野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
  医療・健康に関する情報はもちろん、近隣の話題、音楽・本のことなどを綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:30
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
         ▶▶▶ アクセスMAP
         ▶▶▶ バス路線図

便秘

 ◆ 診療所ライブラリー 149 ◆


IBSサブタイトルに「IBSの治療はカンタン !」とあるので手に取った本です。
昔から過敏性腸症候群 ( Irritable bowel syndrome ; IBS ) に興味を持って接してきた私に言わせると、決して簡単な疾患ではありませんし、読んでも全くしっくりとしませんでした。

この著者の本「女はつまる 男はくだる」は、このシリーズで以前紹介しています。
この中で、欧米人に比べて日本人には大腸の走行異常が多く、それが便通異常に繋がっていると述べています。
これには非常に共感するところが多いのですが、それを今回の著書の中で「腸管形態型 IBS」と分類してしまっている点が気になります。

また、便秘型 IBSよりも通常の便秘の方が治療が難しいととれる記載がありますが、そんなことはありません。
この両者は、腹痛の有無と便の性状を聞くことでほぼ区別することができます。
しっかり鑑別できれば通常の便秘の方がはるかに治療がやさしいのです。
便秘型 IBSなのに、自己判断で市販の便秘薬を用いているにもかかわらず、排便に苦労している方が多いのが現状なんです。
一方、通常の便秘であれば、市販薬の頓服程度でも十分なケースが大半を占めます。
ちょっと古い記事になりますが、便の性状の分類については「ウンチの種類」、便秘型 IBSについては「過敏性腸症候群 その2」を参考にして下さい。

さらに、IBSの治療薬については、私が最も基本的に使う漢方薬については一切触れられていません。
IBSは診断がついても、治療にあたっては個々に応じた薬剤の組合せを見つけるのに非常に苦労し、決して「カンタン」なものではありませんが、漢方薬をベースにすると患者さんの治療満足度が全然違うのです。

苦言ばかりを呈しましたが、胆汁性下痢型 IBSにきっちり言及し、その治療法も示していることは評価できます。
平易な文章で書かれており、IBSや便通異常について理解するのにはいい本だと思います。
なお、胆汁と便通に関しては「胆汁酸をコントロールして便通改善 そしてメタボにも !?」を参考にして下さい。

♦♦♦♦♦

この本が出た時には、日本消化器病学会による「慢性便秘症診療ガイドライン」がまとまる前だったので致し方ないのかも知れませんが、便秘の分類で「直腸性」「けいれん性」「弛緩性」という日本独自の分類を用いて解説がなされています。

ここで現在の便秘の分類についてみてみたいと思います。
現在は、症状からは「排便回数減少型」と「排便困難型」に、病態からは「大腸通過正常型」「大腸通過遅延型」「器質性便排出障害」「機能性便排出障害」というふうに分類がなされます。
大腸通過正常型では、食物繊維を多くとることで症状が改善することが多く、大腸通過遅延型では下剤を必要とします。
器質性便排出障害は、女性にみられる直腸瘤などが原因で、手術を要する場合があります。
機能性便排出障害は、排便しようとすると逆に肛門が締まったり、肛門・直腸近辺の感覚が鈍ったりしているものです。



当院では、医療・介護・健康などに関する書籍を取り揃えて貸し出しも行なっています。
是非ご活用下さい。( → 当院の書籍の貸出しについて )

≪ 過去記事ウォッチング 21 ≫


先日、胆汁酸の働きを活用する全く新しい作用機序の便秘薬が登場しました。( エロビキシバット水和物 : 商品名 グーフィス )

♦♦♦♦♦

便秘胆汁酸はコレステロールを元に肝臓で作られる物質で、一度胆嚢に蓄えられます。
食事の刺激で十二指腸乳頭部から消化管に分泌され、脂質や脂溶性ビタミンなどの吸収に関わっています。
そして、回腸の末端部分で95%が吸収されて再利用されます。
しかし、胆汁酸が回腸を通り越して大腸に入ると、大腸管腔内に水分が分泌され、腸の動きが活発になり、その結果排便が促されるようになります。

下痢型の過敏性腸症候群の中に、胆汁酸の吸収障害が絡んでいるものがあるというのは、当ブログの
まだまだ奥が深い過敏性腸症候群」の中で紹介しました。
この胆汁性下痢では、主に朝食後の1~2時間後に下痢が起こり、逆に食事をしなければ下痢をしないのが特徴です。
夜間のうちにたくさん蓄えられた胆汁が、その日の最初の食事の刺激で分泌され、それが回腸で吸収できずに大腸に流れ込むため、便意を催すものと考えられています。
この病態には、コレスチミドという胆汁酸を吸着する作用のある薬を使うと下痢が速やかに改善するようです。
本来はコレステロールの薬なのですが、このように全く別の疾患にも応用されているのです。

