野口内科 BLOG

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  << 出血をきたす消化器疾患 第3回 >>


Mallory_Weiss.gif出血をきたす消化管出血としてまず、Mallory-Weiss ( マロリー・ワイス ) 症候群 ( 以下 MWS ) を取り上げます。
名前だけ聞くと、仰々しく一体どんな疾患かピンとこないと思いますが、嘔吐などで腹腔内圧や食道内圧が上昇することで食道と胃の境界付近の粘膜に裂け目ができて出血するという病態を言います。
最初に Mallory と Weiss によって、飲酒後の嘔吐に引き続き吐血した患者、15例を調べたら食道胃接合部の裂傷が原因だったと報告したので彼らの名前がついているわけです。
発表されたのは1929年。
当時は内視鏡なんかありませんから、解剖結果によるレポートになっています。

このシリーズでは、医学知識の変遷についても考察していくつもりですが、この MWS も格好の材料です。
というのも、彼らが最初に発表した論文が、飲酒に絡む患者の剖検例だったため、私が学生時代に使っていた朝倉書店の内科学、第四版では「大量飲酒後の悪心・嘔吐に引き続いて吐血をきたす疾患である」とあたかも飲酒が引き金であると断定して書いてありましたし、大学の講義でもそのように教わりました。
検査をして MWS が発見された場合、必ず飲酒をしたかどうかを聞くのが常だったのです。
アルコールで粘膜が脆弱になるのが原因なんじゃないか、なんて言っていた先輩医師もいたくらいです。

しかし、私が初めて遭遇した MWS はソバを食べた後に嘔吐した症例でした。
結局飲酒後に限らず、嘔吐を契機にして傷が入れば生じる疾患なのです。
これは、内視鏡検査が普及して容易に診断が下せるようになったことが大きいと考えます。
軽症例もたくさん発見できるようになり、決して珍しい疾患ではないこともわかってきました。
内視鏡検査時に激しくオエオエして、それで MWS を生じることも無きにしもあらずなんです。

ほとんどの場合、放ったらかしておいても自然に治ってしまいますが、まれに止血操作を必要とすることもあります。

写真の解説をしておきますが、右上のものは典型的な飲酒後の嘔吐で生じたもの。
中央が胃の入り口である噴門で、2時の方向にある傷から出血しています。
検査中は左側臥位になるため、反対側 8時の方向に流れた血液が溜まっているんですね。
( 方向の見方については「逆流性食道炎の内視鏡写真」を参照して下さい。)
この症例は特に処置をしませんでしたが自然に治りました。

MW03.gifもう一つ、左の写真はたまたま検診時に発見した傷跡を写したもの。
5時の方向にある白い細長い筋がそれで、治りつつあるところです。
「何日か前に血を吐きませんでしたか ?」
「そういえば、酔って吐いた時、血が混じっていたような・・・」
本人さん、記憶が曖昧でした。
病院に来なくても自然に治ってしまうということですね。

  << 出血をきたす消化器疾患 第2回 >>


2011071219105823694.gif出血をきたす消化管疾患について話を進める前に、貧血について少し触れておきましょう。
消化管出血と貧血は切っても切れない関係にありますので。

貧血はヘモグロビン ( 血色素 ) が少なくなることを言い、赤血球数は問いません。
貧血の際には、やや強めの動作をしたときにたやすく動悸や息切れを感じるようになります。
100m全力疾走した後は心拍数が上がったり息がハーハーしたりしますが、酸素の需要が増したときに少ないヘモグロビンを有効活用して供給しようとするために、そのような症状が容易に出るわけですね。
他には疲れやすいとか頭痛、めまいといった症状あります。

ところが一般の方の中には、立ちくらみのことを貧血という言葉で表現し、医療機関を訪れるケースが結構見受けられます。
立ちくらみは、ヘモグロビンがたっぷり存在していても起こる症状なのです。
脳貧血」という俗称を医療関係者も使うことも混乱の一因だと思いますが、立ちくらみは「起立性低血圧」、小児ならば「起立性調節障害」等の疾患に該当することが多いと考えられます。

WHOの診断基準ではヘモグロビン値が、成人男性で13g/dl 未満成人女性で 12g/dl 未満を貧血と定義しています。
しかしこの基準を満たせば即治療というものでもありません。
同じヘモグロビン値でも、怪我などでの急性出血の場合と知らぬ間に緩やかに貧血が進行する場合とでは、症状が異なります。
仮にヘモグロビン値が9g/dlであったとします。
急性出血の場合なら患者さんは青ざめ、動けばフラフラ。
これに対して緩やかに進行した場合、全く症状を自覚しない方が結構いらっしゃいます。
従って、検査値だけではなく、原因や日常生活上の自覚症状の有無などを鑑みて治療法や治療のタイミングを探っていきます。

さて、臨床上もっともよく見られる貧血は「鉄欠乏性貧血」です。
さまざまな原因で生じますが、消化管からの慢性的な出血も疑っていかなくてはならない病態です。
診断基準は日本鉄バイオサイエンス学会が作成したものがあります。

