野口内科 BLOG

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低用量アスピリン

蝕む24日にも報道がありましたが、「脱法ハーブ」吸引による交通事故が後を絶ちません。
今回の件に関しては逮捕時の運転手の状況も映像が報道されるなど警察も異例の対応をしていました。
薬事法が改正されこの4月から取り締まりの対象となりましたが、この「脱法ハーブ」という名称が、使用する際の負い目を軽くしているような気もします。

心筋梗塞や脳梗塞の再発を予防する目的で低用量アスピリンが処方されるケースがここ10年ほどで随分増えてきました。
しかし、これも「低用量」というネーミングのせいでしょうか、心筋梗塞や脳梗塞を発症していないのに念のため、として安易な使われ方がされていることもあります。
発症を防ぐことを一次予防、再発を防ぐことを二次予防といいますが、低用量アスピリンに一次予防のエビデンスはないのです。
このことは先月FDAからも注意喚起がなされています。( → こちら )

この1ヶ月ほどの間にも、低用量アスピリンの絡んだ消化管出血を複数例経験しています。
消化管出血リスクがつきまとうことと、Proton pump inhibitorと呼ばれる酸分泌抑制薬にそのリスクを軽減させるエビデンスがあることを十分に理解した上での処方が望まれます。


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憩室下血をきたす疾患の中で大腸内視鏡医を最も悩ますのが大腸憩室からの出血ではないでしょうか。
大腸憩室症については当ブログ「宿便について考える」の第四回『大腸憩室症について』で詳しく取り上げていますので、そちらをご参照ください。
下血を来す疾患で多いのは痔の次に虚血性大腸炎である、と前回書きましたが、低用量アスピリン ( LDA ) やワルファリンを内服している人に限るとトップに躍り出るのがこの大腸憩室からの出血になります。

つい最近「学会レポート2011 その1」でも書いたばかりですが、心疾患や脳血管疾患に絡んで LDA やワーファリンといった血を固まらせないようにする薬を内服する方が格段に増えています。
これらの疾患自体が加齢とともに増えるものですが、大腸憩室も高齢者ほど多くなる傾向がありますし発生頻度も昔に比べると増してきているようです。
憩室の部分は血管の通り道であることはわかっていますが、なぜ憩室部分で出血を来しやすいのかはよくわかっていません。

血をサラサラにする薬を内服しているために血が止まりにくくなっているわけですが、大腸憩室からの出血では内視鏡的に止血を困難にしている理由があります。
憩室はほとんどの場合複数あり、窪んでいる憩室にはどこもかしこも血が溜まっていて、一体どの憩室から出血しているのか確認に手間取ることが一つ。
そして内視鏡ではすべての憩室を目視することが不可能であるためです。
提示した写真の左上に血液の貯留した大腸憩室が写っていますが、この部位は出血源ではないのです。
これまでに私が止血しえた大腸憩室出血は処置に1時間以上かかったものばかりで、半数以上は出血源を突き止められず内視鏡による止血操作をあきらめています。
止血に最も有効な手段はクリップとされていますが、先のDDWという学会において食道静脈瘤結紮術を応用した止血法が報告されていました。
抗血栓・抗凝固療法を受ける方が更に増えていくでしょうが、下血を来す疾患としてこの大腸憩室症は内視鏡医には悩み多き相手であります。

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悪性疾患など扱わなかったものもたくさんあるのですが、9回にわたりお届けしました出血をきたす消化器疾患はこれでおしまいとします。

出血性潰瘍  ○○ 学会レポート2011 その1 ○○


循環器科や脳外科では、心筋梗塞や脳梗塞の再発予防に低用量アスピリン ( LDA ) を処方することが当たり前になってきています。
正式に保険適応となったのが2002年からですが、それ以降内視鏡医を悩ませているのが消化管粘膜障害です。
アスピリンを処方する際に、Proton Pump Inhibitor ( PPI ) と呼ばれる胃薬、せめて H2 blocker と呼ばれる胃薬でも併せて処方してもらっていると有り難いのですが、粘膜障害の予防に役立たない防御因子増強剤が処方されているケースがかなり目立ちます。
PPI には「非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) 投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」という目的で昨年から使用可能となったのですが、まだまだ消化器医以外の認識が不足しています。

