野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

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         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
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    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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PPI

きも『ピロリ菌除菌後、プロトンポンプ阻害薬 ( 以下 PPI ) を長期に服用すると胃がんのリスクが高まる( 本論文はこちら ) 。

先日、このような論文が Gut という雑誌に掲載されました。
PPIを長く連用するほど胃がんのリスクが高まり、ハザード比が1年以上で5.04、3年以上で8.34にもなるというもの。
PPIと同様に胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーという種類の薬ではハザード比が0.72で、このような傾向はなかったようです。

我々、消化器医には衝撃的な内容です。
ピロリ菌の除菌は、胃・十二指腸潰瘍の再発や胃がんの発症を予防するために行うものです。
でも、菌がいなくなると胃が本来の働きを取り戻して酸分泌が活発になるため、胃もたれや胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) を起こすことがあります。
そのため、どうしても酸分泌を抑える薬が必要になるケースがあるのです。


以前から、酸分泌抑制薬の長期連用の安全性には疑問が投げかけられていました。
「手術で胃を全摘しても生きていられるし問題はないのでは」とは消化器疾患の分野で高名な先生の言葉なのですが、実際、臨床の場において長らく処方していて困る場面に出くわしたことはほとんどありません。
しかし、これまでに
・ビタミンB12や鉄の吸収阻害
・胃酸による殺菌作用の低下に伴う肺炎や腸管感染症の増加
・骨折や認知症の増加
などの可能性が指摘されています。

丁寧にみていくと、ビタミンや鉄の吸収阻害、感染症の増加のエビデンスはありませんし、骨折については増加と変化なしの相反する報告があります。
認知症に関しても、診療記録からPPIの服用の有無で認知症の発生率の差をみた研究で、因果関係をはっきりさせたものではありません。


今回の報告で、ハザード比があまりに大きいのには驚いたのですが、作用機序はまだ未解明ですし、あくまで『ピロリ菌除菌後』という状況下での話です。
今後の研究の進展を見守りたいと思います。

胃今週、相次いで酸分泌抑制薬 (プロトンポンプ阻害薬 : PPI ) が新規に発売されます。

このPPIというジャンルの薬、消化器医以外の医師には敬遠されがちなんですね。
いくつかの要因があると思います。

まず、強い薬、というイメージがあるようです。
従来のH2ブロッカーという薬との比較でそのように感じるのでしょうが、強力というよりより確実、というふうに解釈してもらいたいものです。

また、適応となる疾患名が複雑すぎる点もあると思います。
「胃・十二指腸潰瘍」「逆流性食道炎」はまだわかります。
「ヘリコバクターピロリの除菌」となると消化器医以外には関係ない、となるでしょう。
「非びらん性胃食道逆流症」て何? とイメージが湧きませんよね。
「非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」となるともう面倒臭いとなってしまいます。
PPIの種類によって適応や用量が微妙に違っていて、消化器医でも間違ってしまうことがあります。

近年、特に高齢者においてたくさんの薬を併用していることが問題となってきています。
そこで、不必要な処方を減らすべく提唱されている STOPP Criteria という基準がよく使われるようになってきました。( → 日本語訳はこちら )
使用すべきでないケースが列挙されている中において、薬が併用されていないことを咎めている項目があります。
心血管イベントの中の2つ、
 ⑨ アスピリンとワーファリン併用患者にH2拮抗薬 ( シメチジンは除く ) もPPIも併用していない
 ⑪ 胃十二指腸潰瘍既往のある患者にH2拮抗薬かPPIを処方せずにアスピリンを投与
です。
消化管系の副作用を極力避けるために、酸分泌抑制薬の処方が必須なのです。
しかし、循環器医や脳外科医が適応病名を付けるのを煩わしく思って、酸分泌抑制薬を投与してくれないことが多いのが現状です。

改善する一つの方法として私からの提案があります。
PPI の適応を全部まとめて「酸分泌関連疾患」とシンプルにしてはどうでしょうか。
これならば、厄介に思う医師は少なくなるはずなんですが。