 ①ヘモグロビン < 12g/dl、②総鉄結合能 ≧ 360μg/dl、③血清フェリチン < 12ng/ml

血清鉄の多寡が含まれていない点は注目ですね。
②③は鉄欠乏性貧血を疑わない限り、一般的な採血では通常調べない項目です。
しかし、①はごく普通に調べる検査項目ですし、同時に算出され赤血球の大きさをみる平均赤血球容積 ( MCV ) という指標があるのですが、これである程度鉄欠乏状態を推測することができます。
MCV の基準値は 90±10 fl 。
鉄欠乏性貧血ではどういうわけか赤血球が小さくなるので、80以下と低い数値を示すことが多いのです。
鉄欠乏性貧血の場合、ヘモグロビン値が一桁になったあたりで治療を始めることが基本。
しかし、なぜ鉄が少ない状態を招いているのか、その原因を明らかにするために一度は消化管も精査する必要があります。

  参考 → http://jbis.sub.jp/fe/04-01/0042.html

  << 出血をきたす消化器疾患 第1回 >>


2011062423524230491.gif吐血や下血などの消化管出血を扱うのは内視鏡医にとっては決して珍しいことではありません。
今年だけでも何例か経験し、内視鏡を使っての緊急的な止血操作を行なっています。

1960年代だと、胃や十二指腸潰瘍からの出血に対しては手術を行なうことがほとんどだったのですが、薬物や処置具の開発とともに内視鏡を用いた止血法が普及するに至り、今や外科の出番は皆無に近い状態です。
潰瘍とピロリ菌の関わりがわかってきてからは、その対策が確立されたことやピロリ菌感染率の低下などもあって潰瘍そのものの数が減ってきているのですが、止血を目的とした内視鏡処置の出番はまだまだあります。

消化管から出血をきたすのは、何も潰瘍だけとは限りません。
毎年何らかのテーマを決めて消化器疾患を取り上げていますが、今回のシリーズでは食道から大腸まで出血や貧血を引き起こす代表的な疾患についていくつか取り上げていこうと思います。


  << 胃食道逆流症 第9回 >>


2010111715542930716.gifさて、5月末からぼちぼちと書いてきた胃食道逆流症に関する連載も最終回。
本来なら、第3回で取り上げるべきだったかも知れませんが、胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状についての追加説明です。

♦♦ 胃液の逆流で口臭 !?

まず口臭について。

口臭の原因の8-9割は、歯周病や虫歯など口腔内にあるとされています。
あと、呼気ですよね。
ニンニクを食べて口臭がするのは、成分が血液を介して呼気に出るからです。
ガムを噛んで対策を講じる方もいると思いますが、あまり意味がないのです。

口臭が気になるので胃の検査をしてくれ、という方がたまにいらっしゃいますが、これまでは胃が原因のことは極めて少ないと説明してきました。
なぜなら、食道の入り口は物を飲み込むとき以外は閉じているので、臭いが漏れてくることはまず考えられないからです。
それに口臭を訴えてはおられるけれどもそれが他覚的に確認できない、自分だけが気にしている自臭症である場合が多いからです。

ところが、最近の研究で、口臭の一因となる舌の付け根付近の細菌増殖は GERD が原因と推定されるようになってきました。
口臭と GERD の関連性を示す報告が散見されるようになってきましたので、口臭を訴えられる方にも内視鏡検査をお勧めしております。
経鼻内視鏡だとある程度舌の付け根付近の観察もできますよ ( 経口だと無理です ) 。

♦♦ 胃液の逆流で歯ぎしり !?

そして、歯ぎしり

これは、地元鹿児島大学の歯学部の研究が有名です。
咬合不全の患者さんがたまたま GERD を合併していて、内科で酸分泌抑制薬を処方してもらったところ、顎の痛みが軽くなっただけでなく、薬の内服前に比べて歯ぎしりの回数が著しく減ったことから研究がスタートしたようです。
GERD を治療すると歯ぎしりは減り、逆に酸の逆流によって食道内のpHが低くなるのに合わせて歯ぎしりが活発になることもデータで示し、その関連性を見事に証明しています。
歯ぎしりによって唾液の分泌を促し、GERD の症状を緩和しようとしているのでは、と推測されています。

個人的には、幼児の歯ぎしりが GERD に関連したものなのかどうか気になります。
もしそうだとしたら、GERD はかなり若年の世代においてもしっかり治療しなくてはならない疾患ということになりますよね。


GERD は直接生命に危険を及ぼすような疾患ではありませんが、口臭や歯ぎしりなども含め生活の質に関わってくる疾患です。
これまでのこのシリーズを改めて読んでいただき、少しでも気になることがあれば、GERD の診断にはうってつけの経鼻内視鏡による検査を是非お勧めします。



  << 胃食道逆流症 第8回 >>


♦♦ 食道の入り口で胃液が…

のどの部分の違和感があるのに検査をしても何も所見を見いだせないものを咽喉頭異常感症と呼び、この原因の一つに胃食道逆流症 ( GERD ) がなり得えます。
胃液が鼻や耳にまで影響を及ぼすことはこのシリーズ第3回で述べた通りです。
ところで胃液を作る場所は胃だけではなく、食道の入り口でも作られるとしたら・・・、そんなことあるのでしょうか。