そういう事情を踏まえてのシンポジウムが先日開かれた DDW であったのですが、その中で興味あるものをご紹介します。

まず、胃粘膜障害低減を目的として、アスピリン腸溶剤 ( バイアスピリン ) という薬がアスピリン緩衝剤 ( バファリン81 ) よりも処方される割合が高くなってきています。
しかし、胃粘膜障害には両者に差はなく、逆に小腸粘膜障害 ( 疑い例も含む ) が腸溶剤で圧倒的に多いという報告がありました。
カプセル内視鏡やダブルバールーン内視鏡で小腸を画像診断できるようになったことが大きいと思いますが、これまで副作用が少ないとして腸溶剤が普及してきたことに警鐘が鳴らされるものでした。

また、大腸憩室出血患者の症例が2004年ごろから急速に増えてきていて、その中で LDA を原因とするものが 38.7% もあったとする報告もありました。

LDA を内服している人で内視鏡的止血操作を必要とする頻度はそれほど多くはないのですが、LDA 療法が定着して以降確実に増加していますし、LDA を内服していることで止血に難渋します。
大腸憩室出血に至っては出血部位の同定に苦労し、内視鏡医は1時間も2時間もその処置のために拘束されることになります。
ですから、LDA  や NSAIDs を処方する際は PPI を躊躇なく使うようにしていただきたいものです。

g7mnaxzl.gif我々消化器内科で最もよく使う薬の一つに PPI (proton pump inhibitor) と呼ばれる強力な胃酸分泌抑制薬があります。
胃酸を作る壁細胞の水素イオン (プロトン) の出口の働きを阻害します。
日本において1991年から使えるようになり、以降胃や十二指腸潰瘍、胃食道逆流症 (逆流性食道炎) 等の治療に大いに貢献しています。

その PPI に関して 8月に二つほど気になる話題がありましたので紹介しておきます。



● PPI を長期にわたって使用していると骨折のリスクが高くなるという話。 (CMAJ 2008 179: 319-326)
以前にも似たような報告があったのですが、今回のレポートの特徴は薬の使用期間との関連に言及していること。
6年以下だと関連は薄いが、7年以上使い続けると骨粗鬆症絡みの骨折のリスクが約 2倍に。
股関節の骨折に限定すると 5年で 6割増し、7年で 4倍になるとのこと。
理由は不明としながらも、胃酸の抑制によりカルシウムの吸収が悪くなるからではと推測しています。


ちなみに、破骨細胞にもプロトンポンプが存在しているため骨代謝に何らかの影響を及ぼしているのでは、とも言われていますが原因はよくわかっていません。
消化器医として酸分泌抑制薬を長期に投与するケースが当たり前のように多いのですが、一方で食べ物を消化するのに必要な胃酸を無理やり押さえ込んでデメリットはないものなのかという疑問を私は持っています。
しかし、消化器の専門家の間でそのことが論議されることがないのも事実。
酸分泌を抑制することで様々な消化器疾患に打ち勝ち、人類に大いに貢献していることは紛れもないことです。
でも、胃食道逆流症を中心に今後 PPI 長期投与の症例はどんどん増えてくるはずですので、問題点が出てくればしっかり対処していかなくてはなりません。



● 低用量アスピリン療法を行なっている冠動脈性心疾患の患者に PPI を用いて上部消化管出血を予防することの費用効果を調べた研究。 (Arch Intern Med. 2008;168:1684-1690, 2543-2544)
OTC薬ならば費用効果が高いけれども、処方箋を用いると費用効果が良いのは出血リスクの高い人だけに限られると結論づけています。


医療システムの異なる国のデータであり当然医療コストにも違いがあるので、そのまま日本の現場にあてはめることはできません。
PPI に関して日本では、十二指腸潰瘍なら 6週間迄、胃潰瘍なら 8週間迄等、厳しい使用期限が設けられています。
対して米国では、医師の処方箋がなくともそこらへんの店で大衆薬として簡単に手に入るものなのです。
OTCとは over the counter の略で、一般用医薬品のことを指します。

循環器や脳外科などでアスピリンは使用頻度の高いものですが、消化管出血のリスクに対して無頓着なケースを見受けることがあります。
先ほど述べたように PPI に使用期限があって使いづらいことも一因かと思います。
ひとたびアスピリンが原因で消化管出血をきたすと簡単には止まらず、内視鏡医泣かせであります。
「低用量」という言葉に安心感を抱いているかもしれませんが、血小板に対するアスピリンの作用は非可逆的なものであることは肝に銘じてもらいたいところです。


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