野口内科 BLOG

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⑤ テーマ

  ○○ 学会レポート2018 その2 ○○


スーツどういうわけか、学会に参加する時はスーツ姿になることが定番です。

留学経験のある先輩方からは、海外の学会では家族連れでラフな格好なしてる人が多い、と聞いたことがあります。
実際、私が出席したことのある海外の学会では、スーツを着用している人はそれほど多くありませんでした。

今回参加したJDDWでは、昔に比べて非スーツ系が随分増えてきている印象でした。
随分、と言ってもまだまだ数は少ないのですが、ジーンズ姿の人もちらほら。
決して非難しているわけではなく、むしろいい傾向だと考えています。

演題発表で張りつめた心持ちでいる人は別として、学会はもう少しお祭り気分で楽しめた方がいいと思うのです。
一般の方も無料で聴ける公開講座や子連れでも楽しめるイベントなどがあっていいのではないでしょうか。
今回は、開催期間が連休に重なっていたので子供も連れて行きました。
我が子は企業ブースで飲み物や記念品をもらってご満悦の様子でしたが、子供が医療を体験できるコーナーなどがあってもいいように思いました。

また、JDDWを国際的なイベントにしようと、スライドの英文化は義務づけているのに、発表自体は日本語ですし、International Poster Session が開かれるのは大会2日目だけ。
20回大会のドナルド・キーン氏による記念講演は英語でしたが、そういう企画ももう少し増やしていいのではないかと思います。
無料託児所が設けられるなど、小さなお子様を持つ女性も参加・発表しやすい環境も整ってきているのはいいことですね。


そう言っている私が学会に参加する時は、スーツ姿になります。
普段の診察室では、ケーシータイプの白衣かスクラブ。
自宅から診療所まで歩いて10分とかからないので、普段着で通い、すぐに着替えてしまいます。
せっかく持っているスーツを着るチャンスが滅多にないのです。
天日干しのつもりでクローゼットから取り出し、ネクタイの締め方を忘れないためにもこういう機会を逃さないようにと着用するのです。

でも、地元で学会が開かれる時は、診察時間の合間を縫ってノーネクタイで気軽に参加しようと思っています。


これまでの「学会レポート」は、最新のトピックスや興味ある演題などを取り上げていましたが、今回は全く趣向を変えてお届けいたしました。




  ○○ 学会レポート2018 その1 ○○


消化器に関連するいくつかの学会がまとまって学術集会を開く、日本消化器関連学会週間 ( JDDW ) も今年で26回目を迎えました。

プレゼンテーション久しぶりの参加で一つ気になった点があります。
米国や欧州の DDW のような国際的なイベントにしようという一環で、2014年から演題発表の際のスライドについて、英語表記が義務づけられるようになったのですが‥。

パワーポイント等でプレゼン資料を作成する際に、わかりやすさや見やすさが求められます。
でも、医学系の学会や講演会で示されるスライドは、実験結果や検査画像などの多くの情報を一枚に詰め込み過ぎていたり、配色のテクニックが稚拙で視認性・可読性に欠けていたりするものが多いです。
それでも、年を追うごとに自分のスライド作りに大いに参考になるシンプルで美しい物も増えてきています。
しかし、今回の学会で聴講した際の英文スライドに感心できるものは一つもありませんでした。
あまりにも冗長な英文が多く、ビジー過ぎて美しさの片鱗もありません。
示したい情報を英語にするのに必死なのでしょうか、わかりやすさや見やすさへの配慮が全く後手に回っています

自分の成果を多くの人に示す貴重な機会に、印象に残らないようなスライドを羅列し、制限時間に囃し立てられるような早口で発表されても、聴く方は退屈なだけです。
臨床や研究で時間がないのは十分にわかりますが、スライド作りにもしっかりと時間をかけて欲しいものです。

私が初めて学会で発表した時は、スライドはシンプルになるように心がけ、色使いや文字の大きさ等にも腐心しました。
しかし、研究室のボスが、発表原稿の文章をそのままスライドに詰め込むようにと指示してきたのです。
かなり抵抗したのですが、結局私が折れて指示通りのごちゃごちゃしたスライドで発表しました。
随分昔なので、リバーサルフィルムをスライドマウントにはさみ込むやつで、今でも手元にあるのですが、そのスライドだけは絶対に見たくありません。
自分の思いとは全くかけ離れてしまったスライドを見ると、その時の悔しさが込み上げてくるからです。


JDDWには現在5つの学会が参加していて、年々参加人数が増えているからでしょうか、開催できる都市が限られてきています。
2011年以降は、東京・神戸・福岡以外で開かれたことはなく、しかも今年から2021年まで4年続けて神戸開催が続きます。
個人的には、20年過ごして勝手知ったる神戸で開かれることは嬉しいですが、ややいびつな気もします。


〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第四回 〕


♦♦♦ ラフチジン、最後発としての実力は ♦♦♦

胃薬( ラニチジンではなく、ラフチジンの話題です。あしからず。 )

ラフチジンは最後発のH2ブロッカーですが、発売されてしばらくの間、私は処方することはありませんでした。
1991年にH2ブロッカーよりもより確実に酸分泌を抑える PPI ( Proton Pump Inhibitor ) と呼ばれるタイプの薬が日本でも使えるようになり、それ以降、胃・十二指腸潰瘍治療の主流に躍り出ました。
そんな中でラフチジンが登場したのは2000年です。
何を今さらH2ブロッカーなのだろうという思いがありましたし、付いた商品名がプロテカジンストガーで、ネーミングセンスが決して良くなく、特に前者は言いにくいのなんの。( 参考 : 一物二名称 )
そして、発売当初は逆流性食道炎に対する適応がなく、用途が限られていました。

それでもラフチジンを使うようになってきたのは、他のH2ブロッカーにはない特徴に魅力を感じるようになったからです。
メーカーが発売に踏み切ったのも、この捨てがたい実力を埋もれさせてはならないと考えたからでしょう。
その魅力とは何か、みていこうと思います。


♦♦♦ ラフチジンは肝臓で代謝される ♦♦♦

肝臓ラフチジンは肝臓で代謝される唯一のH2ブロッカーです。
残る5種類のH2ブロッカーは腎臓で代謝されるので、腎機能の低下している人には減量するか中止しなくてはなりません。

このシリーズ第二回「シメチジン、厄介さが半端ない」でも紹介しましたが、H2ブロッカーを高齢者に使用することは勧められていません。
おさらいしますが、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の中で75歳以上の高齢者に対しては、「認知機能の低下・せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」と記載されています。
また「高齢者では腎機能が低下しているものが多く、腎排泄型の本剤は血中濃度が持続する可能性が高いため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬が必要な場合は少量から慎重に投与する」とも書かれています。

このガイドラインでは、肝臓で代謝されるラフチジンを別扱いにしていませんけど、私は高齢者でH2ブロッカーを必要とするケースではよく処方しています。

ただし、CYP3A4で代謝されるため、薬の相互作用に注意しなくてはなりません。
クラリスロマイシンなどCYP3A4の働きを抑える薬との併用に配慮する必要があります。
CYPとは、チトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる薬物代謝に重要な役割を果たす酵素の一群のこと。
主に肝臓にあって、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。


♦♦♦ ラフチジンはトウガラシ ? 酸分泌抑制が安定していて胃の粘液も増やす ♦♦♦

さて、H2ブロッカーにしろPPIにしろ、24時間安定して胃酸の分泌を抑えているわけではありません。
強力とされるPPIは夜間の胃酸分泌が十分に抑えきれない現象がみられます ( Nocturnal Gastric Acid Breakthrough ) 。
一方、H2ブロッカーで最もよく使われるファモチジンは20mgを1日2回服用しても胃酸の分泌を抑えているのは1時から7時の間のみという報告があります。

ラフチジンは、他のH2ブロッカーとは違って日中の胃酸分泌も抑える働きを持ち、10mgを1日2回服用すると胃の中のpHが3以上を維持する時間が6割以上あります。


胃潰瘍また、胃酸の分泌を抑えるだけにとどまらない作用があります。
胃の粘液を増やす作用胃粘膜の血流増加作用です。
胃・十二指腸潰瘍の治療では、粘液や血流という胃の粘膜を保護する役割のある要素 ( 防御因子 ) も重要だとされています。
酸分泌抑制薬に防御因子増強薬を一緒に使っても、潰瘍治癒に対して上乗せ効果はないともされていますが、一方でこんな報告もあるのでみてみましょう。( → こちら )
動物実験ですが、ラフチジンではシメチジンやファモチジンにはみられなかった次のような作用が確認されています。

