野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して42年の野口内科です。
  医療・健康に関する情報はもちろん、近隣の話題、音楽・本のことなどを綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:30
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
         ▶▶▶ アクセスMAP
         ▶▶▶ バス路線図

8月14日・15日はお盆休みをいただきます。ご了承下さい。



ポリファーマシー

「高齢者診療におけるポリファーマシー」と題する論文が載っているのは、日本内科学会5月号。(日内会誌 108 : 971 ~ 977, 2019
具体的な事例を挙げ、その問題点を洗い出し、高齢者に複数処方されている内服薬の適正化の過程を示しています。


♦♦♦♦♦ 高齢者に処方されている薬の現実に論文ではどう対応したか ♦♦♦♦♦

論文に書かれているその症例の概略をみていきましょう。

入院症例 : 87歳、男性。
経過 : 施設入所中に発熱・低酸素血症あり、誤嚥性肺炎と診断され入院。
既往歴
: 高血圧症・脂質異常症・高尿酸血症・アルツハイマー型認知症・不眠症・骨粗鬆症・変形性膝関節症・前立腺肥大症。
脳梗塞や心筋梗塞の既往はなし、アルコール・喫煙習慣はなし。

そして、入院時の投薬内容です。
1日に12種類、計18錠も服用しています。

( 内科クリニックより )
 ① バルサルタン           80mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ② トリクロルメチアジド         1mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ③ ロスバスタチン         2.5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ④ 酸化マグネシウム       330mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑤ フェブキソスタット        10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑥ エチゾラム           0.5mg     1回1錠 1日1回 就寝前
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑧ オメプラゾール          10mg     1回1錠 1日1回 朝食後

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑨ ロキソプロフェンナトリウム    60mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑩ レバミピド          100mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後

( 泌尿器科クリニックより )
 ⑫ シロドシン             4mg      1回1錠 1日1回 朝食後

入院中に抗菌薬の点滴治療を行なったが、経口摂取が十分にできず、一時的に全ての内服薬を中止。
すると・・・、
・降圧薬
中止後も収縮期血圧は100~110mmHg前後を推移、そのまま中止
・利尿薬中止で頻尿も目立たなくなり、排尿障害治療薬も中止
・ふらつきの原因と考えられた抗不安薬
を中止しても不眠は起こらず
・適応疾患不明のPPI
も中止

その結果、以下の7種類、13錠に減らすことができたようです。

( 内科クリニックより )
 ③ ロスバスタチン         2.5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ④ 酸化マグネシウム       330mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑤ フェブキソスタット        10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑨ ロキソプロフェンナトリウム    60mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑩ レバミピド          100mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後


♦♦♦♦♦ 私なら、こう考えてもっと減薬する ♦♦♦♦♦

薬を飲むこの症例では、入院をして血圧の推移や睡眠の状態を把握できたため、減薬に繋がりました。
しかし、私が思うにそれ以外にも減らせるものがあり、それは入院に関係なくできそうなものです。

具体的に考えてみましょう。


■ 高齢者へのスタチン投与について

まず、高コレステロール血症治療薬
について。
この方は、既往歴に脳梗塞や心筋梗塞がないので、この薬は一次予防(
※)に使っていると思われます。
スタチンと呼ばれるこの種類の薬は、75歳以上の方が服用しても
脳梗塞や心筋梗塞の予防効果がないとされています。
ただし、2型糖尿病のある75歳から84歳の高齢者での有用性の報告はあります。
今回の症例は、87歳で糖尿病もありませんから、もはや服用する意味はないと思われます。

また、
は下剤と併用すると血中濃度が約50%低下したという報告もありますので、この両者を併用する場合は、服用するタイミングをずらす工夫が必要となります。

( ※ 一次予防 : 疾患を引き起こさないための予防。対して疾患の再発を防ぐものを二次予防と呼ぶ。)


■ 高尿酸血症は治療すべきか

次に、高尿酸血症治療薬
について。
日本では、尿酸が高いと心臓や腎臓の疾患に繋がるという理由で、積極的に薬が使われる傾向があります。
しかし、欧米では高尿酸血症治療薬には心臓や腎臓の疾患の予防効果は認められないとして、痛風発作を起こした方の二次予防として使われるだけです。
いろいろ議論のあるところですが、この方については、尿酸を上げてしまう降圧薬
と利尿薬の2つの薬剤を中止できたわけですし、無理をして服用することはないでしょう。

