野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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逆流性食道炎

数年ぶりに経鼻内視鏡についてです。

当院で2006年11月に導入した頃は、経鼻内視鏡がまだまだ珍しい頃でした。
今や当たり前の検査手段になってきたこともあって、積極的にアピールする機会もすっかり減っていました。
また、コロナ禍で内視鏡検査実施数が落ちていましたが、それも回復傾向にあるので久しぶりに書いてみることにしました。

経鼻内視鏡


経鼻内視鏡によるメリットは過去にもたくさん書いてきましたので、最後に貼ったリンクを参考にしていただきたいと思います。
今回は、特に強調したい点を取り上げます。

当院では、検査時に鎮静剤も胃の動きを止める鎮痙剤も用いません
  このため、検査終了後の安静を必要とせず、すぐに帰宅いただけます。

鎮静剤を使わないため、逆流性食道炎の診断が詳細に行なえます
  息を吸い込んでもらうと、食道と胃の境目の部分がきれいに観察できるようになるのです。
  また、経口と違って嘔吐反射がほとんどないので、ブレのないきれいな静止画像が得られます。

鎮痙剤を使わないので、胃の出口付近 ( 前庭部 ) の蠕動運動を観察することができます
  機能性ディスペプシアではこの運動の強さや周期に変化がみられることがあります。
  それを元にした薬の選択が可能となります。


機能性ディスペプシアについては、医療者側の理解部不十分で、適切な治療が行なわれていないケースがあります。
この疾患で不調が長く続いている方は、経鼻内視鏡による蠕動運動のチェックをおこなうと、生活の質の改善につながる可能性があります。




   ■ 当院の経鼻内視鏡検査について
   ■ 自分で内視鏡をやってみました
   ■ 経鼻内視鏡、来たる
   ■ 経鼻内視鏡のメリット
   ■ 鼻から胃カメラde健康チェック
   ■ 経鼻内視鏡 1年
   ■ 当院の経鼻内視鏡 1年
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   ■ 経鼻内視鏡の合併症
   ■ 使ってみましたウーロン茶
   ■ 内視鏡医にウーロン茶ブーム
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   ■ 新機種で検査始めました
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   ■ 逆流性食道炎の内視鏡写真
   ■ のど元で胃液が作られる !?
   ■ 口臭も、歯ぎしりも
   ■ 経鼻内視鏡を簡単にあきらめるの ?
   ■ 経鼻内視鏡を扱うようになって5年経ちました
   ■ 最新の経鼻内視鏡の美しい画質
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   ■ 当院の経鼻内視鏡検査 5周年
   ■ 当院の経鼻内視鏡、丸6年です
   ■ 経鼻内視鏡を扱って丸7年
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   ■ 当院の経鼻内視鏡検査、丸8年となりました
   ■ 経鼻内視鏡、機種更新
   ■ ピロリ菌の検査・除菌には内視鏡検査が必須です
   ■ 経鼻内視鏡を導入して10年  
   ■ レーザの特殊光で胃を観察

 ◆ 診療所ライブラリー 195 ◆


胃は歳をとらないピロリ菌のこと・機能性ディスペプシアのこと・逆流性食道炎のこと。
主にこの3つのことについて、常に研究の最先端をいく著者がわかりやすく解説している本です。


知覚過敏という言葉を聞いて、真っ先に思い浮かべるのは歯ではないかと思います。
実は、食道や胃においても重要な要素であることがわかってきています。

まず、胃食道逆流症のうちの一つ、非びらん性胃食道逆流症。
逆流性食道炎と同じような症状があるのに内視鏡で異常が認められない疾患です。( →  参考「トウガラシを口に入れてもすぐに辛く感じないのは」)
参考で示した過去の記事を参照していただきたいのですが、食道と胃のつなぎ目の部分の知覚過敏が原因とされており、意外にも胃腸の粘膜に大敵とされるロキソニンなどの解熱鎮痛薬が有効なことがあります。

次に、機能性ディスペプシアの中の心窩部痛症候群
これも胃の知覚過敏が原因で、胃酸の刺激や胃の収縮を痛みとして感じ取っているとされています。
心窩部痛症候群に解熱鎮痛剤を試したことはありません。
というのも、柴胡桂枝湯という漢方薬が奏功するケースが多いからです。


