野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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便秘

粒子〖 今月のつぶやきから 134 〗


鹿児島県は新型コロナウイルス感染症患者数も減ってきています。
ただ、他の都道府県に比べて減少速度がかなり遅いです。
その原因は何なのかをしっかり検証しないと、3月から個人の判断に委ねられるマスク着用後や、5月からの新型コロナウイルス感染症の5類への移行後にどのような変化が起こるのか予想することができません。
減ってきたとぬか喜びせず、情報収集を怠らないようにしてください。


収集した医療情報をツイッター上でつぶやいていますが、4つのテーマの元、11個の情報をピックアップしてみました。

最初は、運動に関連した情報を3つ。

① 持久力に影響を及ぼす腸内細菌がいるようです。

② 運動はいい事ばかりではないようです。

③ 実施するタイミングを考慮して運動すると効率的に脂肪を減らすことができそうですね。


次に、既存の薬剤についての話題を3つ。

④ 従来のベンゾジアゼピン系の薬剤は様々な弊害を起こしますが、オレキシン受容体拮抗薬にはその弊害が少ないとする報告です。

⑤ セレコキシブに抗がん作用があるなんて知りませんでした。

⑥ 主に風邪に用いる漢方約に含まれる麻黄という成分で副作用がみられることがありますが、その原因となる成分を除去しても抗ウイルス効果は変わらないという報告。


3番目は、便秘に関する話題を2つ。

⑦ 腸壁の温度を感じるセンサーと腸内細菌と便秘の関係。興味深い報告です。

⑧ 便秘解消が期待できるカプセル型デバイス、いずれ排泄されるのでしょうが、コスパはどうなのでしょう。


最後に、小さい粒に関しての話題を3つ。
それぞれ性質の異なる粒ですが、いずれも非常に興味深い報告です。

⑨ デキサメタゾンを送達するため脂質からなるナノ粒子に搭載して脾臓の慢性炎症を改善し、二次的に抗腫瘍免疫を正常化するという新しい発送のがん治療。


⑩ ウイルスほどの小型メッセージ物質が動脈硬化を助長するという発見。

⑪ 腸内細菌の作る小胞が肝硬変の悪化の原因になっているというメカニズムは考えたこともなかったです。

チーズ〖 今月のつぶやきから 129 〗


厳しい残暑にぐったりしたり、桜島の降灰に悩まされたり、最強クラスの台風の準備に追われたり。
そうこうしているうちに9月が終わろうとしています。

今回の今月のつぶやきからは、2つのテーマで合計8つの情報をまとめてみました。


まずは、腸内細菌に関連した情報を4つです。

乳酸菌が免疫細胞を活性化する仕組みの一端が見えてきました。

② 腸内細菌が自己免疫性膵炎に関与しているとは驚きです。

③ 同じく膵臓ですが、膵がん患者で腸内細菌に口腔内細菌が多いという報告です。

前回もブラウティア菌という善玉菌を紹介しましたが、今回はクララ菌です。


次は、睡眠に関連した4つの情報です。

タルトチェリーは以前から不眠の解消にいいとされていましたが、メラトニンを増やすことが確認されています。

⑥ 妊娠中の食事は産まれてくる子にも影響が及びます。

⑦ 睡眠時間と便秘の関係、男女で異なるというのは興味深いですね。

⑧ サマータイム、緯度の低い鹿児島では全く意味はありません。

 ◆ 診療所ライブラリー 189 ◆


うんこのつまらない話ここ数年、病院で処方できる便秘薬の種類がグッと増えてきました。
センナなどの大腸刺激性薬や酸化マグネシウムといった薬が日本の治療の主役だった状況に変化が表れつつあります。

便秘の分類法も変わってきています。
昔は「弛緩性便秘」「痙攣性便秘」などに分けていました。
今は、症状からは「排便回数減少型」「排便困難型」、病態からは「器質性便排出障害」「大腸通過遅延型」「大腸通過正常型」「機能性便排出障害」と分類します。


紹介するのは、便秘の定義や分類方法、新薬の使い方、食事、排便時の姿勢の工夫など、少ないページ数ながら最新情報満載の本です。
一般の方はもちろん、便秘治療の最新情報がまだ頭の中でスッキリ整理できていない医療関係者の方々にもお勧めの一冊です。

