野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
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    院長   野口 仁

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ホクナリンテープ

<< ジェネリック、大丈夫 ? 第3回 >>


三菱自動車が燃費データを偽装していた大きな問題になっています。
車を選ぶ際に参考にする数値にごまかしがあることは容認できないですよね。
これがもし我々の処方する薬について行われているとしたらどうでしょう。
人体に関わることですから、自動車の比ではない大問題になります。
その可能性が否定できないジェネリックがあります。
それは以前取り上げたことがあるファイザーのツロブテロールテープ。( → 「ホクナリンテープとジェネリックを比較」)
その疑惑に満ちた薬剤動態に関するデータを検証してみましょう。

まず、先発品であるマイラン製薬のホクナリンテープについて解説しておきます。
気管支喘息の発作は明け方に起こることが多いのですが、昔の内服薬や吸入薬は寝る前に使っても明け方にまで効果が持続することが期待できませんでした。
そんな中で開発されたホクナリンテープは、貼付して4時間ほどしてから血中濃度が上昇し始め、12時間後にピークに達するように工夫がなされています。
これは「結晶レジボアシステム」と呼ばれる薬剤放出の技術によってコントロールされているのですが、特許があるためこの部分はジェネリックメーカーが真似することができません。

ホクナリンテープ 2mg の薬物動態のグラフを見ていただきます。
Hoku

ここで薬剤最高血中濃度 ( Cmax ) と Cmax に至るまでかかる時間である最高血中濃度到達時間 ( Tmax ) という大切な指標を覚えていただこうと思います。
添付文書上のホクナリンテープ 2mg のデータ。

 ● Cmax は 1.35 ± 0.08 ng/mL、Tmax は 11.8 ± 2.0 hr


次に沢井製薬のツロブテロールテープ 2mg の薬物動態のグラフを見ていただきます。
Sawai

ホクナリンテープと同じ徐放技術が使えないため、沢井製薬のツロブテロールの血中濃度の立ち上がりも Tmax も早いのがわかると思います。
添付文書上のツロブテロールテープのデータ。

 ● Cmax は 1.29 ± 0.60 ng/mL、Tmax は 11.0 ± 2.7 hr

同時に調べている標準製剤 ( ホクナリンテープ ) のデータもみておきます。

 ○ Cmax は 1.24 ± 0.63 ng/mL、Tmax は 14.5 ± 4.5 hr

マイラン製薬のデータとの比較で Cmax の比は 96.1% (1.24/1.35) 。


更に問題のファィザーのツロブテロールテープ 2mg の薬物動態のグラフです。
Pf

さすが、世界に名だたるメーカー、結晶レジボアシステムが使えないにもかかわらずホクナリンテープとほとんどピッタリ重なるような血中動態、見事としか言いようがないですよねぇ‥。
添付文書上のツロブテロールテープのデータ。

 ● Cmax は 1.063 ± 0.601 ng/mL、Tmax は 12.3 ± 4.6 hr 

同時に調べている標準製剤 ( ホクナリンテープ ) のデータ。

 ○ Cmax は 1.039 ± 0.565 ng/mL、Tmax は 12.2 ± 4.4 hr 

マイラン製薬のデータとの比較で Cmax の比は 80.5% (1.039/1.35) 。

このファイザーのデータ、深く読み込むと疑問だらけなのです。
結論から先に言いますが、ファイザーが標準製剤として提示しているデータ、これはファイザー自身のツロブテロールテープなのではないでしょうか。
まず、標準製剤の Cmax があまりに低すぎ。
2割も低くなっているというのは一体どういうことでしょうか。
そして2時間値を提示していないこと。
標準製剤であれば、結晶レジボアシステムが働いるので2時間値はほぼゼロであるはずですが、それを公表すると実際には標準製剤を使っていないことがバレてしまうため隠しているのではないでしょうか。
それにグラフ上、標準製剤のTmaxはどうみても12時間のところにあるように見えません。
標準製剤を使わず自社製品を標準製剤の代用として使い、その上で自社製品と比較すりゃ、ピッタリと寄り添うようなグラフになりますよね。

実は、ファイザーはさらにおかしなことをやっています。
ツロブテロールテープには 2mg だけではなく、1mg と 0.5mg という剤形があるのですが、どういうわけか 1mg は2枚、0.5mgは4枚貼付することで合計2mgになるようにしてデータを出しているのです。 ( → 実際の添付文書を参照して下さい )
理解に苦しみます。
他のメーカーは 1mg も 0.5mg ちゃんと1枚貼付でデータを記しています。
剤形に違いがあるのは年齢に応じて使い分けをするからなのであって、複数枚貼って2mgにするのは実際の使い方とは大きくかけ離れていますし、0.5mgや1mgの製剤で示されている標準製剤のデータも2mg製剤同様信憑性が疑われるものです。

