野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して41年の野口内科です。
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EGF

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徐々に認知され普及しつつある傷の湿潤療法。
これをブログを始めた2006年に
傷の治し方というシリーズで簡単に解説いたしました。
古い記事にも関わらず比較的よくアクセスを頂いております。 

15a70456.gifそのシリーズの最後「傷は舐めるに限る」は、傷を治すのに大切な成分のひとつである上皮成長因子 ( Epidermal growth factor: EGF ) について、研究生活時代にこの成分と関わった身として私見を述べさせたもらったものでした。
EGFの持つ作用とほとんどか唾液腺から分泌されるという意味を考えてのことです。

別の機会にはその EGF が美肌成分だとして化粧品に配合されて売られている現状を問題視しました。
EGFに関するこんな商品が出回っているようですがEGF配合化粧品って )

さて、昨年8月の後者の記事で「近いうちに EGF について語ってみましょう」としておきながらそのままで申し訳ありませんでした。
これを機に少しばかり書いてみますね。

EGF がとてもデリケートな物質で仮に化粧品に入っていても成分としての有効性はとても疑問であることは述べましたが、胃液にも弱いのです。
胃液によって活性がおよそ 1/4 に弱まることがわかっています。
それを申し訳なく思うのか、胃の壁細胞と呼ばれる細胞は胃酸とともに EGF とほぼ同じ役割のある TGF-α ( Transforming growth factor-α ) という物質を分泌しています。
さらに十二指腸と膵臓からわずかばかり EGF が出ていることも知られていますが、これは胃で失活する分をある程度補っているのでしょうね。

成長因子は局所で作られその局所で作用するものが多く、これは外分泌 ( exocrine ) とも内分泌 ( endocrine ) とも違い、その様式は paracrine と呼ばれています。
日本語化されていませんが、強いて言えば「側分泌」あるいは「傍分泌」になるでしょうか。
しかし EGF は唾液腺という特定の臓器で作られ唾液中に分泌される外分泌の形をとりますし、一部は口腔粘膜から血液中に移行します。
それだけではなく、初乳にも多く含まれることがわかっています。
それなりの役割が考えられますが、親から赤ん坊へ渡り歩くという非常にダイナミックな物質です。
EGF は成長因子と呼ばれる物質の中で最も早く発見された物質にも関わらず、paracrine 様式でない点が非常に面白いと思います。 

また、 発売当初副作用問題が新聞でも騒がれたイレッサという抗癌剤があります。
これは EGF 受容体という EGF の刺激を受け取って細胞内に情報を伝える物質の働きを抑えるものです。
他にもいくつかの成長因子の働きを抑える物質が抗癌剤として使われています。
成長因子そのものも再生医療への応用が実践されつつあり大きく期待されていますので、EGF を含め成長因子について色々知っておくのは決して損ではありません。

なお growth factor を直訳して成長因子と言っていますが、 その中心的な役割を考えて「( 細胞 ) 増殖因子」と呼ぼうと提唱する先生もいます。
私は大賛成です。 

4年前にも当ブログで取り上げた問題ですが、EGF ( Epidermal Growth Factor、上皮成長因子 ) 入りの化粧品の宣伝がとうとうテレビにまで登場しています。
詳しくは下の記事二つを読んで頂きたいのですが、EGF は傷を修復する作用を有するのであって、美肌成分だのハリのある肌が蘇るなどといったことはありません。

EGFに関するこんな商品が出回っているようですが
傷は舐めるに限る

2011081015504422359.gifそもそも本当に EGF が配合されているのかどうか、配合されていても働きを有しているのか。
私が研究室で使っていたときは、届いた EGF を使用する濃度に調整した上で少量ずつ容器に小分けにして凍結保存。
そして使用時に解凍して使っていたのです。
常温では簡単に失活してしまうから、そのように扱っていたわけです。
もし本当にアクティブな状態で有効濃度を有しているのなら、傷が治るのが早いはず。
傷の半分に塗ってみてその部分が他の部位より早く治れば嘘ではないのでしょうが。

EGF を宣伝するネットの情報は恐ろしく詳しいのには驚かされます。
研究論文なども引用してかなり正確な部分もあり、全くの嘘もあり。
それは EGF を専門的に扱った人間にしか見抜けないでしょうね。

とにかく前にも書きましたが、新鮮な EGF は唾液に含まれていますので、美肌効果を信じるなら唾液をいっぱい肌に塗り広げてみてください。

近いうちに EGF について語ってみましょう。

tlhmupcn.gif当ブログ「傷は舐めるに限る」などで紹介している上皮成長因子 (EGF) を配合したという化粧品が出回っているようです。

EGF は消化管粘膜などの上皮や皮膚の角化細胞などに作用して細胞の増殖作用を促すのは事実です。
それで EGF を塗り込めば肌が若返ると宣伝しているようですが、そんな作用は全くありません。

