野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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 薬・注射の話

「高齢者診療におけるポリファーマシー」と題する論文が載っているのは、日本内科学会5月号。(日内会誌 108 : 971 ~ 977, 2019
具体的な事例を挙げ、その問題点を洗い出し、高齢者に複数処方されている内服薬の適正化の過程を示しています。


♦♦♦♦♦ 高齢者に処方されている薬の現実に論文ではどう対応したか ♦♦♦♦♦

論文に書かれているその症例の概略をみていきましょう。

入院症例 : 87歳、男性。
経過 : 施設入所中に発熱・低酸素血症あり、誤嚥性肺炎と診断され入院。
既往歴
: 高血圧症・脂質異常症・高尿酸血症・アルツハイマー型認知症・不眠症・骨粗鬆症・変形性膝関節症・前立腺肥大症。
脳梗塞や心筋梗塞の既往はなし、アルコール・喫煙習慣はなし。

そして、入院時の投薬内容です。
1日に12種類、計18錠も服用しています。

( 内科クリニックより )
 ① バルサルタン           80mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ② トリクロルメチアジド         1mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ③ ロスバスタチン         2.5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ④ 酸化マグネシウム       330mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑤ フェブキソスタット        10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑥ エチゾラム           0.5mg     1回1錠 1日1回 就寝前
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑧ オメプラゾール          10mg     1回1錠 1日1回 朝食後

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑨ ロキソプロフェンナトリウム    60mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑩ レバミピド          100mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後

( 泌尿器科クリニックより )
 ⑫ シロドシン             4mg      1回1錠 1日1回 朝食後

入院中に抗菌薬の点滴治療を行なったが、経口摂取が十分にできず、一時的に全ての内服薬を中止。
すると・・・、
・降圧薬
中止後も収縮期血圧は100~110mmHg前後を推移、そのまま中止
・利尿薬中止で頻尿も目立たなくなり、排尿障害治療薬も中止
・ふらつきの原因と考えられた抗不安薬
を中止しても不眠は起こらず
・適応疾患不明のPPI
も中止

その結果、以下の7種類、13錠に減らすことができたようです。

( 内科クリニックより )
 ③ ロスバスタチン         2.5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ④ 酸化マグネシウム       330mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑤ フェブキソスタット        10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑨ ロキソプロフェンナトリウム    60mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑩ レバミピド          100mg     1回1錠 1日3回 毎食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後


♦♦♦♦♦ 私なら、こう考えてもっと減薬する ♦♦♦♦♦

薬を飲むこの症例では、入院をして血圧の推移や睡眠の状態を把握できたため、減薬に繋がりました。
しかし、私が思うにそれ以外にも減らせるものがあり、それは入院に関係なくできそうなものです。

具体的に考えてみましょう。


■ 高齢者へのスタチン投与について

まず、高コレステロール血症治療薬
について。
この方は、既往歴に脳梗塞や心筋梗塞がないので、この薬は一次予防(
※)に使っていると思われます。
スタチンと呼ばれるこの種類の薬は、75歳以上の方が服用しても
脳梗塞や心筋梗塞の予防効果がないとされています。
ただし、2型糖尿病のある75歳から84歳の高齢者での有用性の報告はあります。
今回の症例は、87歳で糖尿病もありませんから、もはや服用する意味はないと思われます。

また、
は下剤と併用すると血中濃度が約50%低下したという報告もありますので、この両者を併用する場合は、服用するタイミングをずらす工夫が必要となります。

( ※ 一次予防 : 疾患を引き起こさないための予防。対して疾患の再発を防ぐものを二次予防と呼ぶ。)


■ 高尿酸血症は治療すべきか

次に、高尿酸血症治療薬
について。
日本では、尿酸が高いと心臓や腎臓の疾患に繋がるという理由で、積極的に薬が使われる傾向があります。
しかし、欧米では高尿酸血症治療薬には心臓や腎臓の疾患の予防効果は認められないとして、痛風発作を起こした方の二次予防として使われるだけです。
いろいろ議論のあるところですが、この方については、尿酸を上げてしまう降圧薬
と利尿薬の2つの薬剤を中止できたわけですし、無理をして服用することはないでしょう。

従って、私だったら
も中止しちゃいます。


■ 酸化マグネシウム錠剤の工夫と注意点

次に、下剤
について。
これには500mgという剤形もありますので、500mgを1日2回・朝夕食後、とすれば1錠減らすことが可能です。
注意したいのは、PPI
を中止したのでの作用が増強し、軟便 ~ 下痢になってしまう可能性があること。
便の性状を見ながら投与量を加減する必要が出てきます。


■ 解熱鎮痛薬の功罪

整形外科から出ているロキソプロフェン
について。
87歳という高齢の方に対して、消化管や腎臓などに影響の大きい薬をフルドーズ使っても大丈夫なのか疑問を感じます。
私だったら怖くて処方できません。
鎮痛効果は劣るものの、副作用が少なく1日2回投与で済むセレコキシブへの変更はできないでしょうか。
アセトアミノフェンという手もありますが、錠数が多くなってしまうのは高齢者には負担だと考えます。
この症例の男性については、「何とかつたい歩きが可能」という記載がありますので、積極的に鎮痛薬を活用すべきなのかどうか検討が必要です。