特に、一般の便秘と便秘型過敏性腸症候群はきっちり見極めて治療していくことの重要性が説かれています。
また、 最近登場した薬がどういう方に適しているかも的確にまとめられています。

fullmoon〖 今月のつぶやきから 110 〗


日本でも新型コロナウイルスの接種もいよいよ始まりました。
そのニュースを受けて、患者さんから接種時期などについての質問があるのですが、先行接種する我々ですらいつになったら受けられるのかわからない状態です。
情報が集まり次第、お知らせしていく予定です。

ツイッターでつぶやいた医療情報をピックアップして月末にお届けする「今月のつぶやきから」。
今回は11個の情報を選んでみました。


まずは、糖尿病の治療薬であるメトホルミンの話題を3つ。
発売されて60年が経過する薬ですが、今でも多岐にわたる薬の作用が次々に報告されています。

① 今月は、高コレステロール血症の治療薬であるスタチンでも新型コロナ感染での重症化や死亡リスクの低減が報告されていました。

② 特に治療の必要のない疾患ですが、進行を抑える手段としてメトホルミンが使えそうです。

③ メトホルミンは発がんの抑制にもなるという報告がありましたが、乳がんではタイプによって違うようです。


次に、食事に絡んだ話題を5つ。

④ 朝食は必ず摂るようにしたいですね。

⑤ 肉を食べるとどうなるか、日本人を対象とした大規模な解析で男女で差があるようです。

⑥ こちらは米国からの報告ですが、赤肉には分が悪い報告が多いです。

⑦ 全粒穀物を摂るように心がけたいですね。

⑧ 肥満の方は、食事をゆっくり味わわずに掻き込むように食べる人が多いのですが、関連があるのでしょうか。


最後は個人的に興味を引いた3題。

⑨ 逆に、まばたきを意識すると持久力が高くなるのでしょうか。

⑩ 満月前は、日没後の東の空が明るいのですが、メラトニン分泌に影響が出るのでしょうか。

⑪ 診察室に入ってくる歩容を見るなりパーキンソン病とわかった症例も経験してますが、アルツハイマー型認知症も歩く姿が診断の一助になるのかも知れません。

似た者同士〖 今月のつぶやきから 108 〗


好天が多い12月でしたが、年末年始は降雪も予想される鹿児島。
医療機関も休みますので、体調管理には十分気をつけて下さい。


集めた医療情報を備忘録目的でツイートしており、その中から興味深いものをピックアップしてお届けしているのが「今月のつぶやきから」です。
今月は12個の情報を選んでみました。


まずは、生活習慣に関係する話題を5つ。

① 平日と休日で生活リズムを大きく崩さないで過ごすように心がけましょうね。

② 液晶画面ではなくもっと子供に目を向ける時間を増やすべき、という現代社会への警鐘となる研究報告です。

③ 児童生徒が学校で安心して排泄ができる環境を作っていかなくてはなりません。

④ ペットも自分と同じ悪しき生活習慣に引きずり込まないよう、飼い主としての自覚を。

⑤ 砂糖入りの飲料をウーロン茶に変えてみませんか ?


次は、運動に関連する2つの話題です。

⑥ やる気のない人を匂いを使って運動に誘い出せる可能性が見えてきました。

⑦ やる気のない人の動機付けになると嬉しい報告です。


次は、新型コロナに罹りにくくなるという2つの報告です。

⑧ 新型コロナのワクチンよりも、おたふくかぜのワクチンなら扱いが楽ですが。

⑨ 糖尿病治療の基本となるメトホルミンには、本当に多彩な作用があります。


最後は、個人的に興味を持った3題です。

⑩ TRPチャネルには実に多彩な働きがあるんですね。


 降圧剤としてACE阻害薬を使うことが多いのですが、ARBも見直さなくてはなりません。

⑫ 顔は自分のため ? 他人のため ? ということを伝えたいツイートなのですが難解な文章になってしまいました。

 ◆ 診療所ライブラリー 149 ◆


IBSサブタイトルに「IBSの治療はカンタン !」とあるので手に取った本です。
昔から過敏性腸症候群 ( Irritable bowel syndrome ; IBS ) に興味を持って接してきた私に言わせると、決して簡単な疾患ではありませんし、読んでも全くしっくりとしませんでした。

