野口内科 BLOG

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シメチジン

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第二回 〕


♦♦♦ シメチジンは服用が面倒 ♦♦♦

前回の「シメチジン、面白い作用を持っているけど」でも書きましたが、胃・十二指腸潰瘍が内服薬で治療できるようになったという点で、シメチジンはとても画期的でした。
しかし、シメチジンには厄介な点がいくつかあります。
今回はその話です。

内服まず、第一点。
半減期が短いため、基本的に1日4回服用 ( 毎食後 + 就寝前 ) しなくてはならないのです。
1日2回の服用法もありますが、記憶が間違っていなければ、私が医師になった頃には1日4回の内服法しかなかったと思います。 
私の消化器内視鏡の師匠は「薬で治るようになったとはいえ、潰瘍は侮れない疾患。薬を1日4回も飲まなきゃいけない病気なんだと認識してもらうためにも、シメチジンを使う」と言ってました。
でも、現実には面倒臭がってシメチジンの服用を遵守する人なんてほとんどいません。
H2ブロッカーを服用して数日もすると痛みが落ち着いてしまうため、治ったと勘違いして1日4回もの煩わしい内服を中断してしまうのです。
でも、潰瘍の傷をきれいに治すためには、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間内服を続ける必要があります。( それでもピロリ菌の除菌療法が登場するまでは、再発を繰り返すケースが多かったですけど。)
私が医師になった時には、シメチジン以外にもラニチジンロキサチジンファモチジンというH2ブロッカーが存在していました。
そのいずれにも1日1回の内服法があり、きっちり最後まで服用してくれる人は多かったです。


♦♦♦ シメチジン、副作用が半端ない ♦♦♦

次に、シメチジンの持つ様々な副作用をみていきます。

まず、私が経験したシメチジンによる深刻な副作用を紹介します。
それは骨髄抑制です。 
骨髄の血液を造る細胞の働きが抑えられて、白血球・赤血球・血小板の3つの血液成分が造れなくなってしまうことを骨髄抑制と言います。
研修医として駆け出しの頃、重症の全身性エリテマトーデス ( SLE ) の患者さんにシメチジンの注射剤を使い始めたら、白血球・赤血球・血小板が急激に減少したのです。
シメチジンを中止後、感染症や出血傾向をきたすことなく骨髄抑制が改善して事無きを得ましたが、SLEのような自己免疫疾患では骨髄抑制を起こすリスクが高いようですね。
骨髄抑制・顆粒球減少 ( 白血球減少 )・血小板減少などの報告は、ファモチジンやラニチジンなど他のH2ブロッカーでもありますが、シメチジンによるものが多数を占めています。

この経験でシメチジンにはいい印象を持たなくなりましたが、他にも厄介な副作用がありますので、次の項目以降でみてみましょう。


♦♦♦ シメチジン、高齢者には大敵 ♦♦♦

2015年に日本老年医学会から「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が発表されました。
その中にある「75歳以上の高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物リスト」に、H2ブロッカーが含まれています。
認知機能の低下せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」との記載があります。

中枢神経前回も述べたように、H2ブロッカーはヒスタミンの働きを邪魔しますが、ヒスタミンは中枢神経において、覚醒状態の維持や記憶学習能に大事な役割を持っています。
ヒスタミン受容体を遮断すると、意識障害やせん妄などの病態をきたす可能性があるわけです。
また、抗ヒスタミン作用を持つ薬は、抗コリン作用も併せ持っています。
中枢神経でアセチルコリンは、レム睡眠の維持や覚醒、注意、記憶機能と密接な関係があり、抗コリン薬も認知機能の低下やせん妄のリスクになるのです。
H2ブロッカーは、抗ヒスタミン作用と抗コリン作用という脳にはあまり好ましくない働きを持っているわけです。

様々な薬剤が抗コリン作用を持っていますが、その程度には差があります。
それをまとめたものに「抗コリン作用リスクスケール」というのがあり、抗コリン作用の強さによって薬を3段階に分けています。( 下の表はクリックで拡大します )
抗コリン作用リスクスケール

このスケールでは、シメチジンは2点 ( strong ) に分類されています。
シメチジンはH2ブロッカーの中で最も中枢神経系へ移行しやすいとされており、せん妄などの報告も多数あります。
高齢になると腎機能が衰えてきますので、薬の血中濃度が上昇してさらにリスクが高くなります。
H2ブロッカーは他にもありますので、点数の高いシメチジンをあえて選択する理由はないと思います。

( 抗コリン作用についてはこちらもご参考に → 抗コリン作用って ?


