野口内科 BLOG

  鹿児島市武岡に開業して43年の野口内科です。
  医療・健康に関する情報はもちろん、近隣の話題、音楽・本のことなどを綴ってまいります。

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内視鏡

病院で受ける検査は、痛みやつらさを伴うものが多く、心理的にも肉体的にも負担の大きいものです。
最近得た情報の中には、そういう苦痛を回避できるように様々な研究がみてとれるものがいくつかありましたので紹介してみます。

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インフルエンザ検査まず、インフルエンザの診断について。
現在は、鼻やのどの奥に綿棒を入れる検査がほとんどです。
不快感や痛みが伴い、検査をする我々もくしゃみをまともに浴びる等のリスクが付きまといます。
今回、鹿児島大学から発表があったのは唾液を使った検査です。
2014年には手法が確立されていたようですが、今冬に臨床試験を始め、来年度中には保険適用を目指すそうです。
唾液を取るだけなので負担は少なく、検査感度も従来法より1~50万倍あるとか。
安価で普及することを期待したいですね。( 参考記事 → こちら )

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自己血糖測定次に、血糖測定について。
血糖はどうしても血液を調べなければなりません。
インスリンによる治療を受けている方などは、自分で調べる必要もあります。
この負担を軽減しようと、NTTが研究中なのが、電磁波を用いた方法。( → こちら )
皮膚に機器を押し当てて、グルコース成分に特有の周波数の電磁波を照射することで血糖値を推定するというものです。
機器が小型化できて、安価になればいいですね。

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最後は、超音波を用いたバーチャルレンズについて。
詳しく読み込んでいませんが、侵襲的な内視鏡検査にとってかわる可能性がある、と研究者は報告しています。( → こちら )
内視鏡は覗いて観察するだけではなく、治療にも欠かせない道具になっていますから、後者を代替するのは困難だと思います。


少しでも苦痛のない検査法を目指して、様々な研究が地道に行なわれているのは嬉しいことですね。

 

ローズゼラニウム〖 今月のつぶやきから 83 〗


昨年の今頃から今年の2月末までずっと寒い日が続いて辛かったですが、今冬は暖かいと予想されています。
そのせいか、インフルエンザも散発的にみられるだけにとどまっています。

ツイッター上でつぶやいた様々な情報を月末にピックアップしてお届けする「今月のつぶやきから」。
今回は9つの話題をまとめてみました。

まずは、アロマに関する話題を私の旅の思い出を絡めて。

① 最初に興味を持った香りがラベンダー。
富良野に行った時にラベンダー摘みの体験をしたのがきっかけで、自宅の庭にも2種類植えています。

② 31年前にブルガリアを訪れた際にお土産にしたのがバラのエッセンスでした。

③ 新婚旅行先のチュニジアでは、各家庭でゼラニウムウォーターを作ります。
荷台いっぱいにゼラニウムを積んで走るピックアップトラックを見た時は驚きました。


次に食べ物に関する話題です。
三大栄養素をどういうバランスで摂るべきなのか、多角的に捉えていく必要がありそうです。

④ 朝食は大事です。
親の都合や早起きができない等の理由で、子供の朝食を摂る機会を損ねてはいけません。

⑤ 脂肪、炭水化物と、大きなくくりでまとめるのは好ましくなさそうですね。

⑥ 糖質制限食は寿命を縮めるという報告がありました ( → こちら ) が、今回は高炭水化物食の恩恵についての報告です。

⑦ 果物や野菜をたくさん摂ろうとしてスムージーにするのは好ましくないはずです。
そのままで食べましょう。


最後は、口にくわえるものの話題。

⑧ 大人の口腔内の細菌叢を赤ん坊に与えることになるわけですね。

⑨ 上部消化管内視鏡は、嘔吐反射が軽減されるだけで随分楽な検査になるのです。

 ● 薬の説明書のイラスト 295 ●


11月は鏡に関する記念日が2つあります。
まず11日に「鏡の日」があり、30日に「いい鏡の日」があり。
前者は全日本鏡連合会が11月11日の対称性に着目して制定したもので、後者はいい ( 11 ) ミラー ( 30 ) という語呂合わせみたいですが、調べてもどのような経過で制定されたのかわかりません。