この著者の本「女はつまる 男はくだる」は、このシリーズで以前紹介しています。
この中で、欧米人に比べて日本人には大腸の走行異常が多く、それが便通異常に繋がっていると述べています。
これには非常に共感するところが多いのですが、それを今回の著書の中で「腸管形態型 IBS」と分類してしまっている点が気になります。

また、便秘型 IBSよりも通常の便秘の方が治療が難しいととれる記載がありますが、そんなことはありません。
この両者は、腹痛の有無と便の性状を聞くことでほぼ区別することができます。
しっかり鑑別できれば通常の便秘の方がはるかに治療がやさしいのです。
便秘型 IBSなのに、自己判断で市販の便秘薬を用いているにもかかわらず、排便に苦労している方が多いのが現状なんです。
一方、通常の便秘であれば、市販薬の頓服程度でも十分なケースが大半を占めます。
ちょっと古い記事になりますが、便の性状の分類については「ウンチの種類」、便秘型 IBSについては「過敏性腸症候群 その2」を参考にして下さい。

さらに、IBSの治療薬については、私が最も基本的に使う漢方薬については一切触れられていません。
IBSは診断がついても、治療にあたっては個々に応じた薬剤の組合せを見つけるのに非常に苦労し、決して「カンタン」なものではありませんが、漢方薬をベースにすると患者さんの治療満足度が全然違うのです。

苦言ばかりを呈しましたが、胆汁性下痢型 IBSにきっちり言及し、その治療法も示していることは評価できます。
平易な文章で書かれており、IBSや便通異常について理解するのにはいい本だと思います。
なお、胆汁と便通に関しては「胆汁酸をコントロールして便通改善 そしてメタボにも !?」を参考にして下さい。

♦♦♦♦♦

この本が出た時には、日本消化器病学会による「慢性便秘症診療ガイドライン」がまとまる前だったので致し方ないのかも知れませんが、便秘の分類で「直腸性」「けいれん性」「弛緩性」という日本独自の分類を用いて解説がなされています。

ここで現在の便秘の分類についてみてみたいと思います。
現在は、症状からは「排便回数減少型」と「排便困難型」に、病態からは「大腸通過正常型」「大腸通過遅延型」「器質性便排出障害」「機能性便排出障害」というふうに分類がなされます。
大腸通過正常型では、食物繊維を多くとることで症状が改善することが多く、大腸通過遅延型では下剤を必要とします。
器質性便排出障害は、女性にみられる直腸瘤などが原因で、手術を要する場合があります。
機能性便排出障害は、排便しようとすると逆に肛門が締まったり、肛門・直腸近辺の感覚が鈍ったりしているものです。



当院では、医療・介護・健康などに関する書籍を取り揃えて貸し出しも行なっています。
是非ご活用下さい。( → 当院の書籍の貸出しについて )

≪ 過去記事ウォッチング 21 ≫


先日、胆汁酸の働きを活用する全く新しい作用機序の便秘薬が登場しました。( エロビキシバット水和物 : 商品名 グーフィス )

♦♦♦♦♦

便秘胆汁酸はコレステロールを元に肝臓で作られる物質で、一度胆嚢に蓄えられます。
食事の刺激で十二指腸乳頭部から消化管に分泌され、脂質や脂溶性ビタミンなどの吸収に関わっています。
そして、回腸の末端部分で95%が吸収されて再利用されます。
しかし、胆汁酸が回腸を通り越して大腸に入ると、大腸管腔内に水分が分泌され、腸の動きが活発になり、その結果排便が促されるようになります。

下痢型の過敏性腸症候群の中に、胆汁酸の吸収障害が絡んでいるものがあるというのは、当ブログの
まだまだ奥が深い過敏性腸症候群」の中で紹介しました。
この胆汁性下痢では、主に朝食後の1~2時間後に下痢が起こり、逆に食事をしなければ下痢をしないのが特徴です。
夜間のうちにたくさん蓄えられた胆汁が、その日の最初の食事の刺激で分泌され、それが回腸で吸収できずに大腸に流れ込むため、便意を催すものと考えられています。
この病態には、コレスチミドという胆汁酸を吸着する作用のある薬を使うと下痢が速やかに改善するようです。
本来はコレステロールの薬なのですが、このように全く別の疾患にも応用されているのです。