従って、私だったら
も中止しちゃいます。


■ 酸化マグネシウム錠剤の工夫と注意点

次に、下剤
について。
これには500mgという剤形もありますので、500mgを1日2回・朝夕食後、とすれば1錠減らすことが可能です。
注意したいのは、PPI
を中止したのでの作用が増強し、軟便 ~ 下痢になってしまう可能性があること。
便の性状を見ながら投与量を加減する必要が出てきます。


■ 解熱鎮痛薬の功罪

整形外科から出ているロキソプロフェン
について。
87歳という高齢の方に対して、消化管や腎臓などに影響の大きい薬をフルドーズ使っても大丈夫なのか疑問を感じます。
私だったら怖くて処方できません。
鎮痛効果は劣るものの、副作用が少なく1日2回投与で済むセレコキシブへの変更はできないでしょうか。
アセトアミノフェンという手もありますが、錠数が多くなってしまうのは高齢者には負担だと考えます。
この症例の男性については、「何とかつたい歩きが可能」という記載がありますので、積極的に鎮痛薬を活用すべきなのかどうか検討が必要です。


■ 解熱鎮痛薬に併用される胃薬について

そして、胃薬
について。
レバミピドは、整形外科領域の医師が、鎮痛薬を出す際に併せて処方することの多い薬です。
でも、鎮痛薬で一番懸念される胃潰瘍などを含む胃粘膜障害の予防には全く歯が立ちません。
正直、無駄な処方です。
本当にこの副作用を予防したいのなら、中止した
PPIの方が望ましいのです。
適応疾患不明ということで切り捨てられた
の代わりに復活させたいところです。

日本の保険診療のおかしなところなのですが、鎮痛薬と併せてやテプレノンを処方することには何のお咎めもありません。
一方、副作用予防が期待できる
を併用すると、必ず処方理由を問われます。
本当はあってはならないことで、逆になぜ
を併用しないのか、を処方する意味は何なのかを問うようにして、処方の適正化を図っていくように促すのが本筋だと私は思うのですが。

なお、
には鎮痛薬による小腸粘膜障害を予防する効果があるとされています。
小腸粘膜障害を予防する効果は、イルソグラジンマレイン酸塩という胃薬にも認められています。
この薬ならば、1日1回の投与も可能で、
のように3回服用してもらう煩わしさはありません。
どうしても胃粘膜防御因子増強薬にこだわりたいのであれば、考慮してみたい薬です。



以上のことを踏まえて、私なりに更に減薬を進めると、次のようになります。
1日5種類、7錠まで減らすことになりました。
昼食後の服用がなくなるのもポイントです。
ただし、この高齢者の腎機能に異常を認めないという前提です。
腎機能の低下があれば、
の減量やの中止も考えないといけないからです。

( 内科クリニックより )
 ⑬ 酸化マグネシウム       500mg     1回1錠 1日2回 朝夕食後
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑧ オメプラゾール          10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
     (又はイルソグラジンマレイン酸塩 4mg     1回1錠 1日1回 朝食後)

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑭ セレコキシブ                           100mg     1回1錠 1日2回 朝夕食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後


♦♦♦♦♦ 減薬についての私の考え ♦♦♦♦♦

長々と書きましたが、私は以前から減薬には積極的です。
遮二無二、薬を減らすことだけを目的にしてはいけません。
患者さんの状態と薬の効果・副作用・相互作用をよく吟味し、投薬の必要性の評価を折りに触れて行ない、適切な処方を心がけたいものです。


「筋の通った処方箋はシンプルで美しい」

これが私のモットーです。

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第四回 〕


♦♦♦ ラフチジン、最後発としての実力は ♦♦♦

胃薬( ラニチジンではなく、ラフチジンの話題です。あしからず。 )

