野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
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逆流性食道炎

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第三回 〕


♦♦♦ 唾液も出す、胃も動かすニザチジン ♦♦♦

現在6種類あるH2ブロッカーの中で、ニザチジン ( 先発品名 アシノン ) には他にない特徴が2つあります。
それは、唾液分泌促進作用消化管運動亢進作用です。
いずれも副交感神経の働きが高まる結果として起こっていると推測されます。

シナプス副交感神経細胞の終末部分と臓器細胞の接合部分 ( シナプス ) にはわずかに隙間があります。
副交感神経の終末部分からこの隙間にアセチルコリンが出て、それを臓器側は受容体で受け取って副交感神経の意図を理解します。
隙間の部分にアセチルコリンがいつまでも残っていると、ずっと臓器を刺激し続けることになるので、アセチルコリンエステラーゼという物質が働いてアセチルコリンを分解してしまいます。
ニザチジンはこの掃除役であるアセチルコリンエステラーゼの邪魔をして、結果として副交感神経の働きを強化しているものと推測されています ( アセチルコリンエステラーゼ阻害作用と言います ) 。


♦♦♦ ニザチジンの強力な唾液分泌作用 ♦♦♦

ドライマウス ( 口腔内乾燥症 ) という言葉をよく耳にすると思いますし、実際ドライマウスでお困りの方も多いことでしょう。
欧米では4人に1人が罹っているとの報告もあるくらいよくみられる疾患で、原因としては、

① 加齢による唾液分泌の減少
② シェーグレン症候群
③ 逆流性食道炎や糖尿病など全身疾患に起因するもの
④ 薬の副作用
⑤ 咀嚼回数の減少
⑥ 口呼吸

などが挙げられます。
シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などが障害される自己免疫性疾患です。

ドライマウス用の薬があるから、わざわざ胃薬であるニザチジンをチョイスする意味はないでしょ、と思われるかも知れません。
確かにニザチジンはドライマウスには適応がありませんが、ドライマウス用の薬も原則としてシェーグレン症候群にしか使えませんし、値段が高いです。
そして、何といってもニザチジンの唾液分泌刺激作用はこれらの薬を凌駕するものがあるのです。

それを示した論文をみてみましょう。( → 口腔内乾燥症に対する薬物治療の効果 )

1. シェーグレン症候群に伴う口腔内乾燥の改善薬である塩酸セビメリン ( エボザック )
2. ドライマウスに有効とされる麦門冬湯
3. ニザチジン

の3つの薬剤について、安静時唾液量とガムテストによる刺激唾液量を服用前と服用後90日後に比較したものです。
シェーグレン症候群治療に特化した塩酸セビメリンに比べ、ニザチジンによる唾液分泌増加量が優るのです。
恐らく、今存在する治療薬の中でニザチジンが最も強力に唾液分泌を促す作用を持つものと考えられます。
( グラフは論文の「薬剤投与前後における安静時唾液量の変化」より。クリックで拡大します。 )

唾液分泌のグラフ



♦♦♦ ニザチジンの消化管運動に対する作用 ♦♦♦

次に、ニザチジンの持つ消化管運動に対する作用について、ちょっと専門的になりますが解説します。
これまでに、胃排出能の促進・消化管運動の亢進などが報告されています。

胃の排出能とは、胃の出口に近い前庭部という部分の収縮で食べ物を十二指腸に送り出す能力のこと。
この働きがニザチジンによって高まることが動物やヒトを使った研究でわかっています。
犬を用いた実験で食後の胃の筋の収縮の強さをみたところ、ニザチジンの常用量 300mgは、イサプリド ( ガナトン ) やモサプリド ( ガスモチン ) の常用量の1.3倍程度の働きを有するようです。( → こちら )
イサプリドもモサプリドも消化管の動きを活発にする代表的な薬 ( 消化管運動機能改善薬 ) 
です

胃腸の運動また、動物実験で、胃のみならず小腸などの動きの活性化も観察されており、特に、IMCと呼ばれる動きが目立つようになります。
IMCとはInterdigestive migrating contraction の略。
空腹時に、胃・十二指腸から始まり小腸を伝って回腸末端に達すると、再び胃・十二指腸から新たな強い収縮の波が起こり・・と
繰り返していきます。
これをIMCと呼んでいます。
 ( → こちら )

さらに、下部食道括約筋 ( LES ) の部分にも作用します。
ニザチジンを服用すると、このLESの圧が通常よりも高くなります。
胃の入口がしっかり閉まるようになるというわけですね。
また、普段から食道と胃のつなぎ目の部分が一時的に緩む一過性LES弛緩 ( TLESR ) という現象がみられます。
この際に、胃液の逆流が発生すると考えられていますが、ニザチジンを服用するとこのTSLERが減り、食後の胃液の逆流も減ることが観察されています。 ( → こちら )

