野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して42年の野口内科です。
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抗コリン作用

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第二回 〕


♦♦♦ シメチジンは服用が面倒 ♦♦♦

前回の「シメチジン、面白い作用を持っているけど」でも書きましたが、胃・十二指腸潰瘍が内服薬で治療できるようになったという点で、シメチジンはとても画期的でした。
しかし、シメチジンには厄介な点がいくつかあります。
今回はその話です。

内服まず、第一点。
半減期が短いため、基本的に1日4回服用 ( 毎食後 + 就寝前 ) しなくてはならないのです。
1日2回の服用法もありますが、記憶が間違っていなければ、私が医師になった頃には1日4回の内服法しかなかったと思います。 
私の消化器内視鏡の師匠は「薬で治るようになったとはいえ、潰瘍は侮れない疾患。薬を1日4回も飲まなきゃいけない病気なんだと認識してもらうためにも、シメチジンを使う」と言ってました。
でも、現実には面倒臭がってシメチジンの服用を遵守する人なんてほとんどいません。
H2ブロッカーを服用して数日もすると痛みが落ち着いてしまうため、治ったと勘違いして1日4回もの煩わしい内服を中断してしまうのです。
でも、潰瘍の傷をきれいに治すためには、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間内服を続ける必要があります。( それでもピロリ菌の除菌療法が登場するまでは、再発を繰り返すケースが多かったですけど。)
私が医師になった時には、シメチジン以外にもラニチジンロキサチジンファモチジンというH2ブロッカーが存在していました。
そのいずれにも1日1回の内服法があり、きっちり最後まで服用してくれる人は多かったです。


♦♦♦ シメチジン、副作用が半端ない ♦♦♦

次に、シメチジンの持つ様々な副作用をみていきます。

まず、私が経験したシメチジンによる深刻な副作用を紹介します。
それは骨髄抑制です。 
骨髄の血液を造る細胞の働きが抑えられて、白血球・赤血球・血小板の3つの血液成分が造れなくなってしまうことを骨髄抑制と言います。
研修医として駆け出しの頃、重症の全身性エリテマトーデス ( SLE ) の患者さんにシメチジンの注射剤を使い始めたら、白血球・赤血球・血小板が急激に減少したのです。
シメチジンを中止後、感染症や出血傾向をきたすことなく骨髄抑制が改善して事無きを得ましたが、SLEのような自己免疫疾患では骨髄抑制を起こすリスクが高いようですね。
骨髄抑制・顆粒球減少 ( 白血球減少 )・血小板減少などの報告は、ファモチジンやラニチジンなど他のH2ブロッカーでもありますが、シメチジンによるものが多数を占めています。

この経験でシメチジンにはいい印象を持たなくなりましたが、他にも厄介な副作用がありますので、次の項目以降でみてみましょう。


♦♦♦ シメチジン、高齢者には大敵 ♦♦♦

2015年に日本老年医学会から「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が発表されました。
その中にある「75歳以上の高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物リスト」に、H2ブロッカーが含まれています。
認知機能の低下せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」との記載があります。

中枢神経前回も述べたように、H2ブロッカーはヒスタミンの働きを邪魔しますが、ヒスタミンは中枢神経において、覚醒状態の維持や記憶学習能に大事な役割を持っています。
ヒスタミン受容体を遮断すると、意識障害やせん妄などの病態をきたす可能性があるわけです。
また、抗ヒスタミン作用を持つ薬は、抗コリン作用も併せ持っています。
中枢神経でアセチルコリンは、レム睡眠の維持や覚醒、注意、記憶機能と密接な関係があり、抗コリン薬も認知機能の低下やせん妄のリスクになるのです。
H2ブロッカーは、抗ヒスタミン作用と抗コリン作用という脳にはあまり好ましくない働きを持っているわけです。

様々な薬剤が抗コリン作用を持っていますが、その程度には差があります。
それをまとめたものに「抗コリン作用リスクスケール」というのがあり、抗コリン作用の強さによって薬を3段階に分けています。( 下の表はクリックで拡大します )
抗コリン作用リスクスケール

このスケールでは、シメチジンは2点 ( strong ) に分類されています。
シメチジンはH2ブロッカーの中で最も中枢神経系へ移行しやすいとされており、せん妄などの報告も多数あります。
高齢になると腎機能が衰えてきますので、薬の血中濃度が上昇してさらにリスクが高くなります。
H2ブロッカーは他にもありますので、点数の高いシメチジンをあえて選択する理由はないと思います。

( 抗コリン作用についてはこちらもご参考に → 抗コリン作用って ?


♦♦♦ シメチジン、やたらと多い薬物相互作用 ♦♦♦

シメチジンは他の薬物との相互作用がやたらと多いのです。
薬の代謝に重要な役割を果たすものの一つとしてチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があり、主に肝臓で全薬物代謝の8~9割に関わっています。
CYPには多くの種類がありますが、イミダゾール環という構造を持つシメチジンはありとあらゆるCYPの働きを阻害します。
特にCYP3A4CYP2D6に対して強い阻害作用があります。
CYP3A4は薬物の生体内変換の約半分を担い、それに次ぐ活性を持つのがCYP2D6。
この二つを強力に抑えるとわけですから、かなり多くの薬との相性が悪いということになります。

それから、腎臓の尿細管には、異物を尿に排泄するときに活躍する MATE ( multidrug and toxin extrusion ) と呼ばれる輸送体がありますが、シメチジンはこの働きも阻害してしまいます。