ラフチジンは最後発のH2ブロッカーですが、発売されてしばらくの間、私は処方することはありませんでした。
1991年にH2ブロッカーよりもより確実に酸分泌を抑える PPI ( Proton Pump Inhibitor ) と呼ばれるタイプの薬が日本でも使えるようになり、それ以降、胃・十二指腸潰瘍治療の主流に躍り出ました。
そんな中でラフチジンが登場したのは2000年です。
何を今さらH2ブロッカーなのだろうという思いがありましたし、付いた商品名がプロテカジンストガーで、ネーミングセンスが決して良くなく、特に前者は言いにくいのなんの。( 参考 : 一物二名称 )
そして、発売当初は逆流性食道炎に対する適応がなく、用途が限られていました。

それでもラフチジンを使うようになってきたのは、他のH2ブロッカーにはない特徴に魅力を感じるようになったからです。
メーカーが発売に踏み切ったのも、この捨てがたい実力を埋もれさせてはならないと考えたからでしょう。
その魅力とは何か、みていこうと思います。


♦♦♦ ラフチジンは肝臓で代謝される ♦♦♦

肝臓ラフチジンは肝臓で代謝される唯一のH2ブロッカーです。
残る5種類のH2ブロッカーは腎臓で代謝されるので、腎機能の低下している人には減量するか中止しなくてはなりません。

このシリーズ第二回「シメチジン、厄介さが半端ない」でも紹介しましたが、H2ブロッカーを高齢者に使用することは勧められていません。
おさらいしますが、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の中で75歳以上の高齢者に対しては、「認知機能の低下・せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」と記載されています。
また「高齢者では腎機能が低下しているものが多く、腎排泄型の本剤は血中濃度が持続する可能性が高いため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬が必要な場合は少量から慎重に投与する」とも書かれています。

このガイドラインでは、肝臓で代謝されるラフチジンを別扱いにしていませんけど、私は高齢者でH2ブロッカーを必要とするケースではよく処方しています。

ただし、CYP3A4で代謝されるため、薬の相互作用に注意しなくてはなりません。
クラリスロマイシンなどCYP3A4の働きを抑える薬との併用に配慮する必要があります。
CYPとは、チトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる薬物代謝に重要な役割を果たす酵素の一群のこと。
主に肝臓にあって、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。


♦♦♦ ラフチジンはトウガラシ ? 酸分泌抑制が安定していて胃の粘液も増やす ♦♦♦

さて、H2ブロッカーにしろPPIにしろ、24時間安定して胃酸の分泌を抑えているわけではありません。
強力とされるPPIは夜間の胃酸分泌が十分に抑えきれない現象がみられます ( Nocturnal Gastric Acid Breakthrough ) 。
一方、H2ブロッカーで最もよく使われるファモチジンは20mgを1日2回服用しても胃酸の分泌を抑えているのは1時から7時の間のみという報告があります。

ラフチジンは、他のH2ブロッカーとは違って日中の胃酸分泌も抑える働きを持ち、10mgを1日2回服用すると胃の中のpHが3以上を維持する時間が6割以上あります。


胃潰瘍また、胃酸の分泌を抑えるだけにとどまらない作用があります。
胃の粘液を増やす作用胃粘膜の血流増加作用です。
胃・十二指腸潰瘍の治療では、粘液や血流という胃の粘膜を保護する役割のある要素 ( 防御因子 ) も重要だとされています。
酸分泌抑制薬に防御因子増強薬を一緒に使っても、潰瘍治癒に対して上乗せ効果はないともされていますが、一方でこんな報告もあるのでみてみましょう。( → こちら )
動物実験ですが、ラフチジンではシメチジンやファモチジンにはみられなかった次のような作用が確認されています。

・用量依存的に潰瘍面積を縮小
・酢酸潰瘍の実験モデルで治癒後の再発を抑制
・潰瘍瘢痕部の再生粘膜への炎症細胞浸潤が著明に抑制

これらの差異は、ラフチジンが防御因子を増強する作用を持っているためと推測されています。

トウガラシこのラフチジンの働きは、カプサイシン感受性知覚神経を介したものと考えられています。
カプサイシンはトウガラシの辛味成分ですよね。
外部の環境温度を感知するセンサーであるTRP ( Transient receptor potential ) チャンネルというものがあります。
このうち43℃以上を感知するTRPV1と呼ばれるものは、カプサイシンや酸によっても刺激を受けることが知られています。
このTRPV1を持つカプサイシン感受性知覚神経を働かなくすると、ラフチジンを使っても胃粘液も胃粘膜の血流が増えないのです。
ラフチジンはTRPV1に直接作用することはないようですが、何らかの機序でこの神経を活性化するようです。