・用量依存的に潰瘍面積を縮小
・酢酸潰瘍の実験モデルで治癒後の再発を抑制
・潰瘍瘢痕部の再生粘膜への炎症細胞浸潤が著明に抑制

これらの差異は、ラフチジンが防御因子を増強する作用を持っているためと推測されています。

トウガラシこのラフチジンの働きは、カプサイシン感受性知覚神経を介したものと考えられています。
カプサイシンはトウガラシの辛味成分ですよね。
外部の環境温度を感知するセンサーであるTRP ( Transient receptor potential ) チャンネルというものがあります。
このうち43℃以上を感知するTRPV1と呼ばれるものは、カプサイシンや酸によっても刺激を受けることが知られています。
このTRPV1を持つカプサイシン感受性知覚神経を働かなくすると、ラフチジンを使っても胃粘液も胃粘膜の血流が増えないのです。
ラフチジンはTRPV1に直接作用することはないようですが、何らかの機序でこの神経を活性化するようです。


さて、H2ブロッカーとともに、レバミピドやテプレノンなどの防御因子増強剤を服用されている方も多いと思いますが、H2ブロッカーをラフチジンに変更したら、防御因子増強剤は不要です。
ニザチジン同様、ラフチジンはポリファーマシー対策にも役に立つ薬剤です。


このカプサイシン感受性知覚神経を活性化する働きによって、ラフチジンが痛みやしびれにも応用されていることについて次でみていきます。

なお、TRPチャンネルについては、以前当ブログで解説していますのでそちらを参照していただきたいと思います。( → トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥ )


♦♦♦ ラフチジンは痛みやしびれにも ♦♦♦

舌舌痛症という病気があります。
その名の通り、舌がチクチク、ピリピリする疾患です。
ニザチジンの回で触れた唾液分泌の低下が絡んでいることもあるようですが、ほとんどの場合が原因不明で、有効な治療法もありませんでした。
しかし、舌にもカプサイシン感受性知覚神経が存在することから、ラフチジンを投与してみたところ、多くの症例で良好な結果が得られたことが報告されています。( → こちら )

手の震えまた、パクリタキセルやドタキセルなどの抗がん剤によって、手足の痺れや知覚異常といった末梢神経障害を起こすことがあります。
この副作用の予防や治療にラフチジンが効くという報告が数多くあります。
臨床試験も行われていたと思うのですが、結果はどうだったのでしょうか。


当院の患者さんで、坐骨神経痛や脊椎管狭窄症、糖尿病性末梢神経障害を持つ方々に、偶然ラフチジンを処方したことがあります。
すると、痛みやしびれが楽になったとの声が複数ありました。
先日も、三叉神経痛で食欲を落とした方に処方したら、痛みが随分楽になったと喜んでおられました。
また、HTLV-1関連脊髄症 ( HAM ) の方に、これまたたまたま処方したら、下肢に今までにない違和感を感じるようになったので飲むのを止めた、と言われたことがありました。
HAMは、成人T細胞白血病を起こすウイルス感染者の一部で両下肢の麻痺や膀胱直腸障害を示す疾患で、九州など西日本に多い疾患ですが、ラフチジンが知覚神経に何らかの作用を及ぼしたのでしょうね。

こういう経験から、ラフチジンは舌痛症や抗がん剤による末梢神経障害以外にも応用が効くのではないかと感じています。
既に線維筋痛症という疾患に活用している医師もいるようです。

個人的に興味があるのは、非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) という疾患です。
内視鏡検査で全く異常がないのに胸やけなどを訴えるものなのですが、NERDの症状に胃食道接合部のTRPV1が絡んでいると推定されているのです。
ラフチジンが効きそうに思うのですが、消化器を研究する医師が着目していないのが不思議です。


その他、慢性片頭痛の方では頭皮血管のTRPV1発現が亢進しているとか。( → こちら )
また、咳反射にTRPV1が絡んでいるので ( → こちら ) 、慢性的な片頭痛や咳に悩む方にもひょっとしたら効くのかも知れません。( あくまで私の勝手な推論です。)



♦♦♦ ラフチジンは胆汁による胃粘膜障害も回復させる ♦♦♦

胆汁もう一つ、カプサイシン感受性知覚神経とは関係なく着目しているのが、タウロコール酸による胃粘膜のダメージを回復させるという作用です。
タウロコール酸は胆汁に含まれる成分で、胃粘膜に悪影響を及ぼすことが知られていますし、胃の手術後などでは胆汁が原因となる逆流性食道炎があるのです。

胆汁による胃粘膜への影響についても、なぜか消化器医は重視していない傾向にあるように思いますが、内視鏡検査時に胃に胆汁の逆流を認めたら、ラフチジンの投与も検討してみたいところです。


♦♦♦ ラフチジン、これには注意 ♦♦♦

脳薬物相互作用については前述しましたので省略します。

また、腎機能に影響されないので、高齢者には使いやすいのではないかと述べてきましたが、注意点があります。
ラフチジンは脂溶性 ( オクタノール/水分配係数 95.70 ) で、脳血液関門を通って脳内に移行しやすいのため、精神神経症状を起こす可能性があるのです。( → こちら )
この点に関しては、処方した患者さんを注意深く診ていますが、今のところ問題を起こしたケースはありません。

♦♦♦♦♦

さて、H2ブロッカーについて考察してきたこのシリーズはこれでおしまいです。
たった4回の連載でしたが、中身はかなり濃かったのではないでしょうか。
特に、ニザチジンとラフチジンは、酸分泌抑制という本来の役割を超える作用を持っている点に興味を持っていただければ、苦労して書いた甲斐があります。


〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす 
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第三回 〕


♦♦♦ 唾液も出す、胃も動かすニザチジン ♦♦♦

現在6種類あるH2ブロッカーの中で、ニザチジン ( 先発品名 アシノン ) には他にない特徴が2つあります。
それは、唾液分泌促進作用消化管運動亢進作用です。
いずれも副交感神経の働きが高まる結果として起こっていると推測されます。

シナプス副交感神経細胞の終末部分と臓器細胞の接合部分 ( シナプス ) にはわずかに隙間があります。
副交感神経の終末部分からこの隙間にアセチルコリンが出て、それを臓器側は受容体で受け取って副交感神経の意図を理解します。
隙間の部分にアセチルコリンがいつまでも残っていると、ずっと臓器を刺激し続けることになるので、アセチルコリンエステラーゼという物質が働いてアセチルコリンを分解してしまいます。
ニザチジンはこの掃除役であるアセチルコリンエステラーゼの邪魔をして、結果として副交感神経の働きを強化しているものと推測されています ( アセチルコリンエステラーゼ阻害作用と言います ) 。


♦♦♦ ニザチジンの強力な唾液分泌作用 ♦♦♦

ドライマウス ( 口腔内乾燥症 ) という言葉をよく耳にすると思いますし、実際ドライマウスでお困りの方も多いことでしょう。
欧米では4人に1人が罹っているとの報告もあるくらいよくみられる疾患で、原因としては、

① 加齢による唾液分泌の減少
② シェーグレン症候群
③ 逆流性食道炎や糖尿病など全身疾患に起因するもの
④ 薬の副作用
⑤ 咀嚼回数の減少
⑥ 口呼吸

などが挙げられます。
シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などが障害される自己免疫性疾患です。

ドライマウス用の薬があるから、わざわざ胃薬であるニザチジンをチョイスする意味はないでしょ、と思われるかも知れません。
確かにニザチジンはドライマウスには適応がありませんが、ドライマウス用の薬も原則としてシェーグレン症候群にしか使えませんし、値段が高いです。
そして、何といってもニザチジンの唾液分泌刺激作用はこれらの薬を凌駕するものがあるのです。

それを示した論文をみてみましょう。( → 口腔内乾燥症に対する薬物治療の効果 )

1. シェーグレン症候群に伴う口腔内乾燥の改善薬である塩酸セビメリン ( エボザック )
2. ドライマウスに有効とされる麦門冬湯
3. ニザチジン

の3つの薬剤について、安静時唾液量とガムテストによる刺激唾液量を服用前と服用後90日後に比較したものです。
シェーグレン症候群治療に特化した塩酸セビメリンに比べ、ニザチジンによる唾液分泌増加量が優るのです。
恐らく、今存在する治療薬の中でニザチジンが最も強力に唾液分泌を促す作用を持つものと考えられます。
( グラフは論文の「薬剤投与前後における安静時唾液量の変化」より。クリックで拡大します。 )

唾液分泌のグラフ



♦♦♦ ニザチジンの消化管運動に対する作用 ♦♦♦

次に、ニザチジンの持つ消化管運動に対する作用について、ちょっと専門的になりますが解説します。
これまでに、胃排出能の促進・消化管運動の亢進などが報告されています。

