≪ 過去記事ウォッチング 4 ≫


徐々に認知され普及しつつある傷の湿潤療法。
これをブログを始めた2006年に
傷の治し方というシリーズで簡単に解説いたしました。
古い記事にも関わらず比較的よくアクセスを頂いております。 

15a70456.gifそのシリーズの最後「傷は舐めるに限る」は、傷を治すのに大切な成分のひとつである上皮成長因子 ( Epidermal growth factor: EGF ) について、研究生活時代にこの成分と関わった身として私見を述べさせたもらったものでした。
EGFの持つ作用とほとんどか唾液腺から分泌されるという意味を考えてのことです。

別の機会にはその EGF が美肌成分だとして化粧品に配合されて売られている現状を問題視しました。
EGFに関するこんな商品が出回っているようですがEGF配合化粧品って )

さて、昨年8月の後者の記事で「近いうちに EGF について語ってみましょう」としておきながらそのままで申し訳ありませんでした。
これを機に少しばかり書いてみますね。

EGF がとてもデリケートな物質で仮に化粧品に入っていても成分としての有効性はとても疑問であることは述べましたが、胃液にも弱いのです。
胃液によって活性がおよそ 1/4 に弱まることがわかっています。
それを申し訳なく思うのか、胃の壁細胞と呼ばれる細胞は胃酸とともに EGF とほぼ同じ役割のある TGF-α ( Transforming growth factor-α ) という物質を分泌しています。
さらに十二指腸と膵臓からわずかばかり EGF が出ていることも知られていますが、これは胃で失活する分をある程度補っているのでしょうね。

成長因子は局所で作られその局所で作用するものが多く、これは外分泌 ( exocrine ) とも内分泌 ( endocrine ) とも違い、その様式は paracrine と呼ばれています。
日本語化されていませんが、強いて言えば「側分泌」あるいは「傍分泌」になるでしょうか。
しかし EGF は唾液腺という特定の臓器で作られ唾液中に分泌される外分泌の形をとりますし、一部は口腔粘膜から血液中に移行します。
それだけではなく、初乳にも多く含まれることがわかっています。
それなりの役割が考えられますが、親から赤ん坊へ渡り歩くという非常にダイナミックな物質です。
EGF は成長因子と呼ばれる物質の中で最も早く発見された物質にも関わらず、paracrine 様式でない点が非常に面白いと思います。 

また、 発売当初副作用問題が新聞でも騒がれたイレッサという抗癌剤があります。
これは EGF 受容体という EGF の刺激を受け取って細胞内に情報を伝える物質の働きを抑えるものです。
他にもいくつかの成長因子の働きを抑える物質が抗癌剤として使われています。
成長因子そのものも再生医療への応用が実践されつつあり大きく期待されていますので、EGF を含め成長因子について色々知っておくのは決して損ではありません。

なお growth factor を直訳して成長因子と言っていますが、 その中心的な役割を考えて「( 細胞 ) 増殖因子」と呼ぼうと提唱する先生もいます。
私は大賛成です。