さて、H2ブロッカーとともに、レバミピドやテプレノンなどの防御因子増強剤を服用されている方も多いと思いますが、H2ブロッカーをラフチジンに変更したら、防御因子増強剤は不要です。
ニザチジン同様、ラフチジンはポリファーマシー対策にも役に立つ薬剤です。


このカプサイシン感受性知覚神経を活性化する働きによって、ラフチジンが痛みやしびれにも応用されていることについて次でみていきます。

なお、TRPチャンネルについては、以前当ブログで解説していますのでそちらを参照していただきたいと思います。( → トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥ )


♦♦♦ ラフチジンは痛みやしびれにも ♦♦♦

舌舌痛症という病気があります。
その名の通り、舌がチクチク、ピリピリする疾患です。
ニザチジンの回で触れた唾液分泌の低下が絡んでいることもあるようですが、ほとんどの場合が原因不明で、有効な治療法もありませんでした。
しかし、舌にもカプサイシン感受性知覚神経が存在することから、ラフチジンを投与してみたところ、多くの症例で良好な結果が得られたことが報告されています。( → こちら )

手の震えまた、パクリタキセルやドタキセルなどの抗がん剤によって、手足の痺れや知覚異常といった末梢神経障害を起こすことがあります。
この副作用の予防や治療にラフチジンが効くという報告が数多くあります。
臨床試験も行われていたと思うのですが、結果はどうだったのでしょうか。


当院の患者さんで、坐骨神経痛や脊椎管狭窄症、糖尿病性末梢神経障害を持つ方々に、偶然ラフチジンを処方したことがあります。
すると、痛みやしびれが楽になったとの声が複数ありました。
先日も、三叉神経痛で食欲を落とした方に処方したら、痛みが随分楽になったと喜んでおられました。
また、HTLV-1関連脊髄症 ( HAM ) の方に、これまたたまたま処方したら、下肢に今までにない違和感を感じるようになったので飲むのを止めた、と言われたことがありました。
HAMは、成人T細胞白血病を起こすウイルス感染者の一部で両下肢の麻痺や膀胱直腸障害を示す疾患で、九州など西日本に多い疾患ですが、ラフチジンが知覚神経に何らかの作用を及ぼしたのでしょうね。

こういう経験から、ラフチジンは舌痛症や抗がん剤による末梢神経障害以外にも応用が効くのではないかと感じています。
既に線維筋痛症という疾患に活用している医師もいるようです。

個人的に興味があるのは、非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) という疾患です。
内視鏡検査で全く異常がないのに胸やけなどを訴えるものなのですが、NERDの症状に胃食道接合部のTRPV1が絡んでいると推定されているのです。
ラフチジンが効きそうに思うのですが、消化器を研究する医師が着目していないのが不思議です。


その他、慢性片頭痛の方では頭皮血管のTRPV1発現が亢進しているとか。( → こちら )
また、咳反射にTRPV1が絡んでいるので ( → こちら ) 、慢性的な片頭痛や咳に悩む方にもひょっとしたら効くのかも知れません。( あくまで私の勝手な推論です。)



♦♦♦ ラフチジンは胆汁による胃粘膜障害も回復させる ♦♦♦

胆汁もう一つ、カプサイシン感受性知覚神経とは関係なく着目しているのが、タウロコール酸による胃粘膜のダメージを回復させるという作用です。
タウロコール酸は胆汁に含まれる成分で、胃粘膜に悪影響を及ぼすことが知られていますし、胃の手術後などでは胆汁が原因となる逆流性食道炎があるのです。

胆汁による胃粘膜への影響についても、なぜか消化器医は重視していない傾向にあるように思いますが、内視鏡検査時に胃に胆汁の逆流を認めたら、ラフチジンの投与も検討してみたいところです。