■ 解熱鎮痛薬に併用される胃薬について

そして、胃薬
について。
レバミピドは、整形外科領域の医師が、鎮痛薬を出す際に併せて処方することの多い薬です。
でも、鎮痛薬で一番懸念される胃潰瘍などを含む胃粘膜障害の予防には全く歯が立ちません。
正直、無駄な処方です。
本当にこの副作用を予防したいのなら、中止した
PPIの方が望ましいのです。
適応疾患不明ということで切り捨てられた
の代わりに復活させたいところです。

日本の保険診療のおかしなところなのですが、鎮痛薬と併せてやテプレノンを処方することには何のお咎めもありません。
一方、副作用予防が期待できる
を併用すると、必ず処方理由を問われます。
本当はあってはならないことで、逆になぜ
を併用しないのか、を処方する意味は何なのかを問うようにして、処方の適正化を図っていくように促すのが本筋だと私は思うのですが。

なお、
には鎮痛薬による小腸粘膜障害を予防する効果があるとされています。
小腸粘膜障害を予防する効果は、イルソグラジンマレイン酸塩という胃薬にも認められています。
この薬ならば、1日1回の投与も可能で、
のように3回服用してもらう煩わしさはありません。
どうしても胃粘膜防御因子増強薬にこだわりたいのであれば、考慮してみたい薬です。



以上のことを踏まえて、私なりに更に減薬を進めると、次のようになります。
1日5種類、7錠まで減らすことになりました。
昼食後の服用がなくなるのもポイントです。
ただし、この高齢者の腎機能に異常を認めないという前提です。
腎機能の低下があれば、
の減量やの中止も考えないといけないからです。

( 内科クリニックより )
 ⑬ 酸化マグネシウム       500mg     1回1錠 1日2回 朝夕食後
 ⑦ ドネペジル塩酸塩           5mg     1回1錠 1日1回 朝食後
 ⑧ オメプラゾール          10mg     1回1錠 1日1回 朝食後
     (又はイルソグラジンマレイン酸塩 4mg     1回1錠 1日1回 朝食後)

( 整形外科クリニックより ) 
 ⑭ セレコキシブ                           100mg     1回1錠 1日2回 朝夕食後
 ⑪ エルデカルシトール        0.5μg     1回1錠 1日1回 毎食後


♦♦♦♦♦ 減薬についての私の考え ♦♦♦♦♦

長々と書きましたが、私は以前から減薬には積極的です。
遮二無二、薬を減らすことだけを目的にしてはいけません。
患者さんの状態と薬の効果・副作用・相互作用をよく吟味し、投薬の必要性の評価を折りに触れて行ない、適切な処方を心がけたいものです。


「筋の通った処方箋はシンプルで美しい」

これが私のモットーです。

7月6日にあすか製薬から、高血圧の治療薬であるバルサルタン錠『AAに発がん性があるとされる物質が混入していたため自主回収するという通知がありました ( → こちら ) 。
バルサルタン 大丈夫です既に問い合わせもいただいておりますが、当院で採用しているバルサルタンは別会社のものであり、問題はありませんのでご安心下さい。

後発医薬品は一般名の後に、アルファベットや仮名・漢字などで製薬会社名が記されています。
これをなぜかブランド名とは言わず屋号と呼んでいますが、
AAはかつて存在したあすか製薬の子会社「あすかActavis製薬」製品を示すものです ( → ちょっと古いですが、屋号対照表 ) 。
この屋号が異なっていれば、該当する製品ではないわけです。
なお、今回回収される製品自体は昨年9月で製造中止となっています。

問題となっている製品は中国企業の原薬を使っていたようですが、それに「N-ニトロソジメチルアミン」という物質が混入していたと、スペインから厚労省に情報が寄せられたそうです。
欧州やカナダなど22か国でもバルサルタン及びバルサルタンを含む配合剤の回収が始まっており、スペインでは100以上の銘柄に及ぶようです。( → 資料 1資料 2 )
N-ニトロソジメチルアミンは、タバコの煙や薫製製品などに含まれることがある物質ですが、なぜそのようなものが混入したのか、原因究明が待たれます。

コスト面のメリットから中国製品が使われるケースがあると思いますが、ちゃんとした成分が入っているのか、余計な物が含まれていないのか、独自に調べてみなければ何もわからないなんて恐ろしい話です。
今回は、医薬品だからこそこのような事実が判明したし、それに対して適切な対応がなされていると考えます。

問題は、皆さんが安易に手にするサプリメント。
その多くが中国に発注をかけているのですが、注文通りの成分が規定量含まれているのかどうか、調べる体力は発売元にはありません。
アミノ酸の原料が人毛であったり、鉄剤として鉄粉が入っていたりしてもわからないのです。( → 参考 サプリメントの正体 )
ましてや、考えもしない不純物が入っていたとしたら・・。
実際、某アスリートが表示には記されていなかったにもかかわらず禁止物質を含んでいたサプリをネットで購入して服用し、ドーピング違反に問われた事件もあります。( → 参考 サプリメントの危険性 アスリートは肝に銘じて
サプリメントの宣伝文句を盲目的に信じて服用していたら、体にどんな悪影響があるかわかりませんし、競技人生を棒に振ることだって起こり得るのです。
サプリメントに期待もお金もかけてはダメです。

