野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
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    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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胃下垂

≪ 過去記事ウォッチング 9 ≫


syz1dztk.gif胃下垂と腹筋」というタイトルで記事を書いたのは 4年前。
臨床的にあまり考慮されることのない胃下垂にスポットを当てて検討したものです。
今でも「胃下垂」のキーワードでアクセスの多い記事です。
腹筋との絡みで解説しましたけど、胃は食べたものを一時的に蓄える場所なので平滑筋が弛緩して伸びやすい臓器でもあります。

当時のブログでもちょっと触れているのですが、腹筋の弱い人は大腸内視鏡挿入にも苦労します。
逆に若い頃スポーツをしていたとか、応援団・声楽などをやっていたという人などはとてもスムーズに入っていきます。
最近は体形と腹部の触診でその人の大腸内視鏡の難易度がある程度わかるようになってきました。
また、痩せた女性に多い遊走腎という疾患もあります。
寝ている時に比べて立位で腎臓が大きく下がってしまい、腰痛や血尿の原因になるものです。
この疾患の方のおなかもあまり力がないのが特徴ですね。

znpo2mpt.gifもともとヨガをやっている人に「あなた胃下垂気味の体形してるから腹筋鍛えなさい」と言われ、実際に腹筋トレーニングをしたところ、内蔵の様々な不調が改善したことがきっかけで興味を持ち始めました。
腹筋と内臓疾患の関係、もっと科学的に調べられてもいいのではないかと思っています。

syz1dztk.gif《 心窩部にまつわる話 4 》 


胃下垂の話の続きです。

バリウムによる検査をしなくても、内視鏡検査である程度胃下垂を推定することができます。( 内視鏡による胃下垂の診断基準はありません )
内視鏡を胃の後半部分から十二指腸にかけて進めていく場合、内視鏡は胃の大弯の壁に接触します。
図の矢印の辺りに内視鏡が当たって、Jの字に向きを変えて十二指腸方向に向かっていきます。
胃下垂の方では、内視鏡を押し進めていくと、この支点となる部分がどんどん骨盤の方に下がっていきますので、それにつれ内視鏡の挿入長が長くなっていきます。
実際の検査では、胃の出口である幽門が見えているのにも関わらず、内視鏡を進めても進めてもそこまでの距離が縮まりません。
内視鏡を挿入した長さ分だけ、胃が押し下げられているのです。

極端な胃下垂の場合、内視鏡の全長を使っても十二指腸まで届かないことすらあります。
そういう症例を、私はこれまで 2例経験しています。
ちなみに、上部消化管の内視鏡の長さは約110センチメートルです。
ちなみに、胃の入り口である噴門までは、経口内視鏡の場合だと胃下垂の有無に関わらず約40センチメートルです。

さて、機能性ディスペプシアの「食後愁訴症候群」の話です。
食後愁訴症候群は、

 1. 通常量の食事での食後の胃もたれ
 2. 早期飽満感 ( 食べ始めて早い段階で食べた量以上に胃がいっぱいになる感じ )

のどちらか、あるいは両方があることが診断の基準となります。
他に上腹部の張り、吐き気、げっぷなども診断の手掛かりとなります。
このような方に内視鏡を実施しますと、先に述べた内視鏡で胃下垂が推測される以外に所見が何もないという方が結構いらっしゃる印象があります。

胃下垂の方に概ね共通することがあります。
それは腹筋が弱いということ。
おなかの中をある程度自由に動き回れる胃を外側から支えているのが腹筋の役割の一つではないのだろうか・・・。
医学的な根拠はありませんが、これは俗説として広く知られており、胃下垂の方に尋ねてみると腹筋が弱いと答える方の割合が非常に高いのは事実です。
腹筋の弱い方は、大腸内視鏡の挿入にも苦労することが多い傾向にあります。

食後愁訴症候群では、食事開始時の適応性弛緩 ( 食べ物に備えて胃が膨らむこと ) や排出遅延 ( 消化したものを十二指腸に送り込むのが遅れること ) などの消化管運動異常が原因として考えられています。
運動異常があるから胃下垂になるのか、腹筋が弱く胃下垂となることが運動異常を引き起こすのか、あるいは消化管運動と胃下垂は関係がないものなのか。
消化管の働きと腹筋の関係も医学的な目で調べていくことが重要なのかも知れませんし、食後愁訴症候群の治療の一つのヒントになるかも知れません。

