<< 胃食道逆流症 第6回 >>


GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。

余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。