20101026161538356.gif♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の写真

内視鏡で検査を行なうと右の写真のように食道の入り口に胃粘膜を見つけることがあります。
左右両側にあるやや赤い部分がそれ。
これを食道入口部異所性胃粘膜 ( 通称 Inlet patch ) と呼びます。
GERD の分野で著名なある先生にこの inlet patch についていくつか質問をぶつけたことがありますが、先天性のものだし酸分泌をすることもないので問題ないでしょうとにべもない返事でした。

でもここで inlet patch について深く掘り下げてみましょう。

♦♦ どうしてできる ? 食道入口部異所性胃粘膜

胎児の時代に食道が作られるとき、表面の円柱上皮が扁平上皮に置き換わってくる現象が食道の中部付近から始まり徐々に口の方と胃の方に進んでいきますが、進み方が不完全で食道の入り口に取り残された円柱上皮がこの inlet patch になるというのが定説です。
Inlet patch の細胞を詳しく調べた研究でグルカゴンというホルモンを分泌する細胞を見いだすことがあるそうです。
グルカゴンは成人では膵臓で作られますが、胎生初期の胃ではグルカゴンを作る細胞が存在するものの成長とともに消失することから、inlet patch が胎生期の粘膜の名残りであるという説を支持するものになっています。
でも、inlet patch は胃の上部の噴門腺領域の粘膜に似ていて胎生期の円柱上皮とは異なるので先天性ではないとする説も存在します。

♦♦ 食道入口部異所性胃粘膜の治療は ?

この inlet patch の組織を採取して顕微鏡で調べると胃酸を分泌する壁細胞が見つかることがあります。
胃液がわざわざ胃から逆流してこなくても食道入口部で酸が分泌されれば、のどの不快感を起こすであろうことは想像できますよね。
これまでそのような症状があって inlet patch がある人に PPI ( proton pump inhibitor ) などの酸分泌抑制薬を投与して症状が治まる人を何例も経験しています。
また、この異常感がありなおかつ PPI でも治らない人に対して inlet patch を電気的に焼いてしまうことで治療する方法も昨年紹介されました。( Gastroenterology. 2009 Aug;137(2):440-4 )
この場合、悪さをしているのは酸ではなく粘液ではないかと推測されています。

♦♦ 案外多い食道入口部異所性胃粘膜
さて、inlet patch がどのくらいの頻度で見つかるのかというと報告で大きなばらつきがあって 0.1 - 20 % と200倍の開きがあります。
日本人を対象とした内視鏡での検討では 14.2%、つまり 7人に1人の割合で発見されるようです。( Progress of Digestive Endoscopy 2005 ; 66 : 19-21 )
海外の報告は一桁台が多いのですが、日本人に多いのか海外の内視鏡レベルが低いのかのどちらかでしょう。

♦♦ まだまだ研究の余地がある食道入口部異所性胃粘膜

Inlet patch 部分へのピロリ菌感染や癌の発生などの報告もありますし、先の日本人での内視鏡検討では高齢者の方の頻度がやや低いそうで、かなり長い時間をかけて食道粘膜が完成していくのか、はたまた若い世代に GERD が多いことと関連するのかなど興味は尽きないのですが、消化器をやっている医師の間でもあまり重要視されていないのが現状です。
本当に先天的なものとしていいのか ( Barrett 上皮のように後天的なものがないか ? )、GERD の食道外病変と同様の症状にどのくらい関与するのか、どうして inlet patch が生じやすい方向があるのか ( 3-4時方向と9-10時方向に多い印象です ) など inlet patch には研究の余地はたくさんあります。

食道胃接合部の観察には経鼻内視鏡が優れているということはシリーズ第4回で書きました。
実は経鼻内視鏡を導入するときに、反射が少ないことから inlet patch の観察もしやすくなるのではと期待していましたが、逆に近接してしまいちょっぴり苦労しています。
しかし食道入口部の観察も念を入れてやっておりますので、咽喉頭異常感症の症状があって内視鏡を受けられたことのない方は是非検査を。





  << 胃食道逆流症 第7回 >>


2010100617293027853.gif♦♦ GERDに使う漢方薬

前回に引き続き、治療薬のお話です。
消化器病の分野で作用機序の解明が進められつつある漢方薬の一つに六君子湯があります。
主に胃においての研究が多いのですが、食道においてもいくつかの報告があります。
内視鏡検査で異常を認めない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) において、PPI ( proton pump inhibitor ) でも症状の改善しない例では食道の運動機能が低下していることがわかっていますが、六君子湯はこの食道の運動機能を改善します。
また、胃の内圧を下げる作用もあり、間接的に食道への逆流を防いでいると考えられます。

私が注目しているのは半夏厚朴湯という漢方薬です。
昔から、のどの違和感があっても検査で何も所見がない咽喉頭異常感症という病気にこの薬剤がよく使われてきました。
シリーズ第3回胃食道逆流症 ( GERD ) の食道外症状について書きましたが、GERD により咽喉頭異常感症が引き起こされることもわかっていますし、実際に半夏厚朴湯を投与してこの食道外症状が緩和されるケースを何度も経験してきおり、治療の有効な手段の一つと考えています。
この漢方薬も科学的に薬効薬理が明らかになることを望みます。

♦♦ GERDを悪化させる可能性のある薬剤

薬で一つ注意していただきたいのは、降圧薬の中でカルシウム拮抗薬と呼ばれるものです。
血管の筋肉が収縮するのを妨げることで血圧を下げるのですが、下部食道括約筋部 ( LES ) の圧も下げてしまい胸やけを悪化させてしまう可能性があります。

