野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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ピロリ菌

yoguruto.gif昨年までは経鼻内視鏡を始めとして消化器病関係の記事を盛んに書いていたのですが、今年は「宿便について考える」という連載以外はほとんど書いていませんでたね。
ちょっと鮮度が落ちるのですが、ピロリ菌の話題について。

時々、ピロリ菌にいいとされる LG-21 という乳酸菌が入ったヨーグルトを食べている方に遭遇します。
この乳酸菌に絡んだ話題を。
内視鏡検査などを通してピロリ菌が陽性であるとわかれれば、三種類の薬を組み合わせて除菌療法を行ないますが、これで完全に除菌ができないケースもあります。
多くの場合、薬のうちの一つであるクラリスロマイシン ( CAM ) にピロリ菌が耐性を持っていることが原因として挙げられます。
さて、この除菌療法を始める 3週間前から LG-21 入りヨーグルトを食べてもらって除菌療法を行なうと、CAM 耐性のピロリ菌を保有している場合でも 54.5 % の除菌率が得られたとする報告が 5月末にありました。
ピロリ菌がこの乳酸菌によって弱ることで除菌率を高める可能性があるようです。
ただし、ヨーグルトだけではピロリ菌は減るものの完全な除菌は無理ですのでご注意を。


余談ですが・・・。
ピロリ菌の除菌療法が日本でも認可されて間もない頃、胃潰瘍を繰り返していた糖尿病の患者さんに除菌を行なったところ、ピロリ菌が消えてその後全く潰瘍が出来なくなりました。
「最近は食事がおいしくて。本当に有り難うございました。」
その患者さんにはとても感謝していただきましたが、食欲が出てきたのが仇となって糖尿病がみるみる悪化。
教育入院と相成りました。

broccoli.gif〖 医療情報 Pick Up おさらい 16 〗


4月に左のお知らせのカラムでお届けした「医療情報 Pick Up」 の情報は以下の通り、3点でした。


・メタボの人は/そうでない人より/食塩摂取による/血圧上昇リスクが/3倍以上 (Lancet 373:829 - 835, 2009)

・ブロッコリーの摂取で/ピロリ菌が減少/胃潰瘍や胃癌の/予防ができる可能性 (Cancer Prev Res 2009 2: 353-360)

・熱いお茶の摂取で/食道癌のリスクが上昇/イラン北部の調査で (BMJ. 2009 Mar 26;338:b929)


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食べものに関する話題が続きました。

高血圧の方には申し訳ないのですが、私自身は食塩を多く摂っても血圧が上がりません。

また、ピロリ菌はいないのですがブロッコリーは食道癌、前立腺癌、肺癌などの予防効果もあるとされているため、よく食べています。( 塩で食べることも )

お茶は、食道には悪いと知りつつも熱いのが大好きです。
日本では奈良の茶がゆがが食道癌のリスクの一つとして古くから知られていました。



         □ 関連記事  医療情報Pick Up  15


2009042620190414222.gif今月20日の地元新聞の「論点」という欄ににピロリ菌に関する話が載っていました。
書いたのは藤田紘一郎先生で、著書の一つをこのブログで取り上げたとこがあります。
主に寄生虫学を専門とする先生で、寄生虫や細菌と人間との共生のメリットを伝導していることで有名な先生です。

ただ今回の「ピロリ菌とストレス社会」と銘打った論説は、看過できない間違いの多い内容です。
ほぼ同じ内容で日本経済新聞の4月5日のコラムにも書かれているようですが、著名な先生の文章ゆえ、一般の方が誤解されては困ります。
書かれた文章のどのような点が問題なのかをいくつか指摘しておきます。


●「漱石の胃壁にはピロリ菌がすみ着いていたことは間違いない」
夏目漱石の遺体は東大で解剖されたため標本が残っており、ピロリ菌がいたのは確認済みのことです。

●「昔の日本人はほぼ100%ピロリ菌に感染していたのに、現在ほど騒がれなかったのはなぜだろうか」
今よりも感染率は高かったと思いますが、ほぼ100%感染していたというデータを私は知りません。
ピロリ菌が発見されたのは1982年 (論文として公表されたのは1983年) で、そこから胃の様々な疾患を引き起こすことがわかってきたのは最近になってからであり、昔は騒がれていなかったのは当然ではないでしょうか。

●「ストレスが絶えず胃に加わり、胃壁が荒れてくると、ピロリ菌が悪さを始め」
ストレスがなくても、ピロリ菌に感染するだけで胃炎が引き起こされる現象は最初に発見したマーシャル博士が自らの体をもって証明しています。

●「ピロリ菌は胃粘膜を軟らかくし、胃酸が食道に逆流するのを防ぐ」
胃粘膜が軟らかくなるというのは一体どういう事でしょうか ?
理解に苦しみます。
胃酸の食道への逆流は物理的なことであり、ピロリ菌がいてもいなくても起こる現象です。

●「ストレスがなく、胃の症状が全く無い人からピロリ菌を完全に除去すると、かえって弊害が出てくることになる」
ピロリ感染者のうちおよそ4%は胃がんを発症するされ、人類の胃からピロリ菌がいなくなれば胃がんは90%以上減少すると言われています。
ピロリ菌がいなければ夏目漱石は胃潰瘍で命を落とすことなく、もっと多くの名作を世に出していたのではないでしょうか。

●「ピロリ菌は胃によいことをしていたということだ」
数多くの研究報告から、ピロリ菌が胃によいことをしているなんて消化器医は誰も考えていません。
ピロリ菌が感染していて何一ついいことはありません。
弊害が余りにも大き過ぎます。