これらの細胞には EGF を受け取る EGF受容体というものが存在し、EGF がこの受容体にくっつくことで作用が発揮されます。
しかし、この受容体のある場所が問題になります。
消化管粘膜の上皮は一列に並んでびっしりと消化管を覆っていますが、その表面には EGF 受容体は存在しないのです。
図に示すように側面と底面にのみ存在しているのです。
つまり、粘膜が正常な状態だと EGF が受容体に結合することはいのです。
粘膜が傷ついて細胞の側面や底面があらわになった時に初めて EGF受容体が外界に姿を現し、EGF と結合することができるのです。
皮膚でも同じ。
だから傷の治癒促進に効果はあるでしょうが、傷もない肌に化粧品を塗り込んだところで何の意味もありません。

それにEGFの寿命は長くありません。
常温で失活してしまうので、私が実験室にいた時は、凍結保存したものを必要な時に回答して使っていました。

百歩譲って、肌にいいとしたらわざわざ化粧品を使うことなく、EGF が豊富に含まれる自分の唾液を肌にペタペタ塗ってあげればいいでしょう。


参考 → EGF配合化粧品って

2_k1tmx9.gif今回のテーマは「人工イクラと胃薬」、「アルギン酸塩の話の続き」、「傷は消毒しない」の続きとして読んでください。

唾液の中には上皮成長因子 (EGF) が含まれています。名前からも推測される通り、
体の表面を覆う細胞である上皮の細胞の増殖を促す働きがあります。
皆さんの経験上、口の中の傷は皮膚の傷に比べると早く治る気がしませんか。
実はこの EGF の働きによるところが大きいのです。

ここから先は私見です。
動物の餌のとり方を考えてみましょう。
人間が口にする食べ物と違い、地面に落ちていて砂の着いたものを食べたり、舌をからめて草をむしり取ったり、
木の幹を噛み砕いたり骨を砕いたり・・・。
口の中あるいは食道などが常に傷つきやすい状況にあります。
そして野生に生きる動物には、いつでも次の食べ物にありつける保証はありません。
そんな中、せっかくの食べ物を目の前にした時に口の中の傷がなかなか治らずに痛くて食べられないとあれば、
生命の維持に大きく影響します。
唾液に EGF が含まれ、口の中の傷が早く治ることはとても理にかなったことだと私は思います。

そしてもう一つ。
動物が傷を舐めている光景を見たことがあると思います。
これまでの医学の常識なら、口の中の雑菌を傷にこすりつけていいことはない、となるでしょう。
しかし傷を舐めることでまず第一に、傷口に付いた汚れを落としている。
第二に唾液中の EGF で細胞の増殖を促している。
こう考えると全くばかげた行動ではなく、自然に備わった傷を癒す手段だと考えます。
ちなみに、唾液中には免疫グロプリンも含まれますし、
口腔内雑菌に傷を化膿させるほどの強いものが含まれていることも希でしょう。
「傷は消毒しない」の項で述べたことが一番の方法と考えますが、
応急処置のままならない状況下であればとりあえず、傷を舐めること、間違いではありません。

幼い頃、転んで傷を作った時、両親や祖父母につばを付けてもらった経験のある方、
愛情たっぷりの行為に感謝しなくてはいけません。


         □ 関連記事  EGFに関するこんな商品が出回っているようですが・・・


f7rr15rh.gif今回は「アルキン酸塩の話のつづき」の続きになる話です。

欧米の教科書には、傷口は消毒してはならないと記載されているそうです。
消毒薬の使用目的は、もちろん傷口からの感染予防。
今使われている消毒薬は、ばい菌を殺すのにとても優秀なものばかりなのですが。
では、なぜ消毒してはいけないとなったのでしょうか。

傷口から出てくる血液や浸出液には、
 ・ばい菌から体を守る、白血球や免疫グロブリン
 ・傷を治す成分
などが含まれているのですが、これらが消毒薬でダメージを受けてしまうからです。
衛生上よかれと思ってやっていたことが、自然に備わった機能も阻害し、かえって傷の治りが遅くなり、傷跡も目立ってしまう結果となることがわかったのです。

消毒の第一はとにかく傷口をきれいにすること。
傷口についた異物やはがれかけた皮膚等が感染の元になるので、徹底的に洗い流したり、切り取ったりすることがとても大切になります。
そして「アルキン酸塩の話のつづき」で紹介したような湿潤療法を行えばいいのです。

さて、この "傷を治す成分" の代表格として、皮膚や血管等の細胞の増殖を促す「成長因子」というものがあって、たくさんの種類があることが知られています。
成長因子で刺激を受けた細胞は、移動していったり、分裂して数を増やすなどして傷を塞ぎにかかります。
湿潤療法では滲み出してきた成長因子を、ハイドロコロイドが壊すことなくトラップして逃がさないので、傷が早く治るというわけです。

成長因子の一つに「上皮成長因子」(EGF)というものがあります。
これを発見した学者はノーベル賞を貰っていますが、
次の機会にこのEGFから見た、教科書にも載っていない意外な傷の治し方をお話します。

                                        続きはこちら




         □ 関連記事  EGFに関するこんな商品が出回っているようですが・・・



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