<< 宿便について考える 第五回 >>


♦♦ ウンチの分類

宿便に絡んで話を進めていますが、今回は便の形状についての話です。
実は、皆さんの知らないところでウンチの形が 7種類に分類されているのです。

これは1990年に発表された論文にあるもので、Bristol stool form scale と呼ばれています。

Bristol stool form scale.gif
1型 木の実のようなコロコロしたの硬い便(排便が困難)
2型 硬便が集まってゴツゴツしたソーセージ状の便
3型 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
4型 表面が滑らかで柔らかくソーセージ状あるいは蛇状の便
5型 境界のはっきりした半固形の小塊状の便(排便が容易)
6型 不定形の柔らかい小片便、粥状便
7型 固まりのない水様便


3型ないし4型に分類される性状のものが理想的な便とされています。

♦♦ ネットにはびこる間違い

この便の分類はある疾患において重要なものになってきているのですが、それを語る前に一つ言っておきたいことがあります。
ネットで調べてみると「ブリストル大学のへーリング博士が考案し、1990年の英国の医学誌に発表したもの」と書いてあるサイトがたくさんあることです。
これはとんでもない間違いなんです。

Googleで上位でヒットする英語のサイトに「It was developed by Dr. K. Hering at the University of Bristol and was first published in the British Medical Journal in 1990.」という誤った記載があります。
この誤りを誰かがそのまま日本語に訳して引用したのでしょう。
それを更に別のサイトがコピペして文章が広がっていったものと推定されます。
英語のサイトでも間違ったままの情報がかなり伝搬しています。

1990年に BMJ 誌に掲載された論文が、この Bristol stool form scale を最初に記載したものなんです。
First author は O'Donell という人ですが、最後に KW Heaton という共同研究者名があり、これがいつの間にか K Hering と変わってしまった可能性があります。

なお、論文の内容は PDF ファイルで閲覧可能ですからご参考に。
( http://www.pubmedcentral.nih.gov/picrender.fcgi?artid=1662249&blobtype=pdf )

Bristol stool form scale に関しては、Wikipedia でも最初の論文は 1997年としていますね。

♦♦ ネットの情報は鵜呑みにしない

常々、ネットの情報は必ずしも正しくないと言っておりますが、これも一つの例。
しかも、ろくに調べもせず、間違った情報がコピペでどんどん広まっている現状、嘆かわしいですね。

そもそも、この便の分類に大学名である Bristol という名称を付けたため、言いだしっぺが誰かわからなくなってしまったとも考えられます。
研究者は自分の名前を何らかの形で残したがる人が多いのですが、便の分類に自分の名前を付けるのはさすがにためらわれたのでしょうか。

この右側の分類表が Tシャツの図柄になっているのを見つけましたが、興味のある方はどうぞ。
( http://www.redbubble.com/people/joshis13/t-shirts/1926845-2-bristol-stool-chart-bingo )

かなり脱線しましたが、この便の形状の分類を踏まえ、次回過敏性腸症候群について話を進めていこうと思います。


宿便について考える 第四回 「大腸憩室症について」
宿便について考える 第六回 「過敏性腸症候群 その1」