♦♦ 日常における注意点

次に日常生活におけるセルフケアについてです。

まずは姿勢ですが、病気の性格上、前屈みになったり食後すぐに横になったりするのは好ましくありません。
ベルトやコルセットなどをきつく締めつけないことも肝要です。
また、就寝時に上半身を高くして左を下にして寝ると逆流を起こしにくくすると考えられています。
液体をすするように飲むのも空気を多く取り込んでげっぷや逆流の元になるとされています。
そしておなかについた脂肪も大敵。
肥満の方は減量に努めることも大事で、最も重要なポイントです。
シリーズ第5回で紹介した症例もスリムな体形になったことが治癒の一番の要因だと考えています。

♦♦ 注意したい食べ物について

胸やけを起こしやすくする食べ物もあります。
肉や揚げ物、ケーキなど脂肪の多いものの刺激でコレシストキニンというホルモンが活発に分泌されるようになり消化を助けるのですが、このホルモンは LES の圧も下げてしまいます。
酸の強いもの、辛いもの、熱いものも大敵で、いずれも胸やけを感じる神経を刺激することがわかっています。
あんこやあんみつなど甘いものも胸やけの原因となります。
糖分が胃液に溶けると浸透圧の高い液になりこれが逆流すると胸やけを起こすとされています。
コーヒーも胸やけを起こすのですが、コーヒー中の3つの成分により胃酸分泌が刺激されることがつい最近判明しています。( http://health.nikkei.co.jp/hsn/news.cfm?i=20100401hj001hj )
この記事によると胸やけを起こしにくいコーヒーも実現可能となっていますね。
タバコやアルコールも好ましくないとされていますのでご注意ください。

なお、食後にガムを噛むと症状緩和の一助になりますので試してみてください。
唾液が増えると、胃酸を中和したり逆流した酸を胃に押し戻したりする作用が期待できるのです。



  << 胃食道逆流症 第6回 >>


GERD.gif食道と胃の境界部分が緩んでしまい、胃の内容物が食道に逆流することが 胃食道逆流症 ( GERD ) の原因であることはこのシリーズ第2回目で詳しく解説しました。
ですから、この緩みを改善することが根本的な治療となるわけですが、現在のところそれに対する有効な手段がありません。
内視鏡による治療や手術があることはあるのですがあまり一般的とは言えません。
でも一応解説しておきますね。

♦♦ GERDの内視鏡による治療

まず、内視鏡を用いた治療について。
緩くなった食道と胃の境界部分の補強を目的に様々な方法が編み出されました。
内視鏡の先端に器具を装着し糸で縫い縮める方法や、電気で焼いたり薬剤を局所に注射したりして内壁を肥厚させる方法などがあります。
しかし、いずれも採算性や安全性の問題から機器の供給が止まっていますので、現時点で内視鏡による治療はできないのです。
ただ、今後新しい機器や手段が出てくるものと思われます。
ちなみに、内視鏡治療を行なって半年後に薬を使わずに済むようになるのは6割から8割というデータが示されていました。

♦♦ GERDの手術

次に手術ですが、噴門形成術という方法が行なわれます。
欧米ではよく行われているようですが、日本で実施している施設ははごく限定的で症例数も多くはありません。
肥満をベースとした欧米の逆流性食道炎は重症例が多いことも日本との事情の相違でしょう。
体に大きな負担をかけてまで優先して行なうべき手段ではないと考えます。

♦♦ GERDに使う内服薬

そういうこともあって治療の基本は薬剤と日常のセルフケアが主体となります。
症状を改善させるのに最も期待が持てるのが内服薬の使用です。

逆流してくる胃液の酸度が弱ければ食道が傷つきにくく、症状も緩和されることが期待されるわけですから、治療薬として一番に用いられるのは PPI ( proton pump inhibitor ) と呼ばれる酸分泌の抑制効果が高い薬剤です。
PPI については 2年前に当ブログの記事にしたことがありますのでそちらを参考にして下さい。( → こちら )
また酸分泌を抑える目的で H2 ブロッカーという種類の薬も使われますが、使っているうちに効果が弱くなってくる傾向があります。

上記 2種類の薬は胃液を作る細胞に働きかけて胃酸を分泌させないようにしますので、既に分泌されてしまっている胃液には全く役に立ちません。
実際、服用してもらって自覚症状が落ち着くのに数日かかります。
液体の制酸剤や酸化マグネシウムがすぐに胃酸と反応して中和する作用があり、補助的に使うことがあります。
( なお、酸化マグネシウムには逆流性食道炎に対する直接の適応はありません。)

アルギン酸ナトリウムにも「逆流性食道炎における自覚症状の改善」という効能があります。
これも当ブログを書き始めて間もない頃に記事にしていますが ( → こちら )、一つには逆流性食道炎でてきた食道の傷の部分に成分が付着して保護する作用があるものと思われます。
そしてもう一つ。
実は逆流して悪さをするのは胃酸だけとは限りません。
胆汁や膵液といった消化液の逆流も GERD の原因になると考えられており、これが原因だと PPI や H2ブロッカーは全く歯が立たないわけです。
しかし、アルギン酸ナトリウムは胆汁酸と結合することがわかっており、その効果が期待できるわけです。
また膵液に関しては、カモスタットという薬に膵液中のトリプシンという酵素の働きを邪魔する作用がり、「術後逆流性食道炎」という病気に限って使うことが出来ます。

