最近、ピロリ菌に関して、非常に興味深い報告が相次ぎましたのでまとめてみました。


イド♦︎ 低下し続ける日本人のピロリ菌感染率

一つは、日本におけるピロリ菌感染率を出生年別にみたものです。( → こちら )
それによると

 1910年 60.9%  1920年 65.9%
 1930年 67.4%  1940年 64.1% 
 1950年 59.1%  1960年 49.1%
 1970年 34.9%  1980年 24.6%
 1990年 15.6%  2000年   6.6%

となっており、特に1998年生まれ以降での感染率は10%を切っているようです。
ご存知のように、ピロリ菌感染が原因となって胃・十二指腸潰瘍胃がんといった疾患が生じます。
感染率の低下や、ピロリ菌の除菌療法の普及などで胃・十二指腸潰瘍に遭遇する機会が随分減ってきています。
将来は、これらの疾患は珍しいものになっていくものと予想されます。
しかし、若年者でここまで大幅に感染率が下がってきた理由も知りたいところです。


♦︎ ピロリ菌感染の原因は本当に井戸水なのか

我々がピロリ菌にどうやって感染するのか、実は謎が多いのです。
というより明確にはわかっていません。

長らく井戸水が感染源として疑われており、上水道の整備に伴って感染率が低下したのだと半ば定説化していて、多くの医療関係者がそう信じています。
また、一般の方もそういう情報をよくご存じで、時々幼少時の井戸水摂取を心配して来院される方もいます。
しかし、あくまで仮説のレベルであってきっちり証明した報告はありません。

例えば、ピロリ菌感染者の家の井戸水を採取したところ、9.3%の井戸水からピロリ菌のDNAをPCR ( polymerase chain reaction ) 法で検出できたけれども、培養は全くできなかったという報告があります。( → こちら )
PCR法って検体中のごくごくわずかな核酸も増幅することが可能です。
細菌感染には一定量の菌が必要と考えられています。
DNAは増幅したら検出されるけど培養ができないというような極めて少ないレベルで、井戸水世代の6割以上の人々の胃にピロリ菌感染が果たして起こるものなのでしょうか。
私は疑問に思っています。



♦︎ 新たな研究から見えてくるもの

ピロリ菌感染率の報告があった同じ日に、同じ医学雑誌にピロリ菌に関する新たな研究報告が二つなされました。
いずれも非常に注目に値する内容です。


一つは、13%のハエがピロリ菌を保菌しているというものです。( → こちら )

ピロリ菌は糞便に排泄されます。
糞便に触れたハエがピロリ菌を運び、食べ物にたかり、それが感染源になっているという可能性が今回の研究で強く示唆されます。
上水道の整備よりも、下水道の整備で感染が減った可能性の方が高いように思えますね。


そして、口腔内のピロリ菌についての総説です。( → こちら )

この総説を読んでみると、歯のプラークに潜んでいるピロリ菌が口から口へと感染するのが案外深刻であるというのが見て取れます。
そして、口腔内も含めた除菌の重要性を説いています。


井戸水からの感染も全く否定はできないと思いますが、井戸水の中にピロリ菌がウジャウジャと存在しているわけではないことは理解していただけたものと思います。
それよりも、ハエやゴキブリなどの小動物がピロリ菌を媒介するケースや、人間の口から口への感染の方が、可能性としてよほど高いのではないでしょうか。