胃の排出能とは、胃の出口に近い前庭部という部分の収縮で食べ物を十二指腸に送り出す能力のこと。
この働きがニザチジンによって高まることが動物やヒトを使った研究でわかっています。
犬を用いた実験で食後の胃の筋の収縮の強さをみたところ、ニザチジンの常用量 300mgは、イサプリド ( ガナトン ) やモサプリド ( ガスモチン ) の常用量の1.3倍程度の働きを有するようです。( → こちら )
イサプリドもモサプリドも消化管の動きを活発にする代表的な薬 ( 消化管運動機能改善薬 ) 
です

胃腸の運動また、動物実験で、胃のみならず小腸などの動きの活性化も観察されており、特に、IMCと呼ばれる動きが目立つようになります。
IMCとはInterdigestive migrating contraction の略。
空腹時に、胃・十二指腸から始まり小腸を伝って回腸末端に達すると、再び胃・十二指腸から新たな強い収縮の波が起こり・・と
繰り返していきます。
これをIMCと呼んでいます。
 ( → こちら )

さらに、下部食道括約筋 ( LES ) の部分にも作用します。
ニザチジンを服用すると、このLESの圧が通常よりも高くなります。
胃の入口がしっかり閉まるようになるというわけですね。
また、普段から食道と胃のつなぎ目の部分が一時的に緩む一過性LES弛緩 ( TLESR ) という現象がみられます。
この際に、胃液の逆流が発生すると考えられていますが、ニザチジンを服用するとこのTSLERが減り、食後の胃液の逆流も減ることが観察されています。 ( → こちら )

そして、機能性ディスペプシアに伴う様々な症状も緩和することが報告されています。( 後述 )


♦♦♦ ニザチジンから生み出された新薬 ♦♦♦

現在、機能性ディスペプシアにはアコチアミド ( アコファイド ) という治療薬があります。
この薬をニザチジンを販売しているメーカーが作ったと初めて聞いた時、アコチアミドはニザチジンをベースにしたんだろうなと推測しました。
併売している別のメーカーのMRさんに、そのことを質問したらよくわかっていませんでした。

しかし、このページを参照してみて下さい。 ( → こちら )
「ニザチジンの構造をヒントにH2受容体の作用をなくし、末梢コリンエステラーゼ作用を引き出すためにおよそ数千個の化合物を合成・スクリーニングを経て誕生した」と書いてあります。
それだけ、ニザチジンのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用は魅力的だったのだと思います。

胃もたれ機能性ディスペプシアというのは、

① 食後の胃もたれ
② 早期飽満感
③ 心窩部痛
④ 心窩部の焼ける感じ

のうち少なくとも1つ以上の症状があって、その症状が重いため生活に悪影響を及ぼしており、症状が6カ月以上前からあり、3カ月以上症状が持続しているもので、内視鏡検査などをしても何も異常が見つからない場合に診断されます。
機能性ディスペプシアは「食後不定愁訴」と「心窩部痛症候群」の大きく2つに分類されます。
それについては10年ほど前に当ブログで解説していますので、参照して下さい。( それは本当に胃の痛み ?胃下垂と腹筋 )

アコチアミドは2013年に発売されましたが、処方するにあたって「上部消化管内視鏡検査等により,胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること」という面倒くさい条件があります。
現状では内視鏡を扱う医師でないと処方しづらく、その点は何とか改善してほしいものだと思います。


♦♦♦ ニザチジンをどのように活用するか ♦♦♦

ニザチジンだけが持つ作用を有効に活用する使い方を紹介します。

逆流性食道炎まず、胃食道逆流症 ( 逆流性食道炎 ) の治療です。
逆流性食道炎の治療を2ヶ月間プロトンポンプインヒビターと呼ばれる酸分泌抑制薬で行なって治癒した患者さんを、その後H2ブロッカーであるファモチジンとニザチジンの2群に分けて6ヶ月維持療法を行い再発予防効果を検討した報告があります。
その結果、ファモチジンでは約70%で再発したのに対し、ニザチジンでの再発率は40%だったようです。

唾液中には重炭酸塩が含まれているので、逆流した胃酸を中和する作用が期待できます。
唾液の量が増えれば、中和できる胃酸の量も増えるわけです。
また、前述したようにLES圧が高まったりTLESRが減ったりする結果、胃酸の逆流する機会も少なくなります。
本来の酸分泌も抑える働きを持つニザチジンは、いろんな側面から逆流性食道炎治療の強い味方になると思います。


また、普段からH2ブロッカーとモサプリドなどの消化管運動機能改善薬を一緒に服用している方も多いと思います。
この場合、H2ブロッカーをニザチジンにしたら、消化管運動機能改善薬が不要になることはもうおわかりですね。
最近問題になっているポリファーマシーの解消に一役です。


♦♦♦ ニザチジン、これには注意 ♦♦♦

シメチジンの回でも解説しましたが、ニザチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があり、お酒に強い人が飲酒前にニザチジンを飲むと酔いやすくなります。
シメチジンと違ってCYPの阻害作用はないので、シメチジンほど悪酔いはしないと考えられます。


頭が混乱もう一つ気をつけたい点として、似たような一般名の薬剤があることです。
先発品名はテルネリンと言って、肩こりや腰痛、痙性麻痺などの症状に使われる薬があるのですが、この薬の一般名が「チザニジン」。
ニザチジンとは「ニ」と「チ」を入れ替えただけ、横文字でも「nizatidine」と「tizanidine」で、聞き間違いもしやすいと思いますので本当に気をつけたいところです。


次回は、私がよく使っているH2ブロッカーのもう一つ、ラフチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第二回 〕


♦♦♦ シメチジンは服用が面倒 ♦♦♦

前回の「シメチジン、面白い作用を持っているけど」でも書きましたが、胃・十二指腸潰瘍が内服薬で治療できるようになったという点で、シメチジンはとても画期的でした。
しかし、シメチジンには厄介な点がいくつかあります。
今回はその話です。

内服まず、第一点。
半減期が短いため、基本的に1日4回服用 ( 毎食後 + 就寝前 ) しなくてはならないのです。
1日2回の服用法もありますが、記憶が間違っていなければ、私が医師になった頃には1日4回の内服法しかなかったと思います。 
私の消化器内視鏡の師匠は「薬で治るようになったとはいえ、潰瘍は侮れない疾患。薬を1日4回も飲まなきゃいけない病気なんだと認識してもらうためにも、シメチジンを使う」と言ってました。
でも、現実には面倒臭がってシメチジンの服用を遵守する人なんてほとんどいません。
H2ブロッカーを服用して数日もすると痛みが落ち着いてしまうため、治ったと勘違いして1日4回もの煩わしい内服を中断してしまうのです。
でも、潰瘍の傷をきれいに治すためには、胃潰瘍で8週間、十二指腸潰瘍で6週間内服を続ける必要があります。( それでもピロリ菌の除菌療法が登場するまでは、再発を繰り返すケースが多かったですけど。)
私が医師になった時には、シメチジン以外にもラニチジンロキサチジンファモチジンというH2ブロッカーが存在していました。
そのいずれにも1日1回の内服法があり、きっちり最後まで服用してくれる人は多かったです。


♦♦♦ シメチジン、副作用が半端ない ♦♦♦

次に、シメチジンの持つ様々な副作用をみていきます。

まず、私が経験したシメチジンによる深刻な副作用を紹介します。
それは骨髄抑制です。 
骨髄の血液を造る細胞の働きが抑えられて、白血球・赤血球・血小板の3つの血液成分が造れなくなってしまうことを骨髄抑制と言います。
研修医として駆け出しの頃、重症の全身性エリテマトーデス ( SLE ) の患者さんにシメチジンの注射剤を使い始めたら、白血球・赤血球・血小板が急激に減少したのです。
シメチジンを中止後、感染症や出血傾向をきたすことなく骨髄抑制が改善して事無きを得ましたが、SLEのような自己免疫疾患では骨髄抑制を起こすリスクが高いようですね。
骨髄抑制・顆粒球減少 ( 白血球減少 )・血小板減少などの報告は、ファモチジンやラニチジンなど他のH2ブロッカーでもありますが、シメチジンによるものが多数を占めています。

この経験でシメチジンにはいい印象を持たなくなりましたが、他にも厄介な副作用がありますので、次の項目以降でみてみましょう。


♦♦♦ シメチジン、高齢者には大敵 ♦♦♦

2015年に日本老年医学会から「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が発表されました。
その中にある「75歳以上の高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物リスト」に、H2ブロッカーが含まれています。
認知機能の低下せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」との記載があります。

中枢神経前回も述べたように、H2ブロッカーはヒスタミンの働きを邪魔しますが、ヒスタミンは中枢神経において、覚醒状態の維持や記憶学習能に大事な役割を持っています。
ヒスタミン受容体を遮断すると、意識障害やせん妄などの病態をきたす可能性があるわけです。
また、抗ヒスタミン作用を持つ薬は、抗コリン作用も併せ持っています。
中枢神経でアセチルコリンは、レム睡眠の維持や覚醒、注意、記憶機能と密接な関係があり、抗コリン薬も認知機能の低下やせん妄のリスクになるのです。
H2ブロッカーは、抗ヒスタミン作用と抗コリン作用という脳にはあまり好ましくない働きを持っているわけです。

様々な薬剤が抗コリン作用を持っていますが、その程度には差があります。
それをまとめたものに「抗コリン作用リスクスケール」というのがあり、抗コリン作用の強さによって薬を3段階に分けています。( 下の表はクリックで拡大します )
抗コリン作用リスクスケール

このスケールでは、シメチジンは2点 ( strong ) に分類されています。
シメチジンはH2ブロッカーの中で最も中枢神経系へ移行しやすいとされており、せん妄などの報告も多数あります。
高齢になると腎機能が衰えてきますので、薬の血中濃度が上昇してさらにリスクが高くなります。
H2ブロッカーは他にもありますので、点数の高いシメチジンをあえて選択する理由はないと思います。

( 抗コリン作用についてはこちらもご参考に → 抗コリン作用って ?


