<< 風邪薬についての考察 第8回 >>


トイレ前回は、PL顆粒に含まれるメチレンジサリチル酸プロメタジンという抗ヒスタミン薬に抗コリン作用があるから、前立腺肥大症緑内障のある方には使用禁忌だ、と書きました。
このことについて大まかに。

抗コリン作用を持つ薬剤は、副交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質の働きを邪魔します。
その結果、副交感神経の持つ様々な働きが抑制されてしまいます。
内視鏡検査の時によく使う胃腸の動きを抑える注射や眼底検査の時に瞳孔を拡げる点眼薬は、この作用を活用した薬剤になります。

目的とする働きだけが抑制されたら理想的なのですが、そういうわけにはいきません。
副交感神経がうまく働かなくなるといろいろと困った症状も出てきます。
例えば、

● 瞳孔が拡がる → 房水の出口が狭くなって眼圧が上がる
● 涙や唾液の分泌が減る → ドライアイ、 口渇
● 消化管の動きが悪くなる → 便秘、吐き気
● 心拍数が増える → 不整脈を誘発しやすくなる
● 膀胱括約筋が緩まなくなる → 排尿障害

他にも様々な影響があるのですががこのくらいで
要するに副交感神経の働きが鈍るので抗コリン作用を持つPL顆粒は前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障には使えないというわけです。

抗コリン作用を期待して薬を選択する場合も当然ありますが、ありがたくないことに、この作用を持つ薬剤は抗コリン剤だけでありません。
今回話題にしている抗ヒスタミン薬もそうですし、向精神薬制吐薬気管支拡張薬抗不整脈薬ステロイド降圧薬筋弛緩薬潰瘍治療薬…と強弱はあれど様々な薬が抗コリン作用を持ち合わせています。
( ここに挙げた全ての薬が抗コリン作用を持つわけではありません。種類によります。)

注意しておきたいのは、抗コリン作用は認知機能にも影響を及ぼすということ。
高齢者においては、上に挙げたような抗コリン作用を有する薬剤を複数飲み合わせているケースが珍しくはありません。
認知症と診断される高齢者の 1割くらいは薬剤性の認知症とも言われおり、薬剤の関与が疑わしければ処方内容を再検討する必要も出てきます。
多くの薬剤を服用している高齢者が風邪をひいた際にPL顆粒や市販の総合感冒薬を服用すれば、薬物代謝の能力が落ちているために抗コリン作用を増長させかねないので、極めて注意を要します。
風邪薬に限らず、そして高齢者に限らず、抗コリン作用が重なる処方の組み合わせはできるだけ必要最小限に留める努力も我々医者には求められると思います。

さて、PL顆粒には風邪の三大症状の一つ「咳」に対する成分が含まれていないことに前回言及しましたが、それは薬物の代謝酵素の側面から見ると賢明に思えます。
次回は「CYP2D6」という代謝酵素を取り上げて検討してみたいと思います。


 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由
 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1