野口内科 BLOG

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⑤ テーマ

  << 宿便について考える 第八回 >>

♦♦ IBS と CRH
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前回、CRH ( Corticotropin Releasing Hormone ) という物質が過敏性腸症候群 ( Irritabel Bowel Syndrome ; IBS ) に大きく関わっていることを述べました。
このCRHを注射することで腸の動きが活発になり IBS と同じ状態を作ることが出来ます。
面白いのは IBSの患者に CRH を投与すると普通の人よりも過剰に大腸運動が活発になるという点です。
また、CRH の働きを抑える薬を投与すると症状が緩和することは確かめられていますが、実用化には至っていません。

♦♦ IBS とセロトニン

CRH と並んで注目されている物質がセロトニン
食べ物が入ってきた刺激で腸の壁にある細胞からこのセロトニンという物質が出ます。
これが神経を刺激し、その場所より口側の腸の筋肉を縮め、肛門側の筋肉は緩めるという運動に繋がります。
また、腸から脳に痛みを伝える働きにもセロトニンが関与しています。
IBS の患者さんはストレスによりセロトニンが過剰に分泌され普通の人よりも強い腸の運動が誘発されますし、少しの刺激でも腹痛を感じやすい状態になっていることがわかってきています。

♦♦ 感染の後に起こる IBS

注意したいのは IBS をストレスによる疾患と片づけられない点があることです。
というのも感染性腸炎の後に IBS になってしまう方がいるからです。
先日もこれまで便通異常が全くなかった30代女性で、腸炎を患った後に下痢が慢性的に持続している方を診ましたが、腸の粘膜の炎症が IBS のトリガーになっている可能性も言われています。

♦♦ IBS の治療薬

これまで様々な薬物が IBS に使われてきましたが、最近セロトニンの働きを邪魔する薬が発売されました。
初めての IBS に効く薬剤という触れ込みなのですが、「男性の下痢型 IBS」と用途が限られますし、効果があるのが約半数に留まります。( 追記 : 現在では女性にも使用できるようになりました。また、便秘型過敏性腸症候群に対する薬も発売されています。 )

私がこの IBS という疾患に興味を抱いたのは研修医の頃であることは以前にも書きましたが、その時からずっとメインに使っている薬があります。
桂枝加芍薬湯という漢方薬です。
この薬は男女の区別や下痢型・便秘型・混合型の区別なく使え、7~ 8割方の患者さんに有効である手応えを感じています。
この漢方薬を高く評価している IBS 専門の先生も結構いらっしゃいます。

男女により治療薬が異なるのも IBS の面白い点ですが、女性の便秘型 IBS に対する薬は米国において使われ始めており、近いうちに日本でも使えるようになると思います。
ただ、普通の便秘だと思って市販の下剤を大量に使っている IBS 便秘型の女性が案外多いように感じます。
前回も述べましたように腹痛を伴うことと、コロコロ便があるならば IBS である可能性が高いので一度相談してください。
最近も市販の下剤を通常の何倍も使って排便をコントロールしていた女性が桂枝加芍薬湯だけでかなり症状が改善した例を経験しています。

また、ペパーミントオイルに大腸の収縮を抑える働きがあり、IBS に有効である可能性があります。
米国ではペパーミントオイルのサプリメントがあるようですが、確実に効果があるかどうかは知りません。


宿便について考える 第七回 「過敏性腸症候群 その2」
宿便について考える 第九回 「医療現場で見かける「宿便」という言葉」

  << 宿便について考える 第七回 >>


♦♦ 普通の便秘と便秘型 IBSの違い

IBS.gif前回の続きです。
通常の便秘と便秘型の過敏性腸症候群 ( Irritabel Bowel Syndrome ; IBS )、どのように違うのでしょうか。
IBSは一言で表すと「腹痛を伴う便通異常」であること、これは前回も記しましたが、これが大事なポイントです。

普通の便秘の方はほとんど腹痛を自覚することがなく、便の形もソーセージ状であることが多いのです。
対して便秘型 IBS においては腹痛を伴うことと兎糞状と呼ばれるコロコロした便、Bristol 便状スケールで言うと 1型、これが多いのです。

私は、便秘を主訴に外来に来られる患者さんには必ず腹痛の有無と便の性状を聞いています。
そうするとご自身でも普通の便秘と思っておられる中に結構この便秘型 IBSが潜んでいることがわかります。
特に比較的若い女性にこの便秘型 IBS が多い傾向にあります。
男性には下痢型 IBS が多く、IBS は性差医療の点からも注目されている疾患でもあります。