国は少しでも医療費を削減しようと、ジェネリック医薬品の使用を推奨し、その薬価にも厳しい要求を課しています ( 先発品の4割から5割の価格 ) 。
ジェネリックの製薬メーカーも競争が激しく、利益を上げるために安価な中国メーカーの製品に手を出さざるを得ないのかも知れません。
アセトアミノフェンに、無届けで中国製のものを混入させていた問題も昨年起きましたね。
医療費抑制の至上命題は理解できますが、サプリメント並みに安全性の低い医薬品が出回るような事態だけは何としても避けてほしいものです。

( 大原薬品工業のバルサルタン80mgも、問題の中国企業から原薬を仕入れているようですが、大丈夫でしょうか ? → 資料 ) 。

来年、診療報酬改定が控えており、今回の改定で医師の技術に関する部分では報酬を引き上げるものの、薬に関する部分では引き下げようという方向性が見えています。

♦ 若い女性への処方が急増したヒルドイド

軟膏薬に関して、最も槍玉に上がっていると思われるのが、「ヒルドイド」などの名称で知られるヘパリン類似物質の外用剤の適正使用について。

一般報道もなされているのでご存知の方も多いと思いますが、某モデルが化粧の下地に使っていると紹介したのをきっかけに、美容目的で医療機関で薬を求める人が男性に比べて女性で5倍以上も急増したとか。
特に25~29歳に限ると女性の増加数が男性の33.9倍というかなりいびつな状況になっています。
そして一度に50本以上処方する例もあったという事態に、保険適用を外すように求める意見もあったとか。

好ましくない情報を流したモデルさんには大いに反省してもらいたいですし、真に必要とする患者さんの使用の妨げにならないように議論がなされることを望みたいです。


♦ なぜか多用される降圧薬、ARB

もう一つ議論に上がっているのが、高血圧治療におけるアンギオテンシンII受容体拮抗薬 ( 以下 ARB ) の使用実態です。
この系統の薬は、今年に入るまでジェネリック医薬品が解禁になっているものが少なかった上に、元々の薬価が他の系統の降圧薬に比べて高いのです。
ARBとカルシウム拮抗薬を投与されている患者さんを比較しても両者間で入院の発生率に差がないというデータを基にして、ARBをカルシウム拮抗薬に置き換えれば800億円程の医療費が削減できるという主張が出てきています。
これは薬理作用を無視したいささか乱暴な意見で、性質の違いを考慮して個々に応じた適切な降圧薬を選択すべきだとは思います。

しかし、この議論の中で提示されたデータの中にかなりがっかりしたものがあります。
それはACE阻害薬の使用割合が極端に低いことなんです。
単独処方での割合をみると、Ca拮抗薬・ARB・ACE阻害薬の順に、57.0% ( 33.5% )・37.9% ( 63.1% )・1.7% (1.1%) だったのです。( 数値は構成割合でカッコ内の数値は処方額の割合 ) 

高血圧の治療をするのは、血圧の目先の数値を下げるのが目的ではなく、高血圧が元で起こる心臓や脳血管の疾患を予防する点にあります。
ARBとACE阻害薬は同じレニン・アンギオテンシン系を抑制するという共通点があるものの、心筋梗塞後の予後や全死亡、心血管死など様々な点においてACE阻害薬が優れているのです。
そのため、ARBはACE阻害薬に忍容性のない患者向けの代替品というのが欧米での位置づけ。
なのに、日本ではARBの処方が圧倒的なのです。
循環器の医師たちもその点は十分に理解しているのですが、ACE阻害薬の副作用である咳が生じるのを嫌ったり、院内に採用されていないからといった消極的な理由でARBの方を選択しているのが現状です。

当院では、エビデンスをしっかり持っているACE阻害薬を積極的に処方しています。
ARBをカルシウム拮抗薬ではなくACE阻害薬に置き換える、という議論なら私はおおいに歓迎します。
今回の議論をきっかけに、日本の血圧治療に携わる医師の意識が変わってくれることを望みたいですね。

きも『ピロリ菌除菌後、プロトンポンプ阻害薬 ( 以下 PPI ) を長期に服用すると胃がんのリスクが高まる( 本論文はこちら ) 。

先日、このような論文が Gut という雑誌に掲載されました。
PPIを長く連用するほど胃がんのリスクが高まり、ハザード比が1年以上で5.04、3年以上で8.34にもなるというもの。
PPIと同様に胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカーという種類の薬ではハザード比が0.72で、このような傾向はなかったようです。