エロビキシバット水和物もコレステロールを下げる目的で開発されたもので、回腸末端の上皮細胞にある IBAT ( ileal bile acid transporter ) の働きを阻害して胆汁酸の吸収を抑える薬です。
胆汁性下痢に似た状態を起こし、排便を促すわけですね。
そして、コレステロールを下げる名目はなく、便秘改善だけを目的として登場しました。

薬の特性上、食前に服用することが求められています。
食事の刺激で分泌される胆汁の吸収抑制をあらかじめ準備しておかないと、十分に効果が発揮できない可能性があります。

♦♦♦♦♦

実は、既存の薬でこの IBAT の働きを抑えるものがあります。
それは、糖尿病に使うメトホルミン
吸収されずにあぶれた胆汁酸で小腸のL細胞が刺激され、GLP-1 ( glucagon-like peptide-1 ) の分泌が促される結果、インスリン分泌の刺激になることがわかっています。
ですから、
エロビキシバット水和物も同様に血糖を改善させる可能性を秘めていると推測されます。
GLP-1には食欲を抑える働きもありますので、ひょっとしたらメタボにも・・。

♦♦♦♦♦

不安材料がないわけではありません。

① 副作用として腹痛が多いです。
添付文書上、発現率が19.0%となっています。

② 胆汁酸は細菌の細胞膜にダメージを与えることが知られていますし、大腸内の腸内細菌叢に変化を与える可能性があります。
元々、便秘やメタボの方は腸内細菌の多様性が低下していたり、構成が好ましいものでなかったりするようですから、それを改善するような方向に変化すればいいのですが。

③ 二次胆汁酸には発癌性があることが昔から知られています。
大腸に流れ込んだ胆汁酸が、腸内細菌によって二次胆汁酸に変化しますが、この二次胆汁酸が大腸粘膜の発癌のきっかけを作るイニシエーターやプロモーターとして働くとされています。
二次胆汁酸は、血糖や中性脂肪上昇に関与している可能性も指摘されています。
ただ、二次胆汁酸を作れ細菌の種類は限られ、複雑な菌の相互作用が必要とされていますし、胆汁酸を吸着するなどして体外へ排泄する手助けをしている腸内細菌もいるとか。
食物繊維などに二次胆汁酸を吸着する働きもあり、二次胆汁酸をそんなに恐がるものでもないと思います。


ちょっぴり懸念が残るものの、便秘以外にも可能性を秘めた面白い便秘薬が登場したものです。
 

 ◆ 診療所ライブラリー 142 ◆


恥ずかしがらずに便の話をしよう 佐藤満春前回紹介した「低気圧女子の処方せん」は気象予報士がメインで書いた本でしたが、今回紹介する「恥ずかしがらずに便の話をしよう」の著者はお笑い芸人でもあり放送作家でもある方。
トイレに関しての造詣が深いという著者による内容はいたって真面目で、医療関係者の記す専門用語をちりばめた堅苦しい文章ではなく、平易な言葉で書いてあるのでとても分かりやすいです。
もし私も何か医療関係の本を書くとしたら、このような文章を心がけたいと思います。

便や排便にまつわる一般的な解説がなされているのはもちろんですが、特に力点が置かれているのは第六章の「現代社会が抱えるうんこ問題」ではないでしょうか。
日本は便座や下水道の整備では世界最高水準にあるそうなんですが、その一方で「便育」という分野の遅れを著者は危惧しています。
排便というと、どうしてもネガティブなイメージを持ちがちです。
しかし、それを払拭して食べることと同じくらい尊い行為であると子供たちにしっかり学んでもらい、学校などでの排便をためらわない環境作りを提唱しています。
かく言う私も、学校で排便するとからかわれたりするので恥ずかしくてとてもできなかったのですが、日常的に排便を我慢することが習慣になると便秘につながっちゃいますしね。

他にも腸内環境の整え方やおしりの拭き方、介護現場での排便問題など非常に役立つ情報も多く含まれています。

♦♦♦♦♦

なお、本文中に「便秘の定義ははっきりしない」という項目がありますが、ちょうどこの本が発行された昨年秋に日本消化器病学会で「本来排出すべき糞便を十分量かつ快適に排便できない状態」と定義されました。
非常に単純明快なすっきりした定義ですよね。