♦♦♦ ラフチジン、これには注意 ♦♦♦

脳薬物相互作用については前述しましたので省略します。

また、腎機能に影響されないので、高齢者には使いやすいのではないかと述べてきましたが、注意点があります。
ラフチジンは脂溶性 ( オクタノール/水分配係数 95.70 ) で、脳血液関門を通って脳内に移行しやすいのため、精神神経症状を起こす可能性があるのです。( → こちら )
この点に関しては、処方した患者さんを注意深く診ていますが、今のところ問題を起こしたケースはありません。

♦♦♦♦♦

さて、H2ブロッカーについて考察してきたこのシリーズはこれでおしまいです。
たった4回の連載でしたが、中身はかなり濃かったのではないでしょうか。
特に、ニザチジンとラフチジンは、酸分泌抑制という本来の役割を超える作用を持っている点に興味を持っていただければ、苦労して書いた甲斐があります。


〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす 
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第三回 〕


♦♦♦ 唾液も出す、胃も動かすニザチジン ♦♦♦

現在6種類あるH2ブロッカーの中で、ニザチジン ( 先発品名 アシノン ) には他にない特徴が2つあります。
それは、唾液分泌促進作用消化管運動亢進作用です。
いずれも副交感神経の働きが高まる結果として起こっていると推測されます。

シナプス副交感神経細胞の終末部分と臓器細胞の接合部分 ( シナプス ) にはわずかに隙間があります。
副交感神経の終末部分からこの隙間にアセチルコリンが出て、それを臓器側は受容体で受け取って副交感神経の意図を理解します。
隙間の部分にアセチルコリンがいつまでも残っていると、ずっと臓器を刺激し続けることになるので、アセチルコリンエステラーゼという物質が働いてアセチルコリンを分解してしまいます。
ニザチジンはこの掃除役であるアセチルコリンエステラーゼの邪魔をして、結果として副交感神経の働きを強化しているものと推測されています ( アセチルコリンエステラーゼ阻害作用と言います ) 。


♦♦♦ ニザチジンの強力な唾液分泌作用 ♦♦♦

ドライマウス ( 口腔内乾燥症 ) という言葉をよく耳にすると思いますし、実際ドライマウスでお困りの方も多いことでしょう。
欧米では4人に1人が罹っているとの報告もあるくらいよくみられる疾患で、原因としては、

① 加齢による唾液分泌の減少
② シェーグレン症候群
③ 逆流性食道炎や糖尿病など全身疾患に起因するもの
④ 薬の副作用
⑤ 咀嚼回数の減少
⑥ 口呼吸

などが挙げられます。
シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などが障害される自己免疫性疾患です。

ドライマウス用の薬があるから、わざわざ胃薬であるニザチジンをチョイスする意味はないでしょ、と思われるかも知れません。
確かにニザチジンはドライマウスには適応がありませんが、ドライマウス用の薬も原則としてシェーグレン症候群にしか使えませんし、値段が高いです。
そして、何といってもニザチジンの唾液分泌刺激作用はこれらの薬を凌駕するものがあるのです。

それを示した論文をみてみましょう。( → 口腔内乾燥症に対する薬物治療の効果 )

1. シェーグレン症候群に伴う口腔内乾燥の改善薬である塩酸セビメリン ( エボザック )
2. ドライマウスに有効とされる麦門冬湯
3. ニザチジン

の3つの薬剤について、安静時唾液量とガムテストによる刺激唾液量を服用前と服用後90日後に比較したものです。
シェーグレン症候群治療に特化した塩酸セビメリンに比べ、ニザチジンによる唾液分泌増加量が優るのです。
恐らく、今存在する治療薬の中でニザチジンが最も強力に唾液分泌を促す作用を持つものと考えられます。
( グラフは論文の「薬剤投与前後における安静時唾液量の変化」より。クリックで拡大します。 )

唾液分泌のグラフ



♦♦♦ ニザチジンの消化管運動に対する作用 ♦♦♦

次に、ニザチジンの持つ消化管運動に対する作用について、ちょっと専門的になりますが解説します。
これまでに、胃排出能の促進・消化管運動の亢進などが報告されています。