一般の方々には聞きなれない疾患も科学的な根拠に基づいて非常にわかりやすく解説しているこの本、お勧めです。

 ◆ 診療所ライブラリー 172 ◆


シニアの逆流性食道炎胃・十二指腸の潰瘍や胃がんをどう治療していくか。
私が医者になって内視鏡をいじり始めた頃は、それが大きな課題でした。
命に関わるような潰瘍やがん治療に明け暮れていた昔は、逆流性食道炎なんてたかが胃液が食道に逆流してくるだけの話ではないか、と多くの消化器医はあまり問題にしてきませんでした。

ピロリ菌の除菌療法が普及すると景色は大きく変わり、逆流性食道炎に悩む方は本当に増えています。
胸やけだけでなく、のどの違和感・咳・虫歯・中耳炎・不眠などの原因になりうる疾患で、日常生活に支障をきたしている方も多くいらっしゃいます。
胃酸を抑える薬の内服が治療の基本になりますが、それだけでは症状が落ち着かないケースもあり、そこは消化器医の腕の見せ所になります。
逆流性食道炎の診断には経鼻内視鏡が適していますし、今の治療に満足していない方も含めて、是非私に相談して下さい。
一緒に日常の質を改善していきましょう。

10年前になりますが、逆流性食道炎について9回シリーズで書いたブログ記事がありますので、こちらも参考に。〔 → 胃食道逆流症 (逆流性食道炎) 

 
♦♦♦♦♦

さて、今回の本紹介の本は、そんな逆流性食道炎についてまとめてある本です。
シニアの方にも読みやすいように、大きな字で 図版も多くとてもわかりやすいですよ。

〖 今月のつぶやきから 101 〗


雨合羽集めた医療情報を、自分の備忘録代わりとしてツイッターでつぶやいていますが、今月はその数がやや少なめでした。
5月は近隣の小学校や幼稚園の健診が集中するせいもあったと思います。
1ヶ月分の中から面白そうな情報を振り返ってみます。



最初は、今月も新型コロナウイルス絡みで、本題からはやや外れた情報を3つ。

① 大阪市長が防護服の代用になると雨合羽の寄付を呼びかけましたが、これからの季節、着用しての長時間作業は蒸れて耐えられるものではありません。通気性は大事です。

② この日の南日本新聞は、数ページにわたって鹿児島の名所の鮮やかな写真を紙面の上部に大きくレイアウト。非常に素晴らしい後世に残るアイデアでした。

③ マスクにはまだまだ改良の余地がありそうですね。


次に、食べ物に関する話題を6つ。

④ 栄養学は細かい栄養素に分解して物事を考える傾向が強いですが、このように組み合わせてどうなるかという研究はもっともっとやっていかなくてはなりません。

⑤ アイデアはいいのですが、糊とハチミツの色は見た目で区別がつきづらく、重大な事故を招きかねないと懸念しています。

⑥ 試験に受かる食事メニューを編み出したら商売になりそうです。

⑦ 体に良さそうな響きのある抗酸化物質ですが、何ごとも行き過ぎは禁物のようです。

⑧ 胃食道逆流症に限らず妊娠の時など、左側臥位って人間にとって楽に過ごせることの多い体位なのです。

⑨ コーヒーの飲み過ぎで、関節に影響があるとは意外でした。

 ◆ 診療所ライブラリー 169 ◆


誤嚥性肺炎最近、食べ物や薬をのどに引っかけてしまうことが増えてきました。
今日紹介する本の中にも「飲み込む力の低下は40代、50代から始まって」いると書いてありますが、それを実感する日々です。
でも、のどの筋肉は何歳からでも鍛えられるとか。
紹介されているとても簡単な体操を活用していこうと思います。

ご存じかも知れませんが、日本人の死因の上位に肺炎が挙げられます。
一時は死因第三位になったこともあり、また年齢が上がるほどその比率は高くなっていくので、肺炎対策は重要です。
「高齢者の肺炎の7割は誤嚥と関係がある」ということで、本書では誤嚥性肺炎の原因やその対策方法をイラスト入りで非常に詳しく解説してあります。
高齢者を介護する立場にある方も多いと思いますが、とても実用的な本なので是非一読して下さい。


