野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
  医療・健康に関する情報はもちろん、近隣の話題、音楽・本のことなどを綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:30
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
         ▶▶▶ アクセスMAP
         ▶▶▶ バス路線図

貧血

♦♦♦♦♦ 誤解されてる貧血 ♦♦♦♦♦

7月2日に宮内庁から「天皇陛下が脳貧血によるめまい・吐き気の症状がありしばらく安静と経過観察が必要」と発表がなされました。
立ちくらみのことを「脳貧血」と表現する場合がありますが、これは医学用語ではなく、本当の医学的な「貧血」とは全く異なるものです。

ヘモグロビン貧血は、酸素を運ぶ役割を担っている血液中のヘモグロビン ( 血色素 ) が減ることを言います。
全身に酸素を運ぶ力が落ちるので、階段を上がるなどの強めの動作で全身の酸素要求量が増えた時に、動悸や息切れといった症状が起きます。

一方、脳貧血は「起立性低血圧」 ( 小児ならば「起立性調節障害」) という疾患に該当すると考えられます。
急に立ち上がると、血液は重力で下半身の方に行ってしまい、心臓より上にある脳は一時的に血液不足になります。
この時に、自律神経の一種である交感神経が働いて血管を収縮させ心拍数を増やすなどで血圧を上げることができれば問題ないのですが、その働きが不十分だと脳の虚血状態が改善できずにクラクラしてしまうわけです。
この現象はヘモグロビンがたっぷりあっても起こり得ます。

しかし、貧血という言葉から「脳貧血」を想起する方が3人のうち2人 ( 67.6% ) もいるそうなんです。
実際、立ちくらみがしたから採血で貧血のチェックをお願いしたいとして、外来を訪れる方が少なくありません。
医療関係者も平気で脳貧血という言葉を使う場面が多く ( 特に高齢医師 ) 、貧血の正確な意味が浸透せず脳貧血との混同が続いているのではないでしょうか。

貧血の定義などにつては、過去の2つのコラムである程度詳しく取り上げているので参考にして下さい。

本題に入る前に貧血について
貧血大国・日本


♦♦♦♦♦ ピロリ菌と鉄欠乏貧血について、改めて ♦♦♦♦♦
 
さて、7年前に「ピロリ菌と鉄欠乏性貧血」というコラムを書き、ピロリ菌感染が原因の鉄欠乏性貧血とラクトフェリンなどに絡んだ情報を提供しました。

最近の知見では、ピロリ菌感染によって胃粘膜萎縮が起こり、アスコルビン酸の吸収が低下することが原因ではないかとされています。
アスコルビン酸は、三価鉄を吸収のいい二価鉄へ変換するのに関わっているため、アスコルビン酸の低下によって鉄不足に陥りやすくなるというわけです。

また鉄収奪能の高い遺伝子変異を持つピロリ菌がいるとされており、このタイプのピロリ菌に感染することで鉄欠乏性貧血が起こる可能性が指摘されています。
特に小児や10代の若年者で鉄剤投与でも貧血の治療に難渋する場合は、ピロリ菌の有無をチェックする必要があり、中には除菌だけで貧血が治ることもあるようです。


♦♦♦♦♦ ヘム鉄についてプチ情報 ♦♦♦♦♦

なお、鉄欠乏性貧血の際に、吸収がいいからとヘム鉄のサプリの摂取を勧められるケースもあるようですが、最近の研究で、ヘム鉄摂取が多いと2型糖尿病の発症リスクが高くなるという報告がありました。
絶対にヘム鉄でなければ治療できないというわけではないので、気をつけたいところですね。

 ◆ 診療所ライブラリー 131 ◆

貧血大国
消化器疾患を扱っていると、無縁でいられないのが貧血
大量の吐血・下血はもちろん、本人も気付かぬままに消化管からじわじわと出血が続くことも、貧血を招く原因となります。
内視鏡による止血操作や貧血治療は日常茶飯事のことです。

