◆ 診療所ライブラリー 178 ◆


食べることと出すこと潰瘍性大腸炎の闘病記。
ですが、今回紹介する本を書いた方は文筆家だけあって、小説・ドラマ・落語・漫画等、いろんな場面を引用しながら、食事と排泄に焦点を当てて深く洞察した中身の濃い文章を提供してくれています。
病気を患ったからこそ書ける苦しみや感覚、見えてくる光景。
患者ばかりを診ている私とは別の視点で捉えた人間社会の有り様に、どんどん引き込まれていきます。

個人的には「食コミュニケーション - 共食圧力」という章にいたく共感しました。
差し出されたものを食べると、そこに人と人のつながりができ、打ち解けていく。
逆に食べないでいたら、それは相手を拒絶すること。
そういう内容で話が展開していきます。

食事を挟んで会話を楽しむのは、私にとってはとても苦手なことです。
なぜなら、食べる口と話す口は同じじゃないですか。
両方を同時に使い分けるほど、私は器用ではありません。
おいしいものを食べている時は、悪いけど話しかけて欲しくないのです。
こういう変な人も病気で食べられない人も蚊帳の外に置かず、なぜ黙々と食べているのか、食べられないのか興味を持ってもらいたいものです。

コロナ禍で日常が掻き乱され、これまでの常識が通用しない場面も増えています。
この経験は、病気をした時と同じように社会の見え方を変えるものになると思います。
この本を読んで、当たり前のことが当たり前でなくなった時、持つべき大事な視点を磨いてみませんか。