野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
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    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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鎮咳薬

咳止めで半音低く聞こえる今日、ツイッター上で話題になっていたのが、咳止め薬の副作用。
服用すると音が半音低く聞こえるというものです。( 参考 → 咳止め薬で「音が半音下がって聞こえる」副作用? )

これはベンプロペリン ( 商品名 フラベリック ) という咳止めによって起きる副作用ですが、絶対音感がないとなかなか気づきにくいと思います。
このような現象は、てんかんや三叉神経痛などに使うカルバマゼピン ( 商品名 テグレトール ) や感冒薬のPL顆粒などに含まれる塩酸プロメタジンという成分によっても引き起こされることが報告されています。
なお、カルバマゼピンは併用に注意を要する薬がいっぱいあり、その点でも厄介な薬です。
PL顆粒については、以前のコラムも読んでみて下さい。( →PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由 )

私が、音楽をやってる人に咳止めとしてお勧めしているのは漢方薬の半夏厚朴湯 ( はんげこうぼくとう ) 。
聴覚への影響はありませんし、何といっても声が出しやすくなるというメリットがあります。

それにしても、半音だけ、それも低くなる方向に感覚が変化するのはなぜなのか、興味深い点ですね。

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咳止めといえば、この6月にコデインという成分について、厚生労働省が12歳未満への使用を段階的に制限すると決定しました。
2018年度末までは注意喚起を促し、2019年度から全面的に禁忌とするようです。
重篤な呼吸抑制を起こして死亡する例が相次いだ欧米では、2013年頃より規制が少しずつ始まっていたのですが、今年の4月に米国で12歳未満への使用を禁忌としたことを受けて、日本でもようやく対策に乗り出した形です。
米国では、肥満や重度の睡眠時無呼吸症候群を有する12~18 歳への使用についても警告が付いています。

専門的になりますが、CYP2D6 の ultrarapid metabolizer ( UM ) においては、コデインの代謝産物の血中濃度が急速に上昇し、中毒を起こすことがあります。
このCYP2D6のUMの方は日本では0.8%程度と少ないのですが、白人で10%、エチオピア人に至っては29%も存在すると言われています。
ですから、日本では欧米ほど中毒を起こす頻度は多くないのですが、0.8%と言えども無視できる数字ではありません。
CYP2D6のUMの母親がコデインを内服して、授乳した幼児が中毒を引き起こした事例の報告があります。
この事例については、コデインの添付文章に明記されているのですが、しっかり読み込んでいる医療関係者がいないのも実情です。

なお、CYP2D6については、以前当ブログで解説していますので参考にして下さい。( → CYP2D6からPL顆粒を考える その2 )

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実は、咳止めの薬には少なくとも小児に対してははっきりとした鎮咳作用を示すデータはないのです。
そればかりか、咳を止めてしまうと痰が出しづらくなり、呼吸器の感染症をかえって悪化させる可能性も指摘されています。

長期に服用しても副作用のそれほど起きない高血圧やコレステロールの薬を服用するのには抵抗感を示すのに、副作用のやたらと多い風邪薬には安易に手を出す傾向の強い日本人。
風邪薬に含まれる成分って本当に恐いものが多いので、気をつけて下さいね。

<< 風邪薬についての考察 第11回 >>


かぜ子供は免疫が十分に備わっていないので、しょっちゅう風邪をひく存在です。
その都度、親御さんは病院に連れて行って、処方を受けたり市販薬を買って与えたりしていると思います。

その当たり前の光景が海外では見られなくなりつつあります。
効果がないばかりか有害性の危険が高いから、という理由で小児への風邪薬の使用が厳しく制限されるようになったからです。

米国で2008年1月に 2歳未満への小児への市販の風邪薬の使用を禁止するよう勧告が出されました。
それに続いて複数の国で同様の措置がとられ、一歩進んで英・加・豪・ニュージーランドでは 6歳未満に対しての使用制限を決めています。


市販薬だけではなく、我々が処方する薬の乳幼児に対する様々な報告を具体的にみていきます。

抗ヒスタミン薬
 ・鼻汁や鼻閉への効果がない
 ・気道の粘液分泌が減り、痰が出しづらくなる
 ・眠気や不整脈、熱性痙攣を誘発する
鎮咳薬
 ・小児での鎮咳作用を認めない
 ・乳幼児では呼吸抑制、無呼吸から突然死に至るという報告も
③ 去痰薬
 ・肺炎では症状の改善が早まるという報告もあるが、感冒への効果は不明
気管支拡張薬
 ・喘鳴を伴うウイルス性気管支炎で症状の改善効果はない
 ・症状の遷延や振戦などの副作用の懸念
抗菌薬
 ・ウイルス性の感冒に対する有効性はなく、副作用でかえって生活の質を下げる
 ・細菌の二次感染の予防効果はない

と、まあこんな具合。

日本の対応はというと厚労省が2010年末に「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」と、製造販売元に注意喚起を行なったのみ。
医師のもとに行っても、処方されるのは有効性に根拠の乏しいこれらの薬剤なのですが。


海外で風邪をひいて医療機関を受診しようものなら、家で寝てなさいと言われるだけか、せいぜいアセトアミノフェンの処方箋を渡されるだけでしょう。
風邪にはすぐ薬をという意識が刷り込まれている日本人は、コンビニエンスストアでも気軽に感冒薬が買えるようにする薬事法改正を歓迎していましたし、ネットで購入できることに何の抵抗感も示しません。

かく言う私も、かつてダンリッチという風邪薬を自分でも使い患者さんにも処方していました。
2003年に発売中止となった際に、当初はその措置に大切な商売道具を没収されたようで憤懣やるせない気持ちでした。
今にして思えば、情報収集力のなさと知識の乏しさが恥ずかしい限りです。
成分の一つである塩酸フェニルプロパノールアミンによって脳出血が引き起こされ、死亡例が相次いだための措置だったのです。

長きにわたって利用されてきた薬であっても、不利益が明らかになれば市場から消えるのです。
総合感冒薬は
18歳未満には効果が確認できないとされていますが、少なくとも乳幼児に対して我々は正しく対処していく時期に来ていると考えます。


 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2

 ⇨ 第12回 「風邪薬について、最後に」 

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