そして、機能性ディスペプシアに伴う様々な症状も緩和することが報告されています。( 後述 )


♦♦♦ ニザチジンから生み出された新薬 ♦♦♦

現在、機能性ディスペプシアにはアコチアミド ( アコファイド ) という治療薬があります。
この薬をニザチジンを販売しているメーカーが作ったと初めて聞いた時、アコチアミドはニザチジンをベースにしたんだろうなと推測しました。
併売している別のメーカーのMRさんに、そのことを質問したらよくわかっていませんでした。

しかし、このページを参照してみて下さい。 ( → こちら )
「ニザチジンの構造をヒントにH2受容体の作用をなくし、末梢コリンエステラーゼ作用を引き出すためにおよそ数千個の化合物を合成・スクリーニングを経て誕生した」と書いてあります。
それだけ、ニザチジンのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用は魅力的だったのだと思います。

胃もたれ機能性ディスペプシアというのは、

① 食後の胃もたれ
② 早期飽満感
③ 心窩部痛
④ 心窩部の焼ける感じ

のうち少なくとも1つ以上の症状があって、その症状が重いため生活に悪影響を及ぼしており、症状が6カ月以上前からあり、3カ月以上症状が持続しているもので、内視鏡検査などをしても何も異常が見つからない場合に診断されます。
機能性ディスペプシアは「食後不定愁訴」と「心窩部痛症候群」の大きく2つに分類されます。
それについては10年ほど前に当ブログで解説していますので、参照して下さい。( それは本当に胃の痛み ?胃下垂と腹筋 )

アコチアミドは2013年に発売されましたが、処方するにあたって「上部消化管内視鏡検査等により,胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること」という面倒くさい条件があります。
現状では内視鏡を扱う医師でないと処方しづらく、その点は何とか改善してほしいものだと思います。


♦♦♦ ニザチジンをどのように活用するか ♦♦♦

ニザチジンだけが持つ作用を有効に活用する使い方を紹介します。

逆流性食道炎まず、胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) の治療です。
逆流性食道炎の治療を2ヶ月間プロトンポンプインヒビターと呼ばれる酸分泌抑制薬で行なって治癒した患者さんを、その後H2ブロッカーであるファモチジンとニザチジンの2群に分けて6ヶ月維持療法を行い再発予防効果を検討した報告があります。
その結果、ファモチジンでは約70%で再発したのに対し、ニザチジンでの再発率は40%だったようです。

唾液中には重炭酸塩が含まれているので、逆流した胃酸を中和する作用が期待できます。
唾液の量が増えれば、中和できる胃酸の量も増えるわけです。
また、前述したようにLES圧が高まったりTLESRが減ったりする結果、胃酸の逆流する機会も少なくなります。
本来の酸分泌も抑える働きを持つニザチジンは、いろんな側面から逆流性食道炎治療の強い味方になると思います。


また、普段からH2ブロッカーとモサプリドなどの消化管運動機能改善薬を一緒に服用している方も多いと思います。
この場合、H2ブロッカーをニザチジンにしたら、消化管運動機能改善薬が不要になることはもうおわかりですね。
最近問題になっているポリファーマシーの解消に一役です。


♦♦♦ ニザチジン、これには注意 ♦♦♦

シメチジンの回でも解説しましたが、ニザチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があり、お酒に強い人が飲酒前にニザチジンを飲むと酔いやすくなります。
シメチジンと違ってCYPの阻害作用はないので、シメチジンほど悪酔いはしないと考えられます。


頭が混乱もう一つ気をつけたい点として、似たような一般名の薬剤があることです。
先発品名はテルネリンと言って、肩こりや腰痛、痙性麻痺などの症状に使われる薬があるのですが、この薬の一般名が「チザニジン」。
ニザチジンとは「ニ」と「チ」を入れ替えただけ、横文字でも「nizatidine」と「tizanidine」で、聞き間違いもしやすいと思いますので本当に気をつけたいところです。


次回は、私がよく使っているH2ブロッカーのもう一つ、ラフチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

きも『ピロリ菌除菌後、プロトンポンプ阻害薬 ( 以下 PPI ) を長期に服用すると胃がんのリスクが高まる( 本論文はこちら ) 。

先日、このような論文が Gut という雑誌に掲載されました。
PPIを長く連用するほど胃がんのリスクが高まり、ハザード比が1年以上で5.04、3年以上で8.34にもなるというもの。
PPIと同様に胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーという種類の薬ではハザード比が0.72で、このような傾向はなかったようです。