♦♦♦ シメチジン、やたらと多い薬物相互作用 ♦♦♦

シメチジンは他の薬物との相互作用がやたらと多いのです。
薬の代謝に重要な役割を果たすものの一つとしてチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があり、主に肝臓で全薬物代謝の8~9割に関わっています。
CYPには多くの種類がありますが、イミダゾール環という構造を持つシメチジンはありとあらゆるCYPの働きを阻害します。
特にCYP3A4CYP2D6に対して強い阻害作用があります。
CYP3A4は薬物の生体内変換の約半分を担い、それに次ぐ活性を持つのがCYP2D6。
この二つを強力に抑えるとわけですから、かなり多くの薬との相性が悪いということになります。

それから、腎臓の尿細管には、異物を尿に排泄するときに活躍する MATE ( multidrug and toxin extrusion ) と呼ばれる輸送体がありますが、シメチジンはこの働きも阻害してしまいます。

肝臓でも腎臓でも、薬の代謝を邪魔してばかりのシメチジン。
複数の薬剤を併用している方に、この薬を選ぶ勇気は私にはありません。

( CYP2D6に関しては、こちらもご参考に → CYP2D6からPL顆粒を考える その2


♦♦♦ シメチジン、普段アルコールに強い人も悪酔い ♦♦♦

酔っ払いシメチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があります。
つまり、お酒に強い人が飲酒前にシメチジンを飲んでしまうと、アルコールの代謝が落ちてしまうので、普段と違って悪酔いしてしまうのです。
これはラニチジンやニザチジンにもある作用なのですが、シメチジンには先に述べたように幅広いCYP阻害作用も有している点が大問題。
というのも、アルコールはCYP2E1やCYP1A2、CYP3A4などの酵素でも代謝を受けるからです。
シメチジンはアルコールの代謝をとことん邪魔してしまうってことなんです。
シメチジン服用者はアルコール依存性になりやすいというネットの情報もあります。
その真偽のほどはわかりませんが、シメチジンとアルコール、絶対に避けたい組み合わせです。

( ADH についてはこちらもご参考に → お酒に弱い人は進化系 !? )


♦♦♦ シメチジン、他にもあるある副作用 ♦♦♦

シメチジンの他の主な副作用については箇条書きにまとめてみますね。

薬剤性パーキンソニズム ( シメチジンの他にファモチジンでも報告あり )
高血糖高浸透圧昏睡 ( 高齢の糖尿病患者さんでは要注意 )
抗アンドロゲン作用エストラジオール代謝阻害作用 ( 女性化乳房などを起こす )
クレアチニン排泄の抑制

H2ブロッカーは、腎機能が悪くなると減量や中止を考慮しなくてはならないのですが、腎毒性がないのに血中のクレアチニン値を上げてしまっては、正しく腎機能を推測することが出来ません。


♦♦♦ シメチジン、こんな使われ方もあるけれど ♦♦♦

前回は、シメチジンのがんに対する作用を掘り下げてみました。
他にも、帯状疱疹水いぼPFAPA症候群 ( periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis syndrome )、急性間欠性ポルフィリン症ニキビ男性型脱毛偽痛風などへの応用で効果があったとする報告もあります。( 参考 → 肩の痛みに・・・ )

斬新な手法で開発され、胃・十二指腸潰瘍の治療を大きく進歩させ、ノーベル賞を得るに至った発明品は、良くも悪くもいろんな作用があるようです。
たとえ本来の働き以外にメリットがあるとしても、様々な深刻な副作用があり、多くの薬と相性が悪いシメチジン・・。
私が週刊文春の記事に驚いた訳がご理解いただけたものと思います。


さて、次回は私がよく使っているH2ブロッカーのうちの一つ、ニザチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第一回 〕


♦♦♦ シメチジンを推す ? ♦♦♦

「えっ? 何を今さらシメチジン !?」
記事を読みながら、思わす声を上げそうになりました。

週刊文春読んだのは、週刊文春2018年6月7日号の「ベテラン医師が薦める 安くて効く薬」という特集。
古くて安価であっても非常に有用性の高い薬を取り上げた内容で、私も概ね好意的に読んでいたのです。
しかし、途中に次のようなくだりがありました。

『長尾医師がすすめるのは「H2ブロッカー」という種類の消化性潰瘍治療薬だ。(中略) 「強力な胃酸分泌抑制作用を持つPPIが登場して、穏やかな効き目のH2ブロッカーは医療現場から駆逐されて行きました。しかし、軽い消化性潰瘍であればH2ブロッカーで程よく効きます。それにシメチジンは免疫力を上げ、胃がんや大腸がんに対して延命効果があるという報告もあります」』

H2ブロッカー ( 正式にはヒスタミンH2受容体拮抗薬と言いますが、このシリーズではH2ブロッカーの通称を使いますね ) と呼ばれる種類の胃薬は、PPI ( Proton Pump Inhibitor ) が主流となった現在でも私はよく処方します。
しかし、H2ブロッカーの中でもシメチジンは使いません。
記事中にあるように、ある種のがんに対して延命効果があるという報告はずいぶん昔から知られています。
だけど、使いません。


今回と次回で、その理由を明かしていくとともに、三回目以降では、私がよく使っているH2ブロッカー2種類 ( ニザチジンラフチジン ) について解説していきたいと思います。