♦♦♦ シメチジン、やたらと多い薬物相互作用 ♦♦♦

シメチジンは他の薬物との相互作用がやたらと多いのです。
薬の代謝に重要な役割を果たすものの一つとしてチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があり、主に肝臓で全薬物代謝の8~9割に関わっています。
CYPには多くの種類がありますが、イミダゾール環という構造を持つシメチジンはありとあらゆるCYPの働きを阻害します。
特にCYP3A4CYP2D6に対して強い阻害作用があります。
CYP3A4は薬物の生体内変換の約半分を担い、それに次ぐ活性を持つのがCYP2D6。
この二つを強力に抑えるとわけですから、かなり多くの薬との相性が悪いということになります。

それから、腎臓の尿細管には、異物を尿に排泄するときに活躍する MATE ( multidrug and toxin extrusion ) と呼ばれる輸送体がありますが、シメチジンはこの働きも阻害してしまいます。

肝臓でも腎臓でも、薬の代謝を邪魔してばかりのシメチジン。
複数の薬剤を併用している方に、この薬を選ぶ勇気は私にはありません。

( CYP2D6に関しては、こちらもご参考に → CYP2D6からPL顆粒を考える その2


♦♦♦ シメチジン、普段アルコールに強い人も悪酔い ♦♦♦

酔っ払いシメチジンにはアルコールを代謝するアルコール脱水素酵素ADH)も阻害する作用があります。
つまり、お酒に強い人が飲酒前にシメチジンを飲んでしまうと、アルコールの代謝が落ちてしまうので、普段と違って悪酔いしてしまうのです。
これはラニチジンやニザチジンにもある作用なのですが、シメチジンには先に述べたように幅広いCYP阻害作用も有している点が大問題。
というのも、アルコールはCYP2E1やCYP1A2、CYP3A4などの酵素でも代謝を受けるからです。
シメチジンはアルコールの代謝をとことん邪魔してしまうってことなんです。
シメチジン服用者はアルコール依存性になりやすいというネットの情報もあります。
その真偽のほどはわかりませんが、シメチジンとアルコール、絶対に避けたい組み合わせです。

( ADH についてはこちらもご参考に → お酒に弱い人は進化系 !? )


♦♦♦ シメチジン、他にもあるある副作用 ♦♦♦

シメチジンの他の主な副作用については箇条書きにまとめてみますね。

薬剤性パーキンソニズム ( シメチジンの他にファモチジンでも報告あり )
高血糖高浸透圧昏睡 ( 高齢の糖尿病患者さんでは要注意 )
抗アンドロゲン作用エストラジオール代謝阻害作用 ( 女性化乳房などを起こす )
クレアチニン排泄の抑制

H2ブロッカーは、腎機能が悪くなると減量や中止を考慮しなくてはならないのですが、腎毒性がないのに血中のクレアチニン値を上げてしまっては、正しく腎機能を推測することが出来ません。


♦♦♦ シメチジン、こんな使われ方もあるけれど ♦♦♦

前回は、シメチジンのがんに対する作用を掘り下げてみました。
他にも、帯状疱疹水いぼPFAPA症候群 ( periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis syndrome )、急性間欠性ポルフィリン症ニキビ男性型脱毛偽痛風などへの応用で効果があったとする報告もあります。( 参考 → 肩の痛みに・・・ )

斬新な手法で開発され、胃・十二指腸潰瘍の治療を大きく進歩させ、ノーベル賞を得るに至った発明品は、良くも悪くもいろんな作用があるようです。
たとえ本来の働き以外にメリットがあるとしても、様々な深刻な副作用があり、多くの薬と相性が悪いシメチジン・・。
私が週刊文春の記事に驚いた訳がご理解いただけたものと思います。


さて、次回は私がよく使っているH2ブロッカーのうちの一つ、ニザチジンについてです。 ( つづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第一回 〕


♦♦♦ シメチジンを推す ? ♦♦♦

「えっ? 何を今さらシメチジン !?」
記事を読みながら、思わす声を上げそうになりました。

週刊文春読んだのは、週刊文春2018年6月7日号の「ベテラン医師が薦める 安くて効く薬」という特集。
古くて安価であっても非常に有用性の高い薬を取り上げた内容で、私も概ね好意的に読んでいたのです。
しかし、途中に次のようなくだりがありました。

『長尾医師がすすめるのは「H2ブロッカー」という種類の消化性潰瘍治療薬だ。(中略) 「強力な胃酸分泌抑制作用を持つPPIが登場して、穏やかな効き目のH2ブロッカーは医療現場から駆逐されて行きました。しかし、軽い消化性潰瘍であればH2ブロッカーで程よく効きます。それにシメチジンは免疫力を上げ、胃がんや大腸がんに対して延命効果があるという報告もあります」』

H2ブロッカー ( 正式にはヒスタミンH2受容体拮抗薬と言いますが、このシリーズではH2ブロッカーの通称を使いますね ) と呼ばれる種類の胃薬は、PPI ( Proton Pump Inhibitor ) が主流となった現在でも私はよく処方します。
しかし、H2ブロッカーの中でもシメチジンは使いません。
記事中にあるように、ある種のがんに対して延命効果があるという報告はずいぶん昔から知られています。
だけど、使いません。


今回と次回で、その理由を明かしていくとともに、三回目以降では、私がよく使っているH2ブロッカー2種類 ( ニザチジンラフチジン ) について解説していきたいと思います。


♦♦♦ シメチジンの歴史 ♦♦♦

日本では1982年に登場したシメチジンという薬は、医療関係者には大きなインパクトを与えました。
胃・十二指腸潰瘍がこの薬で治ってしまうからです。
それまで、消化性潰瘍って外科の手術対象でした。
胃がんなどの場合、かつては患者に告知しないまま手術をしてしまうケースがほとんどで、治療に当たって「潰瘍だから胃を切りましょう」という方便に使われていたくらいです。
H2ブロッカーの登場によって潰瘍の手術が激減し、そんなウソもつけなくなってきました。

胃・十二指腸潰瘍の成因には胃酸が絡んでおり、その胃酸の分泌にヒスタミンという物質が関与していることがわかっていました。
ヒスタミンを抑えれば胃酸の分泌が落ち、その結果潰瘍ができにくくなるのではないか、と誰もが考えます。
しかし、シメチジン登場以前のヒスタミンを抑える薬を飲んでも胃酸分泌に変化はなかったのです。

シメチジンシメチジンを開発した
ジェームス・ブラックという人は、ヒスタミンの受容体が2種類 ( H1、H2 ) あることを突き止めます ( 現在では4種類が知られています ) 。
既存の抗ヒスタミン薬はH1受容体の働きを抑えるのに対し、胃酸分泌にはH2受容体が関与していることが分かり、試行錯誤の末、1972年にH2受容体に拮抗するシメチジンの開発にたどり着きました。
ブラックは、プロプラノロールという降圧剤も開発しています。
β遮断薬と呼ばれ、交感神経のβ受容体にノルアドレナリンという物質が結合するのを妨げて、心臓の収縮力と心拍数を抑えて血圧を下げる薬です。
ターゲットとする分子を特定して疾患治療薬を創り出す手法に対し、1988年にノーベル医学生理学賞が授与されています。

私が医学部に入った時には、既にシメチジンが存在していましたし、医者になった時には、H2ブロッカーは4種類 ( シメチジンラニチジンロキサチジンファモチジン ) に増えていて、シメチジンを超える作用を持ち投与法も簡便なラニチジンやファモチジンが主流になりつつありました。
( ちなみに、タガメット・ザンタック・アルタット・ガスターという商品名です。) 
H2ブロッカー上市以前、胃・十二指腸潰瘍の治療に苦慮していた先輩方の中には、シメチジン登場のインパクトとその果たした役割に敬意を表して使い続けている人も多かったように思います。