胃の排出能とは、胃の出口に近い前庭部という部分の収縮で食べ物を十二指腸に送り出す能力のこと。
この働きがニザチジンによって高まることが動物やヒトを使った研究でわかっています。
犬を用いた実験で食後の胃の筋の収縮の強さをみたところ、ニザチジンの常用量 300mgは、イサプリド ( ガナトン ) やモサプリド ( ガスモチン ) の常用量の1.3倍程度の働きを有するようです。( → こちら )
イサプリドもモサプリドも消化管の動きを活発にする代表的な薬 ( 消化管運動機能改善薬 ) 
です

胃腸の運動また、動物実験で、胃のみならず小腸などの動きの活性化も観察されており、特に、IMCと呼ばれる動きが目立つようになります。
IMCとはInterdigestive migrating contraction の略。
空腹時に、胃・十二指腸から始まり小腸を伝って回腸末端に達すると、再び胃・十二指腸から新たな強い収縮の波が起こり・・と
繰り返していきます。
これをIMCと呼んでいます。
 ( → こちら )

さらに、下部食道括約筋 ( LES ) の部分にも作用します。
ニザチジンを服用すると、このLESの圧が通常よりも高くなります。
胃の入口がしっかり閉まるようになるというわけですね。
また、普段から食道と胃のつなぎ目の部分が一時的に緩む一過性LES弛緩 ( TLESR ) という現象がみられます。
この際に、胃液の逆流が発生すると考えられていますが、ニザチジンを服用するとこのTSLERが減り、食後の胃液の逆流も減ることが観察されています。 ( → こちら )

そして、機能性ディスペプシアに伴う様々な症状も緩和することが報告されています。( 後述 )


♦♦♦ ニザチジンから生み出された新薬 ♦♦♦

現在、機能性ディスペプシアにはアコチアミド ( アコファイド ) という治療薬があります。
この薬をニザチジンを販売しているメーカーが作ったと初めて聞いた時、アコチアミドはニザチジンをベースにしたんだろうなと推測しました。
併売している別のメーカーのMRさんに、そのことを質問したらよくわかっていませんでした。

しかし、このページを参照してみて下さい。 ( → こちら )
「ニザチジンの構造をヒントにH2受容体の作用をなくし、末梢コリンエステラーゼ作用を引き出すためにおよそ数千個の化合物を合成・スクリーニングを経て誕生した」と書いてあります。
それだけ、ニザチジンのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用は魅力的だったのだと思います。

胃もたれ機能性ディスペプシアというのは、

① 食後の胃もたれ
② 早期飽満感
③ 心窩部痛
④ 心窩部の焼ける感じ

のうち少なくとも1つ以上の症状があって、その症状が重いため生活に悪影響を及ぼしており、症状が6カ月以上前からあり、3カ月以上症状が持続しているもので、内視鏡検査などをしても何も異常が見つからない場合に診断されます。
機能性ディスペプシアは「食後不定愁訴」と「心窩部痛症候群」の大きく2つに分類されます。
それについては10年ほど前に当ブログで解説していますので、参照して下さい。( それは本当に胃の痛み ?胃下垂と腹筋 )

アコチアミドは2013年に発売されましたが、処方するにあたって「上部消化管内視鏡検査等により,胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること」という面倒くさい条件があります。
現状では内視鏡を扱う医師でないと処方しづらく、その点は何とか改善してほしいものだと思います。


♦♦♦ ニザチジンをどのように活用するか ♦♦♦

ニザチジンだけが持つ作用を有効に活用する使い方を紹介します。

逆流性食道炎まず、胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) の治療です。
逆流性食道炎の治療を2ヶ月間プロトンポンプインヒビターと呼ばれる酸分泌抑制薬で行なって治癒した患者さんを、その後H2ブロッカーであるファモチジンとニザチジンの2群に分けて6ヶ月維持療法を行い再発予防効果を検討した報告があります。
その結果、ファモチジンでは約70%で再発したのに対し、ニザチジンでの再発率は40%だったようです。