我々、消化器医には衝撃的な内容です。
ピロリ菌の除菌は、胃・十二指腸潰瘍の再発や胃がんの発症を予防するために行うものです。
でも、菌がいなくなると胃が本来の働きを取り戻して酸分泌が活発になるため、胃もたれや胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) を起こすことがあります。
そのため、どうしても酸分泌を抑える薬が必要になるケースがあるのです。


以前から、酸分泌抑制薬の長期連用の安全性には疑問が投げかけられていました。
「手術で胃を全摘しても生きていられるし問題はないのでは」とは消化器疾患の分野で高名な先生の言葉なのですが、実際、臨床の場において長らく処方していて困る場面に出くわしたことはほとんどありません。
しかし、これまでに
・ビタミンB12や鉄の吸収阻害
・胃酸による殺菌作用の低下に伴う肺炎や腸管感染症の増加
・骨折や認知症の増加
などの可能性が指摘されています。

丁寧にみていくと、ビタミンや鉄の吸収阻害、感染症の増加のエビデンスはありませんし、骨折については増加と変化なしの相反する報告があります。
認知症に関しても、診療記録からPPIの服用の有無で認知症の発生率の差をみた研究で、因果関係をはっきりさせたものではありません。


今回の報告で、ハザード比があまりに大きいのには驚いたのですが、作用機序はまだ未解明ですし、あくまで『ピロリ菌除菌後』という状況下での話です。
今後の研究の進展を見守りたいと思います。

 ◆ 診療所ライブラリー 135 ◆


胃もたれ私が医者になった頃に多かった胃・十二指腸潰瘍胃がんなどは、ピロリ菌の除菌療法が普及したことで、随分減ってきました。
かわりに上部消化管疾患で目立ってきたのが、逆流性食道炎機能性ディスペプシア

前者は以前からあったものの、ピロリ菌陰性の人が増えたり食の欧米化が進んできた結果、目立って増えてきました。
後者は、以前なら検査しても異常ないため、気のせいだと片づけられてきた疾患です。
潰瘍やがんからいわゆる不定愁訴に研究者の目が向いてきて、疾患概念が確立してきました。
しかし「ディスペプシア」という横文字をうまく日本語に表現できないせいもあって、患者さんはもちろん、消化器を専門としない医師にももうひとつ理解が進んでいない病気です。

この両者を中心に、胃の不調についてまとめられているのが今回紹介する『「胃もたれ・胸やけ」は治せる』です。
イラストがふんだんに使われていますし、非常にわかりやすく概念や治療法、生活習慣の改善などがまとめられていて、お勧めです。

いつも思うのですが、医療系の情報は横文字や数字が多いので、断然横書きが読みやすいと思います。
この本では、多くを占める図表中においては横書き、本文は縦書きです。
こういうのを難なく読み進めることができる日本人って希有な人種ですよね。


なお、機能性ディスペプシアについては、Rome III という国際診断基準の時代のものでしたら、当ブログ「心窩部にまつわる話」に書いてありますので参考にして下さい。

スルカインという薬のちょっと古い添付文書の効能にこんな文章を見つけました。

「胃炎に伴う胃痛、嘔気、呑酸・嘈囃及び胃部不快感」

嘈囃」??
「そうそう」と読むそうです。
消化器を主な専門にしていながら、全く知らない言葉ですし、知らない症状です。
でもちゃんと添付文章の臨床効果の欄に「呑酸・嘈囃に対する有効率 85.4% ( 176 / 206 )」と書いてあるではないですか。( → こちら )
しっかり効果を調べたからにはそういう症状が存在するのは間違いありません。

しかし、辞書で調べても単語としては見つけられなかったので、それぞれの漢字の意味を探ってみました。

 嘈  さわがしい。かまびすしい。やかましい、またその声。
 囃  はやし。かけごえ。歌や舞を助ける声。歌に合わせて調子をとる鳴りもの。

胸やけ2何となく騒々しい声、と連想できそうですが、胃炎という消化器の症状としては全く理解できません。
効能書きの文章を改めてよく見ると、嘈囃の前は読点ではなく「・」。
呑酸 ( どんさん ) と連なった四文字の言葉のようで「呑酸嘈囃」で、胸やけを意味すると医学大辞典に載っています。
酸を飲んで、けたたましく大騒ぎをする・・。
確かに、鹿児島名産の黒酢など酸っぱいものを一気に飲むと、大抵の人はその刺激に思わず悲鳴を上げてしまいますよね。

ただ、嘈囃という二文字の言葉は中国医学の古典的書物にも見られ、これだけでも胸やけの意味になるようです。
傷寒論 ( しょうかんろん ) 」や「金匱要略 ( きんきようりゃく ) 」を解説した「類聚方広義 ( るいじゅほうこうぎ ) 」の中に「嘈囃胸を刺し」なんて文章も見られます。