♦♦ 大腸の働きと便の性状

さて、このシリーズ第三回でも書きましたが、大腸の主たる役割は食べかすから水分を吸収することにあります。
液状である上行結腸の内容物が直腸に向かううちに水分を吸い上げられて固形化し、通常ならば Bristol 便状スケール 3型ないし4型の便となるわけです。
水分の吸収が不十分だと下痢となり、吸収しすぎるとカチカチの便になります。
腸の粘膜に炎症がなく水分吸収の効率が一定であるとしますと、腸内を内容物が通過する速度によって出てくる便に水分が多いのか少ないのかが決まってきます。
すなわち大腸の動き ( 蠕動 ) が亢進して内容物の通過時間が短いと十分に水分が吸収されず下痢になるということです。

♦♦ ストレスと IBS

IBSではストレスがかかると症状が出現しやすいのですが、実はストレスによって脳の視床下部という所から CRH ( Corticotropin Releasing Hormone ) という物質が放出されることで腸の動きが活発になります。
強い蠕動運動が誘発されると下痢になり、内容物のスムーズな流れを妨げる運動が誘発されると便秘になるのです。
言葉で伝えようとすると難しい用語が次々に出てきて申し訳ないので、大腸の正常の動きと便秘型及び下痢型 IBS における大腸の動きについて解説した優れたアニメーションを紹介しておきます。
英語なのですが動きをみるだけでも勉強になりますので是非参考にして下さい。

Johns Hopkins Medicine のアニメーションはこちら

このアニメのホームページのように、海外の医療関係のサイトには感心させられるものが多数あります。
見習っていきたいものです。

さらに続きます


宿便について考える 第六回 「過敏性腸症候群 その1」
宿便について考える 第八回 「過敏性腸症候群の治療薬」

  << 宿便について考える 第六回 >>


♦♦ 研究が進み始めた IBS

これまで消化管において癌や潰瘍などの生死に関わる疾患に医者の目が向けられ、診断や治療法が進歩してきました。
しかし最近では、このストレスの多い社会において増加傾向にある消化管の機能性障害にスポットが当てられ研究が進んできています。

その中で最も最先端の研究がなされているのが過敏性腸症候群 ( Irritable Bowel Syndrome ; IBS )。
現代日本において5人に1人が罹っているとされる頻度の高い疾患です。
どんな病気か簡単に言ってしまうと「腹痛とそれに関連した便通異常を伴う疾患」。
急に便意を催したり、排便するのに苦しんだりしておられる方、ご自身も含め周囲にたくさんおられるのではないでしょうか。

♦♦ 生活の質に関わる IBS

医者になりたての頃、非常に印象的な下痢型 IBS の患者さんがおられました。
休日は症状がないのに出勤しようとするとおなかが痛くなりトイレに駆け込んでしまうという若い男性でした。
某私鉄の特急電車だと速く行けるのに、途中で便意が我慢出来なくなったら大変と、各駅停車に乗っての出勤。
「今日は会社まであと2駅という所まで行けたのに、症状が強くて引き返してきました」・・・。

また、5月末の「アメトーク」という番組で「ピーピー芸人」と称してピーピー体質のお笑い芸人のトークがあり、悩ましいエピソードを面白おかしく語っていたのをご覧になった方もおられると思います。

命に関わる病気ではありませんが、日常生活に大きく支障を来すこともある IBS。
最初の患者さんをきっかけに、私は IBS に非常に興味を持って臨床にあたってきました。

♦♦ IBS の診断基準・分類

IBS には、世界的な統一診断を目指したROME-III 基準というのがあるのでそれを見てみましょう。

IBS-1.gif


この診断基準を読んでもわかりにくいかと思いますが、話を続けます。
IBSはいくつかのタイプに別れます。

IBS-2.gif



IBS-3.gifここで前回紹介した便の分類が使われてるわけですね。
改めて、Bristol 便形状スケールの図のみ右に示しておきます。

さて、下痢型や混合型の方は上述のエピソードなどがいい例でしょうが、診断は比較的つけやすいものです。
では、通常の便秘と便秘型の IBS、これはどう違うのでしょうか。
IBSをもう少しやさしく解説しながら次回にお話しします。


