<< 風邪薬についての考察 第7回 >>


粉薬総合感冒薬は、世代を問わず最も服用する機会の多い薬だと思います。
第1回にも書きましたが、鼻・のど・咳の三症状が揃ったものを風邪と言いますが、実際に外来に来られる方の症状は複雑で多彩。
発症からの時間経過によっても症状が刻々と変化しますしね。
そんな風邪を幅広くカバーするために、市販の総合感冒薬は一つのブランドでも複数の種類を揃えています。
それでもその時の症状に必要なものが欠けていたり、逆に余分であったりすることがどうしても生じてしまうのが難点です。

医療用の総合感冒薬として代表的なのが「PL顆粒」。
病院で処方してもらった経験のある方も多いと思いますが、前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障等に禁忌であることや、どんな成分が含まれているのかすら知らずに処方している医師が多いのが現状です。
なぜ前立腺肥大症や緑内障に使ってはいけないのか ( 他にも禁忌はありますが ) 、その中身を検討してみましょう。

PL顆粒に含まれるのは以下の4つの成分です。

 ① サリチルアミド
 ② アセトアミノフェン
 ③ メチレンジサリチル酸プロメタジン
 ④ 無水カフェイン

① は
消化器医をやっている私のブログには何度も出てきた解熱鎮痛作用を持つ非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) の一種で、胃や十二指腸潰瘍がある場合には使えません。
② はカロナールという商品名で有名な成分ですが、これも解熱鎮痛作用があります。
③ は抗ヒスタミン薬で、鼻水やくしゃみを抑える効果があります。
④ は改めて説明するまでもなく様々な作用を持ち合わせているのですが、医師が処方箋薬として使うのは原則として鎮痛を目的にする場合に限られます。

解熱鎮痛剤が2種類含まれてますし、カフェインも表向きは鎮痛を目的として配合されているとすると、いびつな組み合わせですよね。
それに、三大症状の一つである「咳」に対する有効成分が見当たりません
総合感冒薬と謳っていますが、万能ではないのです。
ただ、④ は咳を鎮めるテオフィリンという物質に化学構造が似ており、ある程度咳に効くとされています。
ご存知のように覚醒作用もありますので、抗ヒスタミン薬による眠気対策としても混ぜてあるのでしょう。
そしてカフェインの存在下でアセトアミノフェンの作用が増強されるとも考えられています。
また、③ の抗ヒスタミン薬が咳に有効な場合もあり得ます。

しかし、咳を鎮める目的で使われることの多いコデイン系やデキストロメトルファン ( PL顆粒を販売している会社の製品の一つ ) などが、配合されていないのはなぜなのでしょうか。
実は深く掘り下げてみると鎮咳成分を混ぜていないのはとても賢明なのかも知れません。
これはまた第9回で触れる予定にしています。

薬の知識を持っている人ならば、前立腺肥大症や緑内障に使えない薬剤といえば、副交感神経の働きを抑える抗コリン薬を思い浮かべます。
PL顆粒には抗コリン薬は含まれていませんけれども、実は抗ヒスタミン薬である ③ は抗コリン作用も併せ持っているのです。
そんなわけで抗コリン薬と同じ禁忌項目があるわけなのです。

次回は風邪薬から少し離れますが、抗コリン作用のある薬物をちょっと考察してみます。


 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ
 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?」