対して「呑酸」ですが、逆流性食道炎が増えてきたこともあり、酸っぱいものがこみ上げてくることの意味に使われます。
しかし、漢字を額面通りに解釈すると「酸を呑む」です。
酸の流れる方向が逆のような気がしますけれども、胃酸がこみあげてくる症状を表すのに適切なのかどうか。
でも、「呑酸」=「おくび」( げっぷ ) とする辞書もあるようですね。

胸やけを患者さんがどのように表現するかを調査した報告があるのですが、むかむか・胃が重い・胸が熱い・胃が痛い・食欲がない、などバリエーションが多彩であることがわかっています。
昔の人達が、この胸やけを表現するのに苦労して落ち着いたのが「呑酸嘈囃」という言葉ではなかったか、と勝手に推論する次第でありました。

なお、最新の効能書きからは「呑酸・嘈囃」の文字は消え、かわりに「胃部不快感」に改まっていることを付加しておきます。
ということは、どんさんそうそう = 胃部不快感 !? 
 

胃透視〖 今月のつぶやきから 15 〗


今月ほどつぶやきをたくさんリツイートしていただいたり、お気に入りに登録していただいたりした月は過去にありません。
どなたにどこまで届くのかわからないささやかな医療情報。
少しでも有用だと思っていただける方がいる限り続けていきたいと思います。
月末恒例ですが、反響の大きかったつぶやきの一部を紹介します。








  ○○ 学会レポート2013 その2 ○○


除菌今回の消化器病学会、参加できたのは初日だけでしたが、貴重な情報を多く得ることができました。

午前中に聞いたのは「HP除菌後の病態と対応」。
HP とはヘリコバクター・ピロリのことです。
日本でピロリ菌除菌が保険適用されたのが2000年11月のことでしたから、12年余の歴史がありますが、除菌後の消化管の病態変化について長期にわたるデータがかなり蓄積されてきました。

除菌すれば胃癌はかなり防げるのですが、ゼロとはならないことが知られています。
除菌が高齢で行われた場合、萎縮が強い場合、胃潰瘍がある場合、腸上皮化生がある場合などでリスクが高いことが報告されていました。
また、除菌後10年を越えて胃癌を生じたケースもあることなどから、除菌後5-8年までは毎年、その後は隔年で内視鏡検査をすべきではという提案もありました。
除菌後の適切な胃の検診のタイミングについて、やがて意見が集約されることでしょう。

また、除菌による酸分泌上昇により懸念される逆流性食道炎についての演題もありました。
内容については省略しますが、提示された内視鏡写真について一言。
学会で発表される胃の内部の写真は胃液などの付着のないきれいな物が多いのに、逆流性食道炎の診断に重要な食道胃接合部の写真はお粗末な限り。
あれじゃ正確な診断はできないでしょう、と場末の内視鏡医が嘆いてしまうようではだめです。

参考 → 胃食道逆流症の検査には経鼻内視鏡 

≪ 過去記事ウォッチング 10 ≫


ypq8ki2x.gif消化性潰瘍や食道静脈瘤は減少し、逆流性食道炎が目に見えて増えてきている。
私が医師になってからの
このような消化管病変の移り変わりについては、このブログでも何回か述べさせてもらっています。

逆流性食道炎に対しては、Proton pump inhibitor ( PPI ) と呼ばれる酸分泌抑制薬が最もよく使われる薬剤ですが、奇妙なのは8週間を一区切りとする制約があること。
胃・十二指腸潰瘍にも PPI 投与期間に制約がありますが、これはピロリ菌除菌と併せると治る病気。
しかし、逆流性食道炎に対してはは逆流する胃液中の塩酸濃度を緩和するという対症療法に過ぎません。
心窩部痛や胸やけ、呑酸などのひどい症状の方が増えてきている現状に全く合わないこの投与期間制限は改めないといけませんね。

さて、PPI だけでは十分に症状が改善しない方に、私が好んで処方するのが海藻を原料に作られるアルギン酸塩 ( アルロイドG ) という液体の薬剤。
傷の表面を覆い痛みを和らげてくれるのですが、 不評なのはその味とのど越しの悪さ。
なので、服用前に「原料は海藻で、その海藻のぬめりの成分が傷を保護して酸から守ってくれます」と説明しておくと嫌がる方はほとんどいなくなります。