我々、消化器医には衝撃的な内容です。
ピロリ菌の除菌は、胃・十二指腸潰瘍の再発や胃がんの発症を予防するために行うものです。
でも、菌がいなくなると胃が本来の働きを取り戻して酸分泌が活発になるため、胃もたれや胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) を起こすことがあります。
そのため、どうしても酸分泌を抑える薬が必要になるケースがあるのです。


以前から、酸分泌抑制薬の長期連用の安全性には疑問が投げかけられていました。
「手術で胃を全摘しても生きていられるし問題はないのでは」とは消化器疾患の分野で高名な先生の言葉なのですが、実際、臨床の場において長らく処方していて困る場面に出くわしたことはほとんどありません。
しかし、これまでに
・ビタミンB12や鉄の吸収阻害
・胃酸による殺菌作用の低下に伴う肺炎や腸管感染症の増加
・骨折や認知症の増加
などの可能性が指摘されています。

丁寧にみていくと、ビタミンや鉄の吸収阻害、感染症の増加のエビデンスはありませんし、骨折については増加と変化なしの相反する報告があります。
認知症に関しても、診療記録からPPIの服用の有無で認知症の発生率の差をみた研究で、因果関係をはっきりさせたものではありません。


今回の報告で、ハザード比があまりに大きいのには驚いたのですが、作用機序はまだ未解明ですし、あくまで『ピロリ菌除菌後』という状況下での話です。
今後の研究の進展を見守りたいと思います。

咳止めで半音低く聞こえる今日、ツイッター上で話題になっていたのが、咳止め薬の副作用。
服用すると音が半音低く聞こえるというものです。( 参考 → 咳止め薬で「音が半音下がって聞こえる」副作用? )

これはベンプロペリン ( 商品名 フラベリック ) という咳止めによって起きる副作用ですが、絶対音感がないとなかなか気づきにくいと思います。
このような現象は、てんかんや三叉神経痛などに使うカルバマゼピン ( 商品名 テグレトール ) や感冒薬のPL顆粒などに含まれる塩酸プロメタジンという成分によっても引き起こされることが報告されています。
なお、カルバマゼピンは併用に注意を要する薬がいっぱいあり、その点でも厄介な薬です。
PL顆粒については、以前のコラムも読んでみて下さい。( →PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由 )

私が、音楽をやってる人に咳止めとしてお勧めしているのは漢方薬の半夏厚朴湯 ( はんげこうぼくとう ) 。
聴覚への影響はありませんし、何といっても声が出しやすくなるというメリットがあります。

それにしても、半音だけ、それも低くなる方向に感覚が変化するのはなぜなのか、興味深い点ですね。

♦♦♦♦♦
 
咳止めといえば、この6月にコデインという成分について、厚生労働省が12歳未満への使用を段階的に制限すると決定しました。
2018年度末までは注意喚起を促し、2019年度から全面的に禁忌とするようです。
重篤な呼吸抑制を起こして死亡する例が相次いだ欧米では、2013年頃より規制が少しずつ始まっていたのですが、今年の4月に米国で12歳未満への使用を禁忌としたことを受けて、日本でもようやく対策に乗り出した形です。
米国では、肥満や重度の睡眠時無呼吸症候群を有する12~18 歳への使用についても警告が付いています。

専門的になりますが、CYP2D6 の ultrarapid metabolizer ( UM ) においては、コデインの代謝産物の血中濃度が急速に上昇し、中毒を起こすことがあります。
このCYP2D6のUMの方は日本では0.8%程度と少ないのですが、白人で10%、エチオピア人に至っては29%も存在すると言われています。
ですから、日本では欧米ほど中毒を起こす頻度は多くないのですが、0.8%と言えども無視できる数字ではありません。
CYP2D6のUMの母親がコデインを内服して、授乳した幼児が中毒を引き起こした事例の報告があります。
この事例については、コデインの添付文章に明記されているのですが、しっかり読み込んでいる医療関係者がいないのも実情です。

なお、CYP2D6については、以前当ブログで解説していますので参考にして下さい。( → CYP2D6からPL顆粒を考える その2 )

♦♦♦♦♦
 
実は、咳止めの薬には少なくとも小児に対してははっきりとした鎮咳作用を示すデータはないのです。
そればかりか、咳を止めてしまうと痰が出しづらくなり、呼吸器の感染症をかえって悪化させる可能性も指摘されています。

長期に服用しても副作用のそれほど起きない高血圧やコレステロールの薬を服用するのには抵抗感を示すのに、副作用のやたらと多い風邪薬には安易に手を出す傾向の強い日本人。
風邪薬に含まれる成分って本当に恐いものが多いので、気をつけて下さいね。

旅行に持っていくと便利先日、観光客の無理な要求に疲弊している竹富島の診療所の記事を読んで、嘆かわしく思いました。
その内容ですが、軽症なのに夜間診療を求められ、中には船やヘリを呼べという無茶な要求をする観光客が増え、医師離れを招いているというものでした。