余談ですがカモスタットの商品名はフォイパンと発音するのに「フオイパン」と「オ」を小さく書きません。

長くなるので続きは次回にしましょう。

  << 胃食道逆流症 第5回 >>


経鼻内視鏡を行なう際に、大きく息を吸い込んでもらって食道と胃の境界部分を詳細に観察することを前回、述べました。
逆流性食道炎の場合、内視鏡で実際どのような変化が認められるのか、興味あるところだと思います。
Los Angels 分類別に写真を並べてもいいのですが、今回あえて一例だけ提示させていただきます。

♦♦ 提示した内視鏡像について

201008182132092576.gif泡がついていたり、下部がぼけていたりで掲載するのは恥ずかしい写真なのですがお許しくださいね。
さて、内視鏡検査において食道病変の場所を時計の文字盤に例えて示すのが慣例となっています。
写真の真上を12時の方向、真下を6時の方向とするわけです。
ちなみに12時方向はおなか側、6時方向は背中側、3時方向は右手側、9時の方向は左手側になります。
提示した写真の1時の方向に白く見えるのは潰瘍です。( 白い矢印 )
逆流性食道炎による潰瘍やびらんは Los Angels 分類の A や B の場合、2時方向を中心とした右上方の胃粘膜のひだの上にできやすいことがわかっています。
この理由につていははっきりわかっていませんが、この症例は典型的な例ですね。

この症例でもう一つ注目していただきたいのは食道粘膜と胃粘膜の境界 ( Squamo-columnar junction : SCJ ) です。
3時の方向 ( 青い矢印 ) の辺りと比べてみて下さい。
中央に見える胃の入り口を中心に考えると11時の方向と6時から9時にかけての方向 ( 黄色い矢印 ) にこの SCJ が極端にずれ込んでいますよね。
この症例の方は食後すぐに左を下にして横になる ( 左側臥位 ) 習慣があるとのことでした。
SCJ が3時方向に極端にずれている方に尋ねてみると食後の右側臥位がお好みというパターンが多いです。
逆流してきた胃酸にさらされて元々存在していた食道の細胞が胃の細胞に置き換わることで境界部分がずれたように見えてくるわけです。
ですからこの境界の偏りは食後や就寝時の体位が影響するのではないかと思われます。
内視鏡をすることでその人の普段の過ごし方もわかってしまうなんて面白いと思いませんか ?

しかし、私がこの症例でもっと面白いと思っているのは、この左方向を中心とした SCJ の大きなずれがあるにもかかわらず、潰瘍ができているのがあくまで右上だということです。
逆流性食道炎における粘膜傷害の発生にはいろいろな因子が複雑に絡み合っているのでしょうね。

なおこの症例の方、薬だけでなく食後にすぐ横ならないことを守ってもらい、減量もがんばってもらった結果、1時方向の潰瘍はすっかり消えてしまいました。

次回は胃食道逆流症の治療について。


  << 胃食道逆流症 第4回 >>


症状から胃食道逆流症 ( GERD ) が疑われる場合に優先してチョイスされる検査は内視鏡になります。
GERD に関しては採血やレントゲン、透視などからはほとんど得られる情報はありません。

♦♦ GERDの内視鏡分類について

内視鏡検査によって、異常が見つからない非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) なのか、はっきりとした傷がある逆流性食道炎 ( RE ) なのかがわかります。
後者の場合、内視鏡検査でさらに重症度の判定を行うことができます。
一般的に Los Angels 分類というものが使われています。( 右下図 )

2010072812462623081.gif専門的になるので簡潔に説明しますが、Grade A と B は縦方向の傷同士がつながっておらず、長さが5mmあるかないかで分類しています。
Grade C と D になると長さに関係なく、縦方向の傷が互いにつながってきたもので全周の75%に及ぶか及ばないかで区別してあります。
日本においてはさらに色調変化型 ( Grade M )、内視鏡的に異常のないもの ( Grade N ) を加えて活用しているのが一般的です。

♦♦ 経鼻内視鏡で胃と食道の境界をつぶさに観察できる

さて、GERD の診断確定のために重要となるのは食道と胃の境界部分の観察です。
これには経口よりも経鼻内視鏡の方が優れていると私は考えています。
写真をご覧ください。
同じ被験者で同じ場所を写したものです。
EC.gif左の写真ではほとんど見えていない食道と胃の粘膜の境界部分が右の写真でははっきりと見えています。
実は、最初左の写真の状態だったのですが、息を大きく吸い込んでもらうことで右のような状態になるのです。
こうすることで RE による傷があるかどうかのキモである食道と胃の境界をつぶさに調べることができるわけです。
鹿児島では経口内視鏡をするのに鎮静剤の注射をする施設がほとんどです。
意識がもうろうとしている時に検査を受けられている方に息を吸い込んで、と言ってもまず実行できません。
鎮静剤を使わないで経口内視鏡を行なう場合でもその余裕がなかったり、反射でげっぷが出たりしてゆっくり観察ができないことが多いのです。
苦痛を与えずにつぶさに観察でき、かつ検査を受けられる方にもじっくりとこの部分の傷の状態を見て納得してもらえるわけで、経鼻内視鏡は GERD の診断にまさにうってつけだと思います。