アルギン酸についての豆知識は、ブログを始めて間もない頃「人工イクラと胃薬」に書いています。 

胃の模型写真に撮ったのは、胃潰瘍の説明に使ってくださいともらった胃の模型。
裏側には別の模型があり、逆流性食道炎にも使えるようになっています。

これに限らずほとんどの胃の構造模型にみられる間違いがあるのですが、わかりますでしょうか。
それは胃の中全体に気持ち悪いくらいに作られているヒダです。

周囲が赤く真ん中が白いの胃潰瘍のある部分を胃角部と言います。
これよりも左側、胃の出口である幽門にかけての部分は幽門前庭部と名付けられていますが、内視鏡で観察すると縦方向のヒダはこれほどはっきりと存在しません。

胃のヒダ実際の内視鏡画像を提示します。
上の弧を描いている部分が胃角部です。
その真下の部分から手前の胃体部にはヒダが確認できますが、その奥の前庭部ではヒダが追えなくなるのがおわかりでしょう。

ヒダにはどのような役割があるのでしょうか。
特殊な検査で確認されているのは、胃体部では食べ物が行ったり来たりしていること。
ヒダが食べ物の流れをガイドしている可能性があります。 
また、食べ物の有無で胃の大きさが変化しますが、 その際の蛇腹のような役割もあるのでないかと思います。
内視鏡検査では胃の動きを止める注射をしますし、食べ物があると視界不良なので絶食の状態で観察をします。
なので、検査中に消化の際の動きを肉眼で観察するのはまず無理。


前庭部では歯磨き粉チューブを絞るようなとでも表現しましょうか、砂時計のようなくびれができてそれが幽門へ向かって動いていきます。 
この動きは、注射していても観察できる場合があります。
幽門に近いほど輪状筋と呼ばれる胃の筋肉が発達していて、次の十二指腸へ内容物を送り込むような運動をするわけです。
この途中で縦方向のヒダが一時的に現れますが、普段はつるんとしています。
胃は入り口付近と出口付近で運動だけでなく、粘膜の細胞レベルでも随分違った性格を持っています。

胃の動きが乱れることが機能性ディスペプシアと呼ばれる疾患の一因とも考えられています。
消化管の運動と症状との関連性が簡単に調べられる検査法が開発されると面白いのになと思っています。 

〖 今月のつぶやきから 8 〗


献血いつもなら興味深い医療ニュースに対してコメントを添えることが多い私の Twitter 上でのつぶやきですが、今月は臨床の現場で遭遇したことに思案を巡らすなど、以前と比べるとつぶやく内容に少し変化があったように思います。
その中で献血に関するものに多くのリツイートをいただきました。
それ以外にも主立ったものをいくつか掲載します。

なお、直近12回分は右側のカラムの「tweet してます」で読むことができます。







  << 胃食道逆流症 第9回 >>


2010111715542930716.gifさて、5月末からぼちぼちと書いてきた胃食道逆流症に関する連載も最終回。
本来なら、第3回で取り上げるべきだったかも知れませんが、胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状についての追加説明です。

♦♦ 胃液の逆流で口臭 !?

まず口臭について。

口臭の原因の8-9割は、歯周病や虫歯など口腔内にあるとされています。
あと、呼気ですよね。
ニンニクを食べて口臭がするのは、成分が血液を介して呼気に出るからです。
ガムを噛んで対策を講じる方もいると思いますが、あまり意味がないのです。

口臭が気になるので胃の検査をしてくれ、という方がたまにいらっしゃいますが、これまでは胃が原因のことは極めて少ないと説明してきました。
なぜなら、食道の入り口は物を飲み込むとき以外は閉じているので、臭いが漏れてくることはまず考えられないからです。
それに口臭を訴えてはおられるけれどもそれが他覚的に確認できない、自分だけが気にしている自臭症である場合が多いからです。

ところが、最近の研究で、口臭の一因となる舌の付け根付近の細菌増殖は GERD が原因と推定されるようになってきました。
口臭と GERD の関連性を示す報告が散見されるようになってきましたので、口臭を訴えられる方にも内視鏡検査をお勧めしております。
経鼻内視鏡だとある程度舌の付け根付近の観察もできますよ ( 経口だと無理です ) 。

♦♦ 胃液の逆流で歯ぎしり !?

そして、歯ぎしり

これは、地元鹿児島大学の歯学部の研究が有名です。
咬合不全の患者さんがたまたま GERD を合併していて、内科で酸分泌抑制薬を処方してもらったところ、顎の痛みが軽くなっただけでなく、薬の内服前に比べて歯ぎしりの回数が著しく減ったことから研究がスタートしたようです。
GERD を治療すると歯ぎしりは減り、逆に酸の逆流によって食道内のpHが低くなるのに合わせて歯ぎしりが活発になることもデータで示し、その関連性を見事に証明しています。
歯ぎしりによって唾液の分泌を促し、GERD の症状を緩和しようとしているのでは、と推測されています。