医療の現場では「鏡」と名の付くものがたくさんあります。
私が普段使う内視鏡はもちろん、腹腔鏡、耳鏡、額帯鏡、喉頭鏡‥。

ところがです。
歯科医の使う歯鏡は鏡に間違いありませんが、上に記したものは鏡とは似ても似つかぬものばかりなのです。

内視鏡や腹腔鏡は、細長くしたビデオカメラのようなもの。
耳鏡は、外耳や鼓膜を観察する道具で漏斗形をした金属に過ぎません。
額帯鏡
額帯鏡は、医師を表現するイラストでは聴診器と並んで描かれることの多い医療器具ですが、使用するのは耳鼻科の先生だけ。
円形の部分は確かに鏡のようになっていますが、光源を反射させて見たい部分を明るく照らす道具です。
光を思い通りに患部に当てるのにはコツと慣れが必要で、私は全く使いこなせません。

喉頭鏡は気管内挿管の際に用いますが、気管内チューブを確実に気管へ挿入するためのガイドの役割をする器具で、鎌のような形をしていて、鏡の役割は全くありません。

いずれも英語で「scope」という語尾が付きます。
見るための器具、というのが的確かと思うのですが、なぜか「鏡」という字があてがわれています。

何はともあれ11月後半の薬の説明書のイラストはです



kagami

消化管内視鏡の手技をトレーニングするロボットの「mikoto」のニュースを目にしたのは 3月のことでした ( → こちら ) 。
下手な操作をするとオエッとえずくなど、被験者の反応をリアルに再現できるんだそうです。
今回、実際に訓練をしている場面を映した動画を見つけました ( → こちら )。
内視鏡挿入の技術を習得するのにとても心強いように思います。

内視鏡私が内視鏡を初めて触った当時に勤務していた医療施設では、まだファイバースコープが使われていました。
光ファイバーが内視鏡先端で得られる画像を手元に届ける仕組みのやつです。
今ののCCDやCOMSイメージセンサーを使った電子スコープと違って、片目で接眼レンズを見ながらの観察になるので、基本的に術者しか画像を見ることができませんでした。( 接眼レンズ部分に接続するレクチャースコープというのがあって、一人だけは同じ画像を見ることができましたが、これを接続すると重くなるし、動きが制限されるため、検査中の最初から最後まで使用するのは困難でした。)
傍から見ていてもどうやって内視鏡を飲み込ませているのか、どこをどういう風に観察しているのか、さっぱりわからないのです。
で、どうやって手技を学んでいったかというと、最初のうちは内視鏡の挿入は先輩医師にやってもらい、観察及び写真撮影を覚え、ある程度できるようになったら、挿入もさせてもらうという形でした。
最初のうちは患者さんを苦しめたのではないかと思います。

今は電子スコープのモニター画面をみんなで見ながら検査を進めて行きますし、手技習得も以前よりは楽になっています。
内視鏡処置の介助もものすごく楽にできます。
以前からマネキンの練習台はありましたが、この「mikoto」君の登場で、更に便利になりそうです。
しかし、紹介したサイトの動画で使われているのは昔ながらのファイバースコープですね・・・。

  ○○ 学会レポート2013 その2 ○○


除菌今回の消化器病学会、参加できたのは初日だけでしたが、貴重な情報を多く得ることができました。

午前中に聞いたのは「HP除菌後の病態と対応」。
HP とはヘリコバクター・ピロリのことです。
日本でピロリ菌除菌が保険適用されたのが2000年11月のことでしたから、12年余の歴史がありますが、除菌後の消化管の病態変化について長期にわたるデータがかなり蓄積されてきました。

除菌すれば胃癌はかなり防げるのですが、ゼロとはならないことが知られています。
除菌が高齢で行われた場合、萎縮が強い場合、胃潰瘍がある場合、腸上皮化生がある場合などでリスクが高いことが報告されていました。
また、除菌後10年を越えて胃癌を生じたケースもあることなどから、除菌後5-8年までは毎年、その後は隔年で内視鏡検査をすべきではという提案もありました。
除菌後の適切な胃の検診のタイミングについて、やがて意見が集約されることでしょう。