蝕む24日にも報道がありましたが、「脱法ハーブ」吸引による交通事故が後を絶ちません。
今回の件に関しては逮捕時の運転手の状況も映像が報道されるなど警察も異例の対応をしていました。
薬事法が改正されこの4月から取り締まりの対象となりましたが、この「脱法ハーブ」という名称が、使用する際の負い目を軽くしているような気もします。

心筋梗塞や脳梗塞の再発を予防する目的で低用量アスピリンが処方されるケースがここ10年ほどで随分増えてきました。
しかし、これも「低用量」というネーミングのせいでしょうか、心筋梗塞や脳梗塞を発症していないのに念のため、として安易な使われ方がされていることもあります。
発症を防ぐことを一次予防、再発を防ぐことを二次予防といいますが、低用量アスピリンに一次予防のエビデンスはないのです。
このことは先月FDAからも注意喚起がなされています。( → こちら )

この1ヶ月ほどの間にも、低用量アスピリンの絡んだ消化管出血を複数例経験しています。
消化管出血リスクがつきまとうことと、Proton pump inhibitorと呼ばれる酸分泌抑制薬にそのリスクを軽減させるエビデンスがあることを十分に理解した上での処方が望まれます。


≪ 過去記事ウォッチング 10 ≫


ypq8ki2x.gif消化性潰瘍や食道静脈瘤は減少し、逆流性食道炎が目に見えて増えてきている。
私が医師になってからの
このような消化管病変の移り変わりについては、このブログでも何回か述べさせてもらっています。

逆流性食道炎に対しては、Proton pump inhibitor ( PPI ) と呼ばれる酸分泌抑制薬が最もよく使われる薬剤ですが、奇妙なのは8週間を一区切りとする制約があること。
胃・十二指腸潰瘍にも PPI 投与期間に制約がありますが、これはピロリ菌除菌と併せると治る病気。
しかし、逆流性食道炎に対してはは逆流する胃液中の塩酸濃度を緩和するという対症療法に過ぎません。
心窩部痛や胸やけ、呑酸などのひどい症状の方が増えてきている現状に全く合わないこの投与期間制限は改めないといけませんね。

さて、PPI だけでは十分に症状が改善しない方に、私が好んで処方するのが海藻を原料に作られるアルギン酸塩 ( アルロイドG ) という液体の薬剤。
傷の表面を覆い痛みを和らげてくれるのですが、 不評なのはその味とのど越しの悪さ。
なので、服用前に「原料は海藻で、その海藻のぬめりの成分が傷を保護して酸から守ってくれます」と説明しておくと嫌がる方はほとんどいなくなります。

アルギン酸についての豆知識は、ブログを始めて間もない頃「人工イクラと胃薬」に書いています。 

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♦♦ 食道の入り口で胃液が…

のどの部分の違和感があるのに検査をしても何も所見を見いだせないものを咽喉頭異常感症と呼び、この原因の一つとして胃食道逆流症 ( GERD ) が挙げられます。
胃液が鼻や耳にまで影響を及ぼすことは、このシリーズ第3回で述べた通りです。
ところで胃液を作る場所が胃だけではなく、食道の入り口でも作られるとしたら・・・、そんなことあるのでしょうか。

20101026161538356.gif♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の写真

内視鏡で検査を行なうと右の写真のように食道の入り口に胃粘膜を見つけることがあります。
左右両側にあるやや赤い部分がそれ。
これを食道入口部異所性胃粘膜 ( 通称 Inlet patch ) と呼びます。
GERD の分野で著名なある先生にこの inlet patch についていくつか質問をぶつけたことがありますが、先天性のものだし酸分泌をすることもないので問題ないでしょうとにべもない返事でした。

ここで inlet patch について深く掘り下げてみましょう。

♦♦ どうしてできる ? 食道入口部異所性胃粘膜

胎児の時代に食道が作られるとき、表面の円柱上皮が扁平上皮に置き換わってくる現象が、食道の中部付近から始まって徐々に口の方と胃の方に進んでいきます。
進み方が不完全で食道の入り口に取り残された円柱上皮がこの inlet patch になるというのが定説です。
Inlet patch の細胞を詳しく調べた研究でグルカゴンというホルモンを分泌する細胞を見いだすことがあるそうです。
グルカゴンは成人では膵臓で作られますが、胎生初期の胃ではグルカゴンを作る細胞が存在します。成長とともに消失することから、inlet patch が胎生期の粘膜の名残りであるという説を支持するものになっています。
でも、inlet patch は胃の上部の噴門腺領域の粘膜に似ていて、胎生期の円柱上皮とは異なるので先天性ではないとする説も存在します。

♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の治療は ?

