うがい液8月4日に、吉村大阪府知事がポビドンヨード ( イソジン ) でのうがいで唾液中の新型コロナウイルスが減少することを記者会見で発表し、各方面から大きな批判を受けています。

批判の主な中身は次のようなものです。
・発表の根拠となった研究は症例数が少ないこと
・口の中だけウイルスがいなくなるとPCR検査で陽性と出なくなる可能性がある
・ヨードアレルギーの人に使えない
・長期使用で甲状腺機能低下症を招いたり、妊婦・授乳婦には使いにくいこと


大阪はびきの医療センターが発表した内容の最大の問題点は、ポビドンヨードうがいの比較対象が、うがいをしていない人だったこと。
これは、水でうがいをした人と比較すべきだったと思います。
うがいという行為そのものでも、口腔内から新型コロナウイルスが消える可能性があるかも知れませんからね。

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うがいするカエルヨード系のうがい薬を使っても風邪の予防効果がないと発表があったのはもう15年前のこと。
( Satomura K. Am J Prev Med. 2005;29:302-7 )  ( 参考 → うがい )
しかし、このことを知らない医療関係者が未だに多いことにはがっかりします。

細菌やウイルスに対する殺菌・殺ウイルス作用は確かにしっかりあるのに、このような結果になるのは、組織傷害性があるからだと考えられています。
傷口から出てくる滲出液の中には、白血球・免疫グロブリンや細胞を増やして傷の修復を進める細胞成長因子などが含まれています。
その白血球や細胞成長因子がポビドンヨードによってダメージを受けてしまうのです。( 参考 → 傷は消毒しない ( 湿潤療法 ) )

そういう研究報告を踏まえ、当院でポビドンヨードうがい薬を採用しなくなって久しくなりますし、「無意味なヨード系うがい薬」を当ブログで書いたのは2013年のことでした。

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 さて、今回はポビドンヨードが手術の際の消毒薬としてネガティブな結果発表が相次いでいることに注目してみたいと思います。


カテーテル米国疾病予防管理センター ( CDC ) は2011年にカテーテル関連感染予防ガイドラインを発表しています。
様々なデータを基に、中心静脈・末梢動脈カテーテル挿入前の消毒薬として0.5%以上のクロルヘキシジンアルコール ( ヒビテン ) を第一選択とするよう推奨しています。( → 参考 )

CDCの発表以降になりますが、2015年にランセットに掲載された論文がクリアカットなので見てみましょう。( → こちら )
カテーテル検査時の術野の皮膚消毒で、クロルヘキシジンとポビドンヨードで比較検討しているのですが、術後感染が少なかったのはクロルヘキシジンです。
カテーテル関連感染で6.3倍・カテーテル関連血流感染で4.7倍・カテーテルへの菌の付着は5.6倍、クロルヘキシジンに比べてポビドンヨードの方で高かったのです。


手術2017年に発表された論文では、子宮摘出時において同じようにクロルヘキシジンとポビドンヨードによる術野消毒を比較していますが、やはりクロルヘキシジンに軍配が上がっています。 ( → こちら
術後感染は、クロルヘキシジンで消毒した場合は1.5%であったのに対し、ポビドンヨードの場合は4.7%だったという報告です。

 本年6月には、消化器外科領域の手術の際に、ポビドンヨードと日本で開発された新しい消毒薬オラネキシジン ( オラネジン ) による術野消毒の比較検討した研究発表が慶應大学からありました。 ( → こちら )
オラネキシジン使用群で、ポビドンヨード使用群よりも術後感染発生率が半減いています。


このように、ポビドンヨードを術野の消毒に使った場合、他の消毒薬に対して全く優位性がないのです。
研究報告に基づいてより良い消毒薬を使っていけば、術後感染が減少し医療費抑制にも繋がっていくはずです。
日本の外科手術では当たり前のようにポビドンヨードが使われていますし、中心静脈栄養の穿刺キットにポビドンヨードが同梱されてたりしますが、そろそろ改めていく時期にさしかかっています。

個人的には、ポビドンヨードは将来的に医療現場から駆逐されていくものと思っています。