野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
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十二指腸潰瘍

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第一回 〕


♦♦♦ シメチジンを推す ? ♦♦♦

「えっ? 何を今さらシメチジン !?」
記事を読みながら、思わす声を上げそうになりました。

週刊文春読んだのは、週刊文春2018年6月7日号の「ベテラン医師が薦める 安くて効く薬」という特集。
古くて安価であっても非常に有用性の高い薬を取り上げた内容で、私も概ね好意的に読んでいたのです。
しかし、途中に次のようなくだりがありました。

『長尾医師がすすめるのは「H2ブロッカー」という種類の消化性潰瘍治療薬だ。(中略) 「強力な胃酸分泌抑制作用を持つPPIが登場して、穏やかな効き目のH2ブロッカーは医療現場から駆逐されて行きました。しかし、軽い消化性潰瘍であればH2ブロッカーで程よく効きます。それにシメチジンは免疫力を上げ、胃がんや大腸がんに対して延命効果があるという報告もあります」』

H2ブロッカー ( 正式にはヒスタミンH2受容体拮抗薬と言いますが、このシリーズではH2ブロッカーの通称を使いますね ) と呼ばれる種類の胃薬は、PPI ( Proton Pump Inhibitor ) が主流となった現在でも私はよく処方します。
しかし、H2ブロッカーの中でもシメチジンは使いません。
記事中にあるように、ある種のがんに対して延命効果があるという報告はずいぶん昔から知られています。
だけど、使いません。


今回と次回で、その理由を明かしていくとともに、三回目以降では、私がよく使っているH2ブロッカー2種類 ( ニザチジンラフチジン ) について解説していきたいと思います。


♦♦♦ シメチジンの歴史 ♦♦♦

日本では1982年に登場したシメチジンという薬は、医療関係者には大きなインパクトを与えました。
胃・十二指腸潰瘍がこの薬で治ってしまうからです。
それまで、消化性潰瘍って外科の手術対象でした。
胃がんなどの場合、かつては患者に告知しないまま手術をしてしまうケースがほとんどで、治療に当たって「潰瘍だから胃を切りましょう」という方便に使われていたくらいです。
H2ブロッカーの登場によって潰瘍の手術が激減し、そんなウソもつけなくなってきました。

胃・十二指腸潰瘍の成因には胃酸が絡んでおり、その胃酸の分泌にヒスタミンという物質が関与していることがわかっていました。
ヒスタミンを抑えれば胃酸の分泌が落ち、その結果潰瘍ができにくくなるのではないか、と誰もが考えます。
しかし、シメチジン登場以前のヒスタミンを抑える薬を飲んでも胃酸分泌に変化はなかったのです。

シメチジンシメチジンを開発した
ジェームス・ブラックという人は、ヒスタミンの受容体が2種類 ( H1、H2 ) あることを突き止めます ( 現在では4種類が知られています ) 。
既存の抗ヒスタミン薬はH1受容体の働きを抑えるのに対し、胃酸分泌にはH2受容体が関与していることが分かり、試行錯誤の末、1972年にH2受容体に拮抗するシメチジンの開発にたどり着きました。
ブラックは、プロプラノロールという降圧剤も開発しています。
β遮断薬と呼ばれ、交感神経のβ受容体にノルアドレナリンという物質が結合するのを妨げて、心臓の収縮力と心拍数を抑えて血圧を下げる薬です。
ターゲットとする分子を特定して疾患治療薬を創り出す手法に対し、1988年にノーベル医学生理学賞が授与されています。

私が医学部に入った時には、既にシメチジンが存在していましたし、医者になった時には、H2ブロッカーは4種類 ( シメチジンラニチジンロキサチジンファモチジン ) に増えていて、シメチジンを超える作用を持ち投与法も簡便なラニチジンやファモチジンが主流になりつつありました。
( ちなみに、タガメット・ザンタック・アルタット・ガスターという商品名です。) 
H2ブロッカー上市以前、胃・十二指腸潰瘍の治療に苦慮していた先輩方の中には、シメチジン登場のインパクトとその果たした役割に敬意を表して使い続けている人も多かったように思います。


