◆ 診療所ライブラリー 170 ◆


すべての医療は.「不確実」である巻頭とあとがきで、著者が若手医師だった頃に経験したつらい症例のことが書かれています。
そこで「たとえようのない無力感と、諦念と、ある種の罪悪感に同時に襲われた」そうですが、私も同じように気持ちになったことがあります。
ずっと医療に携っていますが、今の医学が何でも治せるものではないし、同じ疾患でも患者ごとに治療成果が異なることは嫌というほど思い知らされます。

20年ほど前までは医者の経験や勘に頼っている部分が多かった臨床現場に、科学的根拠に基づいた医療を施すことが徐々に浸透してきました。
個人的な医師の経験則を排除して、信頼性の高い治療法がどんな医療機関でも受けられるよう平準化がなされてきているのです。

その科学的根拠を明らかにする臨床疫学という学問に身を投じた著者が、しっかりしたデータを元に様々な医療手段に鋭く切り込んでいるのが、今回紹介する本です。

がんの代替医療が科学的根拠に基づく医療を代替できることはないと断じていますし、 風邪への抗菌薬処方が慣習的な医療であり患者もその臨床的経験に依拠してしまうこと、タミフルや子宮頸癌ワクチンの騒動にはマスコミがあまりにも無責任な報道を行なってきたことも断罪しています。
面白いのは、職場の定期健康診断で医者の聴診は不要だし、医者の診察すら不要だとしていること。
これにもちゃんとしたデータに基づいた提案なのです。

医療がどう不確実なものか、それは本書を読んでいただくこととしますが、個人的にはタイトルのイメージとは裏腹に読後にスカッとした気分になれる非常に面白いないようでした。


参考 → 「風邪の際の抗菌薬に対する意識」