また、除菌による酸分泌上昇により懸念される逆流性食道炎についての演題もありました。
内容については省略しますが、提示された内視鏡写真について一言。
学会で発表される胃の内部の写真は胃液などの付着のないきれいな物が多いのに、逆流性食道炎の診断に重要な食道胃接合部の写真はお粗末な限り。
あれじゃ正確な診断はできないでしょう、と場末の内視鏡医が嘆いてしまうようではだめです。

参考 → 胃食道逆流症の検査には経鼻内視鏡 

高齢者昨日は敬老の日でした。

日頃行なっている内視鏡検査でもご高齢の方を担当する機会が多いのですが、以前住んでいた神戸では89歳の上部消化管内視鏡検査が最高齢でした。
ところが鹿児島に帰るとあっさりその記録を更新し、上部では103歳、下部では100歳の方の検査を経験させていただきました。
鹿児島にはただ年齢を重ねているのではなく達者でおられる方が本当に多いなと日頃感じています。

さて、平成23年度の人口動態統計において日本人の死因の第三位に肺炎が躍り出ました。( → 参考 )
これまで50年以上にわたって死因の上位を占めていた悪性新生物・心疾患・脳血管疾患の三大疾病の一角が崩れたのです。
特に90歳代の男性では肺炎が第一位なんですね。
10月からはインフルエンザの予防接種が始まりますが、肺炎球菌ワクチンとの併用が有効であるという検証が積み重なってきています。( → 参考 )
ご高齢の方々が防げる病気で健康を損なわないためにも、ワクチン接種をお勧めいたします。

元気な胃先月末にピロリ菌の除菌療法について、胃炎の段階でも保険適用がなされるように製薬メーカー各社が申請を出したというニュースがありました。
これは嬉しいニュースです。
今のところピロリ菌の感染が確認できても、胃や十二指腸潰瘍がある場合、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌内視鏡治療後胃でないと保険が使えないのです。( → 参考 )

日本人の胃癌の9割はピロリ菌が原因とされています。
つまり、ピロリ菌が日本人の胃からいなくなれば胃癌の発症は今より10分の1に減ることになります。
内視鏡検査が日常的に行われている現在、 我々は早い段階で癌を見つけて可能ならば内視鏡治療を行なって胃を切除しなくてすむように努力しています。
でも将来、こんな努力もしなくてもいい時代が来るのかも知れません。
もしかしたら胃の内視鏡検査自体もあまり行われなくなるかも。

とにかくピロリ菌感染胃炎段階での治療が実現することを望みます。


話は変わりますが、業界用語で「保険適応」と「保険適用」という言葉が混在しています。
昔は前者がよく使われており私も何の疑問もはさまずに使っていましたが、日本語として正しい後者を最近よく見かけるようになってきました。
お役所のほうでしっかりと用語の統一を図ってもらいたいなと思います。

ついでに言っておくと「癌」と「がん」は実は使い分けがあるようで、特に年配の先生方はしっかり区別されています。
しかし最近は「ガン」と表記するケースもあり、知らない方も多いようです。
どういう使い分けかは自分で調べてみましょう。

かとり02内視鏡を胃まで入れてみると、消化途中の朝食の残渣の上に緑色の細かい粒がふりかけのようにまぶされていた・・・先頃経験したご高齢の症例。
この方、ある人が自宅を訪ねて行ったら、ちょうど蚊取り線香をおいしそうに頬張っておられたそうです。
それで慌てて病院を受診され、検査と相成った次第。

時折、口にした異物を内視鏡で除去する作業を行うことがあります。
一番多いのは薬をPTP包装ごと飲み込んでしまうもの。
最近は包装が1錠ごとに切り離せなくなっているのでめっきり減ってきましたが、包装の角で食道等を傷つけないように取り出すのに気を使います。
乾電池とか魚骨などもよく見かけますが中にはスプーンを飲み込んじゃったという信じられないようなケースもあったりします。

今回の蚊取り線香は内視鏡を長くやっている中でも全く初めての経験でしたが、検査前の予想通り粉々になっていて取り出せるような断片は一つもありませんでした。
調べてみると基本的に人体に害はないようなので、そのままご帰宅となりました。