この inlet patch の組織を採取して顕微鏡で調べると胃酸を分泌する壁細胞が見つかることがあります。
胃液がわざわざ胃から逆流してこなくても、食道入口部で酸が分泌されればのどの不快感を起こすであろうことは想像できますよね。
これまで臨床の現場で、そのような症状があって inlet patch がある人に PPI ( proton pump inhibitor ) などの酸分泌抑制薬を投与して症状が治まる人を何例も経験しています。
また、この異常感があってなおかつ PPI でも治らない人に対して inlet patch を電気的に焼いてしまうことで治療する方法も昨年紹介されました。( Gastroenterology. 2009 Aug;137(2):440-4 )
この場合、悪さをしているのは酸ではなく粘液ではないかと推測されています。

♦♦ 案外多い食道入口部異所性胃粘膜
さて、inlet patch がどのくらいの頻度で見つかるのかというと報告で大きなばらつきがあって 0.1 - 20 % と200倍の開きがあります。
日本人を対象とした内視鏡での検討では 14.2%、つまり 7人に1人の割合で発見されるようです。( Progress of Digestive Endoscopy 2005 ; 66 : 19-21 )
海外の報告は一桁台が多いのですが、日本人に多いのか海外の内視鏡レベルが低いのかのどちらかでしょう。

♦♦ まだまだ研究の余地がある食道入口部異所性胃粘膜

Inlet patch 部分へのピロリ菌感染や癌の発生などの報告もありますし、前章で紹介した日本人での内視鏡検討では高齢者においてinlet patchを有する頻度がやや低いとなっています。
成人以降もかなり長い時間をかけて食道粘膜が完成していくのか、はたまた若い世代に GERD が多いことと関連するのかなど興味は尽きないのですが、消化器をやっている医師の間でもあまり重要視されていないのが現状です。
本当に先天的なものとしていいのか ( Barrett 上皮のように後天的なものがないか ? )、GERD の食道外病変と同様の症状にどのくらい関与するのか、どうして inlet patch が生じやすい方向があるのか ( 3-4時方向と9-10時方向に多い印象です ) など inlet patch には研究の余地はたくさんあります。

食道胃接合部の観察には経鼻内視鏡が優れているということはシリーズ第4回で書きました。
実は経鼻内視鏡を導入するときに、反射が少ないことから inlet patch の観察もしやすくなるのではと期待していましたが、逆に近接して見づらい状況に苦労しています。
しかし食道入口部の観察も念を入れてやっておりますので、咽喉頭異常感症の症状があって内視鏡を受けられたことのない方は是非検査を。

( 2022年5月31日更新 )




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GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。

余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。

2010082514073811596.gif先月、ランソプラゾールという胃薬が「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」の目的で使えるようになったことを当ブログで話題にしたばかりでしたが、今度は同じランソプラゾールが「非ステロイド性抗炎症薬 ( NSAIDs ) 投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」という目的でも使えるようになりました。

特にご高齢の方で体のあちこちの痛みのために NSAIDs を連用せざるを得ない方にはビッグニュースです。
ただ、肩に痛みには H2ブロッカーと呼ばれるタイプの胃薬との併用がいい場合もあるでしょうが。(→ こちら)

それにしてもアスピリンだって NSAIDs の一種。
効能追加はまとめてやっちゃえばいいのにと思いますが、国の許認可を得るって一筋縄ではいかないのでしょうね。

201007252223199784.gif胃酸分泌抑制薬の一つで PPI (proton pump inhibitor)と呼ばれる薬について、日本では使用期限が厳しく設定されていることを以前このブログで嘆いたことがありました。( → こちら )