旅行の際には、少々の体の不調には自分で対応できるように薬を持って行くのが望ましいと思います。

今回は、私が特にお勧めする3つの漢方薬を紹介しておきます。


① 五苓散

酔い止め・航空中耳炎・嘔吐・下痢・頭痛・二日酔い など応用範囲の広い薬です。

航空中耳炎とは、飛行機に搭乗中の圧変動に伴って起こる耳の痛みや詰まった感じなどのことを言います。
このような症状は多くの場合短時間で回復しますが、中には数日続く方もいらっしゃいます。
耳は音を聞いたり平衡感覚を司ったりする器官ですが、最近は気圧のセンサーとしての役割も注目されています。
飛行機に乗るとこのような症状を起こしやすい方や、乗り物酔いしやすい方などは、乗り物に乗る1時間ほど前に服用すると予防効果が得られます。
また、雨の降る前に起こるような頭痛など、気圧の低下で起こる様々な不調に対しても有効です。

普段と違う食事内容で嘔吐下痢などおなかが不調になることもあるでしょうし、羽目を外して普段よりもたくさん飲酒して二日酔いになることもあるでしょう。
様々な場面で利用できる五苓散は本当に便利な漢方薬です。


② 葛根湯

風邪の初期症状・肩こりなどに。

お土産をたくさん買い込んで重い荷物を持って移動する機会も増えて肩こりになったり、旅先の宿の枕が合わず首を痛めたりすることもあると思います。
そういう時に便利なのが葛根湯です。
葛根湯を服用すると、首や肩の皮膚温が上昇することが報告されています。
この付近の血流を改善する結果、痛みを緩和させる一助になっているものと考えられます。
私は、普段から肩こりを訴える方によく処方しています。

もちろん、風邪の初期症状にも使える葛根湯ですが、有効なのは風邪だけではないのです。



③ 芍薬甘草湯

腹痛・筋肉痛などに。

観光地巡りで普段よりも長い距離を歩く機会も増えます。
そうするとどうしても筋肉痛になったり、夜にこむら返りを起こしたりすることもあるでしょう。
そういう時に便利なのが芍薬甘草湯です。
予防効果もあるので、運動前にあらかじめ服用しておくといいですよ。

また腹痛にも有効である場合が多いです。

意識的に動かすことのできる横紋筋 ( 骨格筋 ) 、自律神経の支配の元で動く平滑筋。
そのどちらの痛みにも効いてくれるという不思議な作用を持ち、服用して2~3分もすると効果を発揮してくれるのが芍薬甘草湯の魅力です。


この3つの漢方薬だけで、旅行中に起こり得る体のハプニングをかなりカバーできます。
いずれも一般の薬局でも入手可能かと思いますが、市販されているものは我々が用いる半分の用量で提供されているものが多いので確認して下さい。
旅のお供に是非。

胃薬先日、胃薬のテプレノンにうつ症状の改善効果が認められたという報告がありました。( → こちら )
テプレノンには、ヒートショックプロテイン ( HSP ) という物質を誘導することが20年以上前から知られており、私も研究室にいる頃に自分の実験系で使った経験があります。
HSPは熱や細菌感染などのストレスに晒された細胞に発現し、細胞を保護する役割があります。
今回の報告によると、うつ病のマウスの海馬でHSPが減る点に着目してテプレノンを投与したら、うつ症状が改善したそうです。
マウスのうつ症状ってどんなものなのか気になりますね。
テプレノンにはアルツハイマー型認知症への効果も期待されていて、現在治験が行なわれていると思います。( まだ継続しているかどうかは把握していません )

( なお、家の中の急激な温度差で血圧の大きな変動をきたすことを「ヒートショック」と言いますが、あれは医学用語ではないのでご注意を。恐らく建築関係の業界から出てきた言葉。HSPと混同しかねないので本当は使ってほしくないのですが。)


特定の病気に対して使われている既存の薬に、全く別の病気に対しての有効性が見出されるケースがあります。
古くはインフルエンザ薬として開発されたアマンタジンがパーキンソン病にも有効であると分かり、日本ではもっぱらパーキンソン病治療薬として使われてきたのは有名な話。
胃薬関係では、レバミピドがドライアイの治療薬として既に点眼薬が発売されています。
ラフチジンには、ある種の痛みを緩和させる可能性があり、抗癌剤の副作用による舌痛症に対しての治験が現在進行中です。

ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも

じゃある方に麦門冬湯 ( ばくもんどうとう ) という漢方薬を処方した際に、「私は小麦アレルギーなのだが大丈夫か」と聞かれました。
「麦」という字が含まれるので気になったのでしょうけど、初めて受けた質問だったのでちょっとびっくりしました。

麦門冬は、植栽などにあちこちで活用されているジャノヒゲ ( リュウノヒゲ )  の根っこのことです。
主として咳を鎮める作用があります。
知っていたので、麦とは全く関係のない植物なので問題ないと説明することが出来ましたけど、漢方に限らず処方薬の知識はしっかり持っていたいものだなと改めて感じました。

麦門冬湯は、痰が切れにくい咳を目安に処方する場合がほとんどですが、実は唾液や涙の分泌促進作用もあります。
その作用を活用して、ドライマウスやドライアイに悩む方にも処方するケースもあります。
成分の一つ、ニンジンのサポニンなどの働きで、細胞膜の透過性が上がって唾液や涙液がスムーズに分泌されるようになることが推測されています。
ちょっぴり薬価が高めなのですが、概ね好評です。