エロビキシバット水和物もコレステロールを下げる目的で開発されたもので、回腸末端の上皮細胞にある IBAT ( ileal bile acid transporter ) の働きを阻害して胆汁酸の吸収を抑える薬です。
胆汁性下痢に似た状態を起こし、排便を促すわけですね。
そして、コレステロールを下げる名目はなく、便秘改善だけを目的として登場しました。

薬の特性上、食前に服用することが求められています。
食事の刺激で分泌される胆汁の吸収抑制をあらかじめ準備しておかないと、十分に効果が発揮できない可能性があります。

♦♦♦♦♦

実は、既存の薬でこの IBAT の働きを抑えるものがあります。
それは、糖尿病に使うメトホルミン
吸収されずにあぶれた胆汁酸で小腸のL細胞が刺激され、GLP-1 ( glucagon-like peptide-1 ) の分泌が促される結果、インスリン分泌の刺激になることがわかっています。
ですから、
エロビキシバット水和物も同様に血糖を改善させる可能性を秘めていると推測されます。
GLP-1には食欲を抑える働きもありますので、ひょっとしたらメタボにも・・。

♦♦♦♦♦

不安材料がないわけではありません。

① 副作用として腹痛が多いです。
添付文書上、発現率が19.0%となっています。

② 胆汁酸は細菌の細胞膜にダメージを与えることが知られていますし、大腸内の腸内細菌叢に変化を与える可能性があります。
元々、便秘やメタボの方は腸内細菌の多様性が低下していたり、構成が好ましいものでなかったりするようですから、それを改善するような方向に変化すればいいのですが。

③ 二次胆汁酸には発癌性があることが昔から知られています。
大腸に流れ込んだ胆汁酸が、腸内細菌によって二次胆汁酸に変化しますが、この二次胆汁酸が大腸粘膜の発癌のきっかけを作るイニシエーターやプロモーターとして働くとされています。
二次胆汁酸は、血糖や中性脂肪上昇に関与している可能性も指摘されています。
ただ、二次胆汁酸を作れ細菌の種類は限られ、複雑な菌の相互作用が必要とされていますし、胆汁酸を吸着するなどして体外へ排泄する手助けをしている腸内細菌もいるとか。
食物繊維などに二次胆汁酸を吸着する働きもあり、二次胆汁酸をそんなに恐がるものでもないと思います。


ちょっぴり懸念が残るものの、便秘以外にも可能性を秘めた面白い便秘薬が登場したものです。
 

 ◆ 診療所ライブラリー 142 ◆


恥ずかしがらずに便の話をしよう 佐藤満春前回紹介した「低気圧女子の処方せん」は気象予報士がメインで書いた本でしたが、今回紹介する「恥ずかしがらずに便の話をしよう」の著者はお笑い芸人でもあり放送作家でもある方。
トイレに関しての造詣が深いという著者による内容はいたって真面目で、医療関係者の記す専門用語をちりばめた堅苦しい文章ではなく、平易な言葉で書いてあるのでとても分かりやすいです。
もし私も何か医療関係の本を書くとしたら、このような文章を心がけたいと思います。

便や排便にまつわる一般的な解説がなされているのはもちろんですが、特に力点が置かれているのは第六章の「現代社会が抱えるうんこ問題」ではないでしょうか。
日本は便座や下水道の整備では世界最高水準にあるそうなんですが、その一方で「便育」という分野の遅れを著者は危惧しています。
排便というと、どうしてもネガティブなイメージを持ちがちです。
しかし、それを払拭して食べることと同じくらい尊い行為であると子供たちにしっかり学んでもらい、学校などでの排便をためらわない環境作りを提唱しています。
かく言う私も、学校で排便するとからかわれたりするので恥ずかしくてとてもできなかったのですが、日常的に排便を我慢することが習慣になると便秘につながっちゃいますしね。

他にも腸内環境の整え方やおしりの拭き方、介護現場での排便問題など非常に役立つ情報も多く含まれています。

♦♦♦♦♦

なお、本文中に「便秘の定義ははっきりしない」という項目がありますが、ちょうどこの本が発行された昨年秋に日本消化器病学会で「本来排出すべき糞便を十分量かつ快適に排便できない状態」と定義されました。
非常に単純明快なすっきりした定義ですよね。