♦♦ 内視鏡検査中のげっぷ

なお、内視鏡検査の際にげっぷを我慢しろと言われたことはないでしょうか。
咽頭部の刺激による反射で起こるのも理由の一つですが、食道裂孔ヘルニアの方はげっぷが出る傾向が強いように思います。
私はげっぷも GERD の原因となる食道裂孔ヘルニアの所見の一つとみなしています。
胃の入り口を閉める筋力が落ちているわけですから、げっぷをするな、と野暮ったい無理強いをすることはまずありません。
げっぷをすると空気が抜けて胃の壁が近接してしまいますし、壁が激しく動いて観察に時間がかかってしまうために指示をするわけですけど、我慢しろと言われても無理なものは無理ですものね。


  << 胃食道逆流症 第3回 >>


2010070914065018686.gif♦♦ 胃液の逆流で起こる様々な症状

前回述べましたように、胃液が食道に逆流して胸やけや呑酸といった症状が起こることは納得できることと思います。
しかし、それ以外にも実にさまざまな症状が生じることがわかってきています。
それは・・・
胸痛、慢性の咳や喘息、咽喉頭症状、睡眠障害、中耳炎、虫歯、副鼻腔炎、肺炎や肺線維症などです。

♦♦ 逆流で中耳炎が…

中耳炎に関しては、中耳の浸出液を調べたらペプシンが検出され、胃薬を服用させて症状が改善したという報告がいくつかあります。
ペプシンは胃の主細胞だけが作る消化酵素で通常は中耳に存在しないはずですから、胃液の逆流が中耳炎の原因の一つになっていることは否定できません。

♦♦ 逆流で虫歯も…

虫歯と胃液の関係については今盛んに歯磨きのテレビCMでアピールされています。
体の中で最も硬い組織である歯のエナメル質の最大の弱点が酸ということもあって胃酸との関連性に興味が持たれたのでしょうが、胃食道逆流症 ( GERD ) で歯牙酸食の頻度が高いことが報告されています。
胃酸を中和する唾液が存在する口腔内で虫歯のすべての原因が GERD にあるわけでもないでしょうが、原因の一つとなりうると考えられています。

♦♦ その他にこんな症状も

他の疾患や症状についても、GERDの有無でグループ分けをしてGERDがあるとこれらの症状を有するものが多いこと、胃薬で症状が治る割合が高いことなどからGERDとの関連が推測されています。

実際、心臓の痛みだと思っていろいろ調べたけれども異常がなく胃薬を飲んだら胸痛が治った、とか慢性的に悩まされていた咳が胃薬で落ち着いたとかいう例をこれまでいくつか経験しています。

また、高度の貧血をきたす場合もあります。
胃液の逆流が原因で下部食道に高度の炎症をきたして慢性的にじわじわ出血している例を主に腰の曲がった高齢者で見受けることがあります。

胃酸の逆流が単に胸やけ程度にとどまらない多様な食道外病変を引き起こすことは理解いただけたと思います。
このGERDをチェックするのに重要なのはやはり内視鏡による検査となりますが、普通の経口内視鏡よりも経鼻内視鏡の方が威力を発揮します。
これについては次回。


  << 胃食道逆流症 第2回 >>


胃食道逆流症 ( GERD ) は、塩酸や蛋白分解酵素であるペプシンを含んだ胃液が食道に逆流することで生じます。
最近では胃液以外の逆流も注目されているのですが、これは機会があればお話します。
胃自身がどうして消化されないかというと、別に分泌される粘液の膜で表面を覆って保護しているからですが、食道にはそのような仕組みがありません。
このため強い消化液である胃液が食道に逆流してくると、傷ついたり様々な症状が生じたりするのです。

201006151614253985.gif♦♦ 胃液の逆流が起こる原因

逆流が起こる原因として下部食道括約筋部 ( LES ) の閉まりの低下が挙げられます。
この部分、本来は食道自体の筋肉による圧迫と横隔膜による食道の圧迫の二つが協調することで胃内容物の逆流を防いでいるのですが、この二つの圧迫部位がずれてしまうことがあります。
食道が横隔膜を貫く食道裂孔という場所から胃の一部が食道の方へずり上がってしまう現象を食道裂孔ヘルニアと呼んでいます。
右の図の左側が正常、右側がヘルニアの生じた食道と胃と横隔膜の関係になります。
本来なら食道下端が横隔膜に靭帯で固定されているのですが、飲み込む動作の度に食道が縮まりますし、加齢によって靭帯の働きも落ちてくるためずれが生じてしまうのです。
食道裂孔ヘルニアによって十分な圧が得られなくなり逆流を招くのです。
これとは別に一過性のLES弛緩というものがあります。
これは高脂肪摂取、大量の食物の摂取、胃運動機能の低下等で起こると考えられています。