ただ、ちょっと気になる間違いを指摘しておきます。
胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) についてなのですが、「横向きに寝る場合は、右を下にして寝ると、胃から腸への食物の移動が促され、逆流を予防します」と書いてあります。
このような解説を時々見かけるのですが、全くの逆で、左を下( 左側臥位 ) にしなければいけません。
下のイラストを見て下さい。

胃左側臥位右側臥位の胃

左から、立位・左側臥位・右側臥位にした時の胃の向きです。
大事なのは食道と胃の位置関係で、中央のイラストの左側臥位だと食道が上方にきます。
立位で胃は左側 ( イラストでは向かって右側 ) に大きく張り出していますが、この張り出しが左側臥位だと下になります。
この部分に胃液が溜まるのです。
よって逆流しにくくなります。
右端のイラストの右側臥位だと、逆流を助長してしまうのは説明するまでもないでしょう。
胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) でお悩みの方が就寝される際は、左側臥位を意識して下さいね。 

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第三回 〕


♦♦♦ 唾液も出す、胃も動かすニザチジン ♦♦♦

現在6種類あるH2ブロッカーの中で、ニザチジン ( 先発品名 アシノン ) には他にないとても特徴的な働きが2つあります。
それは、唾液分泌促進作用消化管運動亢進作用です。
いずれも副交感神経の働きが高まる結果として起こっていると推測されます。

シナプス副交感神経細胞の終末部分と臓器細胞の接合部分 ( シナプス ) にはわずかに隙間があります。
副交感神経の終末部分からこの隙間にアセチルコリンが出て、それを臓器側は受容体で受け取って副交感神経の意図を理解します。
隙間の部分にアセチルコリンがいつまでも残っていると、ずっと臓器を刺激し続けることになるので、アセチルコリンエステラーゼという物質が働いてアセチルコリンを分解してしまいます。
ニザチジンは、この掃除役であるアセチルコリンエステラーゼの邪魔をして、結果として副交感神経の働きを強化しているものと推測されています ( アセチルコリンエステラーゼ阻害作用と言います ) 。


♦♦♦ ニザチジンの強力な唾液分泌作用 ♦♦♦

ドライマウス ( 口腔内乾燥症 ) という言葉をよく耳にすると思います。
実際、ドライマウスでお困りの方も多いことでしょう。
欧米では4人に1人が罹っているとの報告もあるくらいよくみられる疾患で、原因としては、

① 加齢による唾液分泌の減少
② シェーグレン症候群
③ 逆流性食道炎や糖尿病など全身疾患に起因するもの
④ 薬の副作用
⑤ 咀嚼回数の減少
⑥ 口呼吸

などが挙げられています。
シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などが障害される自己免疫性疾患です。

ドライマウス用の薬があるから、わざわざ胃薬であるニザチジンをチョイスする意味はないでしょ、と思われるかも知れません。
確かにニザチジンはドライマウスには適用がありませんが、ドライマウス用の薬は原則としてシェーグレン症候群にしか使えませんし、薬の価格が高いです。
そして、何といってもニザチジンの唾液分泌刺激作用はこれらの薬を凌駕するものがあるのです。

それを示した重要な論文をみてみましょう。( → 口腔内乾燥症に対する薬物治療の効果 )

1. シェーグレン症候群に伴う口腔内乾燥の改善薬である塩酸セビメリン ( エボザック )
2. ドライマウスに有効とされる麦門冬湯
3. ニザチジン

の3つの薬剤について、安静時唾液量とガムテストによる刺激唾液量を服用前と服用後90日後に比較したものです。
シェーグレン症候群治療に特化した塩酸セビメリンに比べ、ニザチジンによる唾液分泌増加量が優るのです。
恐らく、今存在する治療薬の中でニザチジンが最も強力に唾液分泌を促す作用を持つものと考えられます。
( グラフは論文の「薬剤投与前後における安静時唾液量の変化」より。クリックで拡大します。 )