高齢化が進むと思わぬものを内視鏡で取り出さなきゃいけないケースも増えるかも知れませんね。

出血性潰瘍  ○○ 学会レポート2011 その1 ○○


循環器科や脳外科では、心筋梗塞や脳梗塞の再発予防に低用量アスピリン ( LDA ) を処方することが当たり前になってきています。
正式に保険適応となったのが2002年からですが、それ以降内視鏡医を悩ませているのが消化管粘膜障害です。
アスピリンを処方する際に、Proton Pump Inhibitor ( PPI ) と呼ばれる胃薬、せめて H2 blocker と呼ばれる胃薬でも併せて処方してもらっていると有り難いのですが、粘膜障害の予防に役立たない防御因子増強剤が処方されているケースがかなり目立ちます。
PPI には「非ステロイド系抗炎症薬 ( NSAIDs ) 投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」という目的で昨年から使用可能となったのですが、まだまだ消化器医以外の認識が不足しています。

そういう事情を踏まえてのシンポジウムが先日開かれた DDW であったのですが、その中で興味あるものをご紹介します。

まず、胃粘膜障害低減を目的として、アスピリン腸溶剤 ( バイアスピリン ) という薬がアスピリン緩衝剤 ( バファリン81 ) よりも処方される割合が高くなってきています。
しかし、胃粘膜障害には両者に差はなく、逆に小腸粘膜障害 ( 疑い例も含む ) が腸溶剤で圧倒的に多いという報告がありました。
カプセル内視鏡やダブルバールーン内視鏡で小腸を画像診断できるようになったことが大きいと思いますが、これまで副作用が少ないとして腸溶剤が普及してきたことに警鐘が鳴らされるものでした。

また、大腸憩室出血患者の症例が2004年ごろから急速に増えてきていて、その中で LDA を原因とするものが 38.7% もあったとする報告もありました。

LDA を内服している人で内視鏡的止血操作を必要とする頻度はそれほど多くはないのですが、LDA 療法が定着して以降確実に増加していますし、LDA を内服していることで止血に難渋します。
大腸憩室出血に至っては出血部位の同定に苦労し、内視鏡医は1時間も2時間もその処置のために拘束されることになります。
ですから、LDA  や NSAIDs を処方する際は PPI を躊躇なく使うようにしていただきたいものです。

217年ぶりに福岡で開催された、日本消化器関連学会週間 ( JDDW ) に行ってきました。
20日から23日までの4日間の開催ですが、今回は都合により初日のみ参加。
私自身2007年の学会に4日間フルに出席して以来となりました。

私が研究生活をしていた時代はピロリ菌の演題が花盛りでしたし、前回の福岡での開催の時はダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡の登場で小腸の内視鏡検査の黎明期でしたけれど、現在の消化器の分野には目玉となるトピックスに乏しいことは否めません。
事実、魅力のあるプログラムがあまりなく、それがフル参加に二の足を踏んだ理由です。
それに、2004年度から始まった新臨床研修制度は医療崩壊の引き金になったとされますが、大学に残る医師が少なくなり大学院生も集まらずに研究分野にもかなりの支障が出ているようです。
そのせいなのか、演題の質がかなり低下しているような気がします。
この程度の内容で演題として取り上げられるんですか・・というものが散見されました。

それでも勉強になったものがいくつかありましたので時間のある時に紹介していきます。

  << 出血をきたす消化器疾患 第6回 >>


2011100310151718350.gif主題からは少し話がそれますが、触れておきたいことがあります。
それは鉄欠乏性貧血ピロリ菌の関係についてです。

ヘリコバクター・ピロリは、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因になっていることはご存知だと思いますが、特発性血小板減少性紫斑病という血液疾患にも関与していることが示唆されており、昨年からは除菌療法の保険適応疾患に加わっています。

ピロリ菌の感染と鉄欠乏性貧血の関係についてのレポートも相次いでいます。
特に小児や10代の若年者で鉄剤の投与でも治療の難しいケースで、除菌をすることで貧血が改善するという報告が多いように思います。
中には鉄剤を投与せず、除菌するだけで貧血が治ってしまったという例もあります。