♦♦♦ シメチジンの歴史 ♦♦♦

日本では1982年に登場したシメチジンという薬は、医療関係者には大きなインパクトを与えました。
胃・十二指腸潰瘍がこの薬で治ってしまうからです。
それまで、消化性潰瘍って外科の手術対象でした。
胃がんなどの場合、かつては患者に告知しないまま手術をしてしまうケースがほとんどで、治療に当たって「潰瘍だから胃を切りましょう」という方便に使われていたくらいです。
H2ブロッカーの登場によって潰瘍の手術が激減し、そんなウソもつけなくなってきました。

胃・十二指腸潰瘍の成因には胃酸が絡んでおり、その胃酸の分泌にヒスタミンという物質が関与していることがわかっていました。
ヒスタミンを抑えれば胃酸の分泌が落ち、その結果潰瘍ができにくくなるのではないか、と誰もが考えます。
しかし、シメチジン登場以前のヒスタミンを抑える薬を飲んでも胃酸分泌に変化はなかったのです。

シメチジンシメチジンを開発した
ジェームス・ブラックという人は、ヒスタミンの受容体が2種類 ( H1、H2 ) あることを突き止めます ( 現在では4種類が知られています ) 。
既存の抗ヒスタミン薬はH1受容体の働きを抑えるのに対し、胃酸分泌にはH2受容体が関与していることが分かり、試行錯誤の末、1972年にH2受容体に拮抗するシメチジンの開発にたどり着きました。
ブラックは、プロプラノロールという降圧剤も開発しています。
β遮断薬と呼ばれ、交感神経のβ受容体にノルアドレナリンという物質が結合するのを妨げて、心臓の収縮力と心拍数を抑えて血圧を下げる薬です。
ターゲットとする分子を特定して疾患治療薬を創り出す手法に対し、1988年にノーベル医学生理学賞が授与されています。

私が医学部に入った時には、既にシメチジンが存在していましたし、医者になった時には、H2ブロッカーは4種類 ( シメチジンラニチジンロキサチジンファモチジン ) に増えていて、シメチジンを超える作用を持ち投与法も簡便なラニチジンやファモチジンが主流になりつつありました。
( ちなみに、タガメット・ザンタック・アルタット・ガスターという商品名です。) 
H2ブロッカー上市以前、胃・十二指腸潰瘍の治療に苦慮していた先輩方の中には、シメチジン登場のインパクトとその果たした役割に敬意を表して使い続けている人も多かったように思います。


♦♦♦ シメチジンのがんに対する作用 ♦♦♦

胃薬であるはずのシメチジンに、思いも寄らぬ効果を示した報告が1988年にデンマークからありました。
胃それは、胃がんに対する延命効果。( → こちら )
胃がんの手術後にシメチジンを1日800mg投与した群とプラセボ投与群で、1年後の生存率がそれぞれ45%と23%だったというもの。
5年生存率まで調べているので、シメチジンが発売後かなり早い段階からデータを取っていたようですね ( 英国では1976年に発売されています ) 

その後、他のがんでも延命効果があることがいくつか報告され、そのメカニズムを探る研究も始まります。

これまでにわかっていることをいくつかピックアップしてみますと、
 
● 腫瘍の増大が抑制される ( 腫瘍組織内でヒスタミン合成が増えているが、シメチジン投与で腫瘍が大きくならない 
 : Takahashi K, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2001 and 2002 )

● がんの転移を抑制する ( 血管内皮のE-セレクチンの発現をシメチジンが抑制。腫瘍細胞はE-セレクチンを手がかりに転移
 : Kobayashi K, et al., Cancer Res. 2000 Jul 15;60(14):3978-84. )

● 血管内皮細胞の管腔形成を阻害 ( 腫瘍が大きくなるのに血流が必要だが、シメチジンは腫瘍血管の新生を阻害 : Biomed Pharmacother. 59(1-2):56-60. 2005 )

● 大腸がん細胞株でのアポトーシスの誘導作用 ( アポトーシスとは平たく言うと細胞の自然死 : Dig Dis Sci. 49(10):1634-40.2004 )

といったものがあります。
良さそうな効果ばかりが並んでいますよね。

こういう報告を受けてなのでしょうが、シメチジンの他にCOX-2阻害薬 ( 解熱鎮痛薬 )・ARB ( 降圧薬 ) といった、がん治療には無関係な薬剤を組合せて、進行性腎がんや去勢抵抗性前立腺がんの治療にトライしている施設もあります。
しかし、これらのがんに関連する報告は、動物実験レベルであったり、臨床試験でも小規模であったりします。

今は、様々な疾患の治療を標準化しようという方向性にあります。
それぞれの病院や医師ごとの治療法の偏りを排除して、統一的に適正な治療を行おうとする流れです。
がん治療においても、そのためのデータが日々蓄積されていますが、皆が納得できる十分なエビデンスを持ち合わせていないシメチジンを活用しようという動きはありません。
治療の過程で処方する薬の中にシメチジンを滑り込ませている医師もいるようですが、私だったら使いません。
シメチジンを扱うのはかなり厄介で、しっかり知識を持っていないと痛い目に遭ってしまう可能性が大きいからです。


次回は、そのあたりを掘り下げてみます。 ( シメチジン、厄介さが半端ない につづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

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