個人的には、幼児の歯ぎしりが GERD に関連したものなのかどうか気になります。
もしそうだとしたら、GERD はかなり若年の世代においてもしっかり治療しなくてはならない疾患ということになりますよね。


GERD は直接生命に危険を及ぼすような疾患ではありませんが、口臭や歯ぎしりなども含め生活の質に関わってくる疾患です。
これまでのこのシリーズを改めて読んでいただき、少しでも気になることがあれば、GERD の診断にはうってつけの経鼻内視鏡による検査を是非お勧めします。



  << 胃食道逆流症 第8回 >>


♦♦ 食道の入り口で胃液が…

のどの部分の違和感があるのに検査をしても何も所見を見いだせないものを咽喉頭異常感症と呼び、この原因の一つに胃食道逆流症 ( GERD ) がなり得えます。
胃液が鼻や耳にまで影響を及ぼすことはこのシリーズ第3回で述べた通りです。
ところで胃液を作る場所は胃だけではなく、食道の入り口でも作られるとしたら・・・、そんなことあるのでしょうか。

20101026161538356.gif♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の写真

内視鏡で検査を行なうと右の写真のように食道の入り口に胃粘膜を見つけることがあります。
左右両側にあるやや赤い部分がそれ。
これを食道入口部異所性胃粘膜 ( 通称 Inlet patch ) と呼びます。
GERD の分野で著名なある先生にこの inlet patch についていくつか質問をぶつけたことがありますが、先天性のものだし酸分泌をすることもないので問題ないでしょうとにべもない返事でした。

でもここで inlet patch について深く掘り下げてみましょう。

♦♦ どうしてできる ? 食道入口部異所性胃粘膜

胎児の時代に食道が作られるとき、表面の円柱上皮が扁平上皮に置き換わってくる現象が食道の中部付近から始まり徐々に口の方と胃の方に進んでいきますが、進み方が不完全で食道の入り口に取り残された円柱上皮がこの inlet patch になるというのが定説です。
Inlet patch の細胞を詳しく調べた研究でグルカゴンというホルモンを分泌する細胞を見いだすことがあるそうです。
グルカゴンは成人では膵臓で作られますが、胎生初期の胃ではグルカゴンを作る細胞が存在するものの成長とともに消失することから、inlet patch が胎生期の粘膜の名残りであるという説を支持するものになっています。
でも、inlet patch は胃の上部の噴門腺領域の粘膜に似ていて胎生期の円柱上皮とは異なるので先天性ではないとする説も存在します。

♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の治療は ?

この inlet patch の組織を採取して顕微鏡で調べると胃酸を分泌する壁細胞が見つかることがあります。
胃液がわざわざ胃から逆流してこなくても食道入口部で酸が分泌されれば、のどの不快感を起こすであろうことは想像できますよね。
これまでそのような症状があって inlet patch がある人に PPI ( proton pump inhibitor ) などの酸分泌抑制薬を投与して症状が治まる人を何例も経験しています。
また、この異常感がありなおかつ PPI でも治らない人に対して inlet patch を電気的に焼いてしまうことで治療する方法も昨年紹介されました。( Gastroenterology. 2009 Aug;137(2):440-4 )
この場合、悪さをしているのは酸ではなく粘液ではないかと推測されています。

♦♦ 案外多い食道入口部異所性胃粘膜
さて、inlet patch がどのくらいの頻度で見つかるのかというと報告で大きなばらつきがあって 0.1 - 20 % と200倍の開きがあります。
日本人を対象とした内視鏡での検討では 14.2%、つまり 7人に1人の割合で発見されるようです。( Progress of Digestive Endoscopy 2005 ; 66 : 19-21 )
海外の報告は一桁台が多いのですが、日本人に多いのか海外の内視鏡レベルが低いのかのどちらかでしょう。

♦♦ まだまだ研究の余地がある食道入口部異所性胃粘膜

Inlet patch 部分へのピロリ菌感染や癌の発生などの報告もありますし、先の日本人での内視鏡検討では高齢者の方の頻度がやや低いそうで、かなり長い時間をかけて食道粘膜が完成していくのか、はたまた若い世代に GERD が多いことと関連するのかなど興味は尽きないのですが、消化器をやっている医師の間でもあまり重要視されていないのが現状です。
本当に先天的なものとしていいのか ( Barrett 上皮のように後天的なものがないか ? )、GERD の食道外病変と同様の症状にどのくらい関与するのか、どうして inlet patch が生じやすい方向があるのか ( 3-4時方向と9-10時方向に多い印象です ) など inlet patch には研究の余地はたくさんあります。

