2009042620190414222.gif今月20日の地元新聞の「論点」という欄ににピロリ菌に関する話が載っていました。
書いたのは藤田紘一郎先生で、著書の一つをこのブログで取り上げたとこがあります。
主に寄生虫学を専門とする先生で、寄生虫や細菌と人間との共生のメリットを伝導していることで有名な先生です。

ただ今回の「ピロリ菌とストレス社会」と銘打った論説は、看過できない間違いの多い内容です。
ほぼ同じ内容で日本経済新聞の4月5日のコラムにも書かれているようですが、著名な先生の文章ゆえ、一般の方が誤解されては困ります。
書かれた文章のどのような点が問題なのかをいくつか指摘しておきます。


●「漱石の胃壁にはピロリ菌がすみ着いていたことは間違いない」
夏目漱石の遺体は東大で解剖されたため標本が残っており、ピロリ菌がいたのは確認済みのことです。

●「昔の日本人はほぼ100%ピロリ菌に感染していたのに、現在ほど騒がれなかったのはなぜだろうか」
今よりも感染率は高かったと思いますが、ほぼ100%感染していたというデータを私は知りません。
ピロリ菌が発見されたのは1982年 (論文として公表されたのは1983年) で、そこから胃の様々な疾患を引き起こすことがわかってきたのは最近になってからであり、昔は騒がれていなかったのは当然ではないでしょうか。

●「ストレスが絶えず胃に加わり、胃壁が荒れてくると、ピロリ菌が悪さを始め」
ストレスがなくても、ピロリ菌に感染するだけで胃炎が引き起こされる現象は最初に発見したマーシャル博士が自らの体をもって証明しています。

●「ピロリ菌は胃粘膜を軟らかくし、胃酸が食道に逆流するのを防ぐ」
胃粘膜が軟らかくなるというのは一体どういう事でしょうか ?
理解に苦しみます。
胃酸の食道への逆流は物理的なことであり、ピロリ菌がいてもいなくても起こる現象です。

●「ストレスがなく、胃の症状が全く無い人からピロリ菌を完全に除去すると、かえって弊害が出てくることになる」
ピロリ感染者のうちおよそ4%は胃がんを発症するされ、人類の胃からピロリ菌がいなくなれば胃がんは90%以上減少すると言われています。
ピロリ菌がいなければ夏目漱石は胃潰瘍で命を落とすことなく、もっと多くの名作を世に出していたのではないでしょうか。

●「ピロリ菌は胃によいことをしていたということだ」
数多くの研究報告から、ピロリ菌が胃によいことをしているなんて消化器医は誰も考えていません。
ピロリ菌が感染していて何一ついいことはありません。
弊害が余りにも大き過ぎます。

●「これまで高齢者にしかみられなかった食道裂孔ヘルニアに二十代、三十代の若者がかなりの割合で罹患している」
昔でも若い人に食道裂孔ヘルニアはあったし、ピロリ菌がいないことが理由でヘルニアが増えたわけではありません。
肥満者の増加など、別の要因でも食道裂孔ヘルニアが増えているのです。

●「ピロリ菌を完全に除去してしまうと、逆に胃が不健康になり、収縮しなくなる。そうすると胃は胃酸をどんどん出すようになって・・・」
ピロリ菌の存在によって、胃が不健康になり、本来出るべき胃酸が十分に出なくなっているのです。
ピロリ菌を除菌すると、胃が健康を取り戻し、胃酸の分泌や胃の動きが正常化するのです。
収縮しなくなるって一体何のことなのかさっぱりわかりません。


指摘しておきたい部分まだまだあるのですが、ピロリ菌と人間とは決して「共生」関係でないことは十分に理解しておいてください。
同じように、我が先輩も日記の中で反論していますのでご参考に。(こてる先生の日記!)

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藤田先生が寄生虫の研究の道に足を踏み入れたのは、学生時代に奄美群島の風土病の調査団に参加してフィラリア症を目の当たりにしたからだそうです。
鹿児島とも無縁ではないのですね。
その分野でのお話は今後も楽しみにしています。