ちなみに、早期飽満感には漢方薬の六君子湯がかなり有力な治療手段です。
特に中年以降の女性にはよく効く印象があります。

病態に応じて柴胡桂枝湯と六君子湯を上手に使い分けると、機能性ディスペプシアでお困りの症状をずいぶん緩和することができます。


znpo2mpt.gif《 心窩部にまつわる話 3 》


前回は機能性ディスペプシアの「心窩部痛症候群」に絡んだ内容でした。
機能性ディスペプシアのもう一つの「食後愁訴症候群」を考える前に、胃下垂について考えてみたいと思います。

診断基準はあるものの、医師に疾患として認知されているわけでもなく、治療も基本的に施されないのが胃下垂です。

胃下垂の診断は、胃の透視によって行われます。
右図の矢印の部分を胃角部と言いますが、ここが骨盤の最上端よりも下に位置している場合に胃下垂との診断が下されます。
胃が骨盤内まで下がってきているのですが、皆さんの想像以上ではないかと思います。
実際、胃下垂の方がおなかいっぱいに食事を摂ると、臍より下がぽっこり膨らむのです。

透視を見ていると、バリウムの入り始めはどんな方でも胃の位置はほぼ一緒の印象です。
つまり、空腹時の胃の位置は、皆さん大差はありません。
しかし、胃下垂の方はバリウムの量が増えるにつれ、胃がどんどん下がっていきます。
日常でも恐らく食べ物が入り、その重みで下がっていくのだろうと考えられます。

胃は固定された臓器ではなく、腹腔内で大きく移動することが可能です。
胃は口にした食べ物を一旦蓄えるために膨らんだり、消化するために大きく蠕動したりします。
胃が固定されてしまうと、これらの働きが十分発揮できないですよね。
一方、手前の食道と胃に続く十二指腸は、胃とは異なってしっかりと固定されています。
食道が固定されていないと、胸腔内の心臓や肺、大動脈といった臓器の働きに影響が出かねません。
十二指腸には肝臓からつながる胆管と、膵臓からの膵管の出口があり、わざわざ腹腔をという空間を出て背中側に回り込み、これらを通って出てくる消化液を受け取りにいくような形をとっています。
「体の形態には意味がある」と以前述べましたが、臨床に長く携わってきての実感です。

すみません、遅筆なもので続きは改めて。


iugfeigj.gif《 心窩部にまつわる話 1 》  


多くの方を診察していると、いろいろと面白い場面に遭遇することがあります。
例えばこんなちぐはぐな会話。


「3日程前から胃が痛いんです。」
「そのおなかの痛みは食事と関係ありますか ?」
「おなかじゃありません。胃です !!」


胃もおなかの臓器の一部と私は認識しています。
しかし、胃とおなかをその人なりに区別する基準を持っておられる方がたまにいらっしゃるのです。
いわゆるみぞおちの辺り、その部位に限定した症状であることを訴えたいことは十分に伝わります。
医学的にこの場所を「心窩部 (しんかぶ)」と言います。
図のように腹部を9等分した時に、Aの部分に該当しますが、明確な境界線があるわけではありません。

「窩」という漢字は一般にはなじみが薄いと思いますが、医学の世界ではよく見かけます。
「膝窩」「眼窩」「ダグラス窩」「梨状窩」・・・。
要するに窪みを形成している場所を指し示す際に用いられています。( 現代人では窪んでいない人が多いですが )
みぞおちになぜ「心」の字が使われているのかはよくわかりません。
体の中心という意味だと理解しているのですが、もしかしたら東洋医学と絡んでいるのかも知れません。

ちなみにみぞおちは漢字で「鳩尾」。
このあたりの形状が鳩の尻尾に似ていることからこのように書くそうですが、似ていますか ?

そんな心窩部にまつわる話を何回かに分けて述べてみたいと思います。


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