野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して43年の野口内科です。
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カプサイシン

〔 まだまだ使えるH2ブロッカー ・ 第四回 〕


♦♦♦ ラフチジン、最後発としての実力は ♦♦♦

胃薬( ラニチジンではなく、ラフチジンの話題です。あしからず。 )

ラフチジンは最後発のH2ブロッカーですが、発売されてしばらくの間、私は処方することはありませんでした。
1991年にH2ブロッカーよりもより確実に酸分泌を抑える PPI ( Proton Pump Inhibitor ) と呼ばれるタイプの薬が日本でも使えるようになり、それ以降、胃・十二指腸潰瘍治療の主流に躍り出ました。
そんな中でラフチジンが登場したのは2000年です。
何を今さらH2ブロッカーなのだろうという思いがありましたし、付いた商品名がプロテカジンストガーで、ネーミングセンスが決して良くなく、特に前者は言いにくいのなんの。( 参考 : 一物二名称 )
そして、発売当初は逆流性食道炎に対する適応がなく、用途が限られていました。

それでもラフチジンを使うようになってきたのは、他のH2ブロッカーにはない特徴に魅力を感じるようになったからです。
メーカーが発売に踏み切ったのも、この捨てがたい実力を埋もれさせてはならないと考えたからでしょう。
その魅力とは何か、みていこうと思います。


♦♦♦ ラフチジンは肝臓で代謝される ♦♦♦

肝臓ラフチジンは肝臓で代謝される唯一のH2ブロッカーです。
残る5種類のH2ブロッカーは腎臓で代謝されるので、腎機能の低下している人には減量するか中止しなくてはなりません。

このシリーズ第二回「シメチジン、厄介さが半端ない」でも紹介しましたが、H2ブロッカーを高齢者に使用することは勧められていません。
おさらいしますが、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」の中で75歳以上の高齢者に対しては、「認知機能の低下・せん妄のリスクがあり、可能な限り使用を控える。特に入院患者や腎機能低下患者では、必要最小限の使用にとどめる」と記載されています。
また「高齢者では腎機能が低下しているものが多く、腎排泄型の本剤は血中濃度が持続する可能性が高いため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬が必要な場合は少量から慎重に投与する」とも書かれています。

このガイドラインでは、肝臓で代謝されるラフチジンを別扱いにしていませんけど、私は高齢者でH2ブロッカーを必要とするケースではよく処方しています。

ただし、CYP3A4で代謝されるため、薬の相互作用に注意しなくてはなりません。
クラリスロマイシンなどCYP3A4の働きを抑える薬との併用に配慮する必要があります。
CYPとは、チトクロームP450 ( CYP ) と呼ばれる薬物代謝に重要な役割を果たす酵素の一群のこと。
主に肝臓にあって、薬物の分子構造を変化させて体の外へ排泄しやすいようにしてくれる役割があります。


♦♦♦ ラフチジンはトウガラシ ? 酸分泌抑制が安定していて胃の粘液も増やす ♦♦♦

さて、H2ブロッカーにしろPPIにしろ、24時間安定して胃酸の分泌を抑えているわけではありません。
強力とされるPPIは夜間の胃酸分泌が十分に抑えきれない現象がみられます ( Nocturnal Gastric Acid Breakthrough ) 。
一方、H2ブロッカーで最もよく使われるファモチジンは20mgを1日2回服用しても胃酸の分泌を抑えているのは1時から7時の間のみという報告があります。

ラフチジンは、他のH2ブロッカーとは違って日中の胃酸分泌も抑える働きを持ち、10mgを1日2回服用すると胃の中のpHが3以上を維持する時間が6割以上あります。


胃潰瘍また、胃酸の分泌を抑えるだけにとどまらない作用があります。
胃の粘液を増やす作用胃粘膜の血流増加作用です。
胃・十二指腸潰瘍の治療では、粘液や血流という胃の粘膜を保護する役割のある要素 ( 防御因子 ) も重要だとされています。
酸分泌抑制薬に防御因子増強薬を一緒に使っても、潰瘍治癒に対して上乗せ効果はないともされていますが、一方でこんな報告もあるのでみてみましょう。( → こちら )
動物実験ですが、ラフチジンではシメチジンやファモチジンにはみられなかった次のような作用が確認されています。