感染によりラクトフェリンという物質が胃の中で増えていることとの関連やピロリ菌が鉄を横取りして生きているのではないかということが言われています。
しかし、保菌者が必ずしも貧血になるわけではないので、ピロリ菌による鉄欠乏性貧血についてはまだまだ研究り余地がありそうですね。


なお、新しい情報はこちらに。→ 貧血と脳貧血を混同して生じている誤解


  参考 → http://www.kyodo.co.jp/kkservice/byouki/





  << 出血をきたす消化器疾患 第5回 >>


2011091615225431721.gif1980年代初頭までは、胃・十二指腸潰瘍は治療の難しい疾患でした。
出血や繰り返す潰瘍、そして繰り返した結果十二指腸などによって狭窄を来した場合は外科的手術の対象でしたし、胃癌の際に「潰瘍ですから切りましょう」といったウソが通用した時代でもありました。
その後、H2ブロッカーPPI ( proton pump inhibitor ) といった酸分泌抑制薬の登場やピロリ菌と潰瘍の関連がわかり、胃・十二指腸潰瘍は基本的に薬で治る疾患になりました。

食道静脈瘤同様に昔に比べて減ってきているとはいえ、ひとたび潰瘍から出血すると緊急を要し、内視鏡医の出番が回ってきます。

潰瘍ができると必ず出血するわけではありません。
潰瘍の底にたまたま太めの血管が通っていてそれが破れて出血、というのが典型的なパターンです。
出血源を見つけてそこへ止血操作を施すのが我々の仕事ですが、一筋縄ではいかないのが臨床です。
胃の中が血液だらけで取り除かないと出血部位の特定ができないのに、血液の一部が固まっていて内視鏡の吸引口を詰まらせて作業が立ち往生するというようなことはしょっちゅうです。
出血源を特定したら止血操作。
クリップをかけたり、純エタノールや高張ナトリウム・エピネフリン液を注射したり、焼き固めたりという方法でほとんどの場合は血を止めることができます。

  << 出血をきたす消化器疾患 第4回 >>


肝不全に陥ったり、肝癌へと進展していったりするのと同じくらい、食道や胃の静脈瘤は肝硬変治療の問題点。
ひとたび血が噴き出すと生死に関わる大量の出血をきたすので、内視鏡医が最も緊迫感を強いられる疾患です。

SB.gif食道静脈瘤に対してその昔は、Sengstaken-Blakemore チューブなるものを活用して止血を期待するというのが唯一といっていい治療法でした。
右の写真をご覧下さい。
二つの風船が付いていますが、細長い方を食道部分で膨らまして出血部位を圧迫するわけです。
もう一つの丸い風船は胃の中で膨らませ、位置がずれないように利用します。
この仰々しいチューブを鼻から入れられる患者さんの苦痛も大きく、このチューブで長時間圧迫していると食道の壊死を起こしかねないので、本当に一時しのぎの処置法に過ぎませんでした。
内視鏡医のいる施設では、もはやこの道具の出番はほとんどないはずです。

EVL2.gifやがて、内視鏡下に静脈瘤部分に血管を固めてしまう薬剤を注射する方法が編み出されます。
内視鏡的硬化療法 ( Endoscopic injection sclerotherapy : EIS ) と言い、若干の合併症が懸念されるものの静脈瘤の消失率に優れます。
更に内視鏡的食道静脈瘤結紮術 ( Endoscopic variceal ligation : EVL ) という方法も考案されました。
これは内視鏡下に静脈瘤を輪ゴムで縛ってしまうものです。
左の写真の青いのが静脈瘤を縛りつけた輪ゴムです。
この処置を行なうと、静脈瘤がしばらくの間小さくなって出血リスクが遠のきます。
EIS に比べて操作が簡便なので、EVL で手っ取り早く処置してしまうことも多いのですが、将来にわたって根治できる保証があるわけではありません。

内視鏡処置以外の方法もあり、昔に比べて選択肢が増えてありがたいことです。
私の親類も昭和の終わりに食道静脈瘤からの出血で亡くなったのですが、あと数年違ったら運命が全く違っていたことと思います。