宿便について考える 第五回 「ウンチの種類」
宿便について考える 第七回 「過敏性腸症候群 その2」

  << 宿便について考える 第五回 >>


♦♦ ウンチの分類

宿便に絡んで話を進めていますが、今回は便の形状についての話です。
実は、皆さんの知らないところでウンチの形が 7種類に分類されているのです。

これは1990年に発表された論文にあるもので、Bristol stool form scale と呼ばれています。

Bristol stool form scale.gif
1型 木の実のようなコロコロしたの硬い便(排便が困難)
2型 硬便が集まってゴツゴツしたソーセージ状の便
3型 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
4型 表面が滑らかで柔らかくソーセージ状あるいは蛇状の便
5型 境界のはっきりした半固形の小塊状の便(排便が容易)
6型 不定形の柔らかい小片便、粥状便
7型 固まりのない水様便


3型ないし4型に分類される性状のものが理想的な便とされています。

♦♦ ネットにはびこる間違い

この便の分類はある疾患において重要なものになってきているのですが、それを語る前に一つ言っておきたいことがあります。
ネットで調べてみると「ブリストル大学のへーリング博士が考案し、1990年の英国の医学誌に発表したもの」と書いてあるサイトがたくさんあることです。
これはとんでもない間違いなんです。

Googleで上位でヒットする英語のサイトに「It was developed by Dr. K. Hering at the University of Bristol and was first published in the British Medical Journal in 1990.」という誤った記載があります。
この誤りを誰かがそのまま日本語に訳して引用したのでしょう。
それを更に別のサイトがコピペして文章が広がっていったものと推定されます。
英語のサイトでも間違ったままの情報がかなり伝搬しています。

1990年に BMJ 誌に掲載された論文が、この Bristol stool form scale を最初に記載したものなんです。
First author は O'Donell という人ですが、最後に KW Heaton という共同研究者名があり、これがいつの間にか K Hering と変わってしまった可能性があります。

なお、論文の内容は PDF ファイルで閲覧可能ですからご参考に。
( http://www.pubmedcentral.nih.gov/picrender.fcgi?artid=1662249&blobtype=pdf )

Bristol stool form scale に関しては、Wikipedia でも最初の論文は 1997年としていますね。

♦♦ ネットの情報は鵜呑みにしない

常々、ネットの情報は必ずしも正しくないと言っておりますが、これも一つの例。
しかも、ろくに調べもせず、間違った情報がコピペでどんどん広まっている現状、嘆かわしいですね。

そもそも、この便の分類に大学名である Bristol という名称を付けたため、言いだしっぺが誰かわからなくなってしまったとも考えられます。
研究者は自分の名前を何らかの形で残したがる人が多いのですが、便の分類に自分の名前を付けるのはさすがにためらわれたのでしょうか。

この右側の分類表が Tシャツの図柄になっているのを見つけましたが、興味のある方はどうぞ。
( http://www.redbubble.com/people/joshis13/t-shirts/1926845-2-bristol-stool-chart-bingo )

かなり脱線しましたが、この便の形状の分類を踏まえ、次回過敏性腸症候群について話を進めていこうと思います。


宿便について考える 第四回 「大腸憩室症について」
宿便について考える 第六回 「過敏性腸症候群 その1」

  << 宿便について考える 第四回 >>


大腸憩室症これまでの説明で、腸の壁に便がこびりつくなんてあり得ないことはある程度理解していただけたものと思います。
さて、ちょっと解説を加えておきたい疾患に大腸憩室症があります。

♦♦ 大腸憩室の写真解説

憩室は大腸内視鏡では右の写真のように腸の壁の窪みとして観察されます。
大腸検査を行なうと5、6人に一人位の割合で見つかり、高齢になるほど多く認められます。
ここに便がはまり込んでいるのを検査中よく見かけます ( 写真のA ) が、いつまでも溜まっているわけではありません。
検査中にポロリと外れてくる ( 写真のB ) のもしばしばで、恐らく腸の蠕動運動などで自然に出てくるものと思われます。
宿便と呼ばれているものとは全く無関係と考えますが、一応解説しておきました。

♦♦ 大腸憩室の原因・できる場所

この憩室という窪みは大腸を栄養する血管が大腸の壁を貫通する部分に一致してできます。
写真のCで憩室に向かって血管が集中している様子がわかると思います。
この部分は腸を動かす筋肉が血管を避けているため構造上弱く、これに食物線維の少ない食事や大腸の内圧が過剰に亢進する結果、生じるとされています。
欧米人ではS状結腸に多く、日本人では盲腸や上行結腸 ( 右側結腸 ) に多くできますが、近年日本においてもS状結腸の憩室が増えてきています。
個人的には神戸時代に派手なS状結腸の憩室症の症例をかなり経験しているのですが、鹿児島ではあまり見かけません。
食生活の違いによるものではないかと考えています。