♦♦♦ シメチジンのがんに対する作用 ♦♦♦

胃薬であるはずのシメチジンに、思いも寄らぬ効果を示した報告が1988年にデンマークからありました。
胃それは、胃がんに対する延命効果。( → こちら )
胃がんの手術後にシメチジンを1日800mg投与した群とプラセボ投与群で、1年後の生存率がそれぞれ45%と23%だったというもの。
5年生存率まで調べているので、シメチジンが発売後かなり早い段階からデータを取っていたようですね ( 英国では1976年に発売されています ) 

その後、他のがんでも延命効果があることがいくつか報告され、そのメカニズムを探る研究も始まります。

これまでにわかっていることをいくつかピックアップしてみますと、
 
● 腫瘍の増大が抑制される ( 腫瘍組織内でヒスタミン合成が増えているが、シメチジン投与で腫瘍が大きくならない 
 : Takahashi K, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2001 and 2002 )

● がんの転移を抑制する ( 血管内皮のE-セレクチンの発現をシメチジンが抑制。腫瘍細胞はE-セレクチンを手がかりに転移
 : Kobayashi K, et al., Cancer Res. 2000 Jul 15;60(14):3978-84. )

● 血管内皮細胞の管腔形成を阻害 ( 腫瘍が大きくなるのに血流が必要だが、シメチジンは腫瘍血管の新生を阻害 : Biomed Pharmacother. 59(1-2):56-60. 2005 )

● 大腸がん細胞株でのアポトーシスの誘導作用 ( アポトーシスとは平たく言うと細胞の自然死 : Dig Dis Sci. 49(10):1634-40.2004 )

といったものがあります。
良さそうな効果ばかりが並んでいますよね。

こういう報告を受けてなのでしょうが、シメチジンの他にCOX-2阻害薬 ( 解熱鎮痛薬 )・ARB ( 降圧薬 ) といった、がん治療には無関係な薬剤を組合せて、進行性腎がんや去勢抵抗性前立腺がんの治療にトライしている施設もあります。
しかし、これらのがんに関連する報告は、動物実験レベルであったり、臨床試験でも小規模であったりします。

今は、様々な疾患の治療を標準化しようという方向性にあります。
それぞれの病院や医師ごとの治療法の偏りを排除して、統一的に適正な治療を行おうとする流れです。
がん治療においても、そのためのデータが日々蓄積されていますが、皆が納得できる十分なエビデンスを持ち合わせていないシメチジンを活用しようという動きはありません。
治療の過程で処方する薬の中にシメチジンを滑り込ませている医師もいるようですが、私だったら使いません。
シメチジンを扱うのはかなり厄介で、しっかり知識を持っていないと痛い目に遭ってしまう可能性が大きいからです。


次回は、そのあたりを掘り下げてみます。 ( シメチジン、厄介さが半端ない につづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

元気な胃先月末にピロリ菌の除菌療法について、胃炎の段階でも保険適用がなされるように製薬メーカー各社が申請を出したというニュースがありました。
これは嬉しいニュースです。
今のところピロリ菌の感染が確認できても、胃や十二指腸潰瘍がある場合、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌内視鏡治療後胃でないと保険が使えないのです。( → 参考 )

日本人の胃癌の9割はピロリ菌が原因とされています。
つまり、ピロリ菌が日本人の胃からいなくなれば胃癌の発症は今より10分の1に減ることになります。
内視鏡検査が日常的に行われている現在、 我々は早い段階で癌を見つけて可能ならば内視鏡治療を行なって胃を切除しなくてすむように努力しています。
でも将来、こんな努力もしなくてもいい時代が来るのかも知れません。
もしかしたら胃の内視鏡検査自体もあまり行われなくなるかも。

とにかくピロリ菌感染胃炎段階での治療が実現することを望みます。


話は変わりますが、業界用語で「保険適応」と「保険適用」という言葉が混在しています。
昔は前者がよく使われており私も何の疑問もはさまずに使っていましたが、日本語として正しい後者を最近よく見かけるようになってきました。
お役所のほうでしっかりと用語の統一を図ってもらいたいなと思います。