唾液分泌のグラフ



♦♦♦ ニザチジンの消化管運動に対する作用 ♦♦♦

次に、ニザチジンの持つ消化管運動に対する作用について、ちょっと専門的になりますが解説します。
これまでに、胃排出能の促進・消化管運動の亢進などが報告されています。

胃の排出能とは、胃の出口に近い前庭部という部分の収縮により食べ物を十二指腸に送り出す能力のこと
この働きがニザチジンで高まることが動物やヒトを使った研究でわかっています。
犬を用いた実験で食後の胃の筋の収縮の強さをみたところ、ニザチジンの常用量 300mgは、イサプリド ( ガナトン ) やモサプリド ( ガスモチン ) の常用量の1.3倍程度の働きを有するようです。( → こちら )
イサプリドもモサプリドも消化管の動きを活発にする代表的な薬 ( 消化管運動機能改善薬 ) 
です

胃腸の運動また、動物実験で、胃に限らず小腸などの動きの活性化も観察されており、特に、IMCと呼ばれる動きが目立つようになります。
IMCとはInterdigestive migrating contraction の略。
空腹時に、胃・十二指腸から始まり小腸を伝って回腸末端に達すると、再び胃・十二指腸から新たな強い収縮の波が起こり・・と
繰り返していきます。
これをIMCと呼んでいます。
 ( → こちら )

さらに、下部食道括約筋 ( LES ) の部分にも作用します。
ニザチジンを服用すると、このLESの圧が通常よりも高くなります
胃の入口がしっかり閉まるようになるというわけですね。
また、食道と胃のつなぎ目の部分が一時的に緩む一過性LES弛緩 ( TLESR ) という現象が日常的にみられます。
この際に、胃液の逆流が発生すると考えられていますが、ニザチジンを服用するとこのTSLERが減り、食後の胃液の逆流も減ることが観察されています。 ( → こちら )

そして、機能性ディスペプシアに伴う様々な症状も緩和することが報告されています。( 後述 )


♦♦♦ ニザチジンから生み出された新薬 ♦♦♦

現在、機能性ディスペプシアにはアコチアミド ( アコファイド ) という治療薬があります。
この薬をニザチジンを販売しているメーカーが作ったと初めて聞いた時、アコチアミドはニザチジンをベースにしたんだろうなと推測しました。
併売している別のメーカーのMRさんに、そのことを質問したらよくわかっていませんでした。

しかし、このページを参照してみて下さい。 ( → こちら )
ニザチジンの構造をヒントにH2受容体の作用をなくし、末梢コリンエステラーゼ作用を引き出すためにおよそ数千個の化合物を合成・スクリーニングを経て誕生した」と書いてあります。
それだけ、ニザチジンのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用は魅力的だったのだと思います。

胃もたれ機能性ディスペプシアというのは、

① 食後の胃もたれ
② 早期飽満感
③ 心窩部痛
④ 心窩部の焼ける感じ

のうち少なくとも1つ以上の症状があって、その症状が重いため生活に悪影響を及ぼしており、症状が6カ月以上前からあり、3カ月以上症状が持続しているもので、内視鏡検査などをしても何も異常が見つからない場合に診断されます。
機能性ディスペプシアは「食後不定愁訴」と「心窩部痛症候群」の大きく2つに分類されます。
それについては10年ほど前に当ブログで解説していますので、参照して下さい。( それは本当に胃の痛み ?胃下垂と腹筋 )

アコチアミドは2013年に発売されましたが、処方するにあたって「上部消化管内視鏡検査等により,胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること」という面倒くさい条件があります。
現状では内視鏡を扱う医師でないと処方しづらく、その点は何とか改善してほしいものだと思います。


♦♦♦ ニザチジンをどのように活用するか ♦♦♦

ニザチジンだけが持つ作用を有効に活用する使い方を紹介します。

逆流性食道炎まず、胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) の治療です。
逆流性食道炎の治療を2ヶ月間プロトンポンプインヒビターと呼ばれる酸分泌抑制薬で行なって治癒した患者さんを、その後H2ブロッカーであるファモチジンとニザチジンの2群に分けて6ヶ月維持療法を行い再発予防効果を検討した報告があります。
その結果、ファモチジンでは約70%で再発したのに対し、ニザチジンでの再発率は40%だったようです。

