無しで飲める口腔内溶崩錠として「ノルバスクOD」「アムロジンOD」がありますが、こちらは同じ工場で作られ、刻印とパッケージが異なるだけ。
大日本住友製薬が独自の技術で開発した「アムロジンOD」をファイザー製薬側が「ノルバスクOD」のブランドで売らせてくれ、と言ってきたようです。
複雑です。

なお、下の図はノルバスクの添付文書にあるグラフ。
アムロジンでも全く同じものが使われているのですが、 通常の錠剤と口腔内溶崩錠の比較しか掲載されていません。


ノルバスク

<< ジェネリック薬品を考える 第1回 >>


薬ジェネリック薬品という言葉、盛んにテレビなどでも流れていますので、皆さんお馴染みになってきたと思います。

改めて説明するまでもないでしょうが、先発品と比べて薬価が低く患者さんの自己負担や国民医療費を抑えることができるため、普及が促されています。
先日は厚生労働省が2017年度末にはシェアを60%以上に引き上げる目標を掲げました。
反面、医療関係者にはその品質に疑問を抱く人が多くて普及を阻んでいるとも言われています。
厚生労働省が治療学的に先発品と同等であるとお墨付きを与えていても、です。
実際のところどうなのでしょうか。
安いことは諸手を挙げて歓迎すべきことなのか、安いなりの品質なのか。

このシリーズでは 先発品同士・先発品とジェネリック薬品・ジェネリック薬品同士 の3つのパターンで具体的な医薬品を提示して検討してみたいと思います。
ほんの一部のケースでの考察なので、それを一般論にしようとは思いませんのであしからず。

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