♦♦ 大腸憩室に伴う症状

憩室がある方も、そのほとんどは無症状で経過します。
問題となるのは炎症と出血です。

憩室炎が起きたときの症状は腹痛です。
憩室にはまり込んだ便が簡単に取れずにそこで細菌が増え、炎症の原因の一つになるかも知れませんが、それを明確に示したデータはありません。
欧米ではナッツやポップコーンが憩室にはまって炎症の元になるという迷信があるようです。
しかし、これは科学的に否定されています。( JAMA 2008;300(8):907-14 )
S状結腸の憩室炎を繰り返すと腸の内腔が狭くなり、腸閉塞を起こすこともあります。

憩室出血を起こす頻度は 3~5%とされています。
日本人に多い右側結腸側の憩室は出血頻度が多いとする報告もありますが、多くは自然に止血します。
ただ最近、ワーファリンやアスピリンなど血液をさらさらにする薬を服用されている人が増えてきており、憩室出血を起こす方が増えてきている印象です。
こういう方がひとたび出血を起こすと、なかなか止血しにくいので内視鏡医泣かせです。

♦♦ 大腸憩室は改善する ?

かなり古い論文ですが、大腸憩室は食物線維の多い食事をとると改善するという報告もあります。( Lancet 1977;1:664-6 )
1960年代の日本の食事は健康上理想的なものだったと評価されつつあります。
特にS状結腸に憩室があると言われたことのある方は、これらの情報を念頭に今一度食生活を見直し、食物繊維を多く含む食材を意識してとってみてはいかがでしょうか。
憩室を減らしたり合併症を予防したりできるかも知れません。


宿便について考える 第三回 「便はヒダには溜まらない」
宿便について考える 第五回 「ウンチの種類」

  << 宿便について考える 第三回 >>


juumou.gif宿便や滞留便についてまことしやかに書かれた文章を読むと、腸のヒダの間に便が溜まるとする表現が目に付きます。
このヒダに関しては、どうやら二通りの物が語られているようです。

♦♦ 小腸にしかない絨毛

一つは、絨毛
私の場合、大腸内視鏡を回腸末端にも必ず挿入しますが、粘膜面を水に浸すと絨毯の毛足にそっくりの絨毛を観察することができます。
表面積を大きくして効率的に栄養分を吸収するための小突起なのですが、これは小腸にだけ存在し、大腸にはありません。

そして重要なポイントなのですが、小腸の消化内容物って液状なのです。
小腸に続く大腸の役割は、栄養分を吸い取られた液状の食べかすから水分を吸収することです。
これによって内容物が、液状から泥状、軟便、固形便へと変化していくわけです。
上行結腸や横行結腸など大腸の奥の方では、お尻から出てくる固形便には程遠い内容物なのです。
ですから、そのさらに奥の小腸において、絨毛の間に便が付着するなんてあり得ないことなのです。

♦♦ 大腸にしかない半月ヒダ

もう一つは大腸にある半月ヒダを指している場合があります。
小腸の絨毛は顕微鏡レベルの構造物なのに対し、半月ひだは肉眼でしっかり確認できるものです。
半月ヒダは内容物の移送に関係していることは以前に書いていますが、このヒダ丈が高いほど大腸の移送力があり、食べかすが直腸の方までスムーズに移動できると考えられています。
逆にヒダが低く、蛇腹が伸び切ったような大腸では圧倒的に便秘であることが多いのです。
大腸からは腸液も分泌されていて、いつも表面はぬるぬるになっています。
便秘の方はヒダがあまりないケースが多いわけですし、大腸の粘膜面がが乾燥しているわけではありません。
大腸のヒダとヒダの間に便がとり残されるなんて考えられないことです。

但し、ヒダがしっかりあっても大腸の収縮が強くて便をせき止めてしまうことがありますが、これは後ほど。

また、便が腸の壁にはまり込んでいる状態というのはありますので、次回はそのあたりを解説してみます。


宿便について考える 第二回 「宿便の定義を調べてみる」
宿便について考える 第四回 「大腸憩室症について」

  << 宿便について考える 第二回 >>


photo-6.gif宿便は医学用語ではないため、消化器病関連の専門書をめくってその意味を突き止めようとしても徒労に終わります。
例外的に前回お伝えした①の「宿便性潰瘍」という疾患名にその名を見るだけですが、これはまた後で。

