野口内科 BLOG

  野口内科は鹿児島市武岡に開業して46年を迎えました。
  当ブログでは、当院からのお知らせ、医療・健康に関する情報の他に、近隣の話題、音楽・本のこと等を綴ってまいります。

    診療時間 午前  9:00〜13:00
         午後 14:30〜18:00 (金曜は〜18:30)
    休診   日曜・祝日・木曜午後
    電話   099−281−7515
    住所   鹿児島市武岡二丁目28−4
    院長   野口 仁

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医学部

最近新聞に載っていた記事を2つ並べてみましょう。


まずは、8日の新聞に載っていた「日本の医学部卒業生、人口比最少」という記事。
日本は人口10万人あたりの医学部卒業生数が、比較可能な35カ国のうちで最も少ない ( 6.8人 ) ということ ( 最高はアイルランドの24.9人 ) と、医師に占める55歳以上の割合が37%で平均 ( 34% ) よりも高いというものでした。
更に女性医師の割合についても最低の21%と平均48%の半分以下だったようです。
( 最高はエストニアとラトビアの74% )

もう一つは7日に掲載された「鹿児島市立病院で違法残業」というニュース。
労使間協定で「月45時間以上の残業は年6回まで」という労使間協定を超える違法残業をしていた職員が28人もいたとか。
そこで「月80時間以上の残業を年10回まで」と改めたそうです。( 改悪なのか現実に即したのか‥?? )


医療スタッフ先月の診療所ライブラリー「病院は東京から破綻する」で、国は予定通りに医学部の定員を増やす気配がないことや、医師の献身的な残業で医療現場が成り立っていることなどを書いたばかりでした。
医師が増えると医療費が更に増えるという考えがあるようです。
しかし、もう少しゆとりを持って医師が働ける環境がないと、国民の健康を安心して維持できないのではないでしょうか。

現在、全国には82の医学部があります( 防衛医科大学も含む ) 。
医学部人気は相変わらずで、入るのに敷居が非常に高い状態が続いています。

医師以前から地方の大学に都会出身の学生が押し寄せて、卒業すると都会に戻っていくので、地方での若手の医師確保が問題になっていました。
それを解決する手段の一つとして「地域枠」という制度があります。
これは、地域の医師確保を目的に都道府県が大学医学部の学生に奨学金を貸与する制度で、特定の地域や医療機関に計9年勤務すれば奨学金の返還が免除されます。
鹿児島県でも、既にこの地域枠から誕生した医師が県内各地で活躍しています。


先日、お隣の宮崎県からこんなニュースが飛び込んできました。

地域枠4人に1人が県外流出 宮大医学部卒業

制度に強制力がなく、県外で働く場合は奨学金を一括返済しなくてはなりません。
しかし、制度の主旨を理解して入学したはずですから、返済すればいいという話ではありませんよね。
本年度からは、地域枠の学生は卒業後に県内の病院でしか研修が受けられなくなるようですが、研修施設の質の向上も求められます。

さて、地域に医師の頭数だけ揃えばいいという話ではありません。
診療科によっては医師不足は相変わらずです。
鹿児島県では、産婦人科・小児科・麻酔科・救急科・脳神経外科・整形外科を目指す学生にも修学資金を貸与しています ( → こちら ) 。

個人的には、地域枠同様、入学時に特定の診療科の医師になることを前提とした枠を設けてもいいのではないかと思っています。
産婦人科医や小児科医になりたいという強い意志を持ちながら、なかなか入学できないでいる人たちがいます。
医師になるのに、大学入試の際の学力はそれほど役に立ちませんから。

東京医科大学の不正入試問題を発端にして、医学部入学にあたって女性差別があるのでないかという問題がクローズアップされています。
3日には文部科学省が、中間報告として各大学の過去6年間の平均の男女別の合格率の差を発表しました。
全大学の平均で男子が女子より1.18倍合格率が高く、順天堂大学は1.67倍もあったとか。
ちなみに、私の出身大学である神戸大学は1.04倍、地元の鹿児島大学は1.02倍という数値でした。( → こちら )