♦♦♦♦♦

貧血はありふれた疾患であるにもかかわらず、はっきりとした診断基準がありません。
WHOによる貧血の定義は、血液中のヘモグロビン ( 血色素 : 以下Hb ) が減ることをいい、その数値が示されています。
しかし、この数値をわずかに下回った程度では全く自覚症状はないはず。
ある教科書には「末梢組織に十分な酸素を運ぶだけの赤血球の量が維持できない状態」を貧血と定義していて具体的な数値はありません。
数値だけでなく、動悸や息切れといった酸素が全身に十分量行き渡らない結果として起こる症状の有無も大事なポイントになるのです。

貧血の中で最もよくみられる鉄欠乏性貧血も同様に数値的な明確な定義がありません。
Hb・MCV・血清鉄・フェリチン・TIBC・UIBCといった項目を参考に、年齢や臨床症状などを加味して治療をやっていきますが、医師によっても考え方がまちまち。
何でこの程度の数値で鉄剤が処方されてるんだろう、と思うこともしばしばあります。

♦♦♦♦♦

今回紹介する「貧血大国・日本」では、貧血について多角的に捉えてとことん掘り下げています。
妊娠中の貧血は子供の将来にも悪影響を及ぼすのに、鉄不足を予防する公的対策が日本には欠けていることを、世界各地の取組みとの比較で浮き彫りにしているのは、他の本にない特徴かと思います。
また、海苔に意外と鉄分が含まれているというの知りませんでした。
おにぎりに海苔を巻いたり、ふりかけを活用したりするのもいい方法なのですね。

私にも参考になる部分が多かったですし、貧血に悩む方には是非一読をお勧めしたい本です。

  << 出血をきたす消化器疾患 第6回 >>


2011100310151718350.gif主題からは少し話がそれますが、触れておきたいことがあります。
それは鉄欠乏性貧血ピロリ菌の関係についてです。

ヘリコバクター・ピロリは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因になっていることはご存知だと思いますが、特発性血小板減少性紫斑病という血液疾患にも関与していることが示唆されており、昨年からは除菌療法の保険適応疾患に加わっています。

ピロリ菌の感染と鉄欠乏性貧血の関係についてのレポートも相次いでいます。
特に小児や10代の若年者で鉄剤の投与でも治療の難しいケースで、除菌をすることで貧血が改善するという報告が多いように思います。
中には鉄剤を投与せず、除菌するだけで貧血が治ってしまったという例もあります。

感染によりラクトフェリンという物質が胃の中で増えていることとの関連やピロリ菌が鉄を横取りして生きているのではないかということが言われています。
しかし、保菌者が必ずしも貧血になるわけではないので、ピロリ菌による鉄欠乏性貧血についてはまだまだ研究り余地がありそうですね。


なお、新しい情報はこちらに。→ 貧血と脳貧血を混同して生じている誤解


  参考 → http://www.kyodo.co.jp/kkservice/byouki/





  << 出血をきたす消化器疾患 第2回 >>


2011071219105823694.gif出血をきたす消化管疾患について話を進める前に、貧血について少し触れておきましょう。
消化管出血と貧血は切っても切れない関係にありますので。

貧血はヘモグロビン ( 血色素 ) が少なくなることを言い、赤血球数は問いません。
貧血の際には、やや強めの動作をしたときにたやすく動悸や息切れを感じるようになります。
100m全力疾走した後は心拍数が上がったり息がハーハーしたりしますが、酸素の需要が増したときに少ないヘモグロビンを有効活用して供給しようとするために、そのような症状が容易に出るわけですね。
他には疲れやすいとか頭痛、めまいといった症状あります。

ところが一般の方の中には、立ちくらみのことを貧血という言葉で表現し、医療機関を訪れるケースが結構見受けられます。
立ちくらみは、ヘモグロビンがたっぷり存在していても起こる症状なのです。
脳貧血」という俗称を医療関係者も使うことも混乱の一因だと思いますが、立ちくらみは「起立性低血圧」、小児ならば「起立性調節障害」等の疾患に該当することが多いと考えられます。