 ◆ 診療所ライブラリー 125 ◆


♀大腸内視鏡検査では、苦痛もなくすんなりと内視鏡が入る人もいれば、全くその逆のパターンでつらい思いをさせてしまうこともあります。
経験上、腹筋の強くない方に内視鏡挿入困難例が多いようです。

機器が発達してきて、CTで大腸の形状が画像で捉えられるようになってわかってきたことがあります。
欧米の人は教科書通りの大腸の走行がほとんどなのに対し、日本人は横行結腸がだらりと垂れ下がっていたり脾彎曲部の位置が低い位置にあったりという走行異常が多いのです。
その走行異常が便通の不具合に関連しており、その部分をマッサージすれば便通が良くなると提唱するのがこの「女はつまる 男はくだる」の説くところとなっています。

特筆すべきは、安易な便秘治療を戒めている点。
日本では医師が便秘について詳しく学ぶ機会がないため、センナや大黄などの薬を安易に処方する傾向にあり、漫然と長期に使用する結果、便秘を悪化させているケースが多いのです。
私はそういう惨めな事態が生じないように適切な処方を心がけています ( 参考→「男女の違い その2」) し、過剰処方に陥っている人を何人も改善に導いています。

便秘に限らず下痢にお困りの方も、是非当院にご相談くださいね。

≪ 過去記事ウォッチング 15 ≫


2011020408481810371.gif先日「ためしてガッテン」で便秘の特集がありました。
その中で、便秘でないのに便秘だと思い込んでいるケースがあることが紹介されていました。
特に高齢の男性において便秘を訴えられる方が急激に増えてくることもグラフ化して示されていましたね。

1日1回は排便しなくては気が済まず、下剤を所望される高齢者について「加齢排便強迫症」と名付けて紹介したのが3年前に書いた「男女の違い その2」。
当時は、ルビプロストンという新薬が発売されていませんでしたので、既存の薬を組み合わせて適切な排便を促すことを解説しました。

既に下剤を乱用ぎみに使っている方に、便秘とは何かを理解してもらって減薬を進めていくのはかなり骨の折れる作業です。
でもちゃんと私の指示を守っていただいた方は、薬も減って排便に対する満足度も高まることは何度も経験済み。
自己流に便秘を解釈し間違った薬の使い方をしないためにも、遠慮なく当院にてご相談下さいね。

 ◆ 診療所ライブラリー 90 ◆


大便通最近、目に見えて増えてきているのが腸内細菌叢の研究。
腸に住み着いている細菌が人の免疫系を刺激したり、消化を助けることで健康を左右することが分かってきています。

便の研究の第一人者が一般の人にも分かりやすく語りかける本書。
日本人の特に若い女性の「腸高齢化」が深刻で、便通は自分でデザインするもの、すなわち生活習慣や食事に気を使って腸内細菌のバランスを整えることだと説いています。
このブログやツイッター等でも常に和食の素晴らしさや運動を心がけることなどを情報発信していますが、便の研究を通じても日本人のライフスタイルが危機的であることが理解されます。

個人的には、1970年代にフランスで潰瘍性大腸炎に便移植を実施していたことを学べたことが収穫。
偽膜性腸炎という疾患に便移植がかなり有効だとする報告がこのところ増えていますが、どこからそういう発想を得たのか不思議に思っていた理由が氷解しました。

腸内細菌叢の研究は今後益々発展し、我々に大きな利益をもたらすことになるでしょう。

 → 大便通

♦♦♦♦♦ 温水で肛門を洗い過ぎることの弊害 ♦♦♦♦♦

2cfca00d.gif
患者さんから聞いて初めて知ったのですが、最近の洗浄付き便座には「便意リズム」というボタンがあるようです。

最近、家電が売れない世の中になってきたせいか、メーカーが何らかの付加価値をつけて物を売ろうとする必死の姿が伝わってきます。
しかし、肛門を温水で刺激して排便が促されるというのは科学的に根拠はありません。
体には排便反射という仕組みがあるのですが、直腸の内圧が高まる結果生じる反射です。
肛門が刺激されるたびにいちいち便意を催していたら、日常生活が大変じゃありませんか。