♦♦♦ シメチジンのがんに対する作用 ♦♦♦

胃薬であるはずのシメチジンに、思いも寄らぬ効果を示した報告が1988年にデンマークからありました。
胃それは、胃がんに対する延命効果。( → こちら )
胃がんの手術後にシメチジンを1日800mg投与した群とプラセボ投与群で、1年後の生存率がそれぞれ45%と23%だったというもの。
5年生存率まで調べているので、シメチジンが発売後かなり早い段階からデータを取っていたようですね ( 英国では1976年に発売されています ) 

その後、他のがんでも延命効果があることがいくつか報告され、そのメカニズムを探る研究も始まります。

これまでにわかっていることをいくつかピックアップしてみますと、
 
● 腫瘍の増大が抑制される ( 腫瘍組織内でヒスタミン合成が増えているが、シメチジン投与で腫瘍が大きくならない 
 : Takahashi K, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2001 and 2002 )

● がんの転移を抑制する ( 血管内皮のE-セレクチンの発現をシメチジンが抑制。腫瘍細胞はE-セレクチンを手がかりに転移
 : Kobayashi K, et al., Cancer Res. 2000 Jul 15;60(14):3978-84. )

● 血管内皮細胞の管腔形成を阻害 ( 腫瘍が大きくなるのに血流が必要だが、シメチジンは腫瘍血管の新生を阻害 : Biomed Pharmacother. 59(1-2):56-60. 2005 )

● 大腸がん細胞株でのアポトーシスの誘導作用 ( アポトーシスとは平たく言うと細胞の自然死 : Dig Dis Sci. 49(10):1634-40.2004 )

といったものがあります。
良さそうな効果ばかりが並んでいますよね。

こういう報告を受けてなのでしょうが、シメチジンの他にCOX-2阻害薬 ( 解熱鎮痛薬 )・ARB ( 降圧薬 ) といった、がん治療には無関係な薬剤を組合せて、進行性腎がんや去勢抵抗性前立腺がんの治療にトライしている施設もあります。
しかし、これらのがんに関連する報告は、動物実験レベルであったり、臨床試験でも小規模であったりします。

今は、様々な疾患の治療を標準化しようという方向性にあります。
それぞれの病院や医師ごとの治療法の偏りを排除して、統一的に適正な治療を行おうとする流れです。
がん治療においても、そのためのデータが日々蓄積されていますが、皆が納得できる十分なエビデンスを持ち合わせていないシメチジンを活用しようという動きはありません。
治療の過程で処方する薬の中にシメチジンを滑り込ませている医師もいるようですが、私だったら使いません。
シメチジンを扱うのはかなり厄介で、しっかり知識を持っていないと痛い目に遭ってしまう可能性が大きいからです。


次回は、そのあたりを掘り下げてみます。 ( シメチジン、厄介さが半端ない につづく )

〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第四回〕ラフチジン、胃薬なのに痛みやしびれにも
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

<< ジェネリック、大丈夫 ? 第3回 >>


三菱自動車が燃費データを偽装していた大きな問題になっています。
車を選ぶ際に参考にする数値にごまかしがあることは容認できないですよね。
これがもし我々の処方する薬について行われているとしたらどうでしょう。
人体に関わることですから、自動車の比ではない大問題になります。
その可能性が否定できないジェネリックがあります。
それは以前取り上げたことがあるファイザーのツロブテロールテープ。( → 「ホクナリンテープとジェネリックを比較」)
その疑惑に満ちた薬剤動態に関するデータを検証してみましょう。

まず、先発品であるマイラン製薬のホクナリンテープについて解説しておきます。
気管支喘息の発作は明け方に起こることが多いのですが、昔の内服薬や吸入薬は寝る前に使っても明け方にまで効果が持続することが期待できませんでした。
そんな中で開発されたホクナリンテープは、貼付して4時間ほどしてから血中濃度が上昇し始め、12時間後にピークに達するように工夫がなされています。
これは「結晶レジボアシステム」と呼ばれる薬剤放出の技術によってコントロールされているのですが、特許があるためこの部分はジェネリックメーカーが真似することができません。

ホクナリンテープ 2mg の薬物動態のグラフを見ていただきます。
Hoku

ここで薬剤最高血中濃度 ( Cmax ) と Cmax に至るまでかかる時間である最高血中濃度到達時間 ( Tmax ) という大切な指標を覚えていただこうと思います。
添付文書上のホクナリンテープ 2mg のデータ。

 ● Cmax は 1.35 ± 0.08 ng/mL、Tmax は 11.8 ± 2.0 hr


次に沢井製薬のツロブテロールテープ 2mg の薬物動態のグラフを見ていただきます。
Sawai

ホクナリンテープと同じ徐放技術が使えないため、沢井製薬のツロブテロールの血中濃度の立ち上がりも Tmax も早いのがわかると思います。
添付文書上のツロブテロールテープのデータ。

 ● Cmax は 1.29 ± 0.60 ng/mL、Tmax は 11.0 ± 2.7 hr

同時に調べている標準製剤 ( ホクナリンテープ ) のデータもみておきます。

 ○ Cmax は 1.24 ± 0.63 ng/mL、Tmax は 14.5 ± 4.5 hr

マイラン製薬のデータとの比較で Cmax の比は 96.1% (1.24/1.35) 。


更に問題のファィザーのツロブテロールテープ 2mg の薬物動態のグラフです。
Pf

さすが、世界に名だたるメーカー、結晶レジボアシステムが使えないにもかかわらずホクナリンテープとほとんどピッタリ重なるような血中動態、見事としか言いようがないですよねぇ‥。
添付文書上のツロブテロールテープのデータ。

 ● Cmax は 1.063 ± 0.601 ng/mL、Tmax は 12.3 ± 4.6 hr 

同時に調べている標準製剤 ( ホクナリンテープ ) のデータ。

 ○ Cmax は 1.039 ± 0.565 ng/mL、Tmax は 12.2 ± 4.4 hr 

マイラン製薬のデータとの比較で Cmax の比は 80.5% (1.039/1.35) 。

このファイザーのデータ、深く読み込むと疑問だらけなのです。
結論から先に言いますが、ファイザーが標準製剤として提示しているデータ、これはファイザー自身のツロブテロールテープなのではないでしょうか。
まず、標準製剤の Cmax があまりに低すぎ。
2割も低くなっているというのは一体どういうことでしょうか。
そして2時間値を提示していないこと。
標準製剤であれば、結晶レジボアシステムが働いるので2時間値はほぼゼロであるはずですが、それを公表すると実際には標準製剤を使っていないことがバレてしまうため隠しているのではないでしょうか。
それにグラフ上、標準製剤のTmaxはどうみても12時間のところにあるように見えません。
標準製剤を使わず自社製品を標準製剤の代用として使い、その上で自社製品と比較すりゃ、ピッタリと寄り添うようなグラフになりますよね。

実は、ファイザーはさらにおかしなことをやっています。
ツロブテロールテープには 2mg だけではなく、1mg と 0.5mg という剤形があるのですが、どういうわけか 1mg は2枚、0.5mgは4枚貼付することで合計2mgになるようにしてデータを出しているのです。 ( → 実際の添付文書を参照して下さい )
理解に苦しみます。
他のメーカーは 1mg も 0.5mg ちゃんと1枚貼付でデータを記しています。
剤形に違いがあるのは年齢に応じて使い分けをするからなのであって、複数枚貼って2mgにするのは実際の使い方とは大きくかけ離れていますし、0.5mgや1mgの製剤で示されている標準製剤のデータも2mg製剤同様信憑性が疑われるものです。

先のグラフからも分かるように、沢井製薬は標準製剤との違いがあることを素直に認めたデータ提示ですよね。
ファイザーはなぜそのようなごまかしをするのでしょうか。
そしてそのデータを見抜けずにジェネリック製品として認可してしまった厚生労働省、問題ありませんか ?
いずれにせよ、標準製剤より2割も低い血中濃度しか得られない製品を使うと喘息のコントロールが悪くなってしまいます。
使いたくないです。

なお、沢井製薬を含め他のメーカーのツロブテロールテープも標準製剤と大きく異なる血中動態を示すのにもかかわらず、先発品と同等のジェネリックとして認めているという認可のあり方もおかしいと思うのですが。


( 追記 )
ファイザーのジェネリックの件に関して、違う集団での少人数での動態パラメータを比較してもしょうがない、という意見もあるようですが、私が問題にしたいのは

① 徐放を確立するための工夫がしてある先発品となぜ血中濃度の変化にほとんど相違がないのか。ここに示していない0.5mg及び1mg製剤の寸分たがわないデータについても同様でかえって不自然。
② 2時間値を示していないのはなぜなのか。テープ剤が徐放であることを示すためのキモになる重要な部分です。
③ 1mgと0.5mgのデータの取り方はどういった意図で行われたのか。

といった点。

ホクナリンテープをジェネリックに切り替えたら、動悸がするとか喘息発作が増えたという報告はあちこちから聞かれます。
日本アレルギー学会の「喘息予防管理ガイドライン」にも「貼付剤は後発品が使用可能であるが、薬物貯留システムの違いから皮膚の状況によっては先発品とは経皮吸収速度が異なるため、注意が必要である」と明記されているのです。
添付文書上、生物学的同等性が担保されていても、臨床現場では不具合が起こっているのです。
現実をどう見つめますか ?