♦♦ 「宿便」を辞書でひも解くと…

医学用語でなければ一般用語のはずですから、国語辞典をひも解いてみました。
すると「便秘のため、長い間腸の中に溜まっていた大便」とか「排泄されないで、腸内に長くたまっている大便」等と書いてあります。
「宿」という字に注目して漢和辞典も調べてみました。
「一時そこにいさせる」「とどめる」「もとからの。古い」など、宿の持つ意味も幅広く、様々な意味に解釈できます。
仏教用語で「前世からの」という意味にも使われているようですが、さすがにこれはないでしょう。
なお、漢和辞典には宿便という言葉は載っていません。

ともあれ、辞書の意味から推測すると便秘は便が出ないという現象で、その便秘という現象によって腸に残っている便を指して宿便と称するという解釈ができますよね。
これで解決・・・!?

♦♦ 桂枝加芍薬大黄湯の効能には…

しかし初回の③で指摘した桂枝加芍薬大黄湯という漢方薬の効能には「常習便秘、宿便、しぶり腹」と便秘と宿便をわざわざ分けて記載してあります。
宿便が便秘の結果として腸に残る便であるならば、あえて書く必要はないはずです。
それにしても漢方薬の効能の欄には、しわがれ声、くさ、のぼせ、血の道症等とおよそ医学用語とは程遠い昔ながらの言葉が並んでおり読んでいて面白いのですが、宿便という言葉が古くから一般に存在していることを伺わせますね。

♦♦ 便が腸壁にこびりつくことはありません !

さて、宿便について広く流布されているのは、腸の壁にこびりついている便とするもので、そう信じておられる方も多いと思います。
しかし、長年大腸内視鏡をやっている経験上、それは絶対にあり得ないと断言しておきますし、私だけの主張でないことはネットであちこち当たってもらえば明らかです。
(その上で「胃腸の処理能力を超えて負担をかけ続けた場合に、腸管内に停滞する食物残渣や細菌類を含めた腸管内容物」と定義している医師もいて、Wikipediaではこれを採用していますが・・・。)
健康食品等を売らんがために体の仕組みをよく知らない素人が作り出した虚構でしょう。

また、こびりつきはあり得ないと否定する情報が増えてきたからでしょうか、今度は「滞留便」なる言葉が編み出されたようです。
昨年末でしたか、この滞留便なるものを解消するという薬剤がある製薬会社から発売されました。
テレビCMを見ているとご丁寧にも腸ヒダの間に溜まって簡単には動かない便のアニメーション付き。(右上のイラスト)
滞留便 = 老廃物、としていますがこれも一体どこで定義されたものやら。
いずれにしても、ヒダの間に便が残るということ、これも実際にはあり得ないことなのです。

次回から、具体的な腸の働きや疾患について見ていきながらこの辺りの事情を探ります。


宿便について考える 第一回 「宿便って何ぞや ?」
宿便について考える 第三回 「便はヒダには溜まらない」

  << 宿便について考える 第一回 >>


ill_01_03.gifこれから何回かに分けて宿便について考えていきたいと思います。

宿便という言葉を初めて耳にしたのは医者になって2、3年目の頃だったと思います。
患者さんの訴えに思わず「宿便ってどういうことですか ?」と聞き返したくらいあまり馴染みのない言葉でした。
それからしばらく聞くことはなかったのに、デトックスなる言葉が流行り出してからでしょうか、最近あちこちで目にしたり耳にしたりする機会が増えてきました。


宿便は医学用語ではありませんが、辞書をひも解くとちゃんと載っています。
日本語入力システムでも何の問題もなく一発変換できてしまいます。

医学用語ではないと言いつつ、手元にある資料などをめくってみると

 ① 宿便性潰瘍という名称の疾患があることがわかり、
 ② 有名出版社から出ている看護師向けのコンパクトな本に「宿便の正体は ?」なる項目があり、
 ③ さらにある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つけるに至り、