なお、甘麦大棗湯 ( かんばくたいそうとう ) という漢方薬には小麦がたっぷり含まれるため、小麦アレルギーのある方には処方はできません。( およそ63%が小麦です )
また、半夏白朮天麻湯 ( はんげびゃくじゅつてんまとう ) という漢方薬には麦芽が含まれています。
しかし、麦芽は発芽した大麦の穎果 ( えいか ) を乾燥させたものですから、小麦アレルギーの方でも問題はないと考えます。

いたい先日、東京マラソンを前にして発信された「安易な服用は危険 レース時の痛み止め」という記事を見つけました。
ロキソニンなどの鎮痛薬 ( 非ステロイド系抗炎症薬 : NSAIDs ) と芍薬甘草湯は、マラソンランナーの間では半ば必需品とみなされている医薬品のようですね。

でもロキソニンなどの鎮痛薬は絶対に服用しないで下さい

◆ 腎臓とNSAIDs

NSAIDs はプロスタグランジンという物質の合成を阻害します。
元々、子宮を収縮させる物質として前立腺 ( prostate gland ) から同定されたのでプロスタグランジン ( prostaglandin ) と呼ばれます。
しかし、この物質が最も豊富に存在する臓器、それは腎臓です。
腎臓においては血流量を維持して水や電解質を調節するのに欠かせない成分なのです。
マラソンのように長い間負荷のかかる運動では、この水や電解質バランスの調節はとても重要な意味を持っています。
NSAIDs を服用すると腎臓の輸入細動脈という血管が収縮してしまい、腎臓の血流量が落ちてしまいます。
そうすると、ただでさえ脱水状態に陥りやすいマラソン中に、水・電解質の調節がますます困難になってしまうわけです。

また、走ることによる赤血球・筋組織のダメージや、十分に鍛練していない人でレース中に上昇しやすいとされる尿酸なども、腎臓に負担をかける案外怖い要因なんです。
そして、NSAIDs 服用でレース後に消化管出血や血尿、心血管系の問題を生じやすいという報告もあります。
腎臓に負担を強いるマラソンで、それに追い撃ちをかけるロキソニンなどの鎮痛薬はご法度であることがご理解いただけたのではないでしょうか。


( 追記 ) 最近の研究で、マラソンレース後に82%の人が一時的に急性腎障害を起こしているという報告がありました。( → こちら )
レース中に腎臓に大きな負担がかかっているのに、NSAIDsを服用してプロスタグランジンの合成を抑え、腎臓が本来の働きを発揮できないまま走りつづければどうなるか、語るまでもないでしょう。

◆ 芍薬甘草湯の使い方

芍薬甘草湯は、古くから競輪選手など自転車の世界ではこむら返りの予防として知られた存在でしたが、ランナーにも知られるものになってきたようですね。
事前に服用することで競技中の筋肉の攣りを予防するだけでなく、翌日以降の筋肉の痛み ( 遅発性筋痛 ) も軽減してくれます。
こむら返りが起こってから服用する際には、倍量飲むと一層効果が高まります。

注意したいのは、市販の芍薬甘草湯は医療用に比べて有効成分が半分のものが多いこと。
その点はしっかり確認しておいて下さい。
理論上はカリウム低下を招く恐れがありますので、スポーツドリンクを併せて飲むのがいいのかも知れません。
また、筋肉を弛緩させてパフォーマンスを低下させてしまうのではないかという懸念はありますが、この点についてはよくわかりません。( 低下させるのが事実ならば、成績が生活に直結する競輪選手は使わないと思うのですが )

◆ 遅発性筋痛に効きそうなある薬

遅発性筋痛に関しては、「ある胃薬」が効く可能性があります。
適応外の使い方になるので薬の名前は伏せておきますが、こちらにヒントが隠されています。( → こちら )
この薬は腎機能への影響がないので、競技中に生じる痛みにも効くならば理想的なのですが、それは試してみないとわかりませんのであしからず。


東京マラソンの翌週、3月5日は鹿児島マラソンがあります。
出場される皆さん、がんばって下さいね。

すっきり新しい薬に対しては慎重なスタンスをとることが多いのですが、久しぶりに早く使ってみたいなと思う新薬が来月発売されます。
一般名がリナクロチドという便通の改善が期待できるものです。

一般の方が手にしやすい便秘薬としてセンナ系のものがありますが、これはあくまで頓用に留めるべき。
私はまず酸化マグネシウムを使い、これに漢方薬や坐薬、液体のピコスルファートを加えていく方法をとっています。
ルビプロストンという薬も時々処方しますが、便秘薬としては薬価が高すぎるのが難点です。

ほとんど問題ないとはいえ、これらの薬には副作用が付きまといますが、リナクロチドには副作用がほとんどないようです。
14個のアミノ酸ががっちりと組み合った構造をしていて、体内に吸収されない上、最終分解産物も小ペプチドやアミノ酸なのでかなり安心です。

