◆ 診療所ライブラリー 149 ◆


IBSサブタイトルに「IBSの治療はカンタン !」とあるので手に取った本です。
昔から過敏性腸症候群 ( Irritable bowel syndrome ; IBS ) に興味を持って接してきた私に言わせると、決して簡単な疾患ではありませんし、読んでも全くしっくりとしませんでした。

この著者の本「女はつまる 男はくだる」は、このシリーズで以前紹介しています。
この中で、欧米人に比べて日本人には大腸の走行異常が多く、それが便通異常に繋がっていると述べています。
これには非常に共感するところが多いのですが、それを今回の著書の中で「腸管形態型 IBS」と分類してしまっている点が気になります。

また、便秘型 IBSよりも通常の便秘の方が治療が難しいととれる記載がありますが、そんなことはありません。
この両者は、腹痛の有無と便の性状を聞くことでほぼ区別することができます。
しっかり鑑別できれば通常の便秘の方がはるかに治療がやさしいのです。
便秘型 IBSなのに、自己判断で市販の便秘薬を用いているにもかかわらず、排便に苦労している方が多いのが現状なんです。
一方、通常の便秘であれば、市販薬の頓服程度でも十分なケースが大半を占めます。
ちょっと古い記事になりますが、便の性状の分類については「ウンチの種類」、便秘型 IBSについては「過敏性腸症候群 その2」を参考にして下さい。

さらに、IBSの治療薬については、私が最も基本的に使う漢方薬については一切触れられていません。
IBSは診断がついても、治療にあたっては個々に応じた薬剤の組合せを見つけるのに非常に苦労し、決して「カンタン」なものではありませんが、漢方薬をベースにすると患者さんの治療満足度が全然違うのです。

苦言ばかりを呈しましたが、胆汁性下痢型 IBSにきっちり言及し、その治療法も示していることは評価できます。
平易な文章で書かれており、IBSや便通異常について理解するのにはいい本だと思います。
なお、胆汁と便通に関しては「胆汁酸をコントロールして便通改善 そしてメタボにも !?」を参考にして下さい。

♦♦♦♦♦

この本が出た時には、日本消化器病学会による「慢性便秘症診療ガイドライン」がまとまる前だったので致し方ないのかも知れませんが、便秘の分類で「直腸性」「けいれん性」「弛緩性」という日本独自の分類を用いて解説がなされています。

ここで現在の便秘の分類についてみてみたいと思います。
現在は、症状からは「排便回数減少型」と「排便困難型」に、病態からは「大腸通過正常型」「大腸通過遅延型」「器質性便排出障害」「機能性便排出障害」というふうに分類がなされます。
大腸通過正常型では、食物繊維を多くとることで症状が改善することが多く、大腸通過遅延型では下剤を必要とします。
器質性便排出障害は、女性にみられる直腸瘤などが原因で、手術を要する場合があります。
機能性便排出障害は、排便しようとすると逆に肛門が締まったり、肛門・直腸近辺の感覚が鈍ったりしているものです。



当院では、医療・介護・健康などに関する書籍を取り揃えて貸し出しも行なっています。
是非ご活用下さい。( → 当院の書籍の貸出しについて )