WHOの診断基準ではヘモグロビン値が、成人男性で13g/dl 未満成人女性で 12g/dl 未満を貧血と定義しています。
しかしこの基準を満たせば即治療というものでもありません。
同じヘモグロビン値でも、怪我などでの急性出血の場合と知らぬ間に緩やかに貧血が進行する場合とでは、症状が異なります。
仮にヘモグロビン値が9g/dlであったとします。
急性出血の場合なら患者さんは青ざめ、動けばフラフラ。
これに対して緩やかに進行した場合、全く症状を自覚しない方が結構いらっしゃいます。
従って、検査値だけではなく、原因や日常生活上の自覚症状の有無などを鑑みて治療法や治療のタイミングを探っていきます。

さて、臨床上もっともよく見られる貧血は「鉄欠乏性貧血」です。
さまざまな原因で生じますが、消化管からの慢性的な出血も疑っていかなくてはならない病態です。
診断基準は日本鉄バイオサイエンス学会が作成したものがあります。

 ①ヘモグロビン < 12g/dl、②総鉄結合能 ≧ 360μg/dl、③血清フェリチン < 12ng/ml

血清鉄の多寡が含まれていない点は注目ですね。
②③は鉄欠乏性貧血を疑わない限り、一般的な採血では通常調べない項目です。
しかし、①はごく普通に調べる検査項目ですし、同時に算出され赤血球の大きさをみる平均赤血球容積 ( MCV ) という指標があるのですが、これである程度鉄欠乏状態を推測することができます。
MCV の基準値は 90±10 fl 。
鉄欠乏性貧血ではどういうわけか赤血球が小さくなるので、80以下と低い数値を示すことが多いのです。
鉄欠乏性貧血の場合、ヘモグロビン値が一桁になったあたりで治療を始めることが基本。
しかし、なぜ鉄が少ない状態を招いているのか、その原因を明らかにするために一度は消化管も精査する必要があります。

  参考 → http://jbis.sub.jp/fe/04-01/0042.html

  << 胃食道逆流症 第3回 >>


2010070914065018686.gif♦♦ 胃液の逆流で起こる様々な症状

前回述べましたように、胃液が食道に逆流して胸やけや呑酸といった症状が起こることは納得できることと思います。
しかし、それ以外にも実にさまざまな症状が生じることがわかってきています。
それは・・・
胸痛、慢性の咳や喘息、咽喉頭症状、睡眠障害、中耳炎、虫歯、副鼻腔炎、肺炎や肺線維症などです。

♦♦ 逆流で中耳炎が…

中耳炎に関しては、中耳の浸出液を調べたらペプシンが検出され、胃薬を服用させて症状が改善したという報告がいくつかあります。
ペプシンは胃の主細胞だけが作る消化酵素で通常は中耳に存在しないはずですから、胃液の逆流が中耳炎の原因の一つになっていることは否定できません。

♦♦ 逆流で虫歯も…

虫歯と胃液の関係については今盛んに歯磨きのテレビCMでアピールされています。
体の中で最も硬い組織である歯のエナメル質の最大の弱点が酸ということもあって胃酸との関連性に興味が持たれたのでしょうが、胃食道逆流症 ( GERD ) で歯牙酸食の頻度が高いことが報告されています。
胃酸を中和する唾液が存在する口腔内で虫歯のすべての原因が GERD にあるわけでもないでしょうが、原因の一つとなりうると考えられています。

♦♦ その他にこんな症状も

他の疾患や症状についても、GERDの有無でグループ分けをしてGERDがあるとこれらの症状を有するものが多いこと、胃薬で症状が治る割合が高いことなどからGERDとの関連が推測されています。

実際、心臓の痛みだと思っていろいろ調べたけれども異常がなく胃薬を飲んだら胸痛が治った、とか慢性的に悩まされていた咳が胃薬で落ち着いたとかいう例をこれまでいくつか経験しています。

また、高度の貧血をきたす場合もあります。
胃液の逆流が原因で下部食道に高度の炎症をきたして慢性的にじわじわ出血している例を主に腰の曲がった高齢者で見受けることがあります。

胃酸の逆流が単に胸やけ程度にとどまらない多様な食道外病変を引き起こすことは理解いただけたと思います。
このGERDをチェックするのに重要なのはやはり内視鏡による検査となりますが、普通の経口内視鏡よりも経鼻内視鏡の方が威力を発揮します。
これについては次回。


↑このページのトップヘ