先のグラフからも分かるように、沢井製薬は標準製剤との違いがあることを素直に認めたデータ提示ですよね。
ファイザーはなぜそのようなごまかしをするのでしょうか。
そしてそのデータを見抜けずにジェネリック製品として認可してしまった厚生労働省、問題ありませんか ?
いずれにせよ、標準製剤より2割も低い血中濃度しか得られない製品を使うと喘息のコントロールが悪くなってしまいます。
使いたくないです。

なお、沢井製薬を含め他のメーカーのツロブテロールテープも標準製剤と大きく異なる血中動態を示すのにもかかわらず、先発品と同等のジェネリックとして認めているという認可のあり方もおかしいと思うのですが。


( 追記 )
ファイザーのジェネリックの件に関して、違う集団での少人数での動態パラメータを比較してもしょうがない、という意見もあるようですが、私が問題にしたいのは

① 徐放を確立するための工夫がしてある先発品となぜ血中濃度の変化にほとんど相違がないのか。ここに示していない0.5mg及び1mg製剤の寸分たがわないデータについても同様でかえって不自然。
② 2時間値を示していないのはなぜなのか。テープ剤が徐放であることを示すためのキモになる重要な部分です。
③ 1mgと0.5mgのデータの取り方はどういった意図で行われたのか。

といった点。

ホクナリンテープをジェネリックに切り替えたら、動悸がするとか喘息発作が増えたという報告はあちこちから聞かれます。
日本アレルギー学会の「喘息予防管理ガイドライン」にも「貼付剤は後発品が使用可能であるが、薬物貯留システムの違いから皮膚の状況によっては先発品とは経皮吸収速度が異なるため、注意が必要である」と明記されているのです。
添付文書上、生物学的同等性が担保されていても、臨床現場では不具合が起こっているのです。
現実をどう見つめますか ?

<< ジェネリック薬品を考える 第4回 >>


喘息発作は明け方に起こることが多く、かつては内服薬や吸入薬を寝る前に使っても薬の効果が明け方まで持続せず、コントロールに苦労する例がありました。
そんな中、1998年に登場したのが「ホクナリンテープ」という貼付剤。
とても工夫がなされていて、気管支拡張作用のある成分が、皮膚に貼ってから4時間ほどしてから吸収され始め、11~13時間ほどで血中濃度がピークに達します。
夜貼ると明け方によく効いてくれるわけです。

ツロブテロール・沢井ところが、各社から数多く出ている後発品「ツロブテロールテープ」の血中濃度の推移は異なります。
それが大きく影響していると思いますが、「ホクナリンテープ」を後発品に変えた途端、喘息発作が増悪したというケースを臨床医が経験することは少なくありません。

今回提示した3社 ( 沢井製薬・ファイザー製薬・久光製薬 ) のグラフをご覧下さい。
多くは1時間ほどして血中濃度が上がり始め、ピークに到達するのもその分早くなっていますし、その後の濃度も高く維持できないのです。 
これは、先発品の徐放技術が特許を持っているためで、後発品メーカーなりに工夫はしているのでしょうが、同じような製品が作れないのです。
ファイザーのものはかなり先発品に近いですが、2時間値が省略されているのはなぜでしょうか。
それにマルホのホクナリンテープの添付文書と比較するとファイザーのグラフの標準製剤の濃度の数値は明らかに低いですね。
( 久光製薬のグラフは2mg製剤ではなく0.5mg製剤の比較ですのでご注意下さい。)

ツロブテロール・ファイザー問題は、これだけ血中濃度の推移が大きく異なる後発品に対し、厚生労働省が先発品と同等であるというお墨付きを与えていることです。
最大血中濃度と血中濃度曲線下面積に大差がなければOKなのです。
米国だと先発品との二重盲検比較試験を行って安全性・有効性の同等性を示さなければ認可されないのですが、治験を行う必要のない日本はこのあたりがとてもいい加減と言えます。

インスリン製剤は、血中濃度の立ち上がりや作用持続時間によって複数に分類されていて、我々は使い分けをしているのですが、それと同様、私は「ホクナリンテープ」と「ツロブテロールテープ」は別物として使い分けています。
ツロブテロール・久光 先発品でコントロールできている人は基本的に後発品に変更しません。
後発品の「ツロブテロールテープ」も各社バラバラの血中動態ですので、その特性を把握した上で、初めて処方する場合には、入浴や就寝時間と発作のよく起きる時間を聴取してその患者さんに合うと思われるものを選択しています。
ただ、血中濃度ばかり気にしていてもダメで、中には剥がれやすい製品もあり注意を要します。

ジェネリック医薬品が先発品と必ずしも同等と言いきれないし、ジェネリック間でもかなり異なるのだと理解して頂けたのではないでしょうか。
特にこの「ホクナリンテープ」「ツロブテロール」は、調剤薬局において薬剤師の判断で勝手に変えられてしまうと本当に困ってしまう薬剤の一つです。 

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