唾液中には重炭酸塩が含まれているので、逆流した胃酸を中和する作用が期待できます。
唾液の量が増えれば、中和できる胃酸の量も増えるわけです。
また、前述したようにLES圧が高まったりTLESRが減ったりする結果、胃酸の逆流する機会も少なくなります。
本来の酸分泌も抑える働きを持つニザチジンは、 多面的に逆流性食道炎治療の強い味方になると思います。


また、普段からH2ブロッカーとモサプリドなどの消化管運動機能改善薬を一緒に服用している方も多いと思います。
この場合、H2ブロッカーをニザチジンにしたら、消化管運動機能改善薬が不要になることはもうおわかりですね。
最近問題になっているポリファーマシーの解消に一役買うことになります。


♦♦♦ ニザチジン、これには注意 ♦♦♦

シメチジンの回でも解説しましたが、ニザチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があり、お酒に強い人が飲酒前にニザチジンを飲むと酔いやすくなります。
シメチジンと違ってCYPの阻害作用はないので、シメチジンほど悪酔いはしないと考えられます。


頭が混乱なお、気をつけたいのは似たような一般名の薬剤があることです。
先発品名はテルネリンと言って、肩こりや腰痛、痙性麻痺などの症状に使われる薬があるのですが、この薬の一般名が「チザニジン」。
ニザチジンとは「ニ」と「チ」を入れ替えただけ、横文字でも「nizatidine」と「tizanidine」で、聞き間違いもしやすいと思いますので本当に気をつけたいところです。


次回は、私がよく使っているH2ブロッカーのもう一つ、ラフチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

( 2022年7月12日更新 )

きも『ピロリ菌除菌後、プロトンポンプ阻害薬 ( 以下 PPI ) を長期に服用すると胃がんのリスクが高まる( 本論文はこちら ) 。

先日、このような論文が Gut という雑誌に掲載されました。
PPIを長く連用するほど胃がんのリスクが高まり、ハザード比が1年以上で5.04、3年以上で8.34にもなるというもの。
PPIと同様に胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーという種類の薬ではハザード比が0.72で、このような傾向はなかったようです。

我々、消化器医には衝撃的な内容です。
ピロリ菌の除菌は、胃・十二指腸潰瘍の再発や胃がんの発症を予防するために行うものです。
でも、菌がいなくなると胃が本来の働きを取り戻して酸分泌が活発になるため、胃もたれや胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) を起こすことがあります。
そのため、どうしても酸分泌を抑える薬が必要になるケースがあるのです。


以前から、酸分泌抑制薬の長期連用の安全性には疑問が投げかけられていました。
「手術で胃を全摘しても生きていられるし問題はないのでは」とは消化器疾患の分野で高名な先生の言葉なのですが、実際、臨床の場において長らく処方していて困る場面に出くわしたことはほとんどありません。
しかし、これまでに
・ビタミンB12や鉄の吸収阻害
・胃酸による殺菌作用の低下に伴う肺炎や腸管感染症の増加
・骨折や認知症の増加
などの可能性が指摘されています。

丁寧にみていくと、ビタミンや鉄の吸収阻害、感染症の増加のエビデンスはありませんし、骨折については増加と変化なしの相反する報告があります。
認知症に関しても、診療記録からPPIの服用の有無で認知症の発生率の差をみた研究で、因果関係をはっきりさせたものではありません。


今回の報告で、ハザード比があまりに大きいのには驚いたのですが、作用機序はまだ未解明ですし、あくまで『ピロリ菌除菌後』という状況下での話です。
今後の研究の進展を見守りたいと思います。

 ◆ 診療所ライブラリー 135 ◆


胃もたれ私が医者になった頃に多かった胃・十二指腸潰瘍胃がんなどは、ピロリ菌の除菌療法が普及したことで、随分減ってきました。
かわりに上部消化管疾患で目立ってきたのが、逆流性食道炎機能性ディスペプシア

前者は以前からあったものの、ピロリ菌陰性の人が増えたり食の欧米化が進んできた結果、際立って増えてきました。
後者は、以前なら検査しても異常ないため、気のせいだと片づけられてきた疾患です。
潰瘍やがんからいわゆる不定愁訴に研究者の目が向いてきて、疾患概念が確立してきました。
しかし「ディスペプシア」という横文字をうまく日本語に表現できないせいもあって、患者さんはもちろん、消化器を専門としない医師にももうひとつ理解が進んでいない病気です。