最初は過敏性腸症候群 ( IBS-C ) という疾患にのみ使えるのですが、半年程すると一般的な便秘にも使えるようになると聞いています。
ここにメーカーの戦略が見て取れる気がします。
現在、IBS-C に適応のある薬剤が全くないので、画期的な新薬というイメージを持たせることができます。
私自身、IBS-C に対しては漢方薬と酸化マグネシウムを組み合わせを基本として治療していくのですが、単剤で治療出来ればそれに越したことはありません。
また、一般的な便秘に対しての適応を最初から取ると薬価を低く抑えられてしまう懸念があるはずです。
実際に決まった薬価は92.4円で、これを1日に2錠使うので1日薬価としては184.8円になります。
1日300円を超えるルビプロストンに比べると高くはないけど、安くもないといった感じですね。
でも、裏技が使えそうな気もします。
この薬は食後に服用すると下痢の副作用が多くみられるため、食前に服用するようになっています。
ということは、1日1錠だけを食後に飲むのもありなんじゃないかと思うわけですが。

当ブログでは、これまで便秘薬などについていくつか書いてきましたのでご参考までに。

 ■ ニガリダイエットの正体
 ■ 男女の違い その2
 ■ 過敏性腸症候群の治療薬
 ■ 酸化マグネシウム錠剤の比較

日本漢字能力検定協会による年末恒例の「今年の漢字」。
今回は「」でしたね。
一方、ある医療系のサイトで「医師が選ぶ今年の漢字」という募集があって、そこで選ばれたのは「」でした。( → こちら )

へろろ今年ほど薬剤の価格に注目が集まった年はないと思います。
米国ではダラプリムという薬の価格が一気に55倍も値上げされ、大統領選でも議論されました。
日本ではニボルマブ ( オプジーボ ) などの高薬価の薬剤がクローズアップされ、原則 2年に一度だった薬価改定を毎年にする方針を政府が推し進めようとしています。

我々が処方する薬の値段は、新薬として登場以降は基本的にどんどん切り下げられていきます。
卸が医療機関に納入する金額を定期的に調査して2年ごとに改定していくのですが、そこで奇妙な現象が起きてきます。
一つの薬を複数のメーカーが異なる名称で販売する日本独特の商習慣である「一物二名称」。
例えば糖尿病治療薬であるシタグリプチンには「ジャヌビア」「グラクティブ」がありますが、現在前者の50mgの薬価が136.50円に対して後者は138.20円です。
前者の実勢納入価が安かったということですね。
また、降圧薬であるアジルサルタン ( アジルバ ) 20mgの薬価は139.8円。
このアジルサルタンにアムロジピンという成分を加えた「ザクラス配合錠」という合剤があります。
アムロジピンの用量が2.5mgと5mgの2種類の品揃えなのですが、その合剤の薬価はいずれも131.6円なのです。
加えられているアムロジピンの量が異なるのに薬価は同じで、しかも単剤のアジルサルタンより安くなっているというややこしい状況を呈しています。

古くからある薬でも、ウルソデオキシコール酸スクラルファートのように評価が衰えないものもあります。
機械的に薬価を下げていくばかりではなく、医療の現場で高く評価されている薬剤については相応の値付けをする仕組みがあってしかるべきだと思うのですが。

ワクチンテレビの影響は大きいものです。
インフルエンザの流行が早いとの報道に、ワクチン接種を希望される方が急に増えています。
また、午前中の接種が効果的との情報も流れたようで、実際に午前中に来られる方が例年になく多いですね。

♦♦♦♦♦
 
午前中の予防接種に関する研究報告が、今年相次ぎました。

まず、インフルエンザワクチンを65歳以上の高齢者を午前と午後に注射するグループに分けて打ったところ、午前のグループで抗体の上昇が大きかった、というイギリスからの報告。( → こちら )
そして、大阪大学からマウスを使った研究報告。
マウスは夜行性なので、交感神経の活動の高まる夜間にワクチンを打った方が免疫応答が強かったというものです。( → こちら )

このように複数の報告があると、午前中に予防接種を受けたくなりますよね。
でも注意点もありそうです。
例えば、前者では65歳未満でも同様の結果が得られるのかどうか‥。
後者では、生活スタイルの違うマウスでの結果から本当にヒトでは日中が効果的と言えるのか、ワクチンの種類は問わないのか‥。
私は普段から論文の報告を額面通りに受け止めないようにしていますので、そういう疑問をはさみたくなります。
そう言いながら、午前中にワクチン接種を受けた私でした。

インフルエンザワクチンの接種はお早めに。

「ヨードそのものを靜脈内に應用し完全に殺菌的特性を發揮する製劑」・・・!!