 ◆ 診療所ライブラリー 125 ◆


♀大腸内視鏡検査では、苦痛もなくすんなりと内視鏡が入る人もいれば、全くその逆のパターンでつらい思いをさせてしまうこともあります。
経験上、腹筋の強くない方に内視鏡挿入困難例が多いようです。

機器が発達してきて、CTで大腸の形状が画像で捉えられるようになってわかってきたことがあります。
欧米の人は教科書通りの大腸の走行がほとんどなのに対し、日本人は横行結腸がだらりと垂れ下がっていたり脾彎曲部の位置が低い位置にあったりという走行異常が多いのです。
その走行異常が便通の不具合に関連しており、その部分をマッサージすれば便通が良くなると提唱するのがこの「女はつまる 男はくだる」の説くところとなっています。

特筆すべきは、安易な便秘治療を戒めている点。
日本では医師が便秘について詳しく学ぶ機会がないため、センナや大黄などの薬を安易に処方する傾向にあり、漫然と長期に使用する結果、便秘を悪化させているケースが多いのです。
私はそういう惨めな事態が生じないように適切な処方を心がけています ( 参考→「男女の違い その2」) し、過剰処方に陥っている人を何人も改善に導いています。

便秘に限らず下痢にお困りの方も、是非当院にご相談くださいね。

≪ 過去記事ウォッチング 15 ≫


2011020408481810371.gif先日「ためしてガッテン」で便秘の特集がありました。
その中で、便秘でないのに便秘だと思い込んでいるケースがあることが紹介されていました。
特に高齢の男性において便秘を訴えられる方が急激に増えてくることもグラフ化して示されていましたね。

1日1回は排便しなくては気が済まず、下剤を所望される高齢者について「加齢排便強迫症」と名付けて紹介したのが3年前に書いた「男女の違い その2」。
当時は、ルビプロストンという新薬が発売されていませんでしたので、既存の薬を組み合わせて適切な排便を促すことを解説しました。

既に下剤を乱用ぎみに使っている方に、便秘とは何かを理解してもらって減薬を進めていくのはかなり骨の折れる作業です。
でもちゃんと私の指示を守っていただいた方は、薬も減って排便に対する満足度も高まることは何度も経験済み。
自己流に便秘を解釈し間違った薬の使い方をしないためにも、遠慮なく当院にてご相談下さいね。

 ◆ 診療所ライブラリー 90 ◆


大便通最近、目に見えて増えてきているのが腸内細菌叢の研究。
腸に住み着いている細菌が人の免疫系を刺激したり、消化を助けることで健康を左右することが分かってきています。

便の研究の第一人者が一般の人にも分かりやすく語りかける本書。
日本人の特に若い女性の「腸高齢化」が深刻で、便通は自分でデザインするもの、すなわち生活習慣や食事に気を使って腸内細菌のバランスを整えることだと説いています。
このブログやツイッター等でも常に和食の素晴らしさや運動を心がけることなどを情報発信していますが、便の研究を通じても日本人のライフスタイルが危機的であることが理解されます。

個人的には、1970年代にフランスで潰瘍性大腸炎に便移植を実施していたことを学べたことが収穫。
偽膜性腸炎という疾患に便移植がかなり有効だとする報告がこのところ増えていますが、どこからそういう発想を得たのか不思議に思っていた理由が氷解しました。

腸内細菌叢の研究は今後益々発展し、我々に大きな利益をもたらすことになるでしょう。

 → 大便通

♦♦♦♦♦ 温水で肛門を洗い過ぎることの弊害 ♦♦♦♦♦

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患者さんから聞いて初めて知ったのですが、最近の洗浄付き便座には「便意リズム」というボタンがあるようです。

最近、家電が売れない世の中になってきたせいか、メーカーが何らかの付加価値をつけて物を売ろうとする必死の姿が伝わってきます。
しかし、肛門を温水で刺激して排便が促されるというのは科学的に根拠はありません。
体には排便反射という仕組みがあるのですが、直腸の内圧が高まる結果生じる反射です。
肛門が刺激されるたびにいちいち便意を催していたら、日常生活が大変じゃありませんか。

体温より高い温水で過剰にお尻を洗っていると「温水便座症候群」と呼ばれる肛門周囲の炎症を起こす場合がありますので十分ご注意を。
10秒以内の短時間なら問題ないとされていますが、必要以上に洗うと、皮脂を洗い流してしまいます。
皮脂が失われると乾燥して炎症を起こしやすくなります。
肛門も含め皮膚には常在細菌がいますが、これも皮膚を守るバリアとしての大切な役割があります。