宿便とは一体何なのだろうかと気になり出し、さらに深く調べてみようと思い立ちました。
しかし、残念ながら言葉の源流にたどり着けませんでした。

便通の問題や大腸についていろいろ考察しながら、この先話を進めていきたいと思います。


宿便について考える 第二回 「宿便の定義を調べてみる」
 

rww7yidy.gif《 心窩部にまつわる話 5 》 


「みぞおちに、硬いしこりがあるんです。癌じゃないでしょうか ?」

診察室の椅子に座るなり、心窩部を指さしながら心配そうな顔でそう訴えて来られた方。
お話をしっかり聞いた上で診察をさせていただきます。

「これですか ?」
「そうです。ほら何か硬いのがあるでしょう」

触診で、しこりだと訴えのある場所を確認して私はにっこり。

「私の同じところを触ってみてください」
「あれっ !? ありますね固いのが」
「これは誰にでもあるものなんですよ」
「えーっ、そうなんだ」

しこりの正体は剣状突起
図の赤く塗った部分がそれにあたり、誰にでもあるのです。

今まで何例あったでしょうか、このような訴えで来院される方がたまにいらっしゃいます。
ということは、これから先も同じような心配をされて病院に足を運ぶ方がいらっしゃるかも知れません。
自分の体のことでありながら、知らないことって多いですよね。
図を参考にして、剣状突起に該当しそうにないしこりであれば病院へ行って診察を受けて下さい。


なお、剣状突起は生まれた時は軟骨ですが、加齢とともに徐々に骨化してきます。
外傷や妊娠で、剣状突起が突出してきて痛みを生じることがあります。
また、サーフィンなどで硬い物の上に腹ばいになる刺激によっても痛みが出ることがあるようです。




syz1dztk.gif《 心窩部にまつわる話 4 》 


胃下垂の話の続きです。

バリウムによる検査をしなくても、内視鏡検査である程度胃下垂を推定することができます。( 内視鏡による胃下垂の診断基準はありません )
内視鏡を胃の後半部分から十二指腸にかけて進めていく場合、内視鏡は胃の大弯の壁に接触します。
図の矢印の辺りに内視鏡が当たって、Jの字に向きを変えて十二指腸方向に向かっていきます。
胃下垂の方では、内視鏡を押し進めていくと、この支点となる部分がどんどん骨盤の方に下がっていきますので、それにつれ内視鏡の挿入長が長くなっていきます。
実際の検査では、胃の出口である幽門が見えているのにも関わらず、内視鏡を進めても進めてもそこまでの距離が縮まりません。
内視鏡を挿入した長さ分だけ、胃が押し下げられているのです。

極端な胃下垂の場合、内視鏡の全長を使っても十二指腸まで届かないことすらあります。
そういう症例を、私はこれまで 2例経験しています。
ちなみに、上部消化管の内視鏡の長さは約110センチメートルです。
ちなみに、胃の入り口である噴門までは、経口内視鏡の場合だと胃下垂の有無に関わらず約40センチメートルです。

さて、機能性ディスペプシアの「食後愁訴症候群」の話です。
食後愁訴症候群は、

 1. 通常量の食事での食後の胃もたれ
 2. 早期飽満感 ( 食べ始めて早い段階で食べた量以上に胃がいっぱいになる感じ )

のどちらか、あるいは両方があることが診断の基準となります。
他に上腹部の張り、吐き気、げっぷなども診断の手掛かりとなります。
このような方に内視鏡を実施しますと、先に述べた内視鏡で胃下垂が推測される以外に所見が何もないという方が結構いらっしゃる印象があります。

胃下垂の方に概ね共通することがあります。
それは腹筋が弱いということ。
おなかの中をある程度自由に動き回れる胃を外側から支えているのが腹筋の役割の一つではないのだろうか・・・。
医学的な根拠はありませんが、これは俗説として広く知られており、胃下垂の方に尋ねてみると腹筋が弱いと答える方の割合が非常に高いのは事実です。
腹筋の弱い方は、大腸内視鏡の挿入にも苦労することが多い傾向にあります。

食後愁訴症候群では、食事開始時の適応性弛緩 ( 食べ物に備えて胃が膨らむこと ) や排出遅延 ( 消化したものを十二指腸に送り込むのが遅れること ) などの消化管運動異常が原因として考えられています。
運動異常があるから胃下垂になるのか、腹筋が弱く胃下垂となることが運動異常を引き起こすのか、あるいは消化管運動と胃下垂は関係がないものなのか。
消化管の働きと腹筋の関係も医学的な目で調べていくことが重要なのかも知れませんし、食後愁訴症候群の治療の一つのヒントになるかも知れません。