ついでに言っておくと「癌」と「がん」は実は使い分けがあるようで、特に年配の先生方はしっかり区別されています。
しかし最近は「ガン」と表記するケースもあり、知らない方も多いようです。
どういう使い分けかは自分で調べてみましょう。

出血性潰瘍  ○○ 学会レポート2011 その1 ○○


循環器科や脳外科では、心筋梗塞や脳梗塞の再発予防に低用量アスピリン ( LDA ) を処方することが当たり前になってきています。
正式に保険適応となったのが2002年からですが、それ以降内視鏡医を悩ませているのが消化管粘膜障害です。
アスピリンを処方する際に、Proton Pump Inhibitor ( PPI ) と呼ばれる胃薬、せめて H2 blocker と呼ばれる胃薬でも併せて処方してもらっていると有り難いのですが、粘膜障害の予防に役立たない防御因子増強剤が処方されているケースがかなり目立ちます。
PPI には「非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) 投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」という目的で昨年から使用可能となったのですが、まだまだ消化器医以外の認識が不足しています。

そういう事情を踏まえてのシンポジウムが先日開かれた DDW であったのですが、その中で興味あるものをご紹介します。

まず、胃粘膜障害低減を目的として、アスピリン腸溶剤 ( バイアスピリン ) という薬がアスピリン緩衝剤 ( バファリン81 ) よりも処方される割合が高くなってきています。
しかし、胃粘膜障害には両者に差はなく、逆に小腸粘膜障害 ( 疑い例も含む ) が腸溶剤で圧倒的に多いという報告がありました。
カプセル内視鏡やダブルバールーン内視鏡で小腸を画像診断できるようになったことが大きいと思いますが、これまで副作用が少ないとして腸溶剤が普及してきたことに警鐘が鳴らされるものでした。

また、大腸憩室出血患者の症例が2004年ごろから急速に増えてきていて、その中で LDA を原因とするものが 38.7% もあったとする報告もありました。

LDA を内服している人で内視鏡的止血操作を必要とする頻度はそれほど多くはないのですが、LDA 療法が定着して以降確実に増加していますし、LDA を内服していることで止血に難渋します。
大腸憩室出血に至っては出血部位の同定に苦労し、内視鏡医は1時間も2時間もその処置のために拘束されることになります。
ですから、LDA  や NSAIDs を処方する際は PPI を躊躇なく使うようにしていただきたいものです。

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2011091615225431721.gif1980年代初頭までは、胃・十二指腸潰瘍は治療の難しい疾患でした。
出血や繰り返す潰瘍、そして繰り返した結果十二指腸などによって狭窄を来した場合は外科的手術の対象でしたし、胃癌の際に「潰瘍ですから切りましょう」といったウソが通用した時代でもありました。
その後、H2ブロッカーPPI ( proton pump inhibitor ) といった酸分泌抑制薬の登場やピロリ菌と潰瘍の関連がわかり、胃・十二指腸潰瘍は基本的に薬で治る疾患になりました。

食道静脈瘤同様に昔に比べて減ってきているとはいえ、ひとたび潰瘍から出血すると緊急を要し、内視鏡医の出番が回ってきます。

潰瘍ができると必ず出血するわけではありません。
潰瘍の底にたまたま太めの血管が通っていてそれが破れて出血、というのが典型的なパターンです。
出血源を見つけてそこへ止血操作を施すのが我々の仕事ですが、一筋縄ではいかないのが臨床です。
胃の中が血液だらけで取り除かないと出血部位の特定ができないのに、血液の一部が固まっていて内視鏡の吸引口を詰まらせて作業が立ち往生するというようなことはしょっちゅうです。
出血源を特定したら止血操作。
クリップをかけたり、純エタノールや高張ナトリウム・エピネフリン液を注射したり、焼き固めたりという方法でほとんどの場合は血を止めることができます。

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