体温より高い温水で過剰にお尻を洗っていると「温水便座症候群」と呼ばれる肛門周囲の炎症を起こす場合がありますので十分ご注意を。
10秒以内の短時間なら問題ないとされていますが、必要以上に洗うと、皮脂を洗い流してしまいます。
皮脂が失われると乾燥して炎症を起こしやすくなります。
肛門も含め皮膚には常在細菌がいますが、これも皮膚を守るバリアとしての大切な役割があります。

私は、排便後に洗い落とすという本来の目的でしか使いません。
ちなみに、冬の寒い時期でも常温の水を使っています。
暖い時期から使っていれば慣れますし、逆に温水の方が気持ち悪く感じるようになります。

また、強く拭き過ぎるのも問題です。
表面を傷つけ、刺激物質や細菌の侵入を容易にしてしまいます。
洗い流したら、力を入れないで水気を取り除くだけにして下さいね。
肛門だって自分の体の大切な一部なんですから、やさしく拭いてあげて下さい。


♦♦♦♦♦ 便意を促すマッサージ ♦♦♦♦♦

ツボ便の貯留してるS状結腸付近にマッサージを施すと、便意を促すのに有効なことがあります。
私の子供たちが赤ん坊の頃、しばらく便が出ない場合に使った方法を紹介しておきます。
その名も「ウンチが出る出るマッサージ」。
おへその左下付近を1-2分軽くさすってやると10分もしないうちに排便がみられましたよ。
よくよく調べてみると、天枢大巨と呼ばれる便秘のツボがあって昔から活用されているようですね。
ツボを指圧して寝たきりの方の排便の一助にしているという報告もあります。( → こちら )
過敏性腸症候群に対して腸管のねじれた部位をマッサージすることを臨床に取り入れている先生もいます。 

排便に苦労しているのなら、水や電気を無駄遣いするより、とりあえず自分のおなかをさすってみてはいかがでしょうか。
全くコストはかかりません。
それでもダメなら、便秘薬を上手に活用することをお勧めします。( → 参考 )

排便力 ◆ 診療所ライブラリー 76 ◆ 


以前、便秘薬を大量に服用して毎日排便しないと気が済まない男性の話を書き、下剤について解説をしたことがあります。( → 「男女の違い その2」)
この本の中でも「下剤依存症」と称して、主にセンナ系の薬剤が手放せなくなる人が増えていることに警告を発し、
排便力を高める日常生活の過ごし方を身に付けながら下剤依存症からの脱却を目指すレクチャーがなされています。
下剤は比較的手に入りやすいですが、安易な使用を続けるととんでもないことになることが理解していただける本ではないでしょうか。
まあ、医師も各種下剤の特徴を十分に理解しないままに安易に処方しているケースが多いように思うんですけどね。

この本でも批判していますが、大腸内視鏡の分野で高名だった先生がコーヒーエネマなるものを喧伝していることにはとてもがっかりします。
浣腸という便秘に対する行為は非生理的な最終手段です。下剤の力をちょっと借りながら正しい知識を持って自然な排便が出来るようにしてください。

  → 「排便力」が身につく本

2011020408481810371.gif
「加齢排便強迫症」とでも名付けてしまいましょうか・・・。
どうしても1日1回は便が出ないと気が済まない。
そのためにあらゆる手段を講じる。
そういう人が不思議なことに高齢の男性に圧倒的に多いようです。
話を聞いてみると、水様の便で1日に何度もトイレにいっているにも関わらず、大量の下剤を飲んでいるのです。
そこまでして出す必要がどこにあるのか、と聞いてみると必ず返ってくるのが「今日出なかったらどうしてくれるんだ」といったような内容の言葉。

年をとると大腸の運動機能が若い頃に比べて低下するため通過時間が長くなり、その分余計に水分が吸収されてしまい硬い便になりがちになります。
また直腸や骨盤底筋群の働きの衰えで、踏ん張る力も落ちてきます。
若い頃は毎日のように出ていたのに・・・、気持ちはわかりますが若い頃とは違うのです。
女性でも同様のことが起こっているはずですが、比較的若い頃から便秘の方が多いせいか、男性のように排便にこだわる人はめったに見かけません。

センナ系の薬は即効性が期待できますが、連用していると効きが悪くなり徐々に使用量が増えてしまいます。
中国最古の薬学書である神農本草経では、センナの成分を含む大黄を長期に連用してはならない品目に分類しています。
まずお勧めするのは酸化マグネシウム
これは便の中に混じり込んで水分を保持し、便を柔らかい状態に保ちます。
また、麻子仁丸、潤腸湯、大建中湯などの漢方薬も高齢者にはお勧め。
新レシカルボン坐薬は挿肛すると腸の中で炭酸ガスを発生し、直腸を刺激することで排便を促します。
炭酸ガスと聞くと体に悪いのではと思われるかもしれませんが、腸からの吸収が早く血液を介して呼気に逃げていきます。
最近は、苦痛軽減目的で大腸内視鏡検査時の送気に炭酸ガスを使う施設が増えてきています。