<< ジェネリック、大丈夫 ? 第2回 >>


2回目は降圧薬のアダラートCRについて述べてみたいと思います。

一般名ニフェジピンと呼ばれる成分はその強力な血管拡張作用を有し、アダラートカプセルとして1976年に日本で発売された歴史ある薬剤です。
降圧作用も強力で、カプセル内の液体を口に含ませて血圧を短時間で下げてしまうという舌下投与法が一時臨床現場で広く利用された時期もありました。
その後、急激な血中濃度の立ち上がりを抑えて効果を持続するアダラートL錠が1985年に発売されます。
これで1日2回の内服で済むようになりました。
しかし1993年に登場したアムロジピンという1日1回の服用で血圧コントロールを可能としたライバルの登場で、存在が次第に霞んでいきます。
そこでへこたれなかったのはメーカーの意地なのでしょうか、1日1回の服用で血圧をコントロールできるアダラートCRという錠剤を1998年に売り出します。
その1回服用を実現させるため、アダラートCR錠は内核部と外層部を有する二層構造をしています。
外層部がゆっくりと溶け、その後露出した内核部が溶け出すという二段ロケットなのです。
そのため、血中濃度の変化を示すグラフも、3時間と12時間のあたりにピークのあるフタコブラクダのようになっています。

CR02

この特性を上手に活用して、早朝高血圧のコントロールに活用する方法があります。
具体的にはこの薬を夕食後ないし寝る前に飲んでもらい、朝にふたこぶ目の血中濃度上昇がが来るように照準を合わすのです。
降圧薬の夜間服用の有効性の報告は多くありますし、寝てる間に血圧が下がり過ぎることはないこともわかっています。

CR01さて、アダラートCRのホームページを覗いてみると製造工程について書かれているのですが、後から効果を発揮する内核の位置に細心の注意を払っていることがわかります。
内核の位置がずれていると内核が早く露出してしまい、血中濃度が安定しない可能性があります。
そのため、特殊な装置を使って内核の位置のずれたものは不良品として排除するんだそうです。

1回目を読んでいただいた方はわかると思いますが、こういう点をアピールしているのは、ジェネリックに問題があることを暗に示唆したものと考えられます。
品質管理が不十分で内核の位置がばらばらな製品を服用すると、フタコブ目の位置がずれてしまって早朝高血圧のコントロールが日によってばらついてしまう・・・皆さんにも容易に想像がつくのではないでしょうか。
そればかりではありません。
色々な情報を集めてみると、驚くようなものもあります。
ジェネリック製品であるニフェジピンCRの中には二層構造ではなく三層構造をしたものがあるし、それどころか全く層構造をなしていないものもあるというのです。
どれがそれに該当するのか、添付文書にある血中濃度のグラフを見てもアダラートCRと同じようにフタコブラクダなのでわかりません。
そんな内部構造でどうやって血中濃度を維持しているのか不思議でならないのですが。

先発品メーカーが相当な苦労をして作り出した製品です。
血圧コントロールを乱してしまう可能性のあるニフェジピンCRへの切り替えをためらている理由をご理解いただけたでしょうか。

<< ジェネリック、大丈夫 ? 第1回 >>


国策で医薬品のジェネリックへの切り替えが進んでいます。
私も日常の臨床の中でジェネリックを活用していますが、先発品にこだわって処方しているものもあります。
それにはちゃんとした理由があります。
3年前に「ジェネリック薬品を考える」というタイトルで一度考察していますが、今回は剤形を中心にして改めて考えていきたいと思います。


初回は ラベプラゾール について。
これはプロトンポンプインヒビター ( PPI ) というジャンルに属する薬です。
胃の細胞の中で塩酸を作る壁細胞の水素イオンの出口のことをプロトンポンプと呼ぶのですが、この働きを抑えることで胃潰瘍や逆流性食道炎などの治療に活躍している薬剤です。

パリエットPPIは酸分泌を強力に抑えるのに、『酸にはとても弱い』という摩訶不思議な性質があります。
中でもラベプラゾールは酸で極めて分解されやすいとされています。
そのまま服用してしまえば胃液中の塩酸で失活してしまうのです。
胃という最大の関門を無事に通り抜けて小腸から血液へと移行してもらう必要があります。
先発品であるパリエットの錠剤は、ラベプラゾールを守るべく胃では溶けず腸に届いてから溶ける腸溶性被膜で表面をコーティング。
しかし、ここでも問題があります。
実は腸溶性被膜自体も酸性物質なのです。
そこでラベプラゾールが直接腸溶性被膜に触れないよう、中間皮膜を設けて難題をクリアしているのです。
(こういう構造をしているので、割って飲んでしまうのはダメってわかりますよね。)
 
錠剤が三層構造をしていることに関して、先発メーカーはジェネリック製品が出回るようになってから強調するようになった気がします。
これ、ジェネリック製品の構造に問題があることの裏返しだと思って間違いないでしょう。
製薬業界には他社製品を中傷・誹謗してはならないというルールが敷かれているため、直接欠点をあげつらうことはできません。
自社製品の錠剤の構造をアピールすることで、ジェネリック製品には不備があることを暗喩しているのでしょうね、きっと。
実際、ジェネリック製品の中には二層構造のものがあるという情報を得ているのですが、どのメーカーのものなのかまで把握できていません。
全てのジェネリック製品を割ってみたらわかることでしょうが、薬の添付文書などで調べてみても層構造について書いてないのでもどかしい気持ちです。
二層構造で先発品と同等の薬効を得ているのならば、その技術を自信を持っておおいにアピールしたら良さそうなものなのですが。

国は先発品と後発品は同等だとお墨付きを与えているわけですが、現実にはパリエットをジェネリックに替えて症状がコントロールできなくなったという話は伝え聞きます。
ラベプラゾールを酸から守る構造がしっかりしているのかどうか、その情報が十分に得られない現状で後発品を使う勇気は私にはとてもありません。
少々お高くなりますが、確実に症状を改善したいという思いをご理解いただきたいと思います。 


なお、実際にパリエットをジェネリックに替えることで逆流性食道炎の症状が悪化したと綴ってあるブログを見つけましたのでご参考までに。 ( → こちら )

最後に、内視鏡検査前にうっかりパリエットを飲んで来られた方の貴重な写真を。
「パリエット」の印字が読めると思いますが、胃の中で全く溶けずにそのままの形で残っていて、さすがは腸溶錠と感心した記憶があります。

パリエット
 

<< 風邪薬についての考察 第12回 >>


かぜ 風邪薬を使う理由の一つに、仕事や学校を休むのは迷惑をかけて悪い、と考える風潮があるのではないでしょうか。
学校には「皆勤賞」という制度があって、それを目指すのは善だと日本人の意識の根底に刻まれているのかも知れません。
でも中途半端な状態で出席・出勤し、風邪を蔓延させてしまうことの方が余程迷惑なのです。
しっかり休養を取ることが当たり前にできる社会にならない限り、風邪薬のニーズが減ることはないでしょう。

このように、一度もお世話になったことがない、という人を探すのが難しいくらい風邪薬は日用品のごとく消費されています。
しかし、風邪薬、って存在しません。
風邪のほとんどはウイルスが原因で、そのウイルスに対する薬剤は基本的にはなく、既存のものは症状をごまかしているだけに過ぎません。
そもそも熱や鼻水、咳といった症状はウイルスを退治しようとする体の反応です。
症状が緩和されて多少楽に過ごせるとは思いますが、風邪薬を使うことで逆に罹病期間は長くなると言われています。
服用することで治ったと勘違いはしているし、服用して過去に大きな問題がなかったと思い込んでいるせいか、副作用に対する抵抗感が希薄なのが現実です。
血圧やコレステロールを下げる薬等、副作用がないわけではないものの長いレンジで使えて多くのメリットをもたらす薬を内服することには大抵の人が拒絶反応を示すのとは裏腹です。

規制緩和で、コンビニであるいはネットで手に入れることができる方向にあるのを歓迎する声が大きいのですが、使うことに意味の見いだせないうがい薬やトローチ、副作用や薬の飲み併せに無頓着に処方される総合感冒薬、海外では小児への使用に規制がかかる各種成分‥。
これまでの考察を皆さんどう思われたでしょうか。
少しでも風邪薬に対する認識が変わってくれることを願っています。


