◆ 診療所ライブラリー 131 ◆

貧血大国
消化器疾患を扱っていると、無縁でいられないのが貧血
大量の吐血・下血はもちろん、本人も気付かぬままに消化管からじわじわと出血が続くことも、貧血を招く原因となります。
内視鏡による止血操作や貧血治療は日常茶飯事のことです。

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貧血はありふれた疾患であるにもかかわらず、はっきりとした診断基準がありません。
WHOによる貧血の定義は、血液中のヘモグロビン ( 血色素 : 以下Hb ) が減ることをいい、その数値が示されています。
しかし、この数値をわずかに下回った程度では全く自覚症状はないはず。
ある教科書には「末梢組織に十分な酸素を運ぶだけの赤血球の量が維持できない状態」を貧血と定義していて具体的な数値はありません。
数値だけでなく、動悸や息切れといった酸素が全身に十分量行き渡らない結果として起こる症状の有無も大事なポイントになるのです。

貧血の中で最もよくみられる鉄欠乏性貧血も同様に数値的な明確な定義がありません。
Hb・MCV・血清鉄・フェリチン・TIBC・UIBCといった項目を参考に、年齢や臨床症状などを加味して治療をやっていきますが、医師によっても考え方がまちまち。
何でこの程度の数値で鉄剤が処方されてるんだろう、と思うこともしばしばあります。

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今回紹介する「貧血大国・日本」では、貧血について多角的に捉えてとことん掘り下げています。
妊娠中の貧血は子供の将来にも悪影響を及ぼすのに、鉄不足を予防する公的対策が日本には欠けていることを、世界各地の取組みとの比較で浮き彫りにしているのは、他の本にない特徴かと思います。
また、海苔に意外と鉄分が含まれているというの知りませんでした。
おにぎりに海苔を巻いたり、ふりかけを活用したりするのもいい方法なのですね。

私にも参考になる部分が多かったですし、貧血に悩む方には是非一読をお勧めしたい本です。