これらの薬を組み合わせ、センナ系薬剤はあくまで頓服で利用するようにして程よい硬さの便が出るように調節していきましょう。

  << 宿便について考える 第九回 >>


2009082611492528150.gif
このシリーズの初回

 ① 宿便性潰瘍という名称の疾患がある
 ② 有名出版社から出ている看護師向けのコンパクトな本に「宿便の正体は ?」なる項目がある
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つける

ということを書きながら、何の説明もしていなかったので今回はその話です。

♦♦ 宿便性潰瘍という疾患

まず ① の宿便性潰瘍について。
これは、頑固な便秘や腸の閉塞が元で硬くなった便によって長時間大腸の壁が圧迫される結果、虚血状態となり潰瘍を生じるものです。
20年以上臨床に携わっていますがまったくお目にかかったことのない希な疾患です。

さて、この疾患、英語で " Stercoraceous ulcer " と言うようですが、この " stercoraceous " とはどういう意味でしょうか。
調べてみると " consisting of, resembling, or pertaining to dung or feces " とか " consisting of or relating to excrement " とあります。
「便に関連した」と言う意味合いで、直接的に便秘を表現したものではないようです。
さあ、これを誰が「宿便性」と日本語に訳したのでしょうか。
これはさすがにたどり着くには至りませんでした。
この疾患はあくまでも硬い便で腸壁が長く圧迫される結果起こるものです。
ですから、訳した人は宿便という言葉を「腸の壁にこびりついた便」という、現在誤って流布されているような状態とは全く考えていなかったこともわかります。

♦♦ 看護師向けの本なのに、とんでもないことが…

② の本に書かれている内容について。
ここには
「宿便とは、腸管内容物が何日も腸壁にべったりと張りついたり、腸管の蠕動運動の障害によりたまった古い便のことで、腸腺窩にのり状にくっついている消化吸収されたあとの残りかすである。高熱や脱水などで起こりやすい」さらに「宿便をとるためには、輸液や腸洗浄を行なう」と書かれています。
( ナースのための図解からだの話 p 92 )
ここに定義されているような宿便はあり得ないと既に説明しました
さらに、腸洗浄としてイラストで書かれているのは高圧浣腸と呼ばれるものなのです。
この浣腸は「私は宿便です。治療してください」と言われてやるような類いの医療行為ではありません。
通常の浣腸よりは大腸の奥の内容物を排泄できるため、成人においては大腸の検査前に行なうケースが以前はあったようですが、現在ではそんな前処置はしません。
また、宿便というものが先の「宿便性潰瘍」のような状態を指すのであれば、浣腸が原因となって腸管を穿孔させてしまう危険があるので絶対にやってはいけません。

医療関係者の書いた本でも間違いは多々あります。
特に専門外領域について書く場合、他の著書を参考にしたりすると、その本に書かれている内容が随分古くて今では否定されているようなものであったりします。
それを知らずに、そのまま引用して書いてしまうこともあります。
とある専門学校にて臨時で内科学を教えた時、そこで使用していた教科書の消化器の分野に誤った記載があちこちにあってびっくりしたものでした。

また、デトックスだ、腸内洗浄だと称して浣腸器具が売られていますが、浣腸を繰り返していると浣腸のような強い刺激でないと便が出なくなってしまいます。
死亡例も出ていますので、無謀で野蛮な行為はやめましょう。( 参考 http://www.supplerank.com/health_care/onai_contents/01.html )


この「宿便について考える」というシリーズ、数回で終わらす予定だったのに、今回で九回目。
書き始めて半年に及んでしまいましたが、いよいよ次で「宿便」とは何かに迫ってみたいと思います。
宿便の正体にたどり着くヒントは初回に紹介した
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つけるに至り・・・
にあったのです。
次回へ


宿便について考える 第八回 「過敏性腸症候群の治療薬」
宿便について考える 第十回 「宿便とは」

  << 宿便について考える 第二回 >>


photo-6.gif宿便は医学用語ではないため、消化器病関連の専門書をめくってその意味を突き止めようとしても徒労に終わります。
例外的に前回お伝えした①の「宿便性潰瘍」という疾患名にその名を見るだけですが、これはまた後で。