唾液中には重炭酸塩が含まれているので、逆流した胃酸を中和する作用が期待できます。
唾液の量が増えれば、中和できる胃酸の量も増えるわけです。
また、前述したようにLES圧が高まったりTLESRが減ったりする結果、胃酸の逆流する機会も少なくなります。
本来の酸分泌も抑える働きを持つニザチジンは、いろんな側面から逆流性食道炎治療の強い味方になると思います。


また、普段からH2ブロッカーとモサプリドなどの消化管運動機能改善薬を一緒に服用している方も多いと思います。
この場合、H2ブロッカーをニザチジンにしたら、消化管運動機能改善薬が不要になることはもうおわかりですね。
最近問題になっているポリファーマシーの解消に一役です。


♦♦♦ ニザチジン、これには注意 ♦♦♦

シメチジンの回でも解説しましたが、ニザチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があり、お酒に強い人が飲酒前にニザチジンを飲むと酔いやすくなります。
シメチジンと違ってCYPの阻害作用はないので、シメチジンほど悪酔いはしないと考えられます。


頭が混乱もう一つ気をつけたい点として、似たような一般名の薬剤があることです。
先発品名はテルネリンと言って、肩こりや腰痛、痙性麻痺などの症状に使われる薬があるのですが、この薬の一般名が「チザニジン」。
ニザチジンとは「ニ」と「チ」を入れ替えただけ、横文字でも「nizatidine」と「tizanidine」で、聞き間違いもしやすいと思いますので本当に気をつけたいところです。


次回は、私がよく使っているH2ブロッカーのもう一つ、ラフチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

羊〖 今月のつぶやきから 41 〗


1ヶ月分の twitter への投稿を振り返り、いくつかの項目に絞ってまとめて月末にお届けしているシリーズ。
今月は医療関係以外のこともよくつぶやいたのではないかと思いますが、その中から9題をピックアップしました。

まず、薬に関して納得いかないこと、とでも言いましょうか。
① 約束処方というのは、年齢・性別の如何を問わず、診断付けたら全く同じ薬を出すというものです。

クロピドグレルの先発品は成分の結晶の特許を持っているため、後発品は溶解度や安定性が異なる可能性がありそうです。

③ 高齢者ではNOACよりワルファリンが優る可能性がありそうです。

ポリファーマシーに対する意識を高める必要がありそうです。

次に、漢方に絡む話題。
⑤ 厚朴に意外な作用がみつかりました。

グレリンが自律神経を調節して慢性炎症を抑えるようです。

最後に俗っぽい話題です。
⑦ メトクロプラミドは吐き気が落ち着いたらすぐに中止すべきです。

⑧ 動物の種類によって、睡眠時間が異なるのはなぜなのか、不思議ですよね。

⑨ 生活環境と疾患の関わり、調べてみるといろいろ面白そうですね。

昨日のクローズアップ現代で残薬問題が取り上げられていました。
私にとって目新しいものはそう多くはありませんでしたが、ポリファーマシーや薬剤性認知症のことにも焦点が当てられていて、現状に驚かれた方も多いのではないでしょうか。

薬2薬の副作用を別の薬で抑え込んでしまおうとすると簡単に増えてしまいますし、多科受診でそれぞれの医師が他の処方との兼ね合いを全く考えずに (というか薬の相互作用にあまり知識がないままに) 処方を出すなどで一人の患者さんにびっくりするくらい多くの薬が出ていることもあります。

私は数年前から通院中の患者さんの不必要な薬を減らす努力をしています。
減らすと喜ぶ方が多いのですが、逆にとても抵抗される方がいらっしゃいます。
必要性の低さをじっくり説明するのですが、怒って別の病院に替わってしまう人さえいます。
私は余計な薬を出すつもりはありませんので、どうぞご理解をお願いしますね。

また、飲み残してしまった薬については遠慮なく伝えていただければありがたいです。
うっかり飲み忘れ以外に、1日2食しか食べないから昼の分は全然手を付けていないなど残薬がライフスタイルに起因することもあります。
飲み方を工夫するなどで解決できることも多いので、上手に解決していきましょうね。

残薬やポリファーマシーって本当に頭を悩ます問題です。


参考) STOPP Criteria  → 日本語訳はこちら 

↑このページのトップヘ