この両者を中心に、胃の不調についてまとめられているのが今回紹介する『「胃もたれ・胸やけ」は治せる』です。
イラストがふんだんに使われていますし、非常にわかりやすく概念や治療法、生活習慣の改善などがまとめられていて、お勧めです。

いつも思うのですが、医療系の情報は横文字や数字が多いので、断然横書きが読みやすいと思います。
この本では、多くを占める図表中においては横書き、本文は縦書きです。
こういうのを難なく読み進めることができる日本人って希有な人種ですよね。


なお、機能性ディスペプシアについては、Rome III という国際診断基準の時代のものでしたら、当ブログ「心窩部にまつわる話」に書いてありますので参考にして下さい。

スルカインという薬の以前の添付文書の効能の所にこんな文章を見つけました。

「胃炎に伴う胃痛、嘔気、呑酸・嘈囃及び胃部不快感」

嘈囃」??
「そうそう」と読むそうです。
消化器を主な専門にしていながら、全く知らない言葉ですし、知らない症状です。
でも、ちゃんと添付文章の臨床効果の欄に「呑酸・嘈囃に対する有効率 85.4% ( 176 / 206 )」と書いてあるではないですか。( → こちら )
しっかり効果を調べたからには、そういう症状が存在するのは間違いありません。

しかし、辞書で調べても単語としては見つけられなかったので、それぞれの漢字の意味を探ってみました。

 嘈  さわがしい。かまびすしい。やかましい、またその声。
 囃  はやし。かけごえ。歌や舞を助ける声。歌に合わせて調子をとる鳴りもの。

胸やけ2何となく騒々しい声、と連想できそうですが、胃炎という消化器の症状としては全く理解できません。
効能書きの文章を改めてよく見ると、嘈囃の前は読点ではなく「・」。
呑酸 ( どんさん ) と連なった四文字の言葉のようで「呑酸嘈囃」で、胸やけを意味すると医学大辞典に載っています。
酸を飲んで、けたたましく大騒ぎをする・・。
確かに、鹿児島名産の黒酢など酸っぱいものを一気に飲むと、大抵の人はその刺激に思わず悲鳴を上げてしまいますよね。

ただ、嘈囃という二文字の言葉は中国医学の古典的書物にも見られ、これだけでも胸やけの意味になるようです。
傷寒論 ( しょうかんろん ) 」や「金匱要略 ( きんきようりゃく ) 」を解説した「類聚方広義 ( るいじゅほうこうぎ ) 」の中に「嘈囃胸を刺し」なんて文章も見られます。

対して「呑酸」ですが、逆流性食道炎が増えてきたこともあり、酸っぱいものがこみ上げてくることの意味に使われます。
しかし、漢字を額面通りに解釈すると「酸を呑む」です。
酸の流れる方向が逆のような気がしますけれども、胃酸がこみあげてくる症状を表すのに適切なのかどうか。
中には「呑酸」=「おくび」( げっぷ ) とする辞書もあるようですね。

胸やけを患者さんがどのように表現するかを調査した報告があるのですが、むかむか・胃が重い・胸が熱い・胃が痛い・食欲がない、などバリエーションが多彩であることがわかっています。
昔の人達が、この胸やけを表現するのに苦労して落ち着いたのが「呑酸嘈囃」という言葉ではなかったか、と勝手に推論する次第でありました。

なお、最新の効能書きからは「呑酸・嘈囃」の文字は消え、かわりに「胃部不快感」に改まっていることを付加しておきます。
ということは、どんさんそうそう = 胃部不快感 !? 
 