 ⇨第11回 「小児に風邪薬を使わない海外の事情


( 追記 )
自分自身が風邪をひいた場合は漢方薬を使用しています。
そして風邪で来院されるほとんどの方にも漢方薬を処方していますが、このことは機会を改めて紹介できればいいなと考えています。

<< 風邪薬についての考察 第11回 >>


かぜ子供は免疫が十分に備わっていないので、しょっちゅう風邪をひく存在です。
その都度、親御さんは病院に連れて行って、処方を受けたり市販薬を買って与えたりしていると思います。

その当たり前の光景が海外では見られなくなりつつあります。
効果がないばかりか有害性の危険が高いから、という理由で小児への風邪薬の使用が厳しく制限されるようになったからです。

米国で2008年1月に 2歳未満への小児への市販の風邪薬の使用を禁止するよう勧告が出されました。
それに続いて複数の国で同様の措置がとられ、一歩進んで英・加・豪・ニュージーランドでは 6歳未満に対しての使用制限を決めています。


市販薬だけではなく、我々が処方する薬の乳幼児に対する様々な報告を具体的にみていきます。

抗ヒスタミン薬
 ・鼻汁や鼻閉への効果がない
 ・気道の粘液分泌が減り、痰が出しづらくなる
 ・眠気や不整脈、熱性痙攣を誘発する
鎮咳薬
 ・小児での鎮咳作用を認めない
 ・乳幼児では呼吸抑制、無呼吸から突然死に至るという報告も
③ 去痰薬
 ・肺炎では症状の改善が早まるという報告もあるが、感冒への効果は不明
気管支拡張薬
 ・喘鳴を伴うウイルス性気管支炎で症状の改善効果はない
 ・症状の遷延や振戦などの副作用の懸念
抗菌薬
 ・ウイルス性の感冒に対する有効性はなく、副作用でかえって生活の質を下げる
 ・細菌の二次感染の予防効果はない

と、まあこんな具合。

日本の対応はというと厚労省が2010年末に「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」と、製造販売元に注意喚起を行なったのみ。
医師のもとに行っても、処方されるのは有効性に根拠の乏しいこれらの薬剤なのですが。


海外で風邪をひいて医療機関を受診しようものなら、家で寝てなさいと言われるだけか、せいぜいアセトアミノフェンの処方箋を渡されるだけでしょう。
風邪にはすぐ薬をという意識が刷り込まれている日本人は、コンビニエンスストアでも気軽に感冒薬が買えるようにする薬事法改正を歓迎していましたし、ネットで購入できることに何の抵抗感も示しません。

かく言う私も、かつてダンリッチという風邪薬を自分でも使い患者さんにも処方していました。
2003年に発売中止となった際に、当初はその措置に大切な商売道具を没収されたようで憤懣やるせない気持ちでした。
今にして思えば、情報収集力のなさと知識の乏しさが恥ずかしい限りです。
成分の一つである塩酸フェニルプロパノールアミンによって脳出血が引き起こされ、死亡例が相次いだための措置だったのです。

長きにわたって利用されてきた薬であっても、不利益が明らかになれば市場から消えるのです。
総合感冒薬は
18歳未満には効果が確認できないとされていますが、少なくとも乳幼児に対して我々は正しく対処していく時期に来ていると考えます。


 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2

 ⇨ 第12回 「風邪薬について、最後に」 

<< 風邪薬についての考察 第10回 >>


酒をとことんあおっても平気な人もいれば、一口飲んで顔が赤くなってダウンしてしまう人もいる。
アルコールに強い人、弱い人がいるのは日常的にみなさんもよく承知されているのではないでしょうか。
これは、エタノールやアセトアルデヒドを分解する酵素の強弱に遺伝的な差異があるからです。

同じように CYP2D6 にも遺伝的な違い ( 遺伝子多型 ) があることがわかっています。
最も活性が強いほうから
  • Ultra-rapid metabolizer ( UM )  ( 代謝が超迅速に行われるタイプ )
  • Extensive metabolizer ( EM )  ( 代謝活性が正常に行われるタイプ )
  • Intermediate metabolizer ( IM )  ( 代謝が低下しているタイプ )
  • Poor metabolizer ( PM )  ( 酵素活性がないか極端に低いタイプ )
という名称がつけられています。
右側に私が勝手に解説を加えていますが、標準は EM です。

日本人において、CYP2D6の活性が欠損している PM の方は1%に届かないようですが、活性が十分でない IM の方が 40% 程度いると言われています。

PM の方が PL顆粒を服用すると2日間ほどは眠気でふらふらするそうです。
居眠り2008年1月14日、月山第二トンネル内でバスの運転手が気を失い、乗客がうまくバスをコントロールして事無きを得たという事故がありました。
当時は睡眠時無呼吸症候群が注目されていた時期でしたけれども、この運転手の場合は風邪薬を服用していたと後に報道されていました。
その報道を聞いた時は、風邪薬でそこまで眠りこけてしまうものなのかと訝しく思いましたが、CYP2D6 の PM だった可能性が高いのでしょうね。

CYP2D6 の遺伝子多型は一般的ではないですが、依頼して調べることが可能です。
乳癌治療薬であるタモキシフェン
主にこの酵素で代謝されますが、使用前に予めこれを調べるサービスもあります。
しかし、タモキシフェンは他の酵素でも代謝されますし、どこまで有用かはよくわからないというのが現状です。
EM であったとしても、例えパロキセチンを服用していれば作用が減弱してしまいますしね。( → 文献
そういうコストのかかる検査を受けなくても、ある程度推測は可能ではないかと思います。
というのも、風邪薬は日本国民の大多数が使用経験があるはずですから非常に手がかりが掴みやすいのです。
風邪薬で眠くなる方は IM か PM の可能性が十分にあるわけで、CYP2D6 が代謝に絡む他の薬剤にも十分気をつけなければなりません。
医者の側もこの情報をしっかり聞きだして処方する際に役立てたいものです。
CYP2D6 が代謝に絡む薬剤には副作用として抗コリン作用のあるものが多いですからね。

また、これも日本人では 1%未満ですが、UM の方では薬が早く代謝され過ぎてさっぱり効いてくれないのです。
逆に、前回も触れたように咳止めの作用のあるコデイン系の薬は CYP2D6 で代謝されて初めて薬効を発揮しますので、UM だとこの代謝産物の濃度が急速に上がってしまい、場合によっては中毒死するという報告もあります。
英国では市販の風邪薬にコデイン関連成分を使うことを厳しく制限しています。
対して日本では、授乳中の母親がコデイン系薬剤を服用した場合に乳児の血中濃度上昇が懸念されるため授乳婦のみ使用禁止が通達されているものの、後は野放し状態。
風邪薬は日用品と同様にネットでも大量購入ができてしまいますが、本当に怖いですよね。

次回は、風邪薬について他国との比較をしてみたいと思います。


 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1

 ⇨第11回 「小児に風邪薬を使わない海外の事情」 

<< 風邪薬についての考察 第9回 >>


今回はやや難しい話になります。
できるだけ分かりやすく書いたつもりではありますが、お付き合いの程を。

薬物代謝に重要な役割を果たすものの一つにチトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる酵素の一群があります。
主に肝臓に存在し、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。
今回はその中の一つ「CYP2D6」に焦点を当てます。

抗ヒスタミン薬選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ( SSRI )・抗うつ薬コデイン抗不整脈薬β遮断薬・etc.‥。
CYP2D6は我々が処方する約3割にあたる薬物の代謝に絡んでいるのですが、前回取り上げた抗コリン作用を持つ薬剤が案外多く含まれているのも特徴かと思います。
これらの薬を重複して服用しておられる方も多いですよね。
( なお、上に挙げた系統のすべてがこのCYP2D6で代謝されるわけではありませんので個別にはネットや薬の本等で調べてください。)

さて、PL顆粒に咳を鎮める成分が含まれていない理由を考えてみましょう。
PL顆粒に含まれる抗ヒスタミン薬のメチレンジサリチル酸プロメタジンはこのCYP2D6で代謝されます。
鎮咳剤の代表であるコデイン系の薬物もCYP2D6で代謝を受けます。
トンネル
プロメタジンもコデイン関連物質も同じCYP2D6と名付けられたトンネルを通ろうとすると、1種類だけなら難なく通れるトンネルも、2種類が同時だと押し合いへし合いとなってスムーズには通れなくなる可能性もあります。
その結果、お互いの血中濃度が下がりづらくなるかも知れません。
コデイン系の薬はそのままでは何の効果も持たず、CYP2D6で代謝されて初めて鎮咳作用が発揮できるようになります。
したがって併用すると抗ヒスタミン薬の持つ抗コリン作用などの副作用は長引くし、咳もなかなか鎮まらない可能性が出てきます。