女性差別ただでさえ忙しい医療現場で、休職する可能性が高い女性医師の比率が高くなるのを嫌う人がいるのは事実で、入試で女子を制限しているのではという疑念に繋がっていると思います。
実際、出産前後にわずか3ヶ月の休職を申し出た後輩に対して聞くのも嫌になるような悪態をついていた先輩の男性医師がいました。
また、同じように休職を願い出た女性医師に二つ返事でOKを出しておきながら、話が終わり女性の姿が見えなくなった途端「女はこれだからな !」と吐き捨てていた別の先輩もいました。

医師が忙しい理由の一つに、医師でなくてもできる仕事を負担していることがあります。
国立の病院に勤務していた時、内視鏡の準備や洗浄などが下っ端の医師の担当だったのはその典型例です。
医師という資格がなければできない仕事に専念できる環境を整えて、男女の区別なく働き甲斐のある医療現場が実現できればと願っています。

ちなみに、私の入学時には120人中26人が女性。
これでも先輩たちの学年よりも女性の比率は多かったのですが、後輩の学年ではその比率はますます高く学部内が華やかになっていきました。
なお、当時の国立の医学部の入試は筆記試験のみで、数値化しにくい面接はありませんでした。

元々医療機関は、看護師を中心に圧倒的に女性の多い職場だからでしょうか、個人的には女性医師との仕事に違和感を感じたことはありません。
タフな世界に身を投じるだけあって頼もしい面々が揃っていたので、一緒に楽しく仕事が出来たように思います。
海外諸国と比べ女性医師の割合がとても低い日本では、まだまだ女性医師が増える余地があります。
男性に比べ女性医師が担当する患者は生存率が高いという報告もあります ( → こちら ) し、私が何らかの病気で医療機関にお世話になる時は、女性医師に担当してもらいたいと思っています。

17日に、米国ニューヨーク大学の医学部が、授業料を免除する奨学金を提供すると発表しました。
授業料は日本円にして年間610万円と言いますからかなりの負担です。( → 米NY大学 全医学部生の授業料を免除へ )

ローン地獄米国では、医学部に限らず、大学に入ると多くの学生が学生ローンを組むそうです。
返済義務のない奨学金がもらえたり、学費の割引があったりするようですが、その恩恵を得られるのはごく一部。
日本と違って勉強漬けでバイトができるわけでもなく、ローンの返済に苦しみ、不良債券化している割合も高いため社会問題化しているようですね。
ですから、今回のニューヨーク大学の英断が大きなニュースになっているのだと思います。


さて、日本の医学部の2018年度の授業料を調べてみました。
国立大学は他の学部と差がなく、年間535,800円です。
私立大学では、最も安いのが最近新設された国際医療福祉大学で6年間で1850万円 ( 年間約308万円 ) 、最も高いのが川崎医科大学で4716万5千円 ( 年間約786万円 ) です。 (  → 参考 )
私立の医学部に関しては、米国並みのところも結構ありますけど、親御さんはどうやって支払っているのでしょうか。
そして、医学部って何でこんなにコストがかかるのか、なぜ大学間でばらつきが大きいのか、他人事ながらとても気になります。

ちなみに、私の時代の大学授業料は216,000円でした。
入学年度の額がそのまま卒業まで適用されます。
半期に一度納付しますが、その都度10万円を少し超える額を納めていました。
先輩の学年はさらに安くて7万円台と9万円台のだったので、うらやましく思っていました。
今にして思えば、安い費用で医師として養成させていただいたことに感謝しなくてはなりませんね。


学習意欲が高く将来社会に大きな貢献が出来る可能性のある人が、費用を理由にあきらめざるを得ないミスマッチは我々にとっても大きな損失です。
医学の分野に限らず、優秀な人材を埋もれさせないためにも、学費の問題は真剣に考えていかなくてはならないでしょう。

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