胃透視〖 今月のつぶやきから 15 〗


今月ほどつぶやきをたくさんリツイートしていただいたり、お気に入りに登録していただいたりした月は過去にありません。
どなたにどこまで届くのかわからないささやかな医療情報。
少しでも有用だと思っていただける方がいる限り続けていきたいと思います。
月末恒例ですが、反響の大きかったつぶやきの一部を紹介します。








  ○○ 学会レポート2013 その2 ○○


除菌今回の消化器病学会、参加できたのは初日だけでしたが、貴重な情報を多く得ることができました。

午前中に聞いたのは「HP除菌後の病態と対応」。
HP とはヘリコバクター・ピロリのことです。
日本でピロリ菌除菌が保険適用されたのが2000年11月のことでしたから、12年余の歴史がありますが、除菌後の消化管の病態変化について長期にわたるデータがかなり蓄積されてきました。

除菌すれば胃癌はかなり防げるのですが、ゼロとはならないことが知られています。
除菌が高齢で行われた場合、萎縮が強い場合、胃潰瘍がある場合、腸上皮化生がある場合などでリスクが高いことが報告されていました。
また、除菌後10年を越えて胃癌を生じたケースもあることなどから、除菌後5-8年までは毎年、その後は隔年で内視鏡検査をすべきではという提案もありました。
除菌後の適切な胃の検診のタイミングについて、やがて意見が集約されることでしょう。

また、除菌による酸分泌上昇により懸念される逆流性食道炎についての演題もありました。
内容については省略しますが、提示された内視鏡写真について一言。
学会で発表される胃の内部の写真は胃液などの付着のないきれいな物が多いのに、逆流性食道炎の診断に重要な食道胃接合部の写真はお粗末な限り。
あれじゃ正確な診断はできないでしょう、と場末の内視鏡医が嘆いてしまうようではだめです。

参考 → 胃食道逆流症の検査には経鼻内視鏡 

≪ 過去記事ウォッチング 10 ≫


ypq8ki2x.gif消化性潰瘍や食道静脈瘤は減少し、逆流性食道炎が目に見えて増えてきている。
私が医師になってからの
このような消化管病変の移り変わりについては、このブログでも何回か述べさせてもらっています。

逆流性食道炎に対しては、Proton pump inhibitor ( PPI ) と呼ばれる酸分泌抑制薬が最もよく使われる薬剤ですが、奇妙なのは8週間を一区切りとする制約があること。
胃・十二指腸潰瘍にも PPI 投与期間に制約がありますが、これはピロリ菌除菌と併せると治る病気。
しかし、逆流性食道炎に対してはは逆流する胃液中の塩酸濃度を緩和するという対症療法に過ぎません。
心窩部痛や胸やけ、呑酸などのひどい症状の方が増えてきている現状に全く合わないこの投与期間制限は改めないといけませんね。

さて、PPI だけでは十分に症状が改善しない方に、私が好んで処方するのが海藻を原料に作られるアルギン酸塩 ( アルロイドG ) という液体の薬剤。
傷の表面を覆い痛みを和らげてくれるのですが、 不評なのはその味とのど越しの悪さ。
なので、服用前に「原料は海藻で、その海藻のぬめりの成分が傷を保護して酸から守ってくれます」と説明しておくと嫌がる方はほとんどいなくなります。

アルギン酸についての豆知識は、ブログを始めて間もない頃「人工イクラと胃薬」に書いています。 

胃の模型写真に撮ったのは、胃潰瘍の説明に使ってくださいともらった胃の模型。
裏側には別の模型があり、逆流性食道炎にも使えるようになっています。

これに限らずほとんどの胃の構造模型にみられる間違いがあるのですが、わかりますでしょうか。
それは胃の中全体に気持ち悪いくらいに作られているヒダです。

周囲が赤く真ん中が白いの胃潰瘍のある部分を胃角部と言います。
これよりも左側、胃の出口である幽門にかけての部分は幽門前庭部と名付けられていますが、内視鏡で観察すると縦方向のヒダはこれほどはっきりと存在しません。

胃のヒダ実際の内視鏡画像を提示します。
上の弧を描いている部分が胃角部です。
その真下の部分から手前の胃体部にはヒダが確認できますが、その奥の前庭部ではヒダが追えなくなるのがおわかりでしょう。

ヒダにはどのような役割があるのでしょうか。
特殊な検査で確認されているのは、胃体部では食べ物が行ったり来たりしていること。
ヒダが食べ物の流れをガイドしている可能性があります。 
また、食べ物の有無で胃の大きさが変化しますが、 その際の蛇腹のような役割もあるのでないかと思います。
内視鏡検査では胃の動きを止める注射をしますし、食べ物があると視界不良なので絶食の状態で観察をします。
なので、検査中に消化の際の動きを肉眼で観察するのはまず無理。


