薬私が風邪に抗菌薬 ( 抗生物質) を処方しなくなって久しくなります。
医者になりたての頃、先輩医師から「ウイルス感染でも二次感染を予防する意味がある」と教えられ、それを信じて抵抗感なく処方していた時代もありました。
でもそれは「もしものため」という、医学的には全く根拠に乏しいものでした。

世界的に抗菌薬の不必要な処方が問題となっています。
我が国でも伊勢志摩サミットに先んじて、2020年までに風邪への抗生物質処方を規制するなどして使用量を現在の3分の2に減らそう、という行動計画を公表しました。
先月には、東日本大震災の際に避難所で被災者に処方された抗菌薬の9割は不必要なものであったことが報告されています。

つい最近「フロモックス錠100mgが効かないのはなぜ ?」という記事がネット上に登場しました。
フロモックスに限らずメイアクトやセフゾンなど第三世代経口セフェムと呼ばれる抗菌薬が、ほとんど体内に吸収されない薬剤であることが書かれています。
最後には「フロモックスばかり出す医者は要注意」という項目があり、念のためという安易な発想でしかも感染部位には届くことのない薬を処方する医師をやんわりと咎めています。

「患者への抗菌薬は医者にとっての抗不安薬」などと揶揄されることもあります。
そういう長年の慣習からか、風邪に抗菌薬を処方しないと「私の風邪は抗菌薬ですぐ治るのに」と一部の患者さんから怒られる場合もあります。
しかし、私はウイルス感染には抗菌薬を出しませんし、仮に細菌感染であっても人間の体はそんなに柔なものじゃなく大抵自然に治ってしまうことを知っています。
細菌感染がわかって抗菌薬が必要な場合でも、第三世代経口セフェムの名を処方箋に書くことはありません。
随分前から抗菌薬は適正に使っているつもりなので、20年度までに更に3分の2に減らすのはちょっと無理な話ですが‥。