しかし、胃・食道静脈瘤に対する処置を行なう機会は随分減ってきました。
原因となるB型やC型肝炎に対する治療が進歩したことや、輸血などの医療行為で肝炎ウイルスに感染することがほぼ無くなり、日本人に多かったウイルス性の肝硬変が減少してきた結果、食道静脈瘤も減っているからです。

  << 出血をきたす消化器疾患 第3回 >>


Mallory_Weiss.gif出血をきたす消化管出血としてまず、Mallory-Weiss ( マロリー・ワイス ) 症候群 ( 以下 MWS ) を取り上げます。
名前だけ聞くと、仰々しく一体どんな疾患かピンとこないと思いますが、嘔吐などで腹腔内圧や食道内圧が上昇することで食道と胃の境界付近の粘膜に裂け目ができて出血するという病態を言います。
最初に Mallory と Weiss によって、飲酒後の嘔吐に引き続き吐血した患者、15例を調べたら食道胃接合部の裂傷が原因だったと報告したので彼らの名前がついているわけです。
発表されたのは1929年。
当時は内視鏡なんかありませんから、解剖結果によるレポートになっています。

このシリーズでは、医学知識の変遷についても考察していくつもりですが、この MWS も格好の材料です。
というのも、彼らが最初に発表した論文が、飲酒に絡む患者の剖検例だったため、私が学生時代に使っていた朝倉書店の内科学、第四版では「大量飲酒後の悪心・嘔吐に引き続いて吐血をきたす疾患である」とあたかも飲酒が引き金であると断定して書いてありましたし、大学の講義でもそのように教わりました。
検査をして MWS が発見された場合、必ず飲酒をしたかどうかを聞くのが常だったのです。
アルコールで粘膜が脆弱になるのが原因なんじゃないか、なんて言っていた先輩医師もいたくらいです。

しかし、私が初めて遭遇した MWS はソバを食べた後に嘔吐した症例でした。
結局飲酒後に限らず、嘔吐を契機にして傷が入れば生じる疾患なのです。
これは、内視鏡検査が普及して容易に診断が下せるようになったことが大きいと考えます。
軽症例もたくさん発見できるようになり、決して珍しい疾患ではないこともわかってきました。
内視鏡検査時に激しくオエオエして、それで MWS を生じることも無きにしもあらずなんです。

ほとんどの場合、放ったらかしておいても自然に治ってしまいますが、まれに止血操作を必要とすることもあります。

写真の解説をしておきますが、右上のものは典型的な飲酒後の嘔吐で生じたもの。
中央が胃の入り口である噴門で、2時の方向にある傷から出血しています。
検査中は左側臥位になるため、反対側 8時の方向に流れた血液が溜まっているんですね。
( 方向の見方については「逆流性食道炎の内視鏡写真」を参照して下さい。)
この症例は特に処置をしませんでしたが自然に治りました。

MW03.gifもう一つ、左の写真はたまたま検診時に発見した傷跡を写したもの。
5時の方向にある白い細長い筋がそれで、治りつつあるところです。
「何日か前に血を吐きませんでしたか ?」
「そういえば、酔って吐いた時、血が混じっていたような・・・」
本人さん、記憶が曖昧でした。
病院に来なくても自然に治ってしまうということですね。

  << 出血をきたす消化器疾患 第1回 >>


2011062423524230491.gif吐血や下血などの消化管出血を扱うのは内視鏡医にとっては決して珍しいことではありません。
今年だけでも何例か経験し、内視鏡を使っての緊急的な止血操作を行なっています。

1960年代だと、胃や十二指腸潰瘍からの出血に対しては手術を行なうことがほとんどだったのですが、薬物や処置具の開発とともに内視鏡を用いた止血法が普及するに至り、今や外科の出番は皆無に近い状態です。
潰瘍とピロリ菌の関わりがわかってきてからは、その対策が確立されたことやピロリ菌感染率の低下などもあって潰瘍そのものの数が減ってきているのですが、止血を目的とした内視鏡処置の出番はまだまだあります。

消化管から出血をきたすのは、何も潰瘍だけとは限りません。
毎年何らかのテーマを決めて消化器疾患を取り上げていますが、今回のシリーズでは食道から大腸まで出血や貧血を引き起こす代表的な疾患についていくつか取り上げていこうと思います。


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