野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
  医療・健康に関する情報はもちろん、近隣の話題、音楽・本のことなどを綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:30
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
         ▶▶▶ アクセスMAP
         ▶▶▶ バス路線図

胸やけ

 ◆ 診療所ライブラリー 135 ◆


胃もたれ私が医者になった頃に多かった胃・十二指腸潰瘍胃がんなどは、ピロリ菌の除菌療法が普及したことで、随分減ってきました。
かわりに上部消化管疾患で目立ってきたのが、逆流性食道炎機能性ディスペプシア

前者は以前からあったものの、ピロリ菌陰性の人が増えたり食の欧米化が進んできた結果、目立って増えてきました。
後者は、以前なら検査しても異常ないため、気のせいだと片づけられてきた疾患です。
潰瘍やがんからいわゆる不定愁訴に研究者の目が向いてきて、疾患概念が確立してきました。
しかし「ディスペプシア」という横文字をうまく日本語に表現できないせいもあって、患者さんはもちろん、消化器を専門としない医師にももうひとつ理解が進んでいない病気です。

この両者を中心に、胃の不調についてまとめられているのが今回紹介する『「胃もたれ・胸やけ」は治せる』です。
イラストがふんだんに使われていますし、非常にわかりやすく概念や治療法、生活習慣の改善などがまとめられていて、お勧めです。

いつも思うのですが、医療系の情報は横文字や数字が多いので、断然横書きが読みやすいと思います。
この本では、多くを占める図表中においては横書き、本文は縦書きです。
こういうのを難なく読み進めることができる日本人って希有な人種ですよね。


なお、機能性ディスペプシアについては、Rome III という国際診断基準の時代のものでしたら、当ブログ「心窩部にまつわる話」に書いてありますので参考にして下さい。

スルカインという薬のちょっと古い添付文書の効能にこんな文章を見つけました。

「胃炎に伴う胃痛、嘔気、呑酸・嘈囃及び胃部不快感」

嘈囃」??
「そうそう」と読むそうです。
消化器を主な専門にしていながら、全く知らない言葉ですし、知らない症状です。
でもちゃんと添付文章の臨床効果の欄に「呑酸・嘈囃に対する有効率 85.4% ( 176 / 206 )」と書いてあるではないですか。( → こちら )
しっかり効果を調べたからにはそういう症状が存在するのは間違いありません。

しかし、辞書で調べても単語としては見つけられなかったので、それぞれの漢字の意味を探ってみました。

 嘈  さわがしい。かまびすしい。やかましい、またその声。
 囃  はやし。かけごえ。歌や舞を助ける声。歌に合わせて調子をとる鳴りもの。

胸やけ2何となく騒々しい声、と連想できそうですが、胃炎という消化器の症状としては全く理解できません。
効能書きの文章を改めてよく見ると、嘈囃の前は読点ではなく「・」。
呑酸 ( どんさん ) と連なった四文字の言葉のようで「呑酸嘈囃」で、胸やけを意味すると医学大辞典に載っています。
酸を飲んで、けたたましく大騒ぎをする・・。
確かに、鹿児島名産の黒酢など酸っぱいものを一気に飲むと、大抵の人はその刺激に思わず悲鳴を上げてしまいますよね。

ただ、嘈囃という二文字の言葉は中国医学の古典的書物にも見られ、これだけでも胸やけの意味になるようです。
傷寒論 ( しょうかんろん ) 」や「金匱要略 ( きんきようりゃく ) 」を解説した「類聚方広義 ( るいじゅほうこうぎ ) 」の中に「嘈囃胸を刺し」なんて文章も見られます。

対して「呑酸」ですが、逆流性食道炎が増えてきたこともあり、酸っぱいものがこみ上げてくることの意味に使われます。
しかし、漢字を額面通りに解釈すると「酸を呑む」です。
酸の流れる方向が逆のような気がしますけれども、胃酸がこみあげてくる症状を表すのに適切なのかどうか。
でも、「呑酸」=「おくび」( げっぷ ) とする辞書もあるようですね。

胸やけを患者さんがどのように表現するかを調査した報告があるのですが、むかむか・胃が重い・胸が熱い・胃が痛い・食欲がない、などバリエーションが多彩であることがわかっています。
昔の人達が、この胸やけを表現するのに苦労して落ち着いたのが「呑酸嘈囃」という言葉ではなかったか、と勝手に推論する次第でありました。

なお、最新の効能書きからは「呑酸・嘈囃」の文字は消え、かわりに「胃部不快感」に改まっていることを付加しておきます。
ということは、どんさんそうそう = 胃部不快感 !? 
 

  << 胃食道逆流症 第2回 >>


胃食道逆流症 ( GERD ) は、塩酸や蛋白分解酵素であるペプシンを含んだ胃液が食道に逆流することで生じます。
最近では胃液以外の逆流も注目されているのですが、これは機会があればお話します。
胃自身がどうして消化されないかというと、別に分泌される粘液の膜で表面を覆って保護しているからですが、食道にはそのような仕組みがありません。
このため強い消化液である胃液が食道に逆流してくると、傷ついたり様々な症状が生じたりするのです。