前庭部では歯磨き粉チューブを絞るようなとでも表現しましょうか、砂時計のようなくびれができてそれが幽門へ向かって動いていきます。 
この動きは、注射していても観察できる場合があります。
幽門に近いほど輪状筋と呼ばれる胃の筋肉が発達していて、次の十二指腸へ内容物を送り込むような運動をするわけです。
この途中で縦方向のヒダが一時的に現れますが、普段はつるんとしています。
胃は入り口付近と出口付近で運動だけでなく、粘膜の細胞レベルでも随分違った性格を持っています。

胃の動きが乱れることが機能性ディスペプシアと呼ばれる疾患の一因とも考えられています。
消化管の運動と症状との関連性が簡単に調べられる検査法が開発されると面白いのになと思っています。 

〖 今月のつぶやきから 8 〗


献血いつもなら興味深い医療ニュースに対してコメントを添えることが多い私の Twitter 上でのつぶやきですが、今月は臨床の現場で遭遇したことに思案を巡らすなど、以前と比べるとつぶやく内容に少し変化があったように思います。
その中で献血に関するものに多くのリツイートをいただきました。
それ以外にも主立ったものをいくつか掲載します。

なお、直近12回分は右側のカラムの「tweet してます」で読むことができます。







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2010111715542930716.gifさて、5月末からぼちぼちと書いてきた胃食道逆流症に関する連載も最終回。
本来なら、第3回で取り上げるべきだったかも知れませんが、胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状についての追加説明です。

♦♦ 胃液の逆流で口臭 !?

まず口臭について。

口臭の原因の8-9割は、歯周病や虫歯など口腔内にあるとされています。
あと、呼気ですよね。
ニンニクを食べて口臭がするのは、成分が血液を介して呼気に出るからです。
ガムを噛んで対策を講じる方もいると思いますが、あまり意味がないのです。

口臭が気になるので胃の検査をしてくれ、という方がたまにいらっしゃいますが、これまでは胃が原因のことは極めて少ないと説明してきました。
なぜなら、食道の入り口は物を飲み込むとき以外は閉じているので、臭いが漏れてくることはまず考えられないからです。
それに口臭を訴えてはおられるけれどもそれが他覚的に確認できない、自分だけが気にしている自臭症である場合が多いからです。

ところが、最近の研究で、口臭の一因となる舌の付け根付近の細菌増殖は GERD が原因と推定されるようになってきました。
口臭と GERD の関連性を示す報告が散見されるようになってきましたので、口臭を訴えられる方にも内視鏡検査をお勧めしております。
経鼻内視鏡だとある程度舌の付け根付近の観察もできますよ ( 経口だと無理です ) 。

♦♦ 胃液の逆流で歯ぎしり !?

そして、歯ぎしり

これは、地元鹿児島大学の歯学部の研究が有名です。
咬合不全の患者さんがたまたま GERD を合併していて、内科で酸分泌抑制薬を処方してもらったところ、顎の痛みが軽くなっただけでなく、薬の内服前に比べて歯ぎしりの回数が著しく減ったことから研究がスタートしたようです。
GERD を治療すると歯ぎしりは減り、逆に酸の逆流によって食道内のpHが低くなるのに合わせて歯ぎしりが活発になることもデータで示し、その関連性を見事に証明しています。
歯ぎしりによって唾液の分泌を促し、GERD の症状を緩和しようとしているのでは、と推測されています。

個人的には、幼児の歯ぎしりが GERD に関連したものなのかどうか気になります。
もしそうだとしたら、GERD はかなり若年の世代においてもしっかり治療しなくてはならない疾患ということになりますよね。


GERD は直接生命に危険を及ぼすような疾患ではありませんが、口臭や歯ぎしりなども含め生活の質に関わってくる疾患です。
これまでのこのシリーズを改めて読んでいただき、少しでも気になることがあれば、GERD の診断にはうってつけの経鼻内視鏡による検査を是非お勧めします。



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