♦♦ 「宿便」を辞書でひも解くと…

医学用語でなければ一般用語のはずですから、国語辞典をひも解いてみました。
すると「便秘のため、長い間腸の中に溜まっていた大便」とか「排泄されないで、腸内に長くたまっている大便」等と書いてあります。
「宿」という字に注目して漢和辞典も調べてみました。
「一時そこにいさせる」「とどめる」「もとからの。古い」など、宿の持つ意味も幅広く、様々な意味に解釈できます。
仏教用語で「前世からの」という意味にも使われているようですが、さすがにこれはないでしょう。
なお、漢和辞典には宿便という言葉は載っていません。

ともあれ、辞書の意味から推測すると便秘は便が出ないという現象で、その便秘という現象によって腸に残っている便を指して宿便と称するという解釈ができますよね。
これで解決・・・!?

♦♦ 桂枝加芍薬大黄湯の効能には…

しかし初回の③で指摘した桂枝加芍薬大黄湯という漢方薬の効能には「常習便秘、宿便、しぶり腹」と便秘と宿便をわざわざ分けて記載してあります。
宿便が便秘の結果として腸に残る便であるならば、あえて書く必要はないはずです。
それにしても漢方薬の効能の欄には、しわがれ声、くさ、のぼせ、血の道症等とおよそ医学用語とは程遠い昔ながらの言葉が並んでおり読んでいて面白いのですが、宿便という言葉が古くから一般に存在していることを伺わせますね。

♦♦ 便が腸壁にこびりつくことはありません !

さて、宿便について広く流布されているのは、腸の壁にこびりついている便とするもので、そう信じておられる方も多いと思います。
しかし、長年大腸内視鏡をやっている経験上、それは絶対にあり得ないと断言しておきますし、私だけの主張でないことはネットであちこち当たってもらえば明らかです。
(その上で「胃腸の処理能力を超えて負担をかけ続けた場合に、腸管内に停滞する食物残渣や細菌類を含めた腸管内容物」と定義している医師もいて、Wikipediaではこれを採用していますが・・・。)
健康食品等を売らんがために体の仕組みをよく知らない素人が作り出した虚構でしょう。

また、こびりつきはあり得ないと否定する情報が増えてきたからでしょうか、今度は「滞留便」なる言葉が編み出されたようです。
昨年末でしたか、この滞留便なるものを解消するという薬剤がある製薬会社から発売されました。
テレビCMを見ているとご丁寧にも腸ヒダの間に溜まって簡単には動かない便のアニメーション付き。(右上のイラスト)
滞留便 = 老廃物、としていますがこれも一体どこで定義されたものやら。
いずれにしても、ヒダの間に便が残るということ、これも実際にはあり得ないことなのです。

次回から、具体的な腸の働きや疾患について見ていきながらこの辺りの事情を探ります。


宿便について考える 第一回 「宿便って何ぞや ?」
宿便について考える 第三回 「便はヒダには溜まらない」

qr1hyrup.gif ○○ 学会レポート 4 ○○


内視鏡で大腸を観察すると、上行結腸から下行結腸にかけての内腔がおおよそ三角形をしておりヒダがあるのがわかります。
このヒダを半月ヒダといいます。

便秘の方や高齢者ではこのヒダの丈が低いか無くなっている場合が多いなという印象を、普段の検査を通して持っていました。
この半月ヒダが腸内容の移送に重要であると着目し、特殊な注射を用いてこの半月ヒダの形態変化をみた上で、
便秘薬を上手に選択すると結果的に下剤を減らせるという報告がありました。

一口に便秘といっても、このような弛緩性便秘や排便に関わる筋肉群の機能低下による直腸性便秘、
そして過敏性腸症候群に関連する痙攣性便秘等があり、それらに応じて治療法を選択しなくてはいけません。
アントラキノン系の大腸刺激性下剤や浣腸を繰り返し使うと習慣性になって、便秘を助長すると言われています。
大腸の形態を内視鏡で観察し、その人に合った薬剤で便秘を治療するということも一般化するかも知れません。

ヒトにおいて上行結腸は腸内容を肛門の方へ向かって移送させるのに重力に逆らって働かなければなりません。
他の動物でどうなっているのか全く知りませんが、ヒトでは大腸の中で最も半月ヒダが発達している場所です。
「体の形態には意味がある」・・・私は以前からそう思っています。

↑このページのトップヘ