201006151614253985.gif♦♦ 胃液の逆流が起こる原因

逆流が起こる原因として下部食道括約筋部 ( LES ) の閉まりの低下が挙げられます。
この部分、本来は食道自体の筋肉による圧迫と横隔膜による食道の圧迫の二つが協調することで胃内容物の逆流を防いでいるのですが、この二つの圧迫部位がずれてしまうことがあります。
食道が横隔膜を貫く食道裂孔という場所から胃の一部が食道の方へずり上がってしまう現象を食道裂孔ヘルニアと呼んでいます。
右の図の左側が正常、右側がヘルニアの生じた食道と胃と横隔膜の関係になります。
本来なら食道下端が横隔膜に靭帯で固定されているのですが、飲み込む動作の度に食道が縮まりますし、加齢によって靭帯の働きも落ちてくるためずれが生じてしまうのです。
食道裂孔ヘルニアによって十分な圧が得られなくなり逆流を招くのです。
これとは別に一過性のLES弛緩というものがあります。
これは高脂肪摂取、大量の食物の摂取、胃運動機能の低下等で起こると考えられています。

♦♦ GERD の症状

GERDの症状として胸やけ呑酸 ( どんさん ) と呼ばれるものがあります。
前者は「心窩部から胸骨後方にかけて上方に向かって広がる熱感を伴う不快症状」、後者は「口腔咽頭への胃液の逆流によって自覚される苦酸っぱい不快な味覚、あるいは咽頭刺激症状」という定義がなされています。
「胸やけとはどんな症状のことですか」と聞いてみると、吐き気やおなかが張って苦しい状態のことを指す人もいれば、胸やけなのにそれ以外の言葉で表現する人もいることが分かっており、症状の定義があるのはおおいに助かります。
「下痢をしました」との訴えの方の話をよく聞いてみると、普段より便の回数が多かっただけで便そのものはいつもと形状が変わらない、というケースを経験したことがあります。
つらい症状を表現する時に患者と医師の間で言葉の認識に大きな食い違いがあっては診断や治療に支障が出てしまいますよね。
ちなみに、週 2回以上の胸やけ症状発現を病的なものとみなします。

♦♦ GERD の分類

GERDのうち内視鏡検査で食道粘膜に明らかな病変を見出せるものを逆流性食道炎、肉眼的に異常を認めないものを非びらん性胃食道逆流症と呼んでいます。
症状が同じでも内視鏡によって病変が確認できるかどうかで疾患名が変わってくるわけですが、これはまた別の回で。

胃液が逆流する現象で上のような症状が生じることは容易に理解できると思いますが、見当のつかないような症状が起こることもあります。
このことについて次回お話します。

♦♦ GERD の定義

なお、GERDは以下のように定義されています。
食道粘膜傷害性のある胃内容物の食道内への逆流によって
 ① 胸やけや呑酸などの定型的な自覚症状
 ② 下部食道粘膜のびらん潰瘍などの食道粘膜傷害
のいずれか、あるいは両方があるもの

5f9d2xnu.gif「ムカムカする」「胃が重い」「胃がもたれる」「酸っぱいものが上がってくる」・・・。
胸やけとは具体的にどのような症状を言うのかを患者さんに聞くと、実は胃のもたれや吐き気、腹部膨満感などを表現していることもあるため、真の胸やけ症状であるかどうかを判別するのも医師の問診上の大切なポイントとなります。
このことは先日紹介した本にも記載されています。

先週参加した講演会では、この点について面白い話がありました。

それは、胸やけについて看護師や医学部の学生にもアンケートをとったところ、消化器医との間に認識の開きがあるというものでした。
胸やけを起こす代表的な疾患である胃食道逆流症 (逆流性食道炎)の病態から考えて、胸やけとはこのような症状だろうと医師の間では概ね共通した概念を持っているのですが、医療現場にいる人たちとの間にもズレがあるというのは大変興味深い話でした。

また今月上旬に新聞にも載った胃癌の内視鏡的術後の除菌についても話がありました。
早期胃癌を内視鏡で治療した後にピロリ菌の除菌をする群としない群に分け、3年間経過をみたものです。
除菌した群で癌の再発が4%にみられたのに対し除菌しない群ではその3倍の12%に達したということでした。
除菌しても再発があるのは、ピロリ菌感染で既に癌が生じた人を対象としており胃粘膜の状態が相当悪いからだと考えられます。
除菌しても 5年くらいは年に 1回の内視鏡で経過をみていくことが望ましいだろうという意見で、これは日常の診療に大いに参考にすべきものでした。


wxq2ouyq.gif ◆ 診療所ライブラリー 29 ◆


紹介が遅れましたが、これは書くべき人が書いた本。

診療所のライブラリーに書籍を揃えながら、困っていたのが最近増加の一途をたどっている疾患、胃食道逆流症 (逆流性食道炎) に関する本の少なさでした。

大学の先輩にあたるこの分野の第一人者が昨年秋に出した待望の本で、たいへん分かりやすく胃食道逆流症について解説しています。
講演などで披露するカレーの話や唾液の役割などなどについても言及しており、一般の方から専門職の人まで有用な中身の濃い本だと思います。
医学関係の本は数字や横文字がどうしても多くなるので横書きに限る、と思っていますが、その点も文句なし。

ちょっと残念なのは背表紙。
青地に赤い文字で本のタイトルが書かれているため、本棚に並んでいると字が目立たないし、目の悪い方には読みづらいと思います。
なので、本屋で誰も手にしてくれないのではないかとちょっと心配です。


( ライブラリ充実のために .. ご協力いただければありがたいです )  → つらい「胸やけ」スッキリ―胃食道逆流症といわれたら

↑このページのトップヘ