食道胃接合部の観察には経鼻内視鏡が優れているということはシリーズ第4回で書きました。
実は経鼻内視鏡を導入するときに、反射が少ないことから inlet patch の観察もしやすくなるのではと期待していましたが、逆に近接してしまいちょっぴり苦労しています。
しかし食道入口部の観察も念を入れてやっておりますので、咽喉頭異常感症の症状があって内視鏡を受けられたことのない方は是非検査を。





  << 胃食道逆流症 第7回 >>


2010100617293027853.gif♦♦ GERDに使う漢方薬

前回に引き続き、治療薬のお話です。
消化器病の分野で作用機序の解明が進められつつある漢方薬の一つに六君子湯があります。
主に胃においての研究が多いのですが、食道においてもいくつかの報告があります。
内視鏡検査で異常を認めない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) において、PPI ( proton pump inhibitor ) でも症状の改善しない例では食道の運動機能が低下していることがわかっていますが、六君子湯はこの食道の運動機能を改善します。
また、胃の内圧を下げる作用もあり、間接的に食道への逆流を防いでいると考えられます。

私が注目しているのは半夏厚朴湯という漢方薬です。
昔から、のどの違和感があっても検査で何も所見がない咽喉頭異常感症という病気にこの薬剤がよく使われてきました。
シリーズ第3回胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状について書きましたが、GERD により咽喉頭異常感症が引き起こされることもわかっていますし、実際に半夏厚朴湯を投与してこの食道外症状が緩和されるケースを何度も経験してきおり、治療の有効な手段の一つと考えています。
この漢方薬も科学的に薬効薬理が明らかになることを望みます。

♦♦ GERDを悪化させる可能性のある薬剤

薬で一つ注意していただきたいのは、降圧薬の中でカルシウム拮抗薬と呼ばれるものです。
血管の筋肉が収縮するのを妨げることで血圧を下げるのですが、下部食道括約筋部 ( LES ) の圧も下げてしまい胸やけを悪化させてしまう可能性があります。

♦♦ 日常における注意点

次に日常生活におけるセルフケアについてです。

まずは姿勢ですが、病気の性格上、前屈みになったり食後すぐに横になったりするのは好ましくありません。
ベルトやコルセットなどをきつく締めつけないことも肝要です。
また、就寝時に上半身を高くして左を下にして寝ると逆流を起こしにくくすると考えられています。
液体をすするように飲むのも空気を多く取り込んでげっぷや逆流の元になるとされています。
そしておなかについた脂肪も大敵。
肥満の方は減量に努めることも大事で、最も重要なポイントです。
シリーズ第5回で紹介した症例もスリムな体形になったことが治癒の一番の要因だと考えています。

♦♦ 注意したい食べ物について

胸やけを起こしやすくする食べ物もあります。
肉や揚げ物、ケーキなど脂肪の多いものの刺激でコレシストキニンというホルモンが活発に分泌されるようになり消化を助けるのですが、このホルモンは LES の圧も下げてしまいます。
酸の強いもの、辛いもの、熱いものも大敵で、いずれも胸やけを感じる神経を刺激することがわかっています。
あんこやあんみつなど甘いものも胸やけの原因となります。
糖分が胃液に溶けると浸透圧の高い液になりこれが逆流すると胸やけを起こすとされています。
コーヒーも胸やけを起こすのですが、コーヒー中の3つの成分により胃酸分泌が刺激されることがつい最近判明しています。( http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20100401hj001hj )
この記事によると胸やけを起こしにくいコーヒーも実現可能となっていますね。
タバコやアルコールも好ましくないとされていますのでご注意ください。

なお、食後にガムを噛むと症状緩和の一助になりますので試してみてください。
唾液が増えると、胃酸を中和したり逆流した酸を胃に押し戻したりする作用が期待できるのです。



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GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。

余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。

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経鼻内視鏡を行なう際に、大きく息を吸い込んでもらって食道と胃の境界部分を詳細に観察することを前回、述べました。
逆流性食道炎の場合、内視鏡で実際どのような変化が認められるのか、興味あるところだと思います。
Los Angels 分類別に写真を並べてもいいのですが、今回あえて一例だけ提示させていただきます。

♦♦ 提示した内視鏡像について

201008182132092576.gif泡がついていたり、下部がぼけていたりで掲載するのは恥ずかしい写真なのですがお許しくださいね。
さて、内視鏡検査において食道病変の場所を時計の文字盤に例えて示すのが慣例となっています。
写真の真上を12時の方向、真下を6時の方向とするわけです。
ちなみに12時方向はおなか側、6時方向は背中側、3時方向は右手側、9時の方向は左手側になります。
提示した写真の1時の方向に白く見えるのは潰瘍です。( 白い矢印 )
逆流性食道炎による潰瘍やびらんは Los Angels 分類の A や B の場合、2時方向を中心とした右上方の胃粘膜のひだの上にできやすいことがわかっています。
この理由につていははっきりわかっていませんが、この症例は典型的な例ですね。

