野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
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CYP2D6

咳止めで半音低く聞こえる今日、ツイッター上で話題になっていたのが、咳止め薬の副作用。
服用すると音が半音低く聞こえるというものです。( 参考 → 咳止め薬で「音が半音下がって聞こえる」副作用? )

これはベンプロペリン ( 商品名 フラベリック ) という咳止めによって起きる副作用ですが、絶対音感がないとなかなか気づきにくいと思います。
このような現象は、てんかんや三叉神経痛などに使うカルバマゼピン ( 商品名 テグレトール ) や感冒薬のPL顆粒などに含まれる塩酸プロメタジンという成分によっても引き起こされることが報告されています。
なお、カルバマゼピンは併用に注意を要する薬がいっぱいあり、その点でも厄介な薬です。
PL顆粒については、以前のコラムも読んでみて下さい。( →PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由 )

私が、音楽をやってる人に咳止めとしてお勧めしているのは漢方薬の半夏厚朴湯 ( はんげこうぼくとう ) 。
聴覚への影響はありませんし、何といっても声が出しやすくなるというメリットがあります。

それにしても、半音だけ、それも低くなる方向に感覚が変化するのはなぜなのか、興味深い点ですね。

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咳止めといえば、この6月にコデインという成分について、厚生労働省が12歳未満への使用を段階的に制限すると決定しました。
2018年度末までは注意喚起を促し、2019年度から全面的に禁忌とするようです。
重篤な呼吸抑制を起こして死亡する例が相次いだ欧米では、2013年頃より規制が少しずつ始まっていたのですが、今年の4月に米国で12歳未満への使用を禁忌としたことを受けて、日本でもようやく対策に乗り出した形です。
米国では、肥満や重度の睡眠時無呼吸症候群を有する12~18 歳への使用についても警告が付いています。

専門的になりますが、CYP2D6 の ultrarapid metabolizer ( UM ) においては、コデインの代謝産物の血中濃度が急速に上昇し、中毒を起こすことがあります。
このCYP2D6のUMの方は日本では0.8%程度と少ないのですが、白人で10%、エチオピア人に至っては29%も存在すると言われています。
ですから、日本では欧米ほど中毒を起こす頻度は多くないのですが、0.8%と言えども無視できる数字ではありません。
CYP2D6のUMの母親がコデインを内服して、授乳した幼児が中毒を引き起こした事例の報告があります。
この事例については、コデインの添付文章に明記されているのですが、しっかり読み込んでいる医療関係者がいないのも実情です。

なお、CYP2D6については、以前当ブログで解説していますので参考にして下さい。( → CYP2D6からPL顆粒を考える その2 )

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実は、咳止めの薬には少なくとも小児に対してははっきりとした鎮咳作用を示すデータはないのです。
そればかりか、咳を止めてしまうと痰が出しづらくなり、呼吸器の感染症をかえって悪化させる可能性も指摘されています。

長期に服用しても副作用のそれほど起きない高血圧やコレステロールの薬を服用するのには抵抗感を示すのに、副作用のやたらと多い風邪薬には安易に手を出す傾向の強い日本人。
風邪薬に含まれる成分って本当に恐いものが多いので、気をつけて下さいね。

<< 風邪薬についての考察 第10回 >>


酒をとことんあおっても平気な人もいれば、一口飲んで顔が赤くなってダウンしてしまう人もいる。
アルコールに強い人、弱い人がいるのは日常的にみなさんもよく承知されているのではないでしょうか。
これは、エタノールやアセトアルデヒドを分解する酵素の強弱に遺伝的な差異があるからです。

同じように CYP2D6 にも遺伝的な違い ( 遺伝子多型 ) があることがわかっています。
最も活性が強いほうから
  • Ultra-rapid metabolizer ( UM )  ( 代謝が超迅速に行われるタイプ )
  • Extensive metabolizer ( EM )  ( 代謝活性が正常に行われるタイプ )
  • Intermediate metabolizer ( IM )  ( 代謝が低下しているタイプ )
  • Poor metabolizer ( PM )  ( 酵素活性がないか極端に低いタイプ )
という名称がつけられています。
右側に私が勝手に解説を加えていますが、標準は EM です。

日本人において、CYP2D6の活性が欠損している PM の方は1%に届かないようですが、活性が十分でない IM の方が 40% 程度いると言われています。

PM の方が PL顆粒を服用すると2日間ほどは眠気でふらふらするそうです。
居眠り2008年1月14日、月山第二トンネル内でバスの運転手が気を失い、乗客がうまくバスをコントロールして事無きを得たという事故がありました。
当時は睡眠時無呼吸症候群が注目されていた時期でしたけれども、この運転手の場合は風邪薬を服用していたと後に報道されていました。
その報道を聞いた時は、風邪薬でそこまで眠りこけてしまうものなのかと訝しく思いましたが、CYP2D6 の PM だった可能性が高いのでしょうね。

CYP2D6 の遺伝子多型は一般的ではないですが、依頼して調べることが可能です。
乳癌治療薬であるタモキシフェン
主にこの酵素で代謝されますが、使用前に予めこれを調べるサービスもあります。
しかし、タモキシフェンは他の酵素でも代謝されますし、どこまで有用かはよくわからないというのが現状です。
EM であったとしても、例えパロキセチンを服用していれば作用が減弱してしまいますしね。( → 文献
そういうコストのかかる検査を受けなくても、ある程度推測は可能ではないかと思います。
というのも、風邪薬は日本国民の大多数が使用経験があるはずですから非常に手がかりが掴みやすいのです。
風邪薬で眠くなる方は IM か PM の可能性が十分にあるわけで、CYP2D6 が代謝に絡む他の薬剤にも十分気をつけなければなりません。
医者の側もこの情報をしっかり聞きだして処方する際に役立てたいものです。
CYP2D6 が代謝に絡む薬剤には副作用として抗コリン作用のあるものが多いですからね。