♦♦ GERD の症状

GERDの症状として胸やけ呑酸 ( どんさん ) と呼ばれるものがあります。
前者は「心窩部から胸骨後方にかけて上方に向かって広がる熱感を伴う不快症状」、後者は「口腔咽頭への胃液の逆流によって自覚される苦酸っぱい不快な味覚、あるいは咽頭刺激症状」という定義がなされています。
「胸やけとはどんな症状のことですか」と聞いてみると、吐き気やおなかが張って苦しい状態のことを指す人もいれば、胸やけなのにそれ以外の言葉で表現する人もいることが分かっており、症状の定義があるのはおおいに助かります。
「下痢をしました」との訴えの方の話をよく聞いてみると、普段より便の回数が多かっただけで便そのものはいつもと形状が変わらない、というケースを経験したことがあります。
つらい症状を表現する時に患者と医師の間で言葉の認識に大きな食い違いがあっては診断や治療に支障が出てしまいますよね。
ちなみに、週 2回以上の胸やけ症状発現を病的なものとみなします。

♦♦ GERD の分類

GERDのうち内視鏡検査で食道粘膜に明らかな病変を見出せるものを逆流性食道炎、肉眼的に異常を認めないものを非びらん性胃食道逆流症と呼んでいます。
症状が同じでも内視鏡によって病変が確認できるかどうかで疾患名が変わってくるわけですが、これはまた別の回で。

胃液が逆流する現象で上のような症状が生じることは容易に理解できると思いますが、見当のつかないような症状が起こることもあります。
このことについて次回お話します。

♦♦ GERD の定義

なお、GERDは以下のように定義されています。
食道粘膜傷害性のある胃内容物の食道内への逆流によって
 ① 胸やけや呑酸などの定型的な自覚症状
 ② 下部食道粘膜のびらん潰瘍などの食道粘膜傷害
のいずれか、あるいは両方があるもの

  << 胃食道逆流症 第1回 >>


2010051422303218312.gif内視鏡を扱うようになってからちょうど20年経ちました。
この間に内視鏡の機器自体も進化して、観察・診断が中心だった用途が治療の領域にまで広がってきています。

わずか20年の間に日本の消化器疾患も随分様変わりしてきました。
内視鏡に携わり始めた頃は胃・十二指腸潰瘍の症例は日常茶飯事で、肝硬変に伴う食道静脈瘤も珍しくはなかったのですが、最近これらの疾患にお目にかかる機会がめっきり少なくなってきています。

逆に増加の一途を辿っているものもあります。
それを代表するのが胃食道逆流症
日本人の 2-3 割がこの疾患に伴う症状を自覚しているとされ、胃・十二指腸潰瘍の症例数よりも多くなってきました。
実際、上部消化管内視鏡検査をすると 15% 前後の人に食道炎の所見が確認できるとも言われていますが、今年はこの疾患について数回に分けて当ブログ上で考察していきたいと思います。


  << 宿便について考える 番外 >>

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今年の早い時期から10回に分けて書いてきた「宿便について考える」という連載の中では 過敏性腸症候群 ( Irritabel Bowel Syndrome ; IBS ) のことについて多くを割きました。

私がこれまでに観た映画の中で、IBS にまつわるエピソードが印象に残るものが二つあります。
一つは「シコふんじゃった」という映画。
緊張すると下痢を催すという相撲部員を演じていたのは竹中直人でした。
もう一つは「チェスト」という映画ですが、これは地元鹿児島では誰もが知っている錦江湾横断遠泳を題材にしたものでした。
子どもの同級生が何人かエキストラで出ていたよしみで観に行ったのですが、この中でもしょっちゅうトイレに行く小学生が描かれていました。

前者では IBS が比較的面白おかしく描かれていたと思うのですが、後者ではちょっとどうかなと思わせる部分がありました。
折角の遠泳のシーンでえげつない描写があったことです。
笑いを入れたつもりなのでしょうが、IBS の症状に悩む人はどう思ったかを考えると少し不愉快な気分になりました。
映画というのは脚本が重要だとつくづく思います。

最近は、IBS を啓蒙するテレビコマーシャルも流れています。
日本人の 5人に 1人は IBS に罹っていると言われていますが、便通に悩むことなく積極的に治療を受けてください。
私はこの疾患に関心を持って多くの方を診てきていますので、何かお手伝いできることがあると思います。
また、周囲の人もこの病気を笑いのネタにせず、十分に理解していただきたいなと思います。


宿便について考える 第十回 「宿便とは」

  << 宿便について考える 第十回 >>

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2月から書き始めたこのシリーズもいよいよ最終回。
宿便とは何かに結論を出してみたいと思います。

♦♦ 「宿便」とは何かを解くヒントはここにあった !