ちなみに、早期飽満感には漢方薬の六君子湯がかなり有力な治療手段です。
特に中年以降の女性にはよく効く印象があります。

病態に応じて柴胡桂枝湯と六君子湯を上手に使い分けると、機能性ディスペプシアでお困りの症状をずいぶん緩和することができます。


znpo2mpt.gif《 心窩部にまつわる話 3 》


前回は機能性ディスペプシアの「心窩部痛症候群」に絡んだ内容でした。
機能性ディスペプシアのもう一つの「食後愁訴症候群」を考える前に、胃下垂について考えてみたいと思います。

診断基準はあるものの、医師に疾患として認知されているわけでもなく、治療も基本的に施されないのが胃下垂です。

胃下垂の診断は、胃の透視によって行われます。
右図の矢印の部分を胃角部と言いますが、ここが骨盤の最上端よりも下に位置している場合に胃下垂との診断が下されます。
胃が骨盤内まで下がってきているのですが、皆さんの想像以上ではないかと思います。
実際、胃下垂の方がおなかいっぱいに食事を摂ると、臍より下がぽっこり膨らむのです。

透視を見ていると、バリウムの入り始めはどんな方でも胃の位置はほぼ一緒の印象です。
つまり、空腹時の胃の位置は、皆さん大差はありません。
しかし、胃下垂の方はバリウムの量が増えるにつれ、胃がどんどん下がっていきます。
日常でも恐らく食べ物が入り、その重みで下がっていくのだろうと考えられます。

胃は固定された臓器ではなく、腹腔内で大きく移動することが可能です。
胃は口にした食べ物を一旦蓄えるために膨らんだり、消化するために大きく蠕動したりします。
胃が固定されてしまうと、これらの働きが十分発揮できないですよね。
一方、手前の食道と胃に続く十二指腸は、胃とは異なってしっかりと固定されています。
食道が固定されていないと、胸腔内の心臓や肺、大動脈といった臓器の働きに影響が出かねません。
十二指腸には肝臓からつながる胆管と、膵臓からの膵管の出口があり、わざわざ腹腔をという空間を出て背中側に回り込み、これらを通って出てくる消化液を受け取りにいくような形をとっています。
「体の形態には意味がある」と以前述べましたが、臨床に長く携わってきての実感です。

すみません、遅筆なもので続きは改めて。


nxsm_x7v.gif《 心窩部にまつわる話 2 》


我々は、患者さんの訴えをあれこれ聞き取りながら、病気が何であるかを絞り込んでいきます。
上手に聞き出すことで、疾患を8割方診断できるとも言われています。
そして、症状から疑った疾患を元にして必要な検査を行い、結果に応じて治療法を選択していきます。

心窩部に症状があって、患者さんが胃が悪いのだと思い込んで病院に来られても、我々は即、胃に病気があると疑うわけにはいきません。
もちろん、胃の疾患である場合が多いのですが、他の疾患でも心窩部に痛みが出ることがあるからです。
心筋梗塞で心窩部に痛みがくることがありますし、急性虫垂炎や胆石症、尿路結石、子宮付属器炎などで心窩部痛を初発症状とすることもあります。

このように、痛みの原因となっている場所とは異なる部位に痛みがでることを「関連痛」と呼んでいます。
なぜこのようなことが起こるかは、はっきりしたことはわかっていません。
現時点で最も有力な説を簡潔に言うと、脳の勘違いということになるでしょうか。
皮膚や内臓に分布する末梢神経の情報が脊髄に伝えられますが、圧倒的に皮膚からの情報が多いので、脊髄に入ってきた情報を脳が誤認識するから、と考えられています。

強い心窩部痛があるのに調べても何も見つからないことがあります。
この場合、安倍元首相もかかった (!?) という機能性ディスペプシアである可能性があります。
最も新しい Rome III という国際的診断基準では、機能性ディスペプシアは「食後愁訴症候群」と「心窩部痛症候群」に大別されます。
心窩部痛があるのに調べても何もない場合に、このRome III の診断基準を満たせば、心窩部痛症候群ということになります。
治療は投薬が主体となりますが、一定した治療法はありません。
何度か薬を変えてみてようやく症状が落ち着く場合もあります。
これまでの経験上、柴胡桂枝湯という漢方薬が劇的に効くことが多いですから、一度試してみる価値があると思います。
中には症状が改善せずに病院をころころ替わる方もいらっしゃいますが、内服薬だけに頼るのではなく、食事や日常のストレスなど生活習慣を見直すことも必要になってくる場合があります。


iugfeigj.gif《 心窩部にまつわる話 1 》  


多くの方を診察していると、いろいろと面白い場面に遭遇することがあります。
例えばこんなちぐはぐな会話。


「3日程前から胃が痛いんです。」
「そのおなかの痛みは食事と関係ありますか ?」
「おなかじゃありません。胃です !!」


胃もおなかの臓器の一部と私は認識しています。
しかし、胃とおなかをその人なりに区別する基準を持っておられる方がたまにいらっしゃるのです。
いわゆるみぞおちの辺り、その部位に限定した症状であることを訴えたいことは十分に伝わります。
医学的にこの場所を「心窩部 (しんかぶ)」と言います。
図のように腹部を9等分した時に、Aの部分に該当しますが、明確な境界線があるわけではありません。