しかし7月23日、PPI の一種ランソプラゾールが「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」の目的で使えるようになりました。
低用量アスピリンを服用している限り、潰瘍の再発予防目的で期間の制限なく継続して使えるわけです。
ピロリ菌除菌の適応拡大に続いて、消化器分野においての朗報です。

起こる確率は高くないものの、アスピリンに起因する消化管出血は簡単に止めることができないため、酸分泌抑制薬が併用可となる時が待ち望まれていました。
処方する方も飲む方も低用量という言葉に妙な安堵を感じるかも知れませんが、アスピリンの抗血小板作用は強力ですから是非 PPI を合わせて飲んで下さい。

g7mnaxzl.gif我々消化器内科で最もよく使う薬の一つに PPI (proton pump inhibitor) と呼ばれる強力な胃酸分泌抑制薬があります。
胃酸を作る壁細胞の水素イオン (プロトン) の出口の働きを阻害します。
日本において1991年から使えるようになり、以降胃や十二指腸潰瘍、胃食道逆流症 (逆流性食道炎) 等の治療に大いに貢献しています。

その PPI に関して 8月に二つほど気になる話題がありましたので紹介しておきます。



● PPI を長期にわたって使用していると骨折のリスクが高くなるという話。 (CMAJ 2008 179: 319-326)
以前にも似たような報告があったのですが、今回のレポートの特徴は薬の使用期間との関連に言及していること。
6年以下だと関連は薄いが、7年以上使い続けると骨粗鬆症絡みの骨折のリスクが約 2倍に。
股関節の骨折に限定すると 5年で 6割増し、7年で 4倍になるとのこと。
理由は不明としながらも、胃酸の抑制によりカルシウムの吸収が悪くなるからではと推測しています。


ちなみに、破骨細胞にもプロトンポンプが存在しているため骨代謝に何らかの影響を及ぼしているのでは、とも言われていますが原因はよくわかっていません。
消化器医として酸分泌抑制薬を長期に投与するケースが当たり前のように多いのですが、一方で食べ物を消化するのに必要な胃酸を無理やり押さえ込んでデメリットはないものなのかという疑問を私は持っています。
しかし、消化器の専門家の間でそのことが論議されることがないのも事実。
酸分泌を抑制することで様々な消化器疾患に打ち勝ち、人類に大いに貢献していることは紛れもないことです。
でも、胃食道逆流症を中心に今後 PPI 長期投与の症例はどんどん増えてくるはずですので、問題点が出てくればしっかり対処していかなくてはなりません。



● 低用量アスピリン療法を行なっている冠動脈性心疾患の患者に PPI を用いて上部消化管出血を予防することの費用効果を調べた研究。 (Arch Intern Med. 2008;168:1684-1690, 2543-2544)
OTC薬ならば費用効果が高いけれども、処方箋を用いると費用効果が良いのは出血リスクの高い人だけに限られると結論づけています。


医療システムの異なる国のデータであり当然医療コストにも違いがあるので、そのまま日本の現場にあてはめることはできません。
PPI に関して日本では、十二指腸潰瘍なら 6週間迄、胃潰瘍なら 8週間迄等、厳しい使用期限が設けられています。
対して米国では、医師の処方箋がなくともそこらへんの店で大衆薬として簡単に手に入るものなのです。
OTCとは over the counter の略で、一般用医薬品のことを指します。

循環器や脳外科などでアスピリンは使用頻度の高いものですが、消化管出血のリスクに対して無頓着なケースを見受けることがあります。
先ほど述べたように PPI に使用期限があって使いづらいことも一因かと思います。
ひとたびアスピリンが原因で消化管出血をきたすと簡単には止まらず、内視鏡医泣かせであります。
「低用量」という言葉に安心感を抱いているかもしれませんが、血小板に対するアスピリンの作用は非可逆的なものであることは肝に銘じてもらいたいところです。


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