●「これまで高齢者にしかみられなかった食道裂孔ヘルニアに二十代、三十代の若者がかなりの割合で罹患している」
昔でも若い人に食道裂孔ヘルニアはあったし、ピロリ菌がいないことが理由でヘルニアが増えたわけではありません。
肥満者の増加など、別の要因でも食道裂孔ヘルニアが増えているのです。

●「ピロリ菌を完全に除去してしまうと、逆に胃が不健康になり、収縮しなくなる。そうすると胃は胃酸をどんどん出すようになって・・・」
ピロリ菌の存在によって、胃が不健康になり、本来出るべき胃酸が十分に出なくなっているのです。
ピロリ菌を除菌すると、胃が健康を取り戻し、胃酸の分泌や胃の動きが正常化するのです。
収縮しなくなるって一体何のことなのかさっぱりわかりません。


指摘しておきたい部分まだまだあるのですが、ピロリ菌と人間とは決して「共生」関係でないことは十分に理解しておいてください。
同じように、我が先輩も日記の中で反論していますのでご参考に。(こてる先生の日記!)

♦♦♦♦♦


藤田先生が寄生虫の研究の道に足を踏み入れたのは、学生時代に奄美群島の風土病の調査団に参加してフィラリア症を目の当たりにしたからだそうです。
鹿児島とも無縁ではないのですね。
その分野でのお話は今後も楽しみにしています。

5f9d2xnu.gif「ムカムカする」「胃が重い」「胃がもたれる」「酸っぱいものが上がってくる」・・・。
胸やけとは具体的にどのような症状を言うのかを患者さんに聞くと、実は胃のもたれや吐き気、腹部膨満感などを表現していることもあるため、真の胸やけ症状であるかどうかを判別するのも医師の問診上の大切なポイントとなります。
このことは先日紹介した本にも記載されています。

先週参加した講演会では、この点について面白い話がありました。

それは、胸やけについて看護師や医学部の学生にもアンケートをとったところ、消化器医との間に認識の開きがあるというものでした。
胸やけを起こす代表的な疾患である胃食道逆流症 (逆流性食道炎)の病態から考えて、胸やけとはこのような症状だろうと医師の間では概ね共通した概念を持っているのですが、医療現場にいる人たちとの間にもズレがあるというのは大変興味深い話でした。

また今月上旬に新聞にも載った胃癌の内視鏡的術後の除菌についても話がありました。
早期胃癌を内視鏡で治療した後にピロリ菌の除菌をする群としない群に分け、3年間経過をみたものです。
除菌した群で癌の再発が4%にみられたのに対し除菌しない群ではその3倍の12%に達したということでした。
除菌しても再発があるのは、ピロリ菌感染で既に癌が生じた人を対象としており胃粘膜の状態が相当悪いからだと考えられます。
除菌しても 5年くらいは年に 1回の内視鏡で経過をみていくことが望ましいだろうという意見で、これは日常の診療に大いに参考にすべきものでした。


6dpozmr7.gif5月 8日、野口内科 BLOGへのアクセス数が、5万件に達しました。
ちょうど1年で 4万のアクセスあったことになります。
日々のアクセス、心より感謝申し上げます。


ちなみにブログ別のランキングは

 ★ 1位 計算式 (医療に関する雑学)
 ★ 2位 ピロリ菌の二次除菌 (薬・注射の話)
 ★ 3位 腰痛・下肢痛のための靴選びガイド (診療所ライブラリー)
 ★ 4位 便潜血反応検査 (大腸がん)
 ★ 5位 傷は舐めるに限る (傷の治し方)

1位はそれ以下をダブルスコア以上突き放してのダントツ。
大したことは書いていないのですが、あるキーワードで検索するとこのページがかなり上位でヒットするためでしょう。
eGFRの計算式は新しいものが早くも作られ 6月からはそちらが使われるようになりますので注意が必要です。
3位は 1年以上もの間ランキング上位を維持しています。

相変わらずほぼ 3日に一度のペースで記事の更新をしておりますが、これらを参考にしてより一層皆さんのお役に立つ情報を発信していこうと思います。
今後ともよろしくお願い申し上げます。


         □ 関連記事  御礼御礼 その2


cx64gquc.gif先月、記事にしたばかりでしたが、
8月23日、ヘリコバクター・ピロリの二次除菌療法としてメトロニダゾールを含めた三剤併用療法の保険適用が承認されました。


あくまでも、これまでの治療法で除菌がうまくいかなかった例に対してのみ使える次なる手段として認められたものです。
日本ではこれまでメトロニダゾールがトリコモナス症という病気にしか使われなかったため、この薬剤に対するピロリの耐性菌がかなり少ないようですので、除菌率の上昇が期待できます。

前の記事にも書いた通り、あとは除菌療法の適応拡大が課題となります。
この点については来年春の消化器病学会でもテーマとして取り上げられる予定です。


ayuzqq2s.gif先日参加した講演会で貴重な情報を得ることができました。
メトロニダゾールを用いたピロリ菌の二次除菌療法にこの秋にも保険が適用されそうだということです。

日本で2002年に認可された除菌療法は、特定の抗潰瘍薬に特定の抗生物質 2種類がキットになったもだけだったのです。除菌率は年々落ちてきていましたし、
除菌に失敗した時の選択肢が与えられていないといういびつな状態でした。
今年早々に別の抗潰瘍薬を組み合わすことがようやく認められ、診療の幅が広がったばかりでしたが、
二次除菌療法も正式に認められるとなるとこれは朗報です。

後は、ピロリ菌に感染していても潰瘍が無ければ治療対象とならないことが課題として残ります。
潰瘍の無い場合にもピロリ菌が除菌可能となれば、世界と同じレベルの医療ができることになります。


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