肝臓でも腎臓でも、薬の代謝を邪魔してばかりのシメチジン。
複数の薬剤を併用している方に、この薬を選ぶ勇気は私にはありません。

( CYP2D6に関しては、こちらもご参考に → CYP2D6からPL顆粒を考える その2


♦♦♦ シメチジン、普段アルコールに強い人も悪酔い ♦♦♦

酔っ払いシメチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があります。
つまり、お酒に強い人が飲酒前にシメチジンを飲んでしまうと、アルコールの代謝が落ちてしまうので、普段と違って悪酔いしてしまうのです。
これはラニチジンやニザチジンにもある作用なのですが、シメチジンには先に述べたように幅広いCYP阻害作用も有している点が大問題。
というのも、アルコールはCYP2E1やCYP1A2、CYP3A4などの酵素でも代謝を受けるからです。
シメチジンはアルコールの代謝をとことん邪魔してしまうってことなんです。
シメチジン服用者はアルコール依存性になりやすいというネットの情報もあります。
その真偽のほどはわかりませんが、シメチジンとアルコール、絶対に避けたい組み合わせです。

( ADH についてはこちらもご参考に → お酒に弱い人は進化系 !? )


♦♦♦ シメチジン、他にもあるある副作用 ♦♦♦

シメチジンの他の主な副作用については箇条書きにまとめてみますね。

薬剤性パーキンソニズム ( シメチジンの他にファモチジンでも報告あり )
高血糖高浸透圧昏睡 ( 高齢の糖尿病患者さんでは要注意 )
抗アンドロゲン作用エストラジオール代謝阻害作用 ( 女性化乳房などを起こす )
クレアチニン排泄の抑制

H2ブロッカーは、腎機能が悪くなると減量や中止を考慮しなくてはならないのですが、腎毒性がないのに血中のクレアチニン値を上げてしまっては、正しく腎機能を推測することが出来ません。


♦♦♦ シメチジン、こんな使われ方もあるけれど ♦♦♦

前回は、シメチジンのがんに対する作用を掘り下げてみました。
他にも、帯状疱疹水いぼPFAPA症候群 ( periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis syndrome )、急性間欠性ポルフィリン症ニキビ男性型脱毛偽痛風などへの応用で効果があったとする報告もあります。( 参考 → 肩の痛みに・・・ )

斬新な手法で開発され、胃・十二指腸潰瘍の治療を大きく進歩させ、ノーベル賞を得るに至った発明品は、良くも悪くもいろんな作用があるようです。
たとえ本来の働き以外にメリットがあるとしても、様々な深刻な副作用があり、多くの薬と相性が悪いシメチジン・・。
私が週刊文春の記事に驚いた訳がご理解いただけたものと思います。


さて、次回は私がよく使っているH2ブロッカーのうちの一つ、ニザチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

<< 風邪薬についての考察 第8回 >>


トイレ前回は、PL顆粒に含まれるメチレンジサリチル酸プロメタジンという抗ヒスタミン薬に抗コリン作用があるから、前立腺肥大症緑内障のある方には使用禁忌だ、と書きました。
このことについて大まかに。

抗コリン作用を持つ薬剤は、副交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質の働きを邪魔します。
その結果、副交感神経の持つ様々な働きが抑制されてしまいます。
内視鏡検査の時によく使う胃腸の動きを抑える注射や眼底検査の時に瞳孔を拡げる点眼薬は、この作用を活用した薬剤になります。

目的とする働きだけが抑制されたら理想的なのですが、そういうわけにはいきません。
副交感神経がうまく働かなくなるといろいろと困った症状も出てきます。
例えば、

● 瞳孔が拡がる → 房水の出口が狭くなって眼圧が上がる
● 涙や唾液の分泌が減る → ドライアイ、 口渇
● 消化管の動きが悪くなる → 便秘、吐き気
● 心拍数が増える → 不整脈を誘発しやすくなる
● 膀胱括約筋が緩まなくなる → 排尿障害

他にも様々な影響があるのですががこのくらいで
要するに副交感神経の働きが鈍るので抗コリン作用を持つPL顆粒は前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障には使えないというわけです。

抗コリン作用を期待して薬を選択する場合も当然ありますが、ありがたくないことに、この作用を持つ薬剤は抗コリン剤だけでありません。
今回話題にしている抗ヒスタミン薬もそうですし、向精神薬制吐薬気管支拡張薬抗不整脈薬ステロイド降圧薬筋弛緩薬潰瘍治療薬…と強弱はあれど様々な薬が抗コリン作用を持ち合わせています。
( ここに挙げた全ての薬が抗コリン作用を持つわけではありません。種類によります。)

注意しておきたいのは、抗コリン作用は認知機能にも影響を及ぼすということ。
高齢者においては、上に挙げたような抗コリン作用を有する薬剤を複数飲み合わせているケースが珍しくはありません。
認知症と診断される高齢者の 1割くらいは薬剤性の認知症とも言われおり、薬剤の関与が疑わしければ処方内容を再検討する必要も出てきます。
多くの薬剤を服用している高齢者が風邪をひいた際にPL顆粒や市販の総合感冒薬を服用すれば、薬物代謝の能力が落ちているために抗コリン作用を増長させかねないので、極めて注意を要します。
風邪薬に限らず、そして高齢者に限らず、抗コリン作用が重なる処方の組み合わせはできるだけ必要最小限に留める努力も我々医者には求められると思います。

さて、PL顆粒には風邪の三大症状の一つ「咳」に対する成分が含まれていないことに前回言及しましたが、それは薬物の代謝酵素の側面から見ると賢明に思えます。
次回は「CYP2D6」という代謝酵素を取り上げて検討してみたいと思います。


 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由
 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1


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