また、これも日本人では 1%未満ですが、UM の方では薬が早く代謝され過ぎてさっぱり効いてくれないのです。
逆に、前回も触れたように咳止めの作用のあるコデイン系の薬は CYP2D6 で代謝されて初めて薬効を発揮しますので、UM だとこの代謝産物の濃度が急速に上がってしまい、場合によっては中毒死するという報告もあります。
英国では市販の風邪薬にコデイン関連成分を使うことを厳しく制限しています。
対して日本では、授乳中の母親がコデイン系薬剤を服用した場合に乳児の血中濃度上昇が懸念されるため授乳婦のみ使用禁止が通達されているものの、後は野放し状態。
風邪薬は日用品と同様にネットでも大量購入ができてしまいますが、本当に怖いですよね。

次回は、風邪薬について他国との比較をしてみたいと思います。


 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1

 ⇨第11回 「小児に風邪薬を使わない海外の事情」 

<< 風邪薬についての考察 第9回 >>


今回はやや難しい話になります。
できるだけ分かりやすく書いたつもりではありますが、お付き合いの程を。

薬物代謝に重要な役割を果たすものの一つにチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があります。
主に肝臓に存在し、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。
今回はその中の一つ「CYP2D6」に焦点を当てます。

抗ヒスタミン薬選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ( SSRI )・抗うつ薬コデイン抗不整脈薬β遮断薬・etc.‥。
CYP2D6は我々が処方する約3割にあたる薬物の代謝に絡んでいるのですが、前回取り上げた抗コリン作用を持つ薬剤が案外多く含まれているのも特徴かと思います。
これらの薬を重複して服用しておられる方も多いですよね。
( なお、上に挙げた系統のすべてがこのCYP2D6で代謝されるわけではありませんので個別にはネットや薬の本等で調べてください。)

さて、PL顆粒に咳を鎮める成分が含まれていない理由を考えてみましょう。
PL顆粒に含まれる抗ヒスタミン薬のメチレンジサリチル酸プロメタジンはこのCYP2D6で代謝されます。
鎮咳剤の代表であるコデイン系の薬物もCYP2D6で代謝を受けます。
トンネル
プロメタジンもコデイン関連物質も同じCYP2D6と名付けられたトンネルを通ろうとすると、1種類だけなら難なく通れるトンネルも、2種類が同時だと押し合いへし合いとなってスムーズには通れなくなる可能性もあります。
その結果、お互いの血中濃度が下がりづらくなるかも知れません。
コデイン系の薬はそのままでは何の効果も持たず、CYP2D6で代謝されて初めて鎮咳作用が発揮できるようになります。
したがって併用すると抗ヒスタミン薬の持つ抗コリン作用などの副作用は長引くし、咳もなかなか鎮まらない可能性が出てきます。

PL顆粒を作っているメーカーはデキストロメトルファン ( メジコン ) という咳止めも作っていますが、これもCYP2D6で代謝される薬です。
PL顆粒に咳を抑える成分が含まれていない理由はこの点にあるのではないかと私は考えています。
市販の総合感冒薬には抗ヒスタミン薬とコデインが配合されているものが多いのですが、好ましいとは言えません。
( 但し、実際に臨床で用いられる用量であれば大きな問題はないと考えられています。) 

また、血圧の薬であるアムロジピンや吐き気止めのメトクロプラミド ( プリンペラン ) などは、自分自身はCYP2D6で代謝されないものの、CYP2D6の働きを邪魔してしまう作用がありますので、やはり注意をする必要があるでしょう。
( CYP2D6の働きを阻害する薬剤は他にもたくさんあります。)
代謝酵素に注目してみると、薬の飲み合わせの善し悪しがわかってくるのですが、薬が数種類処方されることも多く、正直キリがないです。

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CYP2D6を話題にしたついでに、パロキセチン ( パキシル ) という薬剤について一言。
一時期は最も処方されていたSSRIで、CYP2D6で代謝される薬剤の一つですが、そのCYP2D6の働きを阻害するという厄介な側面も持っています。
自分の通るべきトンネルの入り口を自ら狭めてしまうわけですね。
最初に服用していたパロキセチン量を倍にしたとします。
CYP2D6の阻害作用もさらに強くなるので、代謝のスピードが落ちて血中濃度が倍以上になってしまい、それまでみられなかった副作用が出現する可能性も高くなります。
逆に減量したり止めたりするとCP2D6の働きが回復するため、薬の血中濃度が急激に下がり、押さえられていた症状が悪化するという離脱症状が出やすい薬剤です。
パロキセチン単剤ならまだしも、総合感冒薬やCYP2D6に絡む他の薬剤を併用すればどうなるか、想像に難くないでしょう。
頻用されるパロキセチンですが、SSRIは他にも何種類かあります。
いわゆる「パキシル地獄」を招かないためにも、他のSSRIの選択を医師側にも求めたいと思います。

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次回はCYP2D6の個人差について書いてみたいと思います。


 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?

 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2」 

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