野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
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トローチ

<< 風邪薬についての考察 第6回 >>


私たちは、病院で処方されるものの他に、市販薬として様々なトローチを入手可能です。
代表的なもの 3つを下の表にまとめてみました。
面白いことに、前回前々回
で取り上げた病院で処方されるSPトローチ ( 以下 SP ) ではわずか一種類だった有効成分が、市販のトローチになるといくつも含まれているのです。
しかも各社ばらばら、というか様々な工夫を凝らしています。

市販トローチ

いずれも殺菌作用のある塩酸セチルピリジニウム ( CPC ) が含まれているのは共通しています。
これはSPに含まれるデカリニウム塩化物と同じ界面活性剤で、デカリニウム塩化物とは異なり医師の処方箋を必要としない成分です。
従って市販薬に使うことが可能。
この成分以外に、咳や痰・鼻水などに有効な成分などを各社独自に配合して特色を出しています。

グリチルリチン酸は前回紹介したカンゾウ ( 甘草 ) に含まれる一成分です。
塩化リゾチームは効果が疑わしいととれ、販売を中止した製薬会社もありますね。
複数の成分が含まれていると便利である反面、必要ないケースも出てきます。
例えば、鼻水がないのにクロルフェニラミン入りのトローチを選択してしまうと、恩恵がないばかりか口の渇きや排尿障害などの副作用に苦しむだけという懸念もあります。

表には示していませんが、メーカーによってはキキョウエキスを配合する製品もあります。
キキョウは去痰や鎮咳作用のほかに、のどの痛みを取る作用が非常に期待される成分です。
キキョウとカンゾウを組み合わせた桔梗湯という漢方薬もありますが、これはお湯に溶かして少しずつうがいをするようにして服用する方法と、そのまま口に放り込んでゆっくり溶かしながら飲み込んでいく方法があります。
うがい薬のようにものど飴のようにも使えるわけですね。
市販薬では龍角散トローチや、医薬品用にSPを作っている会社の明治Gトローチ、トローチではありませんが浅田飴などにキキョウエキスが含まれています。

病院で処方されるあまり意味のないトローチよりも、市販薬の中にはのどの痛みをとる効果が期待できるものもあるわけです。
どうしてもトローチが欲しい場合は、病院で処方してもらうより市販薬を購入するのがいいと思います。
ただし、各社の成分の違いを十分に比較・検討した上で、症状に応じたものを選ぶ賢い目を持つ必要があります。



 ⇨ 第5回 「トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥
 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由

<< 風邪薬についての考察 第5回 >>


病院で処方されるトローチの添加物の中に鎮痛効果が期待されるものがあります。
一つは「カンゾウエキス」。
市販の漢方薬に「甘草湯」という商品があります。
生薬を複数組み合わせるのが基本の漢方薬の中にあって甘草だけという異色の薬ですが、これは激しい咳やのどの痛み・腹痛などに即効性があるとされます。
医療用として存在しないため、私自身使用経験がないので
効果の程は知りませんが、甘草についてはステロイドホルモンが分解されるのを防いで抗炎症作用を高めていることが知られています。

TRP次に「l - メントール」の働きをみていきますが、それを理解するのに必要な「TRPチャンネル」についてごく簡単に触れておきます。
TRPは transient receptor potential の略でトリップと読むのが一般的です。
外部の環境温度を感知するセンサーで哺乳類では9種類が知られており、それぞれ担当する温度領域があるようです。
43度以上を感知する TRPV1 と17度以下を感知する TRPA1 が活性化すると温度を感じると同時に痛みというシグナルにもなります。
生物が至適温度で生きていく上でとても大切な仕組みです。
TRPチャンネルは温度だけでなく、植物由来の成分等でも活性化されることがわかっており、メントールはおおむね25度以下を感知するTRPM8 を活性化しますが、高濃度だと TRPA1 を抑え込んで痛みを感じにくくしてしまいます。
ちなみに、TRPV1 はトウガラシや酸などで、TRPA1 はワサビやシナモンなどでも活性化されます。

前回書いた通り、病院で処方されるトローチの主成分「デカリニウム塩化物」は痛みを緩和する作用を持ち合わせませんが、添加物で鎮痛…。
いや、ちょっと待ってください。
まずトローチには若干メントールの香りを感じとることができますが、舐めていても口の中がスースーする気配は全くありません。
恐らく香りづけ程度の含有量でしかないのでしょうか。
カンゾウについても、甘草湯では一包に1.425gものカンゾウエキスが含有されています。
トローチの大部分がカンゾウの成分なのであれば痛みに効果があるでしょうが、これも甘味料としてわずかに加えられているだけのようで、鎮痛効果が期待できるほどのものではありません。
実際、病院で処方されるトローチを舐めても、のどの痛みは改善しないのが何よりの証拠です。

さて、市販のトローチに目を向けてみると各社の商品には様々な工夫がなされています。
次回はそれをみていきたいと思います。


 ⇨ 第4回 「トローチはのどの痛みをとる ??
 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ」 

<< 風邪薬についての考察 第4回 >>


トローチ
風邪をひいて医療機関を受診された際、のどの痛みに対して医師がトローチを処方したり、患者の側から所望されたりする場面はよくあります。
でも、トローチを使ってのどの痛みが劇的にとれた経験ありますか ?
そんなことがあったらおかしい、というのが今回の話です。


病院で処方されるトローチ( SPトローチ ) の中に含まれる薬効成分はたったの一種類、それは「デカリニウム塩化物」。
この成分の働きは、殺菌消毒であって消炎鎮痛作用は持ち合わせていません。
効能書きにも「咽頭炎、扁桃炎、口内炎、抜歯創を含む口腔創傷の感染予防」とあり、痛みをとるなどとは一言も書かれていないのです。
市販のトローチで「殺菌することでのどの炎症を抑え、痛みを和らげる」といった文言で宣伝しているものもあるため誤解が生じているのでしょうが、この文章をよく読んでみて下さい。
菌がいなくなってのどの炎症が落ち着いたら痛みもなくなるでしょう、ということです。
痛みに対する直接作用はないと理解していただけるのではないでしょうか。

デカリニウム塩化物は界面活性剤です。
界面活性剤が細胞膜に吸着すると、流動性が大きくなり細胞膜が壊れたり、細胞膜表面の酵素を不活化したりすることで殺菌作用を示すと考えられていますが、詳しいメカニズムは解っていません。
なお、細菌や真菌には作用しますが、結核菌やウイルスには無効です。
成人の場合、風邪の原因のほとんどはウイルスですし、薬を使って口腔内の常在細菌にダメージを与えるとかえって感染を促してしまう可能性があります。

また、炎症を起こして膿や分泌物などのタンパクが増えている状況にあると、
デカリニウム塩化物の効果が極端に落ちてしまいます。

そう考えていくと、SPトローチを一体どういう場面で使ったらいいのかさっぱりわかりません。
なので、私は全く処方しなくなりました。
なお、界面活性剤といえば石鹸が代表的ですので、私はトローチを「舐める石鹸」と呼んでいます。


ただし、添加物に注目してみると痛みに効果がありそうなものが含まれています。
それは「カンゾウエキス」と「l - メントール」です。
次回はこの二つの添加物について考察してみましょう。( 以下の記事も併せてお読み下さい )

 ⇨ 第3回 「アズレン系うがい薬の有用性
 
⇨ 第5回 「トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥」 
 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ」 


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