PL顆粒を作っているメーカーはデキストロメトルファン ( メジコン ) という咳止めも作っていますが、これもCYP2D6で代謝される薬です。
PL顆粒に咳を抑える成分が含まれていない理由はこの点にあるのではないかと私は考えています。
市販の総合感冒薬には抗ヒスタミン薬とコデインが配合されているものが多いのですが、好ましいとは言えません。
( 但し、実際に臨床で用いられる用量であれば大きな問題はないと考えられています。) 

また、血圧の薬であるアムロジピンや吐き気止めのメトクロプラミド ( プリンペラン ) などは、自分自身はCYP2D6で代謝されないものの、CYP2D6の働きを邪魔してしまう作用がありますので、やはり注意をする必要があるでしょう。
( CYP2D6の働きを阻害する薬剤は他にもたくさんあります。)
代謝酵素に注目してみると、薬の飲み合わせの善し悪しがわかってくるのですが、薬が数種類処方されることも多く、正直キリがないです。

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CYP2D6を話題にしたついでに、パロキセチン ( パキシル ) という薬剤について一言。
一時期は最も処方されていたSSRIで、CYP2D6で代謝される薬剤の一つですが、そのCYP2D6の働きを阻害するという厄介な側面も持っています。
自分の通るべきトンネルの入り口を自ら狭めてしまうわけですね。
最初に服用していたパロキセチン量を倍にしたとします。
CYP2D6の阻害作用もさらに強くなるので、代謝のスピードが落ちて血中濃度が倍以上になってしまい、それまでみられなかった副作用が出現する可能性も高くなります。
逆に減量したり止めたりするとCP2D6の働きが回復するため、薬の血中濃度が急激に下がり、押さえられていた症状が悪化するという離脱症状が出やすい薬剤です。
パロキセチン単剤ならまだしも、総合感冒薬やCYP2D6に絡む他の薬剤を併用すればどうなるか、想像に難くないでしょう。
頻用されるパロキセチンですが、SSRIは他にも何種類かあります。
いわゆる「パキシル地獄」を招かないためにも、他のSSRIの選択を医師側にも求めたいと思います。

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次回はCYP2D6の個人差について書いてみたいと思います。


 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?

 ⇨ 第10回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その2」 

<< 風邪薬についての考察 第8回 >>


トイレ前回は、PL顆粒に含まれるメチレンジサリチル酸プロメタジンという抗ヒスタミン薬に抗コリン作用があるから、前立腺肥大症緑内障のある方には使用禁忌だ、と書きました。
このことについて大まかに。

抗コリン作用を持つ薬剤は、副交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質の働きを邪魔します。
その結果、副交感神経の持つ様々な働きが抑制されてしまいます。
内視鏡検査の時によく使う胃腸の動きを抑える注射や眼底検査の時に瞳孔を拡げる点眼薬は、この作用を活用した薬剤になります。

目的とする働きだけが抑制されたら理想的なのですが、そういうわけにはいきません。
副交感神経がうまく働かなくなるといろいろと困った症状も出てきます。
例えば、

● 瞳孔が拡がる → 房水の出口が狭くなって眼圧が上がる
● 涙や唾液の分泌が減る → ドライアイ、 口渇
● 消化管の動きが悪くなる → 便秘、吐き気
● 心拍数が増える → 不整脈を誘発しやすくなる
● 膀胱括約筋が緩まなくなる → 排尿障害

他にも様々な影響があるのですががこのくらいで
要するに副交感神経の働きが鈍るので抗コリン作用を持つPL顆粒は前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障には使えないというわけです。

抗コリン作用を期待して薬を選択する場合も当然ありますが、ありがたくないことに、この作用を持つ薬剤は抗コリン剤だけでありません。
今回話題にしている抗ヒスタミン薬もそうですし、向精神薬制吐薬気管支拡張薬抗不整脈薬ステロイド降圧薬筋弛緩薬潰瘍治療薬…と強弱はあれど様々な薬が抗コリン作用を持ち合わせています。
( ここに挙げた全ての薬が抗コリン作用を持つわけではありません。種類によります。)

注意しておきたいのは、抗コリン作用は認知機能にも影響を及ぼすということ。
高齢者においては、上に挙げたような抗コリン作用を有する薬剤を複数飲み合わせているケースが珍しくはありません。
認知症と診断される高齢者の 1割くらいは薬剤性の認知症とも言われおり、薬剤の関与が疑わしければ処方内容を再検討する必要も出てきます。
多くの薬剤を服用している高齢者が風邪をひいた際にPL顆粒や市販の総合感冒薬を服用すれば、薬物代謝の能力が落ちているために抗コリン作用を増長させかねないので、極めて注意を要します。
風邪薬に限らず、そして高齢者に限らず、抗コリン作用が重なる処方の組み合わせはできるだけ必要最小限に留める努力も我々医者には求められると思います。

さて、PL顆粒には風邪の三大症状の一つ「咳」に対する成分が含まれていないことに前回言及しましたが、それは薬物の代謝酵素の側面から見ると賢明に思えます。
次回は「CYP2D6」という代謝酵素を取り上げて検討してみたいと思います。


 ⇨ 第7回 「PL顆粒が前立腺肥大症や緑内障に使えない理由
 ⇨ 第9回 「CYP2D6からPL顆粒を考える その1


<< 風邪薬についての考察 第7回 >>


粉薬総合感冒薬は、世代を問わず最も服用する機会の多い薬だと思います。
第1回にも書きましたが、鼻・のど・咳の三症状が揃ったものを風邪と言いますが、実際に外来に来られる方の症状は複雑で多彩。
発症からの時間経過によっても症状が刻々と変化しますしね。
そんな風邪を幅広くカバーするために、市販の総合感冒薬は一つのブランドでも複数の種類を揃えています。
それでもその時の症状に必要なものが欠けていたり、逆に余分であったりすることがどうしても生じてしまうのが難点です。

医療用の総合感冒薬として代表的なのが「PL顆粒」。
病院で処方してもらった経験のある方も多いと思いますが、前立腺肥大症 ( 正確には下部尿道閉塞疾患 ) や緑内障等に禁忌であることや、どんな成分が含まれているのかすら知らずに処方している医師が多いのが現状です。
なぜ前立腺肥大症や緑内障に使ってはいけないのか ( 他にも禁忌はありますが ) 、その中身を検討してみましょう。

PL顆粒に含まれるのは以下の4つの成分です。

 ① サリチルアミド
 ② アセトアミノフェン
 ③ メチレンジサリチル酸プロメタジン
 ④ 無水カフェイン

① は
消化器医をやっている私のブログには何度も出てきた解熱鎮痛作用を持つ非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) の一種で、胃や十二指腸潰瘍がある場合には使えません。
② はカロナールという商品名で有名な成分ですが、これも解熱鎮痛作用があります。
③ は抗ヒスタミン薬で、鼻水やくしゃみを抑える効果があります。
④ は改めて説明するまでもなく様々な作用を持ち合わせているのですが、医師が処方箋薬として使うのは原則として鎮痛を目的にする場合に限られます。

解熱鎮痛剤が2種類含まれてますし、カフェインも表向きは鎮痛を目的として配合されているとすると、いびつな組み合わせですよね。
それに、三大症状の一つである「咳」に対する有効成分が見当たりません
総合感冒薬と謳っていますが、万能ではないのです。
ただ、④ は咳を鎮めるテオフィリンという物質に化学構造が似ており、ある程度咳に効くとされています。
ご存知のように覚醒作用もありますので、抗ヒスタミン薬による眠気対策としても混ぜてあるのでしょう。
そしてカフェインの存在下でアセトアミノフェンの作用が増強されるとも考えられています。
また、③ の抗ヒスタミン薬が咳に有効な場合もあり得ます。

しかし、咳を鎮める目的で使われることの多いコデイン系やデキストロメトルファン ( PL顆粒を販売している会社の製品の一つ ) などが、配合されていないのはなぜなのでしょうか。
実は深く掘り下げてみると鎮咳成分を混ぜていないのはとても賢明なのかも知れません。
これはまた第9回で触れる予定にしています。

薬の知識を持っている人ならば、前立腺肥大症や緑内障に使えない薬剤といえば、副交感神経の働きを抑える抗コリン薬を思い浮かべます。
PL顆粒には抗コリン薬は含まれていませんけれども、実は抗ヒスタミン薬である ③ は抗コリン作用も併せ持っているのです。
そんなわけで抗コリン薬と同じ禁忌項目があるわけなのです。

次回は風邪薬から少し離れますが、抗コリン作用のある薬物をちょっと考察してみます。


 ⇨ 第6回 「医療用より多彩な市販のトローチ
 ⇨ 第8回 「抗コリン作用って ?」 


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