私は、排便後に洗い落とすという本来の目的でしか使いません。
ちなみに、冬の寒い時期でも常温の水を使っています。
暖い時期から使っていれば慣れますし、逆に温水の方が気持ち悪く感じるようになります。

また、強く拭き過ぎるのも問題です。
表面を傷つけ、刺激物質や細菌の侵入を容易にしてしまいます。
洗い流したら、力を入れないで水気を取り除くだけにして下さいね。
肛門だって自分の体の大切な一部なんですから、やさしく拭いてあげて下さい。


♦♦♦♦♦ 便意を促すマッサージ ♦♦♦♦♦

ツボ便の貯留してるS状結腸付近にマッサージを施すと、便意を促すのに有効なことがあります。
私の子供たちが赤ん坊の頃、しばらく便が出ない場合に使った方法を紹介しておきます。
その名も「ウンチが出る出るマッサージ」。
おへその左下付近を1-2分軽くさすってやると10分もしないうちに排便がみられましたよ。
よくよく調べてみると、天枢大巨と呼ばれる便秘のツボがあって昔から活用されているようですね。
ツボを指圧して寝たきりの方の排便の一助にしているという報告もあります。( → こちら )
過敏性腸症候群に対して腸管のねじれた部位をマッサージすることを臨床に取り入れている先生もいます。 

排便に苦労しているのなら、水や電気を無駄遣いするより、とりあえず自分のおなかをさすってみてはいかがでしょうか。
全くコストはかかりません。
それでもダメなら、便秘薬を上手に活用することをお勧めします。( → 参考 )

排便力 ◆ 診療所ライブラリー 76 ◆ 


以前、便秘薬を大量に服用して毎日排便しないと気が済まない男性の話を書き、下剤について解説をしたことがあります。( → 「男女の違い その2」)
この本の中でも「下剤依存症」と称して、主にセンナ系の薬剤が手放せなくなる人が増えていることに警告を発し、
排便力を高める日常生活の過ごし方を身に付けながら下剤依存症からの脱却を目指すレクチャーがなされています。
下剤は比較的手に入りやすいですが、安易な使用を続けるととんでもないことになることが理解していただける本ではないでしょうか。
まあ、医師も各種下剤の特徴を十分に理解しないままに安易に処方しているケースが多いように思うんですけどね。

この本でも批判していますが、大腸内視鏡の分野で高名だった先生がコーヒーエネマなるものを喧伝していることにはとてもがっかりします。
浣腸という便秘に対する行為は非生理的な最終手段です。下剤の力をちょっと借りながら正しい知識を持って自然な排便が出来るようにしてください。

  → 「排便力」が身につく本

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「加齢排便強迫症」とでも名付けてしまいましょうか・・・。
どうしても1日1回は便が出ないと気が済まない。
そのためにあらゆる手段を講じる。
そういう人が不思議なことに高齢の男性に圧倒的に多いようです。
話を聞いてみると、水様の便で1日に何度もトイレにいっているにも関わらず、大量の下剤を飲んでいるのです。
そこまでして出す必要がどこにあるのか、と聞いてみると必ず返ってくるのが「今日出なかったらどうしてくれるんだ」といったような内容の言葉。

年をとると大腸の運動機能が若い頃に比べて低下するため通過時間が長くなり、その分余計に水分が吸収されてしまい硬い便になりがちになります。
また直腸や骨盤底筋群の働きの衰えで、踏ん張る力も落ちてきます。
若い頃は毎日のように出ていたのに・・・、気持ちはわかりますが若い頃とは違うのです。
女性でも同様のことが起こっているはずですが、比較的若い頃から便秘の方が多いせいか、男性のように排便にこだわる人はめったに見かけません。

センナ系の薬は即効性が期待できますが、連用していると効きが悪くなり徐々に使用量が増えてしまいます。
中国最古の薬学書である神農本草経では、センナの成分を含む大黄を長期に連用してはならない品目に分類しています。
まずお勧めするのは酸化マグネシウム
これは便の中に混じり込んで水分を保持し、便を柔らかい状態に保ちます。
また、麻子仁丸、潤腸湯、大建中湯などの漢方薬も高齢者にはお勧め。
新レシカルボン坐薬は挿肛すると腸の中で炭酸ガスを発生し、直腸を刺激することで排便を促します。
炭酸ガスと聞くと体に悪いのではと思われるかもしれませんが、腸からの吸収が早く血液を介して呼気に逃げていきます。
最近は、苦痛軽減目的で大腸内視鏡検査時の送気に炭酸ガスを使う施設が増えてきています。