この症例でもう一つ注目していただきたいのは食道粘膜と胃粘膜の境界 ( Squamo-columnar junction : SCJ ) です。
3時の方向 ( 青い矢印 ) の辺りと比べてみて下さい。
中央に見える胃の入り口を中心に考えると11時の方向と6時から9時にかけての方向 ( 黄色い矢印 ) にこの SCJ が極端にずれ込んでいますよね。
この症例の方は食後すぐに左を下にして横になる ( 左側臥位 ) 習慣があるとのことでした。
SCJ が3時方向に極端にずれている方に尋ねてみると食後の右側臥位がお好みというパターンが多いです。
逆流してきた胃酸にさらされて元々存在していた食道の細胞が胃の細胞に置き換わることで境界部分がずれたように見えてくるわけです。
ですからこの境界の偏りは食後や就寝時の体位が影響するのではないかと思われます。
内視鏡をすることでその人の普段の過ごし方もわかってしまうなんて面白いと思いませんか ?

しかし、私がこの症例でもっと面白いと思っているのは、この左方向を中心とした SCJ の大きなずれがあるにもかかわらず、潰瘍ができているのがあくまで右上だということです。
逆流性食道炎における粘膜傷害の発生にはいろいろな因子が複雑に絡み合っているのでしょうね。

なおこの症例の方、薬だけでなく食後にすぐ横ならないことを守ってもらい、減量もがんばってもらった結果、1時方向の潰瘍はすっかり消えてしまいました。

次回は胃食道逆流症の治療について。


  << 胃食道逆流症 第4回 >>


症状から胃食道逆流症 ( GERD ) が疑われる場合に優先してチョイスされる検査は内視鏡になります。
GERD に関しては採血やレントゲン、透視などからはほとんど得られる情報はありません。

♦♦ GERDの内視鏡分類について

内視鏡検査によって、異常が見つからない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) なのか、はっきりとした傷がある逆流性食道炎 ( RE ) なのかがわかります。
後者の場合、内視鏡検査でさらに重症度の判定を行うことができます。
一般的に Los Angels 分類というものが使われています。( 右下図 )

2010072812462623081.gif専門的になるので簡潔に説明しますが、Grade A と B は縦方向の傷同士がつながっておらず、長さが5mmあるかないかで分類しています。
Grade C と D になると長さに関係なく、縦方向の傷が互いにつながってきたもので全周の75%に及ぶか及ばないかで区別してあります。
日本においてはさらに色調変化型 ( Grade M )、内視鏡的に異常のないもの ( Grade N ) を加えて活用しているのが一般的です。

♦♦ 経鼻内視鏡で胃と食道の境界をつぶさに観察できる

さて、GERD の診断確定のために重要となるのは食道と胃の境界部分の観察です。
これには経口よりも経鼻内視鏡の方が優れていると私は考えています。
写真をご覧ください。
同じ被験者で同じ場所を写したものです。
EC.gif左の写真ではほとんど見えていない食道と胃の粘膜の境界部分が右の写真でははっきりと見えています。
実は、最初左の写真の状態だったのですが、息を大きく吸い込んでもらうことで右のような状態になるのです。
こうすることで RE による傷があるかどうかのキモである食道と胃の境界をつぶさに調べることができるわけです。
鹿児島では経口内視鏡をするのに鎮静剤の注射をする施設がほとんどです。
意識がもうろうとしている時に検査を受けられている方に息を吸い込んで、と言ってもまず実行できません。
鎮静剤を使わないで経口内視鏡を行なう場合でもその余裕がなかったり、反射でげっぷが出たりしてゆっくり観察ができないことが多いのです。
苦痛を与えずにつぶさに観察でき、かつ検査を受けられる方にもじっくりとこの部分の傷の状態を見て納得してもらえるわけで、経鼻内視鏡は GERD の診断にまさにうってつけだと思います。

♦♦ 内視鏡検査中のげっぷ

なお、内視鏡検査の際にげっぷを我慢しろと言われたことはないでしょうか。
咽頭部の刺激による反射で起こるのも理由の一つですが、食道裂孔ヘルニアの方はげっぷが出る傾向が強いように思います。
私はげっぷも GERD の原因となる食道裂孔ヘルニアの所見の一つとみなしています。
胃の入り口を閉める筋力が落ちているわけですから、げっぷをするな、と野暮ったい無理強いをすることはまずありません。
げっぷをすると空気が抜けて胃の壁が近接してしまいますし、壁が激しく動いて観察に時間がかかってしまうために指示をするわけですけど、我慢しろと言われても無理なものは無理ですものね。


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