調べ物をしていて、たまたまたどり着いたサイトに面白いものがありました。
戦前の医薬品の広告を写真で紹介しているブログです。( → こちら 写真の原典も)
昭和2年 (1927年) の雑誌に掲載されていた広告なのですが、見ているだけでワクワクします。
最近まで売られていた咳止め、フスタギンの名前も見受けられますが、気になるのは結核や淋病、腸チフス・赤痢に対する薬が売られているということです。
抗生物質であるペニシリンが発見されたのが翌年の1928年で、それが実用化されたのは1942年のことですから、どういう知見を元にして商品となっていたのか興味を持ちました。

Specijodこの中で冒頭に宣伝文句を挙げた「殺菌力強大なる特殊ヨード剤」という注射薬スペチヨードが、塩野義製薬の前身である塩野義商店から発売されていたようなので、塩野義製薬に問合せしてみました。
そこで得られた回答は、社史に昭和2年に発売されているという記載があるのみで詳細はわかりません、というものでした。
どのくらい効果があったのか、いつまで売られていたものなのか、知りたいところではありましたが‥。

右の写真はクリックすると拡大するのでご覧下さい。
ヨードチンキは「沃度丁幾」と漢字表記していたことは勉強になりましたが、「殺菌消毒力顯著にして静脈内注射をなし得」「多量に靜脈内に注射するも副作用無し」「應用廣く効力確實なり」という特徴、本当なのでしょうか。
ヨードアレルギーはなかったのでしょうか。
興味が尽きません。

薬の歴史、調べてみると本当に面白いですよ。
機会がありましたらまたブログに書いてみますね。

薬私が風邪に抗菌薬 ( 抗生物質) を処方しなくなって久しくなります。
医者になりたての頃、先輩医師から「ウイルス感染でも二次感染を予防する意味がある」と教えられ、それを信じて抵抗感なく処方していた時代もありました。
でもそれは「もしものため」という、医学的には全く根拠に乏しいものでした。

世界的に抗菌薬の不必要な処方が問題となっています。
我が国でも伊勢志摩サミットに先んじて、2020年までに風邪への抗生物質処方を規制するなどして使用量を現在の3分の2に減らそう、という行動計画を公表しました。
先月には、東日本大震災の際に避難所で被災者に処方された抗菌薬の9割は不必要なものであったことが報告されています。

つい最近「フロモックス錠100mgが効かないのはなぜ ?」という記事がネット上に登場しました。
フロモックスに限らずメイアクトやセフゾンなど第三世代経口セフェムと呼ばれる抗菌薬が、ほとんど体内に吸収されない薬剤であることが書かれています。
最後には「フロモックスばかり出す医者は要注意」という項目があり、念のためという安易な発想でしかも感染部位には届くことのない薬を処方する医師をやんわりと咎めています。

「患者への抗菌薬は医者にとっての抗不安薬」などと揶揄されることもあります。
そういう長年の慣習からか、風邪に抗菌薬を処方しないと「私の風邪は抗菌薬ですぐ治るのに」と一部の患者さんから怒られる場合もあります。
しかし、私はウイルス感染には抗菌薬を出しませんし、仮に細菌感染であっても人間の体はそんなに柔なものじゃなく大抵自然に治ってしまうことを知っています。
細菌感染がわかって抗菌薬が必要な場合でも、第三世代経口セフェムの名を処方箋に書くことはありません。
随分前から抗菌薬は適正に使っているつもりなので、20年度までに更に3分の2に減らすのはちょっと無理な話ですが‥。

痛い九州南部の梅雨入りが本日発表されました。
明日以降しばらく雨は降らない予報なのですが、発表のタイミングというのは難しいのでしょうね。

さて、梅雨時に頭痛がひどくなるという方がいらっしゃいます。
この場合、市販の頭痛薬で済ましてしまう方も多いと思いますが、注意を要する成分があります。
それは「アリルイソプロピルアセチル尿素」というという物質です。

新セデス錠・ロキソニンSプレミアム錠・イブクイック頭痛薬DX・ノーシンピュア・バファリンプラスS等、ちょっとグレードが上だぞ、と思わせるようなネーミングの商品ににこの成分が含まれています。
ちなみに、我々の処方するSG顆粒にも含まれています。

アリルイソプロピルアセチル尿素には痛み止めとしての働きはなく、鎮静や催眠作用があるのですが、鎮痛の補助作用があるとか。
しかし、この成分、習慣性があることや副作用の観点から海外では使われていないのです。
繰返し使っていると依存性を生じ、乱用してしまう危険性を孕んでおり、頭痛薬が手放せなくなってしまう状態になる可能性があります。
もちろん、乱用していなくても眠気を誘う成分ですから、運転などには注意が必要となってきます。
安易な使用は是非とも避けたいところです。
( この成分を配合している他社の痛み止めは効くぞ、という噂が立つと売上げに響くので、こぞってラインナップしているのだと思いますが、日本の製薬会社はこの成分の依存性を利用して薬をたくさん消費してもらおうと企んでいるのでは、と勘ぐりたくもなってきます。)


頭痛には様々な種類があり、それを見極めて乱用に繋がらないように薬を適切に選んでいく必要があります。
ちなみに、梅雨など天候がからむ頭痛には五苓散という漢方薬が効果を発揮することが多いです。
慢性的な頭痛にお悩みの方は一度ご相談くださいね。

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