これらの薬を組み合わせ、センナ系薬剤はあくまで頓服で利用するようにして程よい硬さの便が出るように調節していきましょう。

  << 宿便について考える 第九回 >>


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このシリーズの初回

 ① 宿便性潰瘍という名称の疾患がある
 ② 有名出版社から出ている看護師向けのコンパクトな本に「宿便の正体は ?」なる項目がある
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つける

ということを書きながら、何の説明もしていなかったので今回はその話です。

♦♦ 宿便性潰瘍という疾患

まず ① の宿便性潰瘍について。
これは、頑固な便秘や腸の閉塞が元で硬くなった便によって長時間大腸の壁が圧迫される結果、虚血状態となり潰瘍を生じるものです。
20年以上臨床に携わっていますがまったくお目にかかったことのない希な疾患です。

さて、この疾患、英語で " Stercoraceous ulcer " と言うようですが、この " stercoraceous " とはどういう意味でしょうか。
調べてみると " consisting of, resembling, or pertaining to dung or feces " とか " consisting of or relating to excrement " とあります。
「便に関連した」と言う意味合いで、直接的に便秘を表現したものではないようです。
さあ、これを誰が「宿便性」と日本語に訳したのでしょうか。
これはさすがにたどり着くには至りませんでした。
この疾患はあくまでも硬い便で腸壁が長く圧迫される結果起こるものです。
ですから、訳した人は宿便という言葉を「腸の壁にこびりついた便」という、現在誤って流布されているような状態とは全く考えていなかったこともわかります。

♦♦ 看護師向けの本なのに、とんでもないことが…

② の本に書かれている内容について。
ここには
「宿便とは、腸管内容物が何日も腸壁にべったりと張りついたり、腸管の蠕動運動の障害によりたまった古い便のことで、腸腺窩にのり状にくっついている消化吸収されたあとの残りかすである。高熱や脱水などで起こりやすい」さらに「宿便をとるためには、輸液や腸洗浄を行なう」と書かれています。
( ナースのための図解からだの話 p 92 )
ここに定義されているような宿便はあり得ないと既に説明しました
さらに、腸洗浄としてイラストで書かれているのは高圧浣腸と呼ばれるものなのです。
この浣腸は「私は宿便です。治療してください」と言われてやるような類いの医療行為ではありません。
通常の浣腸よりは大腸の奥の内容物を排泄できるため、成人においては大腸の検査前に行なうケースが以前はあったようですが、現在ではそんな前処置はしません。
また、宿便というものが先の「宿便性潰瘍」のような状態を指すのであれば、浣腸が原因となって腸管を穿孔させてしまう危険があるので絶対にやってはいけません。

医療関係者の書いた本でも間違いは多々あります。
特に専門外領域について書く場合、他の著書を参考にしたりすると、その本に書かれている内容が随分古くて今では否定されているようなものであったりします。
それを知らずに、そのまま引用して書いてしまうこともあります。
とある専門学校にて臨時で内科学を教えた時、そこで使用していた教科書の消化器の分野に誤った記載があちこちにあってびっくりしたものでした。

また、デトックスだ、腸内洗浄だと称して浣腸器具が売られていますが、浣腸を繰り返していると浣腸のような強い刺激でないと便が出なくなってしまいます。
死亡例も出ていますので、無謀で野蛮な行為はやめましょう。( 参考 http://www.supplerank.com/health_care/onai_contents/01.html )


この「宿便について考える」というシリーズ、数回で終わらす予定だったのに、今回で九回目。
書き始めて半年に及んでしまいましたが、いよいよ次で「宿便」とは何かに迫ってみたいと思います。
宿便の正体にたどり着くヒントは初回に紹介した
 ③ ある漢方薬の効能及び効果の欄に宿便の文字を見つけるに至り・・・
にあったのです。
次回へ


宿便について考える 第八回 「過敏性腸症候群の治療薬」
宿便について考える 第十回 「宿便とは」

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