・用量依存的に潰瘍面積を縮小
・酢酸潰瘍の実験モデルで治癒後の再発を抑制
・潰瘍瘢痕部の再生粘膜への炎症細胞浸潤が著明に抑制

これらの差異は、ラフチジンが防御因子を増強する作用を持っているためと推測されています。

トウガラシこのラフチジンの働きは、カプサイシン感受性知覚神経を介したものと考えられています。
カプサイシンはトウガラシの辛味成分ですよね。
外部の環境温度を感知するセンサーであるTRP ( Transient receptor potential ) チャンネルというものがあります。
このうち43℃以上を感知するTRPV1と呼ばれるものは、カプサイシンや酸によっても刺激を受けることが知られています。
このTRPV1を持つカプサイシン感受性知覚神経を働かなくすると、ラフチジンを使っても胃粘液も胃粘膜の血流が増えないのです。
ラフチジンはTRPV1に直接作用することはないようですが、何らかの機序でこの神経を活性化するようです。


さて、H2ブロッカーとともに、レバミピドやテプレノンなどの防御因子増強剤を服用されている方も多いと思いますが、H2ブロッカーをラフチジンに変更したら、防御因子増強剤は不要です。
ニザチジン同様、ラフチジンはポリファーマシー対策にも役に立つ薬剤です。


このカプサイシン感受性知覚神経を活性化する働きによって、ラフチジンが痛みやしびれにも応用されていることについて次でみていきます。

なお、TRPチャンネルについては、以前当ブログで解説していますのでそちらを参照していただきたいと思います。( → トローチの添加物の鎮痛作用を考えるけど‥ )


♦♦♦ ラフチジンは痛みやしびれにも ♦♦♦

舌舌痛症という病気があります。
その名の通り、舌がチクチク、ピリピリする疾患です。
ニザチジンの回で触れた唾液分泌の低下が絡んでいることもあるようですが、ほとんどの場合が原因不明で、有効な治療法もありませんでした。
しかし、舌にもカプサイシン感受性知覚神経が存在することから、ラフチジンを投与してみたところ、多くの症例で良好な結果が得られたことが報告されています。( → こちら )

手の震えまた、パクリタキセルやドタキセルなどの抗がん剤によって、手足の痺れや知覚異常といった末梢神経障害を起こすことがあります。
この副作用の予防や治療にラフチジンが効くという報告が数多くあります。
臨床試験も行われていたと思うのですが、結果はどうだったのでしょうか。


当院の患者さんで、坐骨神経痛や脊椎管狭窄症、糖尿病性末梢神経障害を持つ方々に、偶然ラフチジンを処方したことがあります。
すると、痛みやしびれが楽になったとの声が複数ありました。
先日も、三叉神経痛で食欲を落とした方に処方したら、痛みが随分楽になったと喜んでおられました。
また、HTLV-1関連脊髄症 ( HAM ) の方に、これまたたまたま処方したら、下肢に今までにない違和感を感じるようになったので飲むのを止めた、と言われたことがありました。
HAMは、成人T細胞白血病を起こすウイルス感染者の一部で両下肢の麻痺や膀胱直腸障害を示す疾患で、九州など西日本に多い疾患ですが、ラフチジンが知覚神経に何らかの作用を及ぼしたのでしょうね。

こういう経験から、ラフチジンは舌痛症や抗がん剤による末梢神経障害以外にも応用が効くのではないかと感じています。
既に線維筋痛症という疾患に活用している医師もいるようです。

個人的に興味があるのは、非びらん性胃食道逆流症 ( NERD ) という疾患です。
内視鏡検査で全く異常がないのに胸やけなどを訴えるものなのですが、NERDの症状に胃食道接合部のTRPV1が絡んでいると推定されているのです。
ラフチジンが効きそうに思うのですが、消化器を研究する医師が着目していないのが不思議です。