さて、効能・効果欄に「宿便」の記載があるのは桂枝加芍薬大黄湯という漢方薬です。( 参照 → 宿便の定義を調べてみる )
この薬にこそ宿便とは何かを解くヒントがありました。
この漢方薬、一体どんな病態に使うのでしょうか。
それがわかれば宿便の正体もおのずと分かることになります。

実は第八回の「過敏性腸症候群の治療薬」で桂枝加芍薬湯という薬を紹介しました。
この薬に緩下作用のある大黄という成分を加えたものが桂枝加芍薬大黄湯で、過敏性腸症候群 ( Irritabel Bowel Syndrome ; IBS ) の中でも便秘型の人にとても重宝する薬です。
便秘型 IBS の方の訴えで、便意はあるのにすっきり出ずにおなかに不快感や痛みがあるというものが多くあります。
便秘型 IBS では腸管内容物のスムーズな流れを妨げる腸の運動が誘発され、残便感を伴う不完全な排泄になってしまいますが、この漢方薬を服用すると症状が随分と緩和するのです。
まさしくこれが宿便と呼ばれるものではないのでしょうか。

もう一度「宿」という漢字を漢和辞典で調べてみました。
すると「宿酔」という言葉に突き当たりました。
これ、要するに二日酔いのことを指します。
アルコールの中間代謝物であるアセトアルデヒドが代謝しきれずに体に残って引き起こされる不快な状態ですよね。
出すべきものが出されずに体に「宿」しているわけですが、どうも「宿便」と「宿酔」の「宿」は同じ意味合いではないかと思えてきました。
出すべき便がすっきり出ないことによって引き起こされる不快な症状を、昔から宿便という言葉で表現してしたのだと考えられます。

♦♦ 「宿便」とは ( 私の結論 )

さあ、全くの私見ではありますが、ここで宿便とは何か、勝手に定義してしまいましょう。
宿便とは
便意があっても便がすっきり出ず、腹部不快や腹痛、残便感を伴う便秘型過敏性腸症候群における一病態


宿便でお悩みの方は、しっかり過敏性腸症候群の治療をしていきましょう


宿便について考える 第九回 「医療現場で見かける「宿便」という言葉」
宿便について考える 番外  「映画の中の過敏性腸症候群」

  << 宿便について考える 第九回 >>


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このシリーズの初回

 ① 宿便性潰瘍という名称の疾患がある
 ② 有名出版社から出ている看護師向けのコンパクトな本に「宿便の正体は ?」なる項目がある
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つける

ということを書きながら、何の説明もしていなかったので今回はその話です。

♦♦ 宿便性潰瘍という疾患

まず ① の宿便性潰瘍について。
これは、頑固な便秘や腸の閉塞が元で硬くなった便によって長時間大腸の壁が圧迫される結果、虚血状態となり潰瘍を生じるものです。
20年以上臨床に携わっていますがまったくお目にかかったことのない希な疾患です。

さて、この疾患、英語で " Stercoraceous ulcer " と言うようですが、この " stercoraceous " とはどういう意味でしょうか。
調べてみると " consisting of, resembling, or pertaining to dung or feces " とか " consisting of or relating to excrement " とあります。
「便に関連した」と言う意味合いで、直接的に便秘を表現したものではないようです。
さあ、これを誰が「宿便性」と日本語に訳したのでしょうか。
これはさすがにたどり着くには至りませんでした。
この疾患はあくまでも硬い便で腸壁が長く圧迫される結果起こるものです。
ですから、訳した人は宿便という言葉を「腸の壁にこびりついた便」という、現在誤って流布されているような状態とは全く考えていなかったこともわかります。

♦♦ 看護師向けの本なのに、とんでもないことが…

② の本に書かれている内容について。
ここには
「宿便とは、腸管内容物が何日も腸壁にべったりと張りついたり、腸管の蠕動運動の障害によりたまった古い便のことで、腸腺窩にのり状にくっついている消化吸収されたあとの残りかすである。高熱や脱水などで起こりやすい」さらに「宿便をとるためには、輸液や腸洗浄を行なう」と書かれています。
( ナースのための図解からだの話 p 92 )
ここに定義されているような宿便はあり得ないと既に説明しました
さらに、腸洗浄としてイラストで書かれているのは高圧浣腸と呼ばれるものなのです。
この浣腸は「私は宿便です。治療してください」と言われてやるような類いの医療行為ではありません。
通常の浣腸よりは大腸の奥の内容物を排泄できるため、成人においては大腸の検査前に行なうケースが以前はあったようですが、現在ではそんな前処置はしません。
また、宿便というものが先の「宿便性潰瘍」のような状態を指すのであれば、浣腸が原因となって腸管を穿孔させてしまう危険があるので絶対にやってはいけません。

医療関係者の書いた本でも間違いは多々あります。
特に専門外領域について書く場合、他の著書を参考にしたりすると、その本に書かれている内容が随分古くて今では否定されているようなものであったりします。
それを知らずに、そのまま引用して書いてしまうこともあります。
とある専門学校にて臨時で内科学を教えた時、そこで使用していた教科書の消化器の分野に誤った記載があちこちにあってびっくりしたものでした。

また、デトックスだ、腸内洗浄だと称して浣腸器具が売られていますが、浣腸を繰り返していると浣腸のような強い刺激でないと便が出なくなってしまいます。
死亡例も出ていますので、無謀で野蛮な行為はやめましょう。( 参考 http://www.supplerank.com/health_care/onai_contents/01.html )


この「宿便について考える」というシリーズ、数回で終わらす予定だったのに、今回で九回目。
書き始めて半年に及んでしまいましたが、いよいよ次で「宿便」とは何かに迫ってみたいと思います。
宿便の正体にたどり着くヒントは初回に紹介した
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つけるに至り・・・
にあったのです。
次回へ


宿便について考える 第八回 「過敏性腸症候群の治療薬」
宿便について考える 第十回 「宿便とは」

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