「窩」という漢字は一般にはなじみが薄いと思いますが、医学の世界ではよく見かけます。
「膝窩」「眼窩」「ダグラス窩」「梨状窩」・・・。
要するに窪みを形成している場所を指し示す際に用いられています。( 現代人では窪んでいない人が多いですが )
みぞおちになぜ「心」の字が使われているのかはよくわかりません。
体の中心という意味だと理解しているのですが、もしかしたら東洋医学と絡んでいるのかも知れません。

ちなみにみぞおちは漢字で「鳩尾」。
このあたりの形状が鳩の尻尾に似ていることからこのように書くそうですが、似ていますか ?

そんな心窩部にまつわる話を何回かに分けて述べてみたいと思います。


rjxfnxxc.gif ○○ 学会レポート 6 ○○


経鼻内視鏡独特の合併症として、鼻出血が挙げられます。
しかし、多くの施設からの報告で出血例もさほど多くなく、耳鼻科で処置を必要とするような重篤な出血もほとんどないということでした。

さて、パネルディスカッションの際、経鼻内視鏡の抜去困難例について簡単に触れられました。
パネリストの一人から機種による差異があるのでは、という意見が出されたのですが、
座長が別の形に意見を集約して次の話題へ移ってしまいました。

複数のメーカーの経鼻内視鏡を扱っている立場から言わせてもらうと、明らかに機種による大きな差があります。
あるメーカーのものは先端の部分がやや太く、それに続く挿入部分が細くできています。
抜去困難とまではいかなくても、抜去時に鼻咽頭でコツンと抵抗を感じることがこのメーカーの内視鏡で圧倒的に多いのです。
実際、抜去困難例に遭遇して冷や汗をかいたこともあります。
別メーカーのものは太さに変化がないため、抜去時に抵抗を感じることがそもそもありません。

抜去時のこの差異についてはもっと議論されていい問題だと思っています。


10月21日の午後、このワークショップで消化器関連の学会の集合体 JDDW も終了し、
会場からほど近い神戸空港より帰路につきました。
4日間通して参加したのは今回が初めてでしたが、とても充実した時間を過ごすことが出来ました。

まだまだ紹介したい演題もいくつかあるのですが、学会レポートもこれにて終了といたします。

del3nggf.gif ○○ 学会レポート 5 ○○


従来の内視鏡より径を細くして挿入ルートをちょっと変えるだけで、こんなにたくさんの研究テーマになるのだなと感心したのが経鼻内視鏡についての演題の数々です。

学会最終日は午前から閉会まで経鼻内視鏡三昧の一日を過ごしました。

面白かったのは、経鼻内視鏡を用いた胆管膵管造影について。
胆管への挿入率が4分の3程度にとどまるものの、憩室内乳頭ではかえって操作がやりやすいことや経鼻胆管ドレナージも容易であることなどが紹介されました。
あらかじめ乳頭切開した症例ではそのまま胆管内に内視鏡を挿入できるというのも興味ある点でした。
経鼻内視鏡の可能性を感じさせる報告でした。

経口内視鏡に比べて体に楽であるというのを Rate pressure product という指標を用いて比較したデータも複数の施設から出されました。
これは 心拍数 × 収縮期血圧 / 100 で表されるもの。
数値が高いと循環器系などへの負担が大きいことを意味します。
経鼻内視鏡ではこれが安静時とほとんど変わらないのに比べ、経口内視鏡においては有意に増加するという結果が示されました。
数値化することで改めて楽に受けていただける内視鏡であることが裏打ちされたわけです。

経鼻内視鏡の会場は比較的高齢の聴講者が多かったように思います。
若手医師たちは、同じ時間帯に別会場で行われていたカプセル内視鏡や内視鏡手技をテーマにしたプログラムに足を運んだのだと思います。
最終日の午前中は内視鏡医が興味を持つ演題がいくつも重なってしまい、参加者から不満の声も聞かれていました。

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