その他、慢性片頭痛の方では頭皮血管のTRPV1発現が亢進しているとか。( → こちら )
また、咳反射にTRPV1が絡んでいるので ( → こちら ) 、慢性的な片頭痛や咳に悩む方にもひょっとしたら効くのかも知れません。( あくまで私の勝手な推論です。)



♦♦♦ ラフチジンは胆汁による胃粘膜障害も回復させる ♦♦♦

胆汁もう一つ、カプサイシン感受性知覚神経とは関係なく着目しているのが、タウロコール酸による胃粘膜のダメージを回復させるという作用です。
タウロコール酸は胆汁に含まれる成分で、胃粘膜に悪影響を及ぼすことが知られていますし、胃の手術後などでは胆汁が原因となる逆流性食道炎があるのです。

胆汁による胃粘膜への影響についても、なぜか消化器医は重視していない傾向にあるように思いますが、内視鏡検査時に胃に胆汁の逆流を認めたら、ラフチジンの投与も検討してみたいところです。


♦♦♦ ラフチジン、これには注意 ♦♦♦

脳薬物相互作用については前述しましたので省略します。

また、腎機能に影響されないので、高齢者には使いやすいのではないかと述べてきましたが、注意点があります。
ラフチジンは脂溶性 ( オクタノール/水分配係数 95.70 ) で、脳血液関門を通って脳内に移行しやすいのため、精神神経症状を起こす可能性があるのです。( → こちら )
この点に関しては、処方した患者さんを注意深く診ていますが、今のところ問題を起こしたケースはありません。

♦♦♦♦♦

さて、H2ブロッカーについて考察してきたこのシリーズはこれでおしまいです。
たった4回の連載でしたが、中身はかなり濃かったのではないでしょうか。
特に、ニザチジンとラフチジンは、酸分泌抑制という本来の役割を超える作用を持っている点に興味を持っていただければ、苦労して書いた甲斐があります。


〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第一回〕シメチジン、面白い作用を持っているけど
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第二回〕シメチジン、厄介さが半端ない
〔まだまだ使えるH2ブロッカー・第三回〕ニザチジン、唾液も出すし胃腸も動かす 
 ※ 参考 胃薬なのに別の病気の治療に

61ufftzo.gif先月末の新聞に、手を温めると他人への評価や行動が優しく親切になるという記事が載りました。
その研究結果の詳細は記事に委ねますが、この実験では温湿布と冷湿布も使われています。

内科であっても日常の診療でよく湿布を処方します。
ほとんどの方が温湿布は患部を温かくし、冷湿布は冷やしてくれると勘違いをされています。
温湿布自体に使い捨てカイロみたいに熱を発生させる働きはないこと、逆に冷湿布に氷枕と同様の作用がないこと等を説明すると驚かれています。

温湿布にはトウガラシの成分カプサイシンが使われています。
実際には温度が上昇していないのにカプサイシンで神経が刺激され、暖かく感じるのです。
温湿布を貼っても実際の皮膚温は下がっているとも言われますし、カプサイシンで毛細血管が開いて皮膚温が上がるとも。
しかし正確なデータは調べた範囲では見つけられませんでした。

またカプサイシンには痛みを感じにくくする作用もあるようですが、実際にはそれほど劇的なものでもないようです。(http://www.bmj.com/cgi/content/full/bmj%3b328/7446/991 )

冷湿布に使われるのはメントール。
これも神経がごまかされ冷たく感じているだけですが、メントール自体にも鎮痛効果があるとされます。
痒みや痛みを冷やすことで和らげるのは手っ取り早い方法でもあります。

よく温湿布と冷湿布、どちらを使うべきかを問われることがありますが、貼って気持ちよく感じる方をと私は答えています。

それにしても温湿布も温かいコーヒーカップもどちらも人を優しくするというのは面白い実験結果ですし、何よりこれがサイエンスという超一流誌